『未来IT図鑑 これからのDX デジタルトランスフォーメーション』を要約
そもそもDXとは何か、何から着手すればよいのか、ピンとこない方もいるのではないだろうか。本書はそんな悩めるビジネスパーソンが、最初に手に取るべきDX指南書と言える一冊。
残念ながら、DXの推進において、日本企業の多くは世界の中でも取り残されている。その現状の課題と処方箋を、わかりやすく解説していく。
タイトル:未来IT図鑑 これからのDX デジタルトランスフォーメーション
著者:内山悟志
ページ数:160ページ
出版社:エムディエヌコーポレーション
定価:1,500円(税別)
出版日:2020年6月16日
Book Review
いまや、デジタルトランスフォーメーション(DX)を意識していない企業は少ないだろう。これまでデジタル化やDXに無関心だった企業や、まだ対応しなくても大丈夫と考えていた企業にとっても、DXは今後の企業戦略を語る上で無視できないワードの1つだ。そもそもDXとは何か、何から着手すればよいのか、ピンとこない方もいるのではないだろうか。本書はそんな悩めるビジネスパーソンが、最初に手に取るべきDX指南書と言える一冊だ。
DXの目的は、ただIT化を進めることではなく、企業そのものが生まれ変わり、変革を続けていくことだ。また、DXは「漸進型イノベーション」と「不連続型イノベーション」の両面、実践と環境整備の両輪で進めなければならない。実践面では、対象領域と潮流もしっかり見定める必要がある。環境整備には企業内の変革が求められ、その際のポイントは、「意識」「組織」「制度」「権限」「人材」の5つである。
残念ながら、DXの推進において、日本企業の多くは世界の中でも取り残されている。その現状の課題と処方箋を、著者はわかりやすい図解とともに、鮮やかに解説していく。
DXを進めて行かなければ、日本企業はさらに世界から取り残されてしまう。DXを自分事として捉え、トップダウンとボトムアップの両方で進めて行くことが不可避だろう。DX推進の基礎とその道筋を体系的に学びたい方に、迷わず本書をおすすめしたい。
DXとは何か?
DXの目的とは
社会・経済・産業構造など、経済環境はデジタル化により大変革の時代を迎えている。企業がその変革期に対応するうえで、重要視されるようになったのがDXだ。
経済産業省が2018年12月に発表したDX推進ガイドラインによると、DXの定義は次のようなものである。「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」。つまり、DXの目的とはデジタル技術を活用することだけでなく、企業そのものが大きく生まれ変わり、継続的に変革を続けていくことである。
実践と環境整備
DXには実践と環境整備という2つの要素があり、これらは不可分だ。なぜならDXは具体的な実践と環境整備を併せて進めないと上手くいかないためである。とりわけ環境整備をおろそかにする企業が多く、それがDX失敗の一因となっている。
DXの実践には2つのタイプがある。1つは、既存事業の高度化や新しい価値を創り出す「漸進型イノベーション」。もう1つは、新分野の事業創出やビジネスモデルの変革をめざす「不連続型イノベーション」だ。
つづいてDXの環境整備では、デジタル化に対応するために意識や制度、権限やプロセスを変革する「企業内変革」と、既存IT環境とITプロセスの見直しや再構築を行う「IT環境の再整備」の1つがある。
デジタル化が及ぼす影響
デジタル時代の到来によって企業はどのような影響を受けるのか。
1つ目は既存事業の継続的優位性の低下だ。ライバル企業がDXにより優位性を向上させていけば、当然自社の優位性は低くなる。
2つ目はGAFAに代表されるディスラプターの業界参入による業界破壊だ。実際にアマゾンの台頭により、米国の大手デパートも専門小売店も大きな打撃を受けた。
3つ目はデジタルエコノミーによる社会の構造変革だ。産業構造等の急速な変化に対応しなければ取り残される。その変化のスピードは、産業革命のときよりもはるかに速い。
DX実践のために
対象領域を見定める
DXの対象領域は次の4つに分類される。まず既存事業領域では、「新たな顧客価値の創出」「社内業務の変革」の2つだ。この領域で進めていくのは漸進型イノベーションである。デジタル技術を用いた社内業務の変革、顧客ターゲットや提供経路、新たな顧客価値の創出など、既存業務の深化を進めていく。
一方、新規事業領域では、「新規ビジネス創出」「新規市場開拓」の2つの領域があり、不連続型イノベーションを必要とする。全く新しい市場そのものを生み出すため、探索活動が求められるのだ。
DXの目的はデジタル技術の導入ではない。業務やビジネスを変革する方向性を明確にし、領域を見定めなければならない。そのためにも、自社がどんな企業をめざすのかというビジョンの明確化が欠かせない。
4つの潮流
DXには4つの潮流がある。具体的には「社会・産業」「顧客との関係」「組織運営・働き方」「ビジネス創造」の4つの観点から、デジタル化に向かっていく。例えば、組織運営・働き方では人材のグルーバル化や流動性の加速により、雇用や就労の概念そのものが変わっていくだろう。
4つの潮流はそれぞれ「ビジネストランスフォーメーション領域」「カスタマーエンゲージメント領域」「フューチャーオブワーク領域」「デジタルエコノミー領域」と分類できる。いずれも今後より注力すべき領域とされている。
DXの環境整備
企業内変革に欠かせない5つのポイント
DXの推進に欠かせない企業内変革には5つのポイントがある。それは、「意識」「組織」「制度」「権限」「人材」だ。大企業がこの5つ全てを変革するのは並大抵のことではない。しかもこの5つは掛け算の関係であるため、1つが突出しても他のいずれかがゼロでは結果もゼロになってしまう。立派な組織を設置して外部人材を招聘しても、権限や制度が適していなければDXは達成できない。
組織、制度、権限はトップダウンの変革が効果的だ。一方、意識改革や人材の育成は腰を据えて取り組まなければならない。まずは個人や小さなチームで開始し、会社全体に広げていくボトムアップで動いていくのもよいだろう。
意識変革のための3手法
では意識変革を進めるための具体的なアプローチは何なのか。著者は3つのタイプを紹介している。
第一に「啓発型アプローチ」は、社内セミナーや社内SNSでの情報発信、勉強会による啓発という方法だ。企業トップの発信や宣言も効果的だろう。
第二に「参加型アプローチ」は、社内公募やワークショップでアイデアを募る方法だ。通常業務において発生する課題意識や潜在ニーズとDXを結びつけ、DXを自分事とする効果がある。
第三に「対話型アプローチ」は、デジタル活用の社内向け窓口を設置したり、日頃の対話の中でDXを意識づけたりする方法だ。現に、社内窓口を設置したことで、多数のアイデアを集められた企業も存在する。
DX推進を支える3つの人材像
DX推進には3タイプの人材が必要とされる。それは「デザイナー」「デベロッパー」「プロデューサー」だ。
まずデザイナーは、発想と企画を担当する。必要なスキルは、ビジネスやサービスの着想力、コンセプトを企画に取り込んでいく企画構想力、合意形成や協調活動を進めるファシリテーション力だ。
つづいてデベロッパーは、技術の目利きと開発を担当する。技術調査・検証力、どの技術を活用するかを選定する技術適用力、アイデアを具現化し、改善し続ける試作・改善力が求められる。
最後にプロデューサーは、プロジェクト全体のプロセスを統括する。必要なスキルは、全体を俯瞰し、的確に意思決定するビジネス・マネジメント力、業界・社会・経済の状況やトレンドを掴む外部環境把握力、そして周囲を巻き込んで体制を構築したり予算を確保したりする組織牽引力である。
DXの推進方法
日本企業がDXを推進できない「3つの呪縛」
DXの取り組みでは、日本は他国から水をあけられている。日本企業がDXを推進できないのは、「3つの呪縛」があるからだ。それは、旧来の企業風土などの「抱える負荷」が重いこと、経営者のデジタル感度が低いこと、そして前例主義の組織マネジメントである。これらを克服していくために、著者は5つの処方箋を提示する。
(1)DXが必要な理由とDXでめざす場所、つまりWhyとWhereを徹底的に議論すること。
(2)短期間で成果の出る小さな取り組みから始め、成功体験を得てから大きく展開すること。
(3)取り組みの初期段階で賛同者・協力者となるフォロワーを見つけて、徐々に巻き込む人数を増やし、全社に広げること。
(4)DXの知識だけでなく実際の制作や実体験を重視すること。
(5)外の世界から新しい考え方を取り込み、自身や自社を客観視すること。
この5つを念頭に、最初のひと転がりを起こすことがDX推進につながる。リーンスタートアップを取り入れ、成功と失敗を繰り返すなかで、DXを中心に据えた企業へ進化を遂げられるはずだ。
イノベーションの基本プロセス
DXの実践には、漸進型イノベーションと不連続型イノベーションの2種類があるが、基本プロセスは同じだ。
まずはアイデアを創出する。アイデアは仮説でよく、具体的な効果や適用方法が決まっていなくても構わない。次にコンセプト実証「PoC」を行い、自分たちのアイデアが正しいかどうかを検証していく。そこで間違いが見つかればアイデア創出のステップに立ち戻る。
PoCの次はビジネス検証「PoB」だ。事業や業務として成り立つか、技術面で実現可能かといったことを検証する。不可能であればアイデア創出に立ち戻る。
ここまできたら次のステップは本番移行だ。ビジネス化の計画を立案し、体制を整備して、稼働に向けた開発を行う。本番稼働が始まった後もリーンスタートアップの考えに従い、短いサイクルでビジネスを測定する。そしてユーザーの反応をもとに改善を繰り返し、ビジネスを育て続ける。環境変化や技術革新があった場合には、ピボットと呼ばれる大きな方向転換も必要だ。
DXは未来を変える
デジタルディスラプションの第2波到来
DXの引き金はデジタルディスラプションだった。デジタル技術が既存ビジネスや産業構造を破壊し、通信、メディア、エンタメ、小売、金融などの幅広い産業で破壊と変革が起こった。
いま、その第2波があらゆる業界に襲いかかっている。第2波はアンバンドル(解体)とリバンドル(新しい組み合わせ)によってエコシステムを作り、新たな市場や価値を創出する。プラットフォーマーが業界の垣根を壊し、銀行と小売といった異なる業種での融合が進んでいるのだ。
この波から逃れるすべはない。企業が生き残っていくためには、これまでの枠組みを打破し、ダイナミックな変革を起こすことが求められる。
すべてがデータでつながる
「デジタルが当たり前の社会」「すべてがデータでつながる時代」。それがこれから到来するデジタル時代だ。AI、IoT、5Gなどの技術を介して、衣食住、健康、購買、移動、気象、交通、事業、業務など、あらゆるデジタルデータが情報として捕捉されるようになる。これにより、新たな価値が生まれ、活用されて社会にフィードバックされていく。
データは価値や便益がより多く提供されたところに集まる特性をもつ。そのため、収集されたデータは、地球環境や防災、パンデミックなど幅広い社会課題の解決にも活用されていくだろう。
企業の未来
データやデジタル技術は、今後は「手段」から「前提」となる。それに伴い、DXの意味も変化を余儀なくされる。「デジタルで企業を変革する」のではなく、ビジネスモデル、組織運営、企業風土の全てをデジタル前提で組み立てることになり、「デジタルに企業を変革する」ことになる。そうなると、DXで競争優位性を保つのではなく、DXで新しい競争原理を生み出す世界になっていくだろう。
事業のライフサイクルは、「黎明期」「成長期」「成熟期」という成長のS字カーブで進む。今後そのスピードはさらに上がっていく。既存事業のS字カーブが終わる前に次のS字カーブを生み出せない企業は退場となるだろう。S字カーブを生み出すためには、企業の存在意義や価値を問い直し、デジタルを前提とした発想をしなければならない。
一読の薦め
紙幅の関係で要約では紹介しなかったが、データに着目したDXの実践パターンも、具体的なDX戦略の策定において大いに参考になるだろう。
また、本書では日本企業が陥りやすい「5つの罠」についてもふれられている。それは「DXごっこの罠」「総論賛成の罠」「あとはよろしくの罠」「カタチから入る罠」「過去の常識の罠」だ。キーワードだけの紹介でも、「あるある」と思った方は多いだろう。それらの詳細と対策については本書を参照していただきたい。
豊富な図解をもとにDX推進の全体像をつかめる「新しい入門書」として、本書をひもといてはいかがだろうか。
※当記事は株式会社フライヤーから提供されています。
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著者紹介
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内山悟志(うちやま さとし)
株式会社アイ・ティ・アール会長/エグゼクティブ・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパン(現ガートナー ジャパン)でIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要IT企業の戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立、代表取締役に就任し、プリンシパル・アナリストとして活動を続け、2019年2月より現職。企業のIT 戦略およびデジタルトランスフォーメーションの推進のためのアドバイスやコンサルティングを提供している。10年以上主宰する企業内イノベーションリーダーの育成を目指した「内山塾」は600名以上を輩出。
近著は『デジタル時代のイノベーション戦略』(技術評論社)、ZDNet Japanにて「デジタルジャーニーの歩き方」を連載中。 -
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