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プレゼン力は今なぜ重要? 伊藤羊一×澤円『未来を創るプレゼン』を要約

変化の激しい社会の中で、自分はどうありたいのか、何をしたいのかという問いはこれまで以上に重要な意味を帯びてくる。その未来を実現するための強力な武器として「プレゼン力」を身に付けることを勧める本書。「プレゼンの神」こと伊藤羊一氏と澤円氏が「プレゼン力=表現力と伝え方」の極意を教えてくれる。

未来を創るプレゼン

タイトル:未来を創るプレゼン

著者:伊藤羊一、澤円

ページ数:256ページ

出版社:プレジデント社

定価:1,000円(税別)

出版日:2020年5月26日

Book Review

近いうちにプレゼンをしなければならないとしたら、あなたはどう感じるだろうか。少なからず緊張し、できることならやりたくないと感じるかもしれない。プレゼンに苦手意識を持っている人は多いものだろう。
本書の著者である伊藤羊一氏と澤円氏は、年間300ほどにものぼるプレゼンを行う、「プレゼンの神」だ。そう聞くと、プレゼンが得意な人たちがそれを生業にしているだけで、自分とは違う世界の話だと感じられるかもしれない。だが実は、そうではない。
伊藤氏と澤氏は、どちらも挫折を経験し、それを糧にしながら成長し、自分の想いを伝える手段としてプレゼンを選んだのだという。驚くほどたくさんのプレゼンを行う著者らであっても、人前で話すことが得意だからプレゼンを始めたわけではないのだ。そして、表現は違えど、2人の主張は根底では共通している。
私たちは変化の激しい社会のなかで生きている。そのなかで、自分はどうありたいのか、何をするべきなのかという問いはこれまで以上に重要な意味を帯びてくる。それを突きつめて考えた先には、きっと創りたい未来があるはずだ。プレゼンは、その未来を実現するための強力な武器になり得る。
本書を読み終えると、単にプレゼンのノウハウを知ったということにとどまらず、自分が伝えたい想いは何か、創りたい未来はどんなものかという本質的な問いについて考えざるを得ないだろう。

伊藤氏:譲れない想いを持て

拒絶された経験

プレゼン力は今なぜ重要? 伊藤羊一×澤円『未来を創るプレゼン』を要約

本書ではまず、伊藤羊一氏(以下、伊藤氏)と澤円氏(以下、澤氏)の経験してきた失敗や挫折と、そこから得られた両氏の信念が紹介される。
伊藤氏はこれまでのキャリアを通して、「人は変われる」というメッセージを伝え続けてきた。その背景には、自分自身がかつて「へっぽこな状態」から成長してきたという意識がある。
伊藤氏が斜に構えて生きるようになったのは、高校1年生のときにテニス部をクビになったことがきっかけだった。中学から硬式テニスに打ち込んでいた伊藤氏は、学校のテニス部だけでなく近所のテニスクラブでも練習し、のちにトッププロとなる選手たちと試合ができるほどに強くなっていた。しかし、学校の部活の練習にはあまり出ていなかったことから、クビを言い渡されたのだ。すべてをかけてテニスをやっていたのに、人から拒絶された――そう感じ、あっさりとテニスをやめてしまった。
それからは授業をサボって繁華街へ繰り出してばかりで、勉強もせず、現役で大学に進むことができなかった。浪人中も、なりふり構わず勉強することをかっこ悪いと感じていたため、「東大なんて余裕だ」と斜に構えたふりを続ける。大学に進学できてからも、優秀な人に囲まれてコンプレックスがどんどん増していき、人と触れ合うのが嫌になっていった。

人は変われる

新卒で日本興業銀行へ入社すると、「研修不合格」を言い渡される。研修不合格になったのは、160人いる同期のうちたった4人だった。その後に課された通信教育すら終えられず、不良社員として社会人生活をスタートすることになった。
上下関係が厳しい時代だったことも手伝って、会社に通うのが苦痛になり、まともに眠ることすらできず、生活は荒んでいく。まだうつが一般に認知されていない時代だったため、自分のことを「サボり病」だと思い、玄関先に桶(おけ)を置いて毎朝そこに吐いてから出社していた。
そんなとき、融資を引き受ける銀行を探していたあるマンションデベロッパーから、担当者として指名される。頼られたことをうれしく思うも、それまでまともに働いていなかったため、何から手をつけていいかもわからない。そんな伊藤氏に、周りの同僚や先輩たちは、必要な知識を丁寧に教えてくれた。この出来事をきっかけに、真面目に仕事をすることや、真面目に生きることの大切さを理解した。
伊藤氏はそれ以来、「人は変われる」というメッセージを可能な限り多くの人に伝えるために仕事に取り組んでいる。何十年経ったいまでも、まったく仕事をしない日はないほどだ。
大切なのは、まず自分の「譲れない想い」を考えることだ。その想いを追い求め、人生をかけてがんばり続けた先に、天職が待っている。

澤氏:考えられる人であれ

ひとりの「個人」として生きる

現在様々なテーマで精力的にプレゼンを行っている澤氏が、顧客や社内イベント以外でもプレゼンをするようになったのは、2006年に社内でグローバルな賞を受賞したことがきっかけだ。同じ賞の候補になっていた大谷まりさんから、NPO団体の資金集めのイベントでプレゼン講師を務めてほしいと頼まれたのだ。はじめて人からお金をもらってプレゼンを教えたそのとき、自分の経験や持っている情報を「言語化」することの重要性を知った。
そんな澤氏は、自己肯定感が低い子どもだった。「円」という名前から、両親は女の子が欲しかったのだ、自分は期待外れの子なのだと思い込んでいたからだ。集団生活でみんなと同じことをさせられ、常に強い同調圧力に晒(さら)される学校という場も、苦痛でしかなかった。他人と比べて点数をつけられ、「劣っている」と判断されることにも強い嫌悪感を抱いていた。
そんな生活は、自由な校風の高校に進学したことで好転した。アメリカで約1カ月ホームステイし、ホストファミリーからひとりの「個人」として扱ってもらえたことも、大きな転機となった。

自分で責任の取れる生き方をする

大学時代はディズニーランドでのアルバイトに打ち込んだ。ディズニーランドのマニュアルでは、「結果」は定義されているが、決まった「アプローチ」はない。自分で考えて見出したアプローチでたくさんの人を喜ばせた経験は、澤氏のプレゼンの基礎となった。
大学卒業後は、情報系の知識やスキルが必要な時代がやってくるという直感のもと、エンジニアになることにした。初心者でも採用している会社を探し、大手生命保険会社のIT子会社に入社。エンジニアになって数年後、インターネット時代が到来し、直感は正しかったことが証明された。
いまの自分は、こうした人生における経験のすべてが緩やかに集合体になった結果だ。たとえば、子どものころに抱いていた、環境に対する違和感。それを無視せずに、自分はどうありたいのかと常に考え続けてきた。そうして自分で選択した行動の一つひとつが、自分を形作っているのだ。ありたい自分を言語化することが「自己ブランディング」であり、それを行動に落とし込んだものが「生き方」なのだ。
読者に心がけてほしいのは、すべてのことを「自分で責任を取れる」状態にすることだ。自分で人生の責任を取るというと、怖いと思うかもしれない。しかし、自分が生きた爪跡を残すほうが、人生は楽しいはずだ。

伊藤氏:「対話」して心を動かす

プレゼンのゴールは相手を「動かす」こと

本書の中盤では、伊藤氏と澤氏のプレゼンノウハウが指南される。
プレゼンとは人に何らかの情報を「伝える」ことだと思っている人がいるが、伊藤氏の考えるプレゼンは、相手を「動かす」ことだ。相手を動かすには、プレゼンが終わったときに聞き手がどんな状態になっていればいいかを突き詰めて考えなければならない。だからプレゼンの前には、「相手は誰なのか」「ゴールはなにか」という2点をはっきりと言語化しておこう。
ゴールをイメージしながら話すことで、素材を、相手に合うように料理して伝えることができる。相手の反応を客観的に見ながら話すことで、話す順番やエピソードを臨機応変(りんきおうへん)に変えていけるだろう。

相手の「心のキャンバス」に絵を塗り重ねていく

たとえば、あなたが自社のコーヒー飲料をプレゼンでアピールするとしよう。いきなり商品の説明や売り文句を並べても、相手はむしろ聞く気を失っていくだろう。もっと丁寧にアプローチする必要がある。
伊藤氏がプレゼンのときに心がけているのは、相手の「心のキャンバス」に絵を塗り重ねるように話すことだ。まずはわかりやすく「今日は飲み物の話をします。それはコーヒーなんです」と大きな話から入り、相手の心のなかに「キャンバス」を用意する。それから「でもコーヒーといってもコンビニで売られている100円コーヒーもあれば缶コーヒーもあれば、ペットボトルのコーヒーもありますよね」と、聞き手のコーヒーのイメージを絞っていく。さらに「ペットボトルのコーヒーにも、いまたくさんの種類があります。そのなかで僕がいちばんおすすめするのは、実はこれなんです」「なぜなら理由が3つありまして……」というふうに話を進めていく。
聞き手にペットボトルコーヒーをイメージしてもらったうえで、その商品のメリットをひとつずつ伝えていく。プレゼンを聞いている人の心のなかに同じ絵を描いてあげられるからこそ、最終的に相手がきちんとメリットを理解し、「動ける」ようになるのだ。

澤氏:「幸せ」をプレゼントする

プレゼンは、プレゼントだ

プレゼンが苦手だという人は多い。澤氏はその原因を、聞き手やアピールする対象に対して「深く興味を持つ」ことができていない人が多いからではないかと考えている。本気でプレゼンをやっているつもりでも、そのじつ「失敗したくない」と本気で思っているだけで、聞き手のことを深く考えられていない場合が多いのだ。そういう人は、興味の対象が聞き手ではなく自分になってしまっている。プレゼンの目的が聞き手になんらかの行動を起こさせることだとすれば、相手に興味を持たないままのプレゼンはまったく意味がない。
澤氏は、「プレゼンは、プレゼントだ」と考えている。プレゼンは、相手にとっての「メリット」や「持って帰ってほしいもの」を考え、それを逆算しながら設計するものだ。あくまで相手のためのプレゼンなのだから、相手に興味を持たなければ始まらない。

聞き手をアクションに導く設計

プレゼンの尺が40~90分であれば、大きく3つに分けて設計する。序盤はエピソード、中盤は問題提起、終盤は結論とクロージングという具合だ。
まず、「エピソード」だ。聞き手が驚く、もしくは共感するエピソードを最初に出して興味を引きつけ、同時にその理由や意味も「言語化」しておく。
次に「問題提起」だ。少しショッキングなファクトを突きつけ気づきを与え、さらに話に集中してもらう。
最後が「結論とクロージング」だ。そのプレゼンでアピールしたい製品やサービスについて紹介する。
このように段階を踏んで伝えることで、結論までたどり着いたときには、聞き手のなかにプレゼンのテーマを「自分ごと」として受け入れる準備が整っている。そしてそれに対する解決策を理解しているので、他の人にも「これ知ってる?」などと話しやすい。聞き手をアクションを起こしやすい状態にしてあげられるかどうかは、プレゼン次第だ。

一読の薦め

本書は伊藤氏と澤氏が順に過去を振り返った後、プレゼンの心構えを語っている。プレゼンの章では、プレゼンの骨格をになうフレームワークや、相手本意のプレゼンを行う方法など、具体的なノウハウが豊富に掲載されている。
その後2人の対談へと移り、「自分の人生は自分で決める」「表現する人が生き残る時代」「誰もが未来の創造者になる」という3つのテーマで、個人の人生から社会の変化に至るまでじっくりと議論されている。自分を見つめ直し、未来を創るためのヒントを得られるだろう。
プレゼンの手法や、著者らの思想に興味を持った方には、ぜひ本書に目を通していただきたい。きっと「未来を創る」ヒントが見つかるはずだ。

※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介

  • 伊藤羊一(いとう よういち)

    ヤフー株式会社コーポレートエバンジェリスト、Yahoo!アカデミア学長。株式会社ウェイウェイ代表取締役。
    1967年、東京都に生まれる。東京大学経済学部卒業後、日本興業銀行に入行。2003年、プラス株式会社に転じ、事業部門であるジョインテックスカンパニーにてロジスティクス再編、事業再編などを担当し、2011年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括する。2015年にヤフー株式会社に転じ、次世代リーダー育成を行うだけでなく、グロービス経営大学院客員教授として教壇に立つほか、大手企業で様々な講演・研修を実施している。著書には、『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』『「わかってはいるけど動けない」人のための 0秒で動け』(ともにSBクリエイティブ)、『やりたいことなんて、なくていい。将来の不安と焦りがなくなるキャリア講義』(PHP研究所)などがある。

  • 澤円(さわ まどか)

    日本マイクロソフト株式会社業務執行役員。株式会社圓窓代表取締役。
    1969年生まれ、千葉県出身。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報共有系コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年、マイクロソフトテクノロジーセンター・センター長に就任。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみ授与される、ビル・ゲイツの名を冠した賞を受賞した。現在は、年間300回近くのプレゼンをこなすスペシャリストとしても知られる。ボイスメディア「Voicy」で配信する「澤円の深夜の福音ラジオ」も人気。著書には、『外資系エリートのシンプルな伝え方』(KADOKAWA)、『マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)などがある。

  • flier

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