Vol.18

「世界を変えるモノは最初はおもちゃ」Moff高萩昭範氏がウエアラブルで目指す、人とマシンの融合

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株式会社Moff 代表取締役 高萩昭範氏

株式会社Moff 代表取締役
高萩昭範氏

京都大学法学部を卒業後、A.T. カーニーに就職。その後、メルセデス・ベンツ日本および外資系食品メーカーで商品企画を担当。2013年1月に大阪市で開催された『ものアプリハッカソン』への参加をきっかけに、ウエアラブルデバイスの開発を目指してMoffを設立。2014年2月下旬にWebサイトおよびMWC2014にて『Moff』を発表。Kickstarterでは48時間で目標額を達成するなど大きな話題を呼んだ

Googleのサーゲイ・ブリンが、『Google Glass』をかけて公衆の前に登場したのが2012年。それからまだ2年しか経っていないが、今ではグラス型のみならずリストバンド型、HMD型などさまざまなウエアラブル端末が注目を集めるようになった。

そして今年3月、Facebookが拡張現実のハードウェアメーカーOculus VRを買収するなど、ソフトとハードの境界線は日に日に薄れている。《ソフトウエア×ハードウエア×クラウド》の組み合わせは、長年期待されていたモノとネットの融合を加速度的に後押ししている。

そんな状況下、「ウエアラブルおもちゃ」と称されるユニークなデバイスづくりで脚光を集めるメーカーがある。スマホ連携のスマートトイ『Moff』の企画・製造を行っている、高萩昭範氏ら数人のチームだ。

以下の動画を観てもらえば一目瞭然だが、『Moff』は装着した子どもの手の動きに連動して効果音が流れる仕組みになっている。ギターを弾くジェスチャーをすれば、ギターの音が鳴る。ヒーローの変身ポーズを真似れば、それに見合った音が出てくるわけだ。

彼らがプロダクトのお披露目も兼ねて行っているKickstarterでの資金調達は、目標調達額の2万ドルを48時間でクリアしただけでなく、2014年4月1日時点では6万7000ドルにも上っている。この事実からも、期待を寄せる人の多さが読み取れる。

今世に出ているウエアラブルデバイスのほとんどが、基本「大人向け」に作られている中で、なぜ高萩氏は幼児・子供向けに着目したのか。独自のコンセプトに基づいたウエアラブル開発の狙いを聞いた。

「ハード」「ソフト」「クラウド」の3つをつなげることで生まれた商機

―― 高萩さんは、大学卒業後、A.T. カーニーに就職されて、その後にメルセデス・ベンツの企画部門にいらっしゃったそうですね。いわゆる「非技術系」のお仕事をしていた高萩さんが、なぜウエアラブルデバイスの開発を?

大阪府八尾市で育った高萩氏。近所に世界的な工業メーカーもあり、モノづくりとともに育った
大阪府八尾市で育った高萩氏。近所に世界的な工業メーカーもあり、モノづくりとともに育った

実は父親が機械技師をやっていたこともあり、小さなころからモノづくりにあこがれていたんです。

家には当時の最新ガジェットがたくさんあったし、“世界のSONY”を一代で築いた盛田昭夫さんにあこがれたのもあって、小さなころは世界に通用するようなメーカーを作りたいと思っていました。

しかし、僕が大学を卒業した2002年ごろは、日本の製造業が低迷し出した時期。国内メーカーに就職しても、「世界に出て行けないかも」と思い、まずはコンサルタントとしてモノづくり企業の経営戦略や事業展開を学ぼうと考えました。

その後、メルセデス・ベンツでは本国直結の商品企画を行う部門に入ったので、マーケティングやモノづくりのコンセプトについて、自分なりに知識を蓄積してきたつもりです。

ただ、メルセデスでの経験から、モノづくりには巨大な工場や何千、何万もの人員が必要だと痛感し、自分でメーカーを作るという幼少のころの夢はもう絶望的だと感じていました。そんな折、フリーランスでマーケティングやWebサイト制作の手伝いをしていた時、クリス・アンダーソンの『MAKERS』を手に取ったんです。

―― では、『MAKERS』がMoffを起業するきっかけに?

直接のきっかけではありませんでしたが、とても大きな衝撃を受けました。オープン・ハードウエアならば工場や人員を抱えなくても低コストでモノづくりができるし、あの本に希望の光を見ましたね。

それで「潮目が変わった」と感じ、興味本位で参加したのが、大阪市が昨年1月に開催した『第1回ものアプリハッカソン』です。そこで出会ったメンバーと意気投合し、Moffを起業することにしました。

「ハード」「ソフト」「クラウド」の3つを組み合わせたモノづくりという観点では、まだ国内にメガプレーヤーが存在しないので、ベンチャーとして参入してもサバイブしていけるという確信がありましたね。

ハッカソンでの出会いにより、高萩氏の幼い頃からの夢「メーカーを作る」が一気に現実味を帯びた
ハッカソンでの出会いにより、高萩氏の幼い頃からの夢「メーカーを作る」が一気に現実味を帯びた

―― 「ものアプリハッカソン」の時に、もうMoffのコンセプトは決まっていたのですか?

いえ、家族の中にある課題を解決するアイテムを開発しようという方向性は決まったのですが、具体的にどんなモノを作るかはノープランで(笑)。ものアプリハッカソンでひとまず企画したのは、普通のぬいぐるみを触るとLINEのようなスタンプがスマホ経由で送れて相手とコミュニケーションができる、“柔らかいインターフェース”でした。

―― “柔らかいインターフェース”、面白いコンセプトですね。

わたしはもともと、今のコンピュータインターフェースに対する課題意識を持っていまして。PCが誕生してからもう30年以上が経ちますが、基本は「画面とキーボード」、「画面とマウス」というインターフェースからほとんど進化していないじゃないですか。それをもっとフィジカルなものに変えたいなと思っていました。

それがぬいぐるみをインターフェースにするというアイデアにつながり、ものアプリハッカソンでも2位に選ばれたんです。中でも、審査員のお1人がとても高く評価してくれました。その直後にシリコンバレーへのツアープログラムに参加する機会があり、現地で行ったピッチでも、良い意味で「クレイジーだ!」という反響があるなど、感触は良かったですよ。

ウエアラブルがエコ問題も解消するのは「ムダにモノを作らなくなるから」

―― なのになぜ、ピボットして『Moff』の開発を?

ビジネスをやっていくことを考えると、ただ「面白い」だけではダメで、

【1】何らかの課題があって、その解決に役立つモノかどうか?
【2】長く続くマーケットがあるかどうか?
【3】マーケットに何らかの変化があるかどうか?

の3つがなければダメなんです。

「家族のための課題解決を行う」というテーマの下、コンピュータインターフェースの革新にチャレンジし、かつビジネスとして展開していくには、ぬいぐるみインターフェースのままではダメだろうと。その試行錯誤の過程で、「ウエアラブルおもちゃ」というコンセプトに行き着いた。

おもちゃ市場は、ウエアラブルデバイスの市場なんかよりずっと長く存在し続けていますし、今後もなくならないはずですから、【2】に関しては条件を満たしています。

いうなれば、『Moff』は《ソフト×ハード×クラウド》を駆使して家族が抱える課題を解決する手段の一つとして生まれたプロダクトなのです。

―― 「家族のための課題解決」とは?

 太陽の下で眉間にしわを寄せ、ゲーム機の画面をにらみ続ける子どもを見て、高萩氏は危機感と不気味さを感じた
From MIKI Yoshihito (´・ω・)
太陽の下で眉間にしわを寄せ、ゲーム機の画面をにらみ続ける子どもを見て、高萩氏は危機感と不気味さを感じた

今の子どもの遊びって、ちょっと気持ち悪いんですよ(笑)。外へ出かけても、ゲーム機やスマホの画面を見て操作しているだけ。

僕らが子どものころって、手や足を動かして遊ぶことで、楽しさやうれしさを体験してきたじゃないですか。ゲーム機やスマホは、その機会を奪ってるんじゃないかっていう強烈な危機感を抱きましたね。

30~40家族にヒアリングしてみても、同じように遊び方の変化に不安を覚える親は多いという結果でした。

それに、経済的な面から考えても、おもちゃの購入費用はけっこうバカにならない額になります。子どもはすぐに飽きますから、親や親類がすぐに新しいモノを買いますよね? エネルギー問題などでサステナビリティー(持続可能性)が叫ばれている昨今なのに、おもちゃ産業だけはいまだに大量生産・大量消費がまかり通っている。

この2つの課題を解決したくて、『Moff』を企画しました。

―― 確かに、ウエアラブルデバイスはソフトウエアを書き換えれば「違うおもちゃ」にすることもできますし、発展性と持続可能性を兼ね備えたプロダクトにできますね。

そうなんです。僕個人としては、今騒がれているIoTやウエアラブルって、ムダにモノを作らなくなるための手段なんだと思っています。

シリコンバレーに行った際、CrunchBase(米TechCrunchが運営するスタートアップのデータベース)の中の人に話を聞いても、「これからスマホ連携のデバイスが来る」、「でも、最も重要なのはソフトウエアだ」、「デバイスは単なるインターフェースでしかない」と言っていました。

この話もあって、『Moff』は単なるおもちゃではなく、人とコンピュータの新しい関係を築き得るセンシングデバイスとして発展可能だと、改めて確信しましたね。

―― でも、ウエアラブルデバイスは「ハード」が絡むがゆえに開発が難しいという面もあります。実際、プレーヤーがWebやアプリの開発に比べて少ないのも、この障壁があるからだと思われますが、高萩さんたちはどう開発を進めたのですか?

コンセプトモデルを作る段階では、ひたすらリーン・スタートアップで開発を進めてきました。そこは、ソフトウエアやアプリ開発と同じです。

最初はArduinoと有線センサでプロトタイピングをして、それを既存のおもちゃにテープでくっつけたモノを子どもたちに試してもらいながら、どうやって遊ぶのかを研究して今の『Moff』の形にしていった。

『リーン・スタートアップ』はエリック・リースの著作として知られていますが、そのエリックの師匠に当たる方がスタンフォード大学などで教鞭をとるスティーブ・ブランク教授だと知り、ちょうど日本で講演会があるということを聞いたので、知り合いに紹介してもらって参加したりもしましたね。

さきほど、モノづくりでビジネスをやっていくために挙げた3カ条も、ブランクさんの話や著書、シリコンバレーで得た見聞などから学びました。

子どもでも扱えるくらいのナチュラルUIだからこそ可能性は広がる

「リーンハードウェアスタートアップでは、工場との物理的距離も重要」と語る高萩氏の目は世界での勝負を見つめている

「リーンハードウェアスタートアップでは、工場との物理的距離も重要」と語る高萩氏の目は世界での勝負を見つめている

―― 次は量産化が課題ですね。

ええ。『Moff』はまだまだ未成熟なプロダクトなので、製造は中国などの海外ではなく、日本の工場と委託契約を結んで行っています。

ハードウエアがかかわるモノづくりは、PC1台あればすぐにできるソフトウエア開発とは違っていろんな変数があるというか、予想外のことが続々と発生しますからね。だから、開発の課題をつぶしていくには、できるだけ対面で行った方が早いんです。

今のフェーズで、物理的に距離の近い日本を製造場所に選んだのはそのためです。

―― 「ウエアラブルおもちゃ」と言われると、子どもだけの玩具というイメージを持ってしまいますが、これまでのお話を総合すると、『Moff』は老若男女にコンピュータとの新しい付き合い方を提案できそうです。

まさにそこが、われわれの狙いです。今話題になっている『Google Glass』などに比べれば、『Moff』は部品数が少ないですし、簡易なセンシングデバイスさえ量産できれば、あとはクラウド&アプリの組み合わせでいろんなことが可能になる。つまり、量産型ウエアラブルなんですね。

この「量産型」という点がけっこう大切だと思っていて、いずれは『Moff』の仕組みを工場の現場作業員向けといったバーティカル・マーケットに応用することもできますし、家族の課題解決という観点では、高齢者の生活補助ツールにもできるかもしれない。

新しくてナチュラルなコンピュータインターフェースとして、無限の可能性を秘めているのです。

ビジネスとして鍵となってくるのはセンシングの解析技術です。わたしたちは特許出願をするなど、特にこの分野に力を入れています。

―― おもちゃが30年以上続いた「コンピュータの常識」を変えていくとしたら、すごく面白い展開ですね。

スティーブ・ブランク教授の言葉に「Disruptive Innovation Always Looks Like a Toy to the Incumbent.(破壊的イノベーションはいつも既存の企業にとっては「おもちゃ」に見える。)」というものがあります。

わたしたちは今「おもちゃ」を作っていますが、実は見方を変えれば子供でも使えるウエアラブル、ひいてはナチュラルユーザーインターフェースデバイスを作っているのです。

子供でも使えるくらい安価で・簡単・シンプルであるということが重要で、そのおかげでさらに大きなターゲット・大きな用途・発展可能性を秘めている。そうなる日を目指して、まずは少しでも多く、子どもたちの笑顔を増やしていきたいと思っています。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/竹井俊晴

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