Vol.41

たった11人のスタートアップにトップエンジニア集結のナゼ~人工知能でメディアを変えるクーロンの「水平分散型組織」とは

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(写真左から)エリック・プラトン氏、板倉謙氏、多田雅斗氏、代表取締役の佐藤由太氏

(写真左から)エリック・プラトン氏、板倉謙氏、多田雅斗氏、代表取締役の佐藤由太氏

キュレーション機能を介したニュース配信アプリが、メディア・ユーザーの双方から注目を集めている。だが、手軽にニュースが読めるようになった一方で、メディア企業とコンテンツホルダーの相対的な価値は下がる一方だ。そうした中、世のオンライン・メディアに違った形の価値を提供することで、メディア企業から大きな反響を得ているスタートアップが東京・六本木ヒルズにある。

2013年設立で、アクティブ・コメントシステムと呼ばれるAI(人工知能)テクノロジーを開発・提供するクーロン株式会社だ。

このシステムを使った同社のサービス『Quelon(クーロン)』は、2014年に毎日新聞で取り上げられ、その後Yahoo!トピックスにも掲載された。

>> コメント欄:炎上しない「クーロン」開発 ニュースサイトの導入目指す

タイトルを見ても分かるように、各メディアが記事スペース付近に設置する「コメント欄」が炎上するのを抑止するサービスとして紹介されている。が、彼らの本当の狙いはそこではない。

クーロンのWebサイトには、同社が支援する「読者投稿コメントを軸としたユーザーとのつながり」を詳細に解説してある
クーロンのWebサイトには、同社が支援する「読者投稿コメントを軸としたユーザーとのつながり」を詳細に解説してある

記事に対する【コメント内容】と、実名・匿名を問わず【投稿ユーザー】を客観的に評価する「フェアプレイ・アルゴリズム」によって、誹謗中傷や煽りコメントを非表示にするなど“場の正常化”を支援。記事を読んだユーザー同士が、建設的にディスカッションを交わすことを狙いとしている。

その結果、メディアそのものへのロイヤリティーを高め、ファンを増やすというものだ。

興味深いのは、このAIサービスが、わずか11名のエンジニア集団の手によって作られているという点(2015年4月中旬時点)。しかも、社内には自然言語処理や機械学習、行動分析など、いわゆる「人工知能」の根幹を成す専門家も含めさまざまなスペシャリティーを持ったエンジニアが集まっているという。

なぜ、設立から2年足らずのスタートアップに腕利きのエンジニアが集うのか。その理由を、代表取締役の佐藤由太氏らクーロン開発陣の面々に聞いた。

「知の錬磨」をテクノロジーで支援するというミッション

数々の有名外資企業で経験を積んだベテランから、ベンチャーで複数のサービス開発を支えてきた若手まで、年齢層もバラバラなクーロンの開発陣。彼らの求心力になっているのは、2つの側面がある。

1つは、人工知能をはじめとした先端技術を駆使して「ディスカッションで世の中を変える手助けをする」というユニークな事業ポリシー。もう1つは独自の開発文化だ。

まず、同社の事業ポリシーについて代表の佐藤氏はこう語る。

『Quelon』普及後の展望を語る佐藤氏
『Quelon』普及後の展望を語る佐藤氏

「自身が情報を見て、感じたことを人に伝える。人に伝えることによって、他人から反応があり、それを繰り返して、自身の考えが磨かれていく。

この『知の錬磨』を積み重ねることで、究極的には個人の人生を変える可能性をも秘めていると考えます。そんな構想から生まれた『Quelon』を普及させることで、『誰が言ったか』ではなく『何を言ったか』に価値がある世界を作りたいのです」(佐藤氏)

この考え方は、ビジネス面でも徐々にニーズを喚起している。

同社が行った調査では、オンライン・メディアで記事を閲覧するユーザーのうち57%もの人が、記事内容だけでなくコメント欄も閲覧するという結果が出ているという。

こうした裏付けと、たった数行のコードを埋め込むだけでOKという手軽さもあって、興味を持ったメディアから問い合わせが急増。サービス発表から約1年半経った2015年4月時点で、大手新聞社や経済・女性・週刊誌、IT系ニュースサイトなどを中心に20超の媒体が導入を決定している。

これらメディアのPV数を合算すると月間23億に上り、月間APIリクエスト数は1250億に達するという。

さらに現在は、ユーザーがスマホを通じて「ニュース記事だけでなく、映画やライブコンサートなど、さまざまなコンテンツとディスカッションをつないで楽しめる」(佐藤氏)ような公式アプリも開発中だ。

このアプリによって、集客力のあるプラットフォーマーが行う「垂直統合型」のメディアづくりだけでなく、各メディアが作るコンテンツの質と議論の内容でつながる「水平分散型」のコミュニティづくりを支援するのが狙いという。

「ツールや開発手法は何でも構わない」と語る理由

エンジニアとして初の中途入社組となった板倉氏(中央)と多田氏(右)。その後すぐにプラトン氏(左)が加わった

エンジニアとして初の中途入社組となった板倉氏(中央)と多田氏(右)。その後すぐにプラトン氏(左)が加わった

このように、膨大な件数の読者投稿コメントを分析しながら、コメントを書き込む人間の感情すらアルゴリズム化するようなシステムの開発には、いわずもがな高度な技術力が必要となる。そのための専門家たちを集める理由の一つとなっているのが、先に挙げた同社の「開発文化」だ。

国立情報学研究所で人工知能に関する研究を行っていたAIの専門家、エリック・プラトン氏は、Webサイトでクーロンを知り、面接に来たその日の午後から働き始めたという。

「魅力的だったのが、それぞれの専門性を持ったエンジニアたちが自由に働き、ディスカッションをもとにコラボレートしている環境でした。私はただ『今、何が必要?』と質問するだけでよかったのです」(プラトン氏)

個人の好みや会社の縛りで論争になりがちな開発環境も、すべて個々人の自由という環境だったそう。WindowsやMacといったOSの選択はもちろん、ディスプレイの枚数やエディタの種類に至るまで徹底的に個人の好みに合わせられるという。

優れたエンジニア同士が密にディスカッションを重ねて開発を行うことを前提に、ツールの統一よりも「個人が最もやりやすい方法で開発を進める」(プラトン氏)のを優先するという考えゆえだ。

今はエンジニア間の情報共有ツールとしてSlackやQiita:Teamを利用しているというが、これらのツールも「もっと最適な新ツールがあればディスカッションした上で変えていく」(佐藤氏)という。

「一人ひとりのエンジニアが使いやすい端末、OS、ツールを活用していけばいいと思います。職人にはその職人の手に馴染む道具を使っていただいた方が、高いパフォーマンスを発揮できるという考えがあります」(佐藤氏)

徹底的に個人を尊重する水平分散型の開発文化には、今年2月、初めての中途入社組としてジョインした板倉謙氏や多田雅斗氏も感銘を受けている。

板倉氏は日本DECからキャリアをスタートし、その後Apple、日本マイクロソフトなど数々の外資系企業で経験を積んできた自然言語処理の専門家だが、グローバル企業で学んだチームマネジメントの哲学が同社にも反映されていると語る。

「よく言われたのは、“influence without authority”という考え方。肩書きや役職でチームを束ねるやり方ではダメだということです。クーロンにも、この考え方が不文律として根付いているので、開発でストレスを感じることは少ないですよ」(板倉氏)

既成概念を壊す~自由な働き方を支える「金曜の全日ディスカッション」

こうした自由の裏側には、「ハンマーを壊す」という組織文化がある。出る杭を打つことなく、むしろ出る杭を打とうとするハンマー自体を破壊するほどに自主性や嗜好を尊重する考え方だ。

「ハンマーを壊す」以外にも、カルチャーと方針、プロダクトポリシーなど明確なビジョンを持つクーロン
「ハンマーを壊す」以外にも、カルチャーと方針、プロダクトポリシーなど明確なビジョンを持つクーロン

ただ、現在エンジニア採用を展開中で、直近で約50名を目標に人員拡大を考えているという状況でも、「自由」を保つことができるのか? この疑問に対して、前職のベンチャー企業で複数サービスの開発チームにスクラム開発を導入した経験を持つ多田氏は「おそらく可能だ」と答える。

「クーロンには、サービス同様に『ディスカッションを最重要視する』文化があるからです。例えば、毎週金曜日は全員が業務の手を止め、1日中サービスの方向性や開発体制についてディスカッションする日となっています。仕事のこと、個人的なこと、会社の将来のこと、ビジョンについてなど、何でも全員で話し合うことで、今後直面するかもしれない課題も解消できるはずです」(多田氏)

事実、取材中にも「次の金曜日は今後の開発体制についてディスカッションしましょう」とプラトン氏から提案が出てくるなど、カルチャーの維持と発展には全員が興味を示し、コミットしている。

ちなみに、同社が信念としている「既成概念の破壊」は開発文化だけに留まらない。

例えば急な体調不良や育児・介護などで使うことができる年間10日間の「ヘルプ休暇」は、有給休暇をバカンスや家族のために使ってほしいという思いから生まれた制度だ。

また、家庭に中学生以下の子どもがいる場合に取得できる、最大20日間の「子ども休暇」などもある。スタートアップには珍しく、こういった各種制度も形骸化されずに当たり前のように利用されているそうだ。

2015年に移転したばかりのオフィスには、これからの仲間を受け入れるだけのスペースがある
2015年に移転したばかりのオフィスには、これからの仲間を受け入れるだけのスペースがある

現在、クーロンの開発拠点となっている六本木ヒルズのオフィスは、11名のベンチャーとしてはもてあますほどの広さがある。このスペースがエンジニアで埋まった時も、「文化」を維持していられるのか。

メディアの新しい未来を作ろうとしているクーロンの行く末は、エンジニアチームの新しいあり方も示す試金石となりそうだ。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/小林 正

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