2018.02.26

ワークライフバランスは取ってはいけない-私たちのキャリア入門第14回

仕事と家庭のバランスを取りながら働く「ワークライフ・バランス」という言葉を聞いたことがあるはずです。しかし近年、欧米を筆頭に「ワークライフ・インテグレーション(統合)」という言葉が多く使われるようになってきました。なぜ、ワークとライフは統合されるべきなのか。背景を学びながら考えていきましょう。

ワークライフバランスは取ってはいけない-私たちのキャリア入門第14回|転職@type

  • 【プロフィール】

    慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授 高橋俊介

    ■慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授 高橋俊介

    キャリア開発の研究で第一人者として知られる。東京大学を卒業後、日本国有鉄道に入社。1984年、米プリンストン大学工学部修士課程を修了し、マッキンゼーアンドカンパニ−に入社。89年には世界有数の人事組織コンサルティング会社ワイアットの日本法人(現ウイリス・タワーズワトソン)に転職し、13年より同社代表取締役社長に就任。97年に退任、独立後も、人事コンサルティングや講演活動を続けている。

人間の進化のスピードは?

例えば何らかの突然変異が起こった場合、チャールズ・ダーウィンの進化論によれば、環境に適応できるものが生き残るとされています。しかし、人間が進化するには3000年〜4000年もの月日が必要だそうです。3000年前の日本は、稲作がはじまった弥生時代。その後、生産性が向上して穀物が潤沢に収穫できるようになったものの、身体が適応できずに糖尿病が生まれたとされています。

現代の人間も、適応できない変化の波に飲まれています。数百年前から訪れた産業社会、そして知識社会、加速するIT化。これらに適応できていないというのが、まさに今直面している課題なのです。

一方で現代の状況に目を向けてみると、社会の変化や新しい技術の登場によって、人間の生き方、働き方はめまぐるしく変化し続けています。そして、こうした変化の中に生きる私たち人間は、まだ産業化社会、知識社会に適応しきれていないとういうのが現在直面している問題です。

分業時代を生きる人間に必要なもの

生産性や効率を重視するようになった社会の変化に伴い、世の中にある仕事はどんどん分業化が進んでいます。しかし、人間は特定の働き方だけに対応するような進化はできないと、アメリカの社会学者であるリチャード・フロリダは提言しているのです。

彼は、シリコンバレーのようにITに精通したクリエイティブワーカーが集まる場所には、野球やサッカーのスタジアムは不要だといいます。スタジアムが必要なのは、肉体労働者が集まる街だというのです。その理由は、クリエイティブワーカーと肉体労働者では、日頃の仕事で使っているものが違うという部分にあります。

肉体労働者は日頃身体を動かして働いているため、休日は休みたい。しかし、スポーツ観戦は自身が監督やオーナーになったような気分で観戦できるため、スタジアムに足を運ぶことを好むのだといいます。仕事中に管理されることの多い肉体労働者にとっては、最高のリフレッシュになるのです。

一方でクリエイティブワーカーはPCに向かって仕事をすることが多いため、休日は身体を動かしたくなります。なので、観戦施設であるスタジアムではなく、サイクリングロードやランニングコースを作った方が喜ばれるのだそうです。

このように、人間にはある程度の運動とある程度の知的な刺激が必要とされています。どちらかだけに偏って進化することは難しいからこそ、仕事では体験できないことを別の場所で補うことが大切です。このこともワークとライフを統合して考えなければならない理由の一つと言えるでしょう。

近年の分業化による弊害

分業化によって社会の生産性は向上してきましたが、一方で大きな弊害も生まれています。それは、自分の経験のみが判断材料になってしまうため、多様性に対する感受性が低下してしまったことです。

例えば、エンジニアのように論理的な思考が求められる仕事を長く続けていると、人の気持ちをくみ取ったり、自分の感情をコントロールすることが苦手になっていきます。なので、同僚の女性に対して「君は足が太いね」と、相手の気持ちを考慮せずに伝えてしまう……といった事態が起こるのです。

このような傾向にある人は、ワーク以外のライフの部分で自分と人の感情に向き合う時間を取るとよいでしょう。仕事で求められる役割も変化していくからこそ、足りない部分を補う必要があるのです。

仕事と家庭の統合が生む相乗効果

仕事と家庭の統合が生む相乗効果

本連載でも何度かご紹介してきた通り、ワーキングマザーの方たちは様々な制約がある中でキャリアを築くためのスキルをたくさん持っています。彼女たちこそ、ワークとライフを統合している好例です。

仕事や育児に関する用事を自分だけで抱え込むのではなく、周囲に助けてもらうことで乗り越えていく「人を巻き込む力」。他の人よりも短い時間の中で成果を挙げる「生産性」。そしてもう一つ、「仕事と家庭のストレスを抜く場をそれぞれ持っている」というのも、彼女たちの特徴です。

ストレスとは、受け止めて耐えるのではなく上手く抜いていくことが必要です。耐えようとするから折れてしまうのです。ワーキングマザーたちは、仕事のストレスは子どもと触れ合う中で癒やし、家庭のストレスは仕事と向き合うことで癒やしているといいます。

仕事と家庭のどちらか一方だけに専念するのではなく、統合して相乗効果を生み出す。これこそ、ワークライフ・インテグレーションの理想形ではないでしょうか。

パタゴニアに見る、ワークライフ・インテグレーションの5つの効果

最後に、以前も取り上げたことのあるアウトドアブランド『パタゴニア』の事例をご紹介します。良い波が来たらいつでもサーフィンに行けるように海のそばに本社を設ける同社は、ワークライフ・インテグレーションを推奨している会社の一つ。「サーフィンに行っても良い」というスタンスが仕事に与える影響は、次の通りです。

1.責任感が養える
サーフィンに行くためには、自分で時間などをマネジメントする必要があります。結果、セルフマネジメントの習慣と責任感が身につくのです。

2.効率性が養える
仕事以外のことに使う時間を作るためには、仕事を早く終わらせなければなりません。逆に言うと、仕事以外にやりたいことがない人の生産性は上がらない傾向にあります。

3.柔軟性が養える
良い波はいつ来るかわかりません。波のタイミングに合わせて業務を調整できるような柔軟性が必要なのです。

4.協調性が養える
周囲の理解や協力がなければ、サーフィンにもいけません。ワーキングマザーの働き方と同じで、互いの立場を理解し、助け合いが芽生えていきます。

5.人材確保ができる
同社の働き方に共感した優秀なアスリートが集まり、彼らの意見が商品に生かせるようになります。

最近ではサーフィンだけでなく、囲碁・将棋など、仕事以外で夢中になれるものを持っている人であれば歓迎するというパタゴニア。ワークライフ・インテグレーションにのっとった経営哲学が、良い人材の確保にもつながっているという好例といえるでしょう。

*vol.15へ続く

【連載】私たちのキャリア入門

会社任せにしていてもキャリアを築くことができた一昔前とは異なり、「キャリアは自ら切り開いていくものである」という認識が一般的になった現代。変化の激しいこの時代で、いかにして自分らしいキャリアを築いていくかが重要です。

本連載では、キャリア学の権威である慶應義塾大学大学院・特任教授の高橋俊介氏が、20年近く行ってきた調査に基づいた「キャリアを切り開くヒント」を解説します。想定外の事態に直面しても、焦らず、自分らしく働き続けられる力を身につけていきましょう。

企画・撮影協力/ ビジネス・ブレークスルー(BBT)

※このコンテンツは、2016年にtypeメンバーズパークに掲載された動画を新たに記事化したものです。

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