『文系AI人材になる』を要約! AIを「使いこなせる人」になるには?
「AI」というと技術を扱う理系のイメージが強く、いかにも難しそうだと不安を抱く人も多い。しかし本書では、これからのAI時代を牽引していくのは、「文系AI人材」なのだと主張する。理系のバックグラウンドがなくても、AIを使いこなせる「文系AI人材」になるためにはどうすればいいのだろうか?
タイトル:文系AI人材になる
著者:野口竜司
ページ数:344ページ
出版社:東洋経済新報社
定価:1,600円
出版日:2020年1月2日
Book Review
AIの発展と普及が目覚ましい。それに伴い、社会も大きな変化を迎えており、私たちの生活に次々と新しい技術が入り込んできている。AIによって仕事がなくなるという話題も、もはや珍しいものではない。このような環境下で、AIに関する技術を身につけていない文系人材の中には、自分の就いている職業が近い将来AIに奪われるのではないか、と不安に思っている人もいるかもしれない。
著者は、AIの構築と運用管理を担う人材を「理系AI人材」、それ以外のAI活用を担う人材を「文系AI人材」と定義する。そして、これからのAI時代を牽引していくのは、文系AI人材なのだと主張する。
これまでAI人材というと理系AI人材が主流だった。その結果として、文系AI人材の育成が遅れているのが日本の現状だ。これからのビジネスシーンを生き抜くためには、変化を受け入れて文系AI人材をめざすことが重要といってもよいだろう。
本書は、自らも文系AI人材として活躍してきた著者の視点から、AIを「使いこなせる人材」になるための知識を体系化した教科書といえる。理系の知識に自信がなく、時代の変化に対応できるのかと不安を抱いている方にとって、うってつけの一冊だ。
実用的な知識を得られるだけでなく、AIを駆使して創造できる世界の幅広さに思いを馳せられることだろう。
AI社会で職を失わないために
AI時代には、「行動しない」ことがリスクに
AIによって職がなくなるかもしれないという議論は、もはや珍しいものではない。これまでも、新しい技術が生まれ、社会に定着したときには、複数の職種がなくなってきた。その一方で、新技術を使った新しい職種も登場してきている。AI時代においても、新しいタイプのAI職が多く生まれるはずだ。
今後最もリスクが高いのは、AIによる失職を恐れるあまり、身動きが取れなくなることだ。変化を恐れずにAI職に就く準備を始めることが必要となる。
AIが普及すれば、AIとの共働きスタイルが広がっていく。AI職の役割は、AIの特性を知り、人間とAIの共働きをうまくコントロールすることだ。こうした時代においては、行動しないことがリスクになる。AIを積極的に使っていくことが、「人間とAIの共働き時代」を安泰に過ごすうえで重要なのだ。
5つの「共働きスタイル」
人とAIの分業スタイルは、分業のバランスによって次の5パターンに分類できる。
(1)人だけで仕事をする「一型」:具体的にはマネジメント・経営業務、クリエイティブ業務など。
(2)人の仕事をAIが補助し、人ができていたことを効率化する「T型」:接客や営業、教育、ソーシャルワーク業務など。
(3)人の仕事をAIが拡張し、人ができなかったことを可能にする「O型」:医療・看護、弁護士といった高度な専門業務やトレーダーなどの予測分析業務。
(4)AIができない仕事を人が補助する「逆T型」:データ入力業務や運転業務など。
(5)人の仕事をAIが完全に代行する「I型」:注文会計業務や監視業務など。
足りないのは「文系AI人材」
「AIの活用」と聞くと、AIを作ることを思い浮かべる方が多いかもしれない。これまでのAI人材教育はAIを「作る」ことにフォーカスしており、その環境は整ってきたといえる。一方で、AIを「使う」側の教育環境や人材キャリアをフォローアップする環境は、まだ整っているとはいいがたい。
実際には、AIを作るハードルは下がっている。AIを作るための専門性がなくとも、構築済みのAIサービスを利用すれば、容易にAIを作ったり活用したりできるようになっている。このような環境下では、AIを作るのか使うのかの判断能力が欠かせない。同時に、これからはAIをうまく「使う」人がビジネスを動かしていくだろう。
AIの導入数が増えれば増えるほど、「AIを作る仕事」以外の仕事が大量に発生する。「理系AI人材」は、これまで主に「AIを作る」仕事を担ってきた。また、AIを現場で動かすための「本番稼働AIシステムの構築」や、現場でAIを利用し続けるための「AIシステムの運用管理」も彼らの仕事だ。これらの仕事以外の、AI活用に必要なすべての仕事を担うのが、「文系AI人材」である。
文系AI人材の具体的な仕事内容とは?
文系AI人材の具体的な仕事内容を見ていこう。まずはAIをどのようにビジネスで活用するかを考える「AI企画」が挙げられる。ビジネス課題の解決や顧客の不便解消のために、AIの活用方法を企画する。企画の方針によって、次の3つの仕事のいずれかを行うこととなる。
構築済みAIサービスでニーズを満たせない場合は、「AIを作るプロマネ」として、AIプロジェクト全体のマネジメントをすることとなる。また、「GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)のAI構築環境で作る」ことを決めた場合は、文系AI人材自らがAIを作ることもある。つづいて、自らAIを作らずに構築済みのAIサービスを使う場合は、どのサービスが自社にフィットするのかといった観点から、「構築済みAIサービス選定」を行うことになる。
「AIの現場導入」や「AIの利用・管理」も、文系AI人材の仕事になっていくだろう。これらは、構築されたAIを現場に導入するための計画を立て、導入後のAIをどのように利用するかを管理する仕事である。また、AI活用の大方針を決定したり、AIについての投資判断を行ったりする「AI方針・投資判断」も、文系AI人材が担っていく。各業界でAI活用が広がってくると、特定業種におけるAIエキスパートとしての仕事も生まれるだろう。
AIと働くチカラを身につける4ステップ
ステップ1:AIのキホンを丸暗記する
文系AI人材として活躍するためには、次の4つのステップを踏む必要がある。そのステップとは、「AIのキホンを丸暗記する」「AIの作り方をザックリ理解する」「AI企画力を磨く」「AI事例をトコトン知る」だ。文系の人がゼロからAIを学ぶには、この4ステップが最適だという。本要約では、各ステップの概要を順に紹介していこう。
ステップ1では、文系AI人材に必要なAIの基本知識を身につけていく。その第一歩は、「AI分類」「AI基礎用語」「AIの仕組み」を理解することだ。
まずは、「AI」「機械学習」「ディープラーニング」それぞれの意味を正確に理解し、使い分けができるようにしたい。
次に「学習方式の3分類」である。つまり、教師あり学習、教師なし学習、強化学習の3つを学んでいく。
そのうえで、「活用タイプ別のAI8分類」をおさえよう。AIは機能別に分類すると4タイプ、役割別に分類すると2タイプに分けられる。前者は識別系AI(見て認識する)、予測系AI(考えて予測する)、会話系AI(会話する)、実行系AI(身体や物体を動かす)から成る。これに対し、後者は、人間ができることをAIが代わりに行う「代行型」と、人間ができないことをAIによってできるようにする「拡張型」から成っている。それぞれを掛け合わせて、「活用タイプ別AI8分類」となることを覚えておきたい。
ステップ2:AIの作り方を知る
自分でAIを作らなくても、AIの作り方についてある程度イメージを持っておく方が、仕事をスムーズに進められる。ステップ2では、AIがどのように作られているかを理解しよう。
そもそもAIは、大量のデータを丸暗記しているわけではない。大量のデータがあるとAIの精度が上がるのは、データから特徴をつかんで法則を見つけ出しているからだ。
AIは「データ作成」「学習」「予測」の3つのプロセスを経てできあがる。たとえば、ある企業内のスタッフが将来出世するかどうかを予測するAIを作るとしよう。データ作成では、何に対して予測するのか(KEY)、予測する対象を特徴づけているであろう変数(説明変数)、3年後に出世するかどうか(目的変数)を定義する。そのうえで、それらのデータをできるだけ多く用意する。
次は、用意したデータをAIのアルゴリズムに投入する。アルゴリズムがデータから学習し、学習結果から法則性を見出していくことで、AIモデルができあがる。そこへ一例として、「Zさん」というスタッフの「傾向データ」、Zさんが「挨拶するか」「営業が得意か」といったことをAIモデルに投入する。すると、Zさんの3年後に出世する可能性を予測してくれるうえに、出世する確率スコアも出してくれる。
注意すべき点は、現代のAIはデータをすべて数値で把握しているのであって、データの意味合いまで理解しているわけではないということだ。これが、AIは万能ではないといわれる理由の1つである。
ステップ3:AI企画力を磨く
AIのキホンとAIの作り方を学んだ後は、AI企画力を磨くステップ3に移る。人間が想像できるAIはいずれ実現されていく。AI企画ではそれを念頭に、アイデアを小ぶりなものにしないようにしたい。
おすすめは、「AI企画の100本ノック」だ。想像力を働かせ、AIでできることややるべきことについて、とにかく多く案を出そう。様々な視点から異なるアイデアを集めれば、世の中の変化量を大きくするアイデアが見つかるだろう。
その後は、実現に向けてアイデアを収束する段階となる。「AI導入後の変化量」と「実現性」の観点から、アイデアリストをスコア化していく。いくら変化量が大きいアイデアでも、実現性が乏しいのであれば、短期的にはそのアイデアを深追いできないということになる。AIを過大評価も過小評価もせずに検討し、変化量と実現性の両方を満たすアイデアを選ぶのが望ましい。
ステップ4:AI事例を知ろう
AIの活用事例をとにかくたくさん知っていくのがステップ4だ。本書で紹介されている45種類の事例から、いくつかの例をとりあげる。
通販サイトのLOHACOでは、独自キャラクターの「マナミさん」というチャットボットを導入した。電話やメールを含めた問い合わせ総数の5割を、マナミさんが対応している。センターの対応時間外や深夜にも対応が可能だ。電話オペレーターの仕事に換算すると、月に10人以上となる。
次に日経新聞の事例を見てみよう。同社は創刊から約100年分の新聞記事のテキストデータ化に、AIを利用している。これまでは原本をスキャンしたイメージデータのみを保存していた。しかし、AIによるテキストデータ化に乗り出し、その精度は約95%に達している。精度を上げることで、人手による修正の手間を大幅に省けるようになり、大量の記事を文字で検索できるようになった。
つづいてソフトバンクの事例では、新卒採用業務のAIによる効率化を進めている。過去のエントリーシートをすべてAIに学習させ、エントリーシートの合否をAIが判定。不合格判定のエントリーシートは人が再度チェックする。こうした体制にすることで、作業時間を従来の4分の1に削減することができた。年間で換算すれば680時間を170時間に短縮でき、採用担当スタッフの作業時間の大幅短縮につながった。
文系AI人材が社会を変える
変化を牽引していくのは、文系AI人材
AIの基本、作り方、事例に触れてみると、その可能性の大きさを感じることだろう。様々な可能性を持つAIは、「消費者、会社、働き手」に大きな変化をもたらしていく。インターネットやデータ環境も、AIによる社会変化を後押しするかのように変化を遂げている。新しい通信規格である5Gにより、そのスピードは飛躍的に向上するだろう。こうして高速にデータがつながる社会では、AIのための学習データが量産されることになる。
AIは消費者の暮らしや情報取得、買い物の仕方、移動、対人コミュニケーションなど、あらゆる生活シーンに大きな変化をもたらす。それに合わせて、会社や私たちの働き方も変わっていく。
この変化を牽引するのは、文系AI人材だ。企業が求めるのは、AIのことをよく理解し、的確に活用する人材である。読者の方々には、変化を恐れずにこのAI社会を引っ張ってほしい、というのが著者の願いだ。
一読の薦め
著者は、文系AI人材になるための具体的な知識や用語の概念を、図解を交えながら、実にわかりやすく解説してくれている。本書では、予測系・識別系・会話系・実行系それぞれのAIの仕組みと、作り方の流れ、さらには「AI企画の解像度を上げる5W1H」など、「まさにこんな情報がほしかった」という内容が目白押しだ。これから文系AI人材をめざす方の入門書にうってつけの一冊だ。
※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介
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野口竜司
ZOZOテクノロジーズ VP of AI driven business アラタナ 取締役
立命館大学政策科学部卒業。著者自身も「文系AI人材」として、さまざまなAIプロジェクトを推進。AIビジネス推進や企業のAIネイティブ化に力を入れる。大学在学中に京都発ITベンチャーに参画。子会社社長や取締役として、レコメンド・ビッグデータ・AI・海外コマースなどの分野で新規事業を立ち上げ、その後、ZOZOグループに。大企業やスタートアップ向けのAI研修やAI推進アドバイザリーも提供。 -
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