Vol.26

テクノロジーの進歩で10年後の働き方はどう変わる?人工知能の専門家が語る「結論」と「持論」

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米シンクタンク、ピュー研究所が行った「AI, Robotics, and the Future of Jobs」という調査が今夏、話題になった。

2000人近い識者に、2025年までにAIやロボットが人間の仕事を奪い尽くす事態が起きるかどうか? を尋ねたこのインターネット調査によれば、「雇用が奪い尽くされることはない」というポジティブな声と、「大部分の雇用は失われかねない」と危惧する声で、識者の意見は真っ二つに分かれた。

何度かのブームと「冬の時代」を繰り返しながら発展を続けてきたAIだが、人間にとって脅威となりかねないとする立場も少なくない。かのイーロン・マスクも最近警鐘を鳴らしている。

AIの発展で次の10年、人間の働き方はどう変わるのか。人工知能学会前会長で慶應義塾大学教授の山口高平氏に、探索型、知識型、計測型の3種類のAIの特徴から、未来の働き方の変化と、その時求められる資質について聞いた。

慶應義塾大学 理工学部 教授 山口高平氏1957年、大阪府生まれ。一般社団法人人工知能学会前会長。84年、大阪大学大学院工学研究科通信工学専攻博士後期課程を修了。04年より現職。専門分野は、知能情報学、セマンティックWeb、オントロジーなど。主な著作に『データマイニングの基礎』、『情報システム学へのいざない』、『eビジネスの理論と応用』など(いずれも共著)

量的処理、高速処理はAIに軍配。人間は大局的判断を下す「監督」に

1997年に当時のチェス世界王者を破ったIBMのスーパーコンピュータ『Deep Blue』
From Jim Gardner
1997年に当時のチェス世界王者を破ったIBMのスーパーコンピュータ『Deep Blue』

「探索型」AIとは、複数ある候補の中から最適の解を選び出すタイプのAI。プロ棋士とAIが対戦する将棋の「電王戦」で使われているものも、それにあたる。

「電王戦」のここまでの対戦成績は、AI側の7勝2敗1分け。七段、八段といったトッププロを相手に圧倒的な強さを見せている。では、棋士という職業は今後、AIに取って代わられ、この世から消滅してしまうのだろうか。

「なくなることはない。しかし今ある形とはかなり違ったものになるだろう」というのが山口氏の考えだ。

IBMのスーパーコンピュータ『Deep Blue』が、当時のチェス世界王者だったゲイリー・カスパロフに勝ったのが1997年のこと。それから17年の時が経過したが、今でも人間のトッププレーヤーは存在する。

いま、チェスの大会は人間とコンピュータのあらゆる組み合わせが認められる「フリースタイル」という形式が中心となっている。その中で、最も好成績を収めているのは、かつての人間のトッププレーヤーでも、人間を破った最強のコンピュータでもなく、数台のコンピュータを操作するアマチュアのプレーヤーなのだという。

「巨大なデータの扱いでは人間よりコンピュータの方が上です。アマチュアのプレーヤーは自分で考えることはせずに、すべての判断をコンピュータに任せるから強い。下手に自分なりの判断を下すトッププレーヤーよりも、コンピュータとの相性が良いのです」

では、一つ一つの判断をコンピュータに任せるのだとしたら、その時、人間は何をしているのか。

「人間は、複数のコンピュータが出した解が互いに食い違う時に、どの手を採用するかを判断します。そのために事前に何十試合とこなして、序盤戦に強い、終盤戦に強いといった各コンピュータの個性を把握しておくのです」

人間は最終判断を下すことに特化する。つまり、人間はもはやプレーヤーではなく、監督になったのだ。

こうした変化は別の場所でも起きている。例えば金融の世界では、すでにデイトレーディングの7割がプログラムによって行われているとされる。

「秒単位での判断が求められ、少しずつ利ざやを稼ぐような仕事は人間には向いていません。高速な処理も、コンピュータの得意とするところだからです」

それでもトレーダーという職業自体がなくなっていないのは、「数カ月、1年単位の中長期的、大局的判断では人間の方が上だから」と山口氏は言う。

「個別の小さな判断よりも、最終判断、大局的判断を下す方がずっと大切な仕事だという見方はできるでしょう。得手不得手を正確に把握し、人間とコンピュータとで的確な役割分担ができるかというのは重要なポイントになるはずです」

東大入試が解けるAIでも、人間の常識や生物の反応は理解できない

米国の人気クイズ番組『Jeopardy!』で番組史上最高賞金を獲得した質疑応答システム『Watson』
From Greg Gorman
米国の人気クイズ番組「Jeopardy!」で番組史上最高賞金を獲得した質疑応答システム『Watson』

次に取り上げるのは「知識型」AI。最も有名なのは、2011年2月に米国の人気クイズ番組「Jeopardy!」に挑戦したIBMの質疑応答システム『Watson』だ。『Watson』は、歴史、文学、科学などさまざまなジャンルから出題されるクイズに答え、番組史上最高額の賞金を獲得した。

『Watson』が優れているのは、言葉の関係性に着目することで、話し言葉による自然な文章を理解できること。これにより、100万冊の本を読むのに相当するとされる膨大なデータベースから瞬時に最適な答えを導き出すことができる。

これとは逆に、例えばフリーワードの検索は情報の丸暗記に過ぎず、14億あるページの持つ意味を理解していないため、時としてユーザーの意図していない検索結果を表示してしまう。これではクイズに解答することはできない。

IBMは今年1月、約1000億円をかけて『Watson』の用途開発に特化した2000人規模の事業部門を新設。病院や金融の分野で活用が始まっている。

「サンフランシスコの病院では、忙しくて最新手術事例を調べられない臨床医に代わって医学論文のデータベースを意味リンクで調べる『医療Watson』が活用されています。このように、ただ何かを調べるだけの職業は今後なくなっていくでしょう」

日本では、東京大学入試突破を目指した知識型AI『東ロボくん』が国立情報学研究所によって製作されている。昨年行われた代々木ゼミナールの模試「東大入試プレ」では、数学の問題4問中2問を完全解答。学生の平均点を大きく上回った。

ところが、一般的には東大入試よりも難易度が低いと思われているセンター試験の模試を同様に受けたところ、学生の平均点を下回る結果が出た。これはどういうことだろうか。

「東大の問題は、高校までに習う膨大な定理を組み合わせることで解く、ある意味でシンプルな問題です。対するセンター試験は選択解答式。問題文の日本語部分にさまざまなヒントが隠されており、人間はそれを活用して答えを導き出すのですが、コンピュータには理解できないのです」

英語の問題に対する誤答も象徴的だ。バスが渋滞に巻き込まれて待ち合わせに30分遅れた人に対する、友人の台詞としてふさわしいものを選ぶ問題で、「携帯電話でひと言連絡してくれれば良かったのに」が正答のところ、『東ロボくん』は「バスよりタクシーの方が早い」を選んだ。

「渋滞ですから、バスだろうがタクシーだろうがたいして変わらないということが人間には分かりますが、コンピュータにはそういった生活体験がない。コンピュータは論理式で表現できることは得意ですが、人間の常識や、生物の反応を理解するのは苦手です。このあたりにも、生き残る職業を探るヒントはあるでしょう」

ただ、AIの発展で業界構造は大きく塗り替えられる可能性も

計測型AIを活用しているGoogleの自動運転車『Google Driverless Car』
From Steve Jurvetson
計測型AIを活用しているGoogleの自動運転車『Google Driverless Car』

3つ目は「計測型」AI。分かりやすいのはお掃除ロボットの「ルンバ」で、いくつかのセンサーの働きで掃除する部屋の形状、広さ、汚れ具合を判断し、最適な走行パターンと稼働時間を自動的に計算する。

自動運転車『Google Driverless Car』も、計測型AIを活用した一例。このプロジェクトでGoogleが強調しているのは、自動運転車の導入で、ものすごく交通事故が減るだろうということだ。

「アメリカは交通事故死者数が非常に多い国ですが、その99.99%がヒューマンエラーが原因とされています。自動運転車はこれまで、人の生涯走行距離に相当する80万キロをテスト走行して、相手側の過失による事故が2件のみ。つまり、一生運転しても過失での事故を起こさない安全性を実現できていることになります」

すでに米国4州で走行実験が始まっており、10年後にはアメリカ国内の自動車の半分以上が自動運転車になっていることが予想される。その先には当然、TPPのような形で日本に売り込んでくることもあるだろう。

「スマートフォンは当初ハードのスペックで選ばれていたのに、いまやOS、アプリといったソフト面の違いで選ばれるようになりました。今は燃費やエンジン性能で選ばれている自動車も、いずれは同じようにOSで選ぶ時代が来るかもしれません。そうなれば、既存の自動車メーカーは単なるハード提供だけの会社になってしまう。IT会社が業界を牛耳ってしまうことも懸念されるのです」

カギはクリエイティビティ、相手の気持ちを考える、手先の器用さ

「確定申告など税関係の処理が日本と比べて複雑なアメリカでは、税理士はもともと需要の高い職業でした。しかし、計算ソフトが普及したことで、8万人の雇用がなくなったとされています。細かい処理、高速の処理といったコンピュータの得意な分野では、すでに仕事の淘汰は始まっています」

オックスフォード大学が2013年に発表した「コンピュータの影響を受けやすい未来の仕事」に関する調査レポートでは、アメリカの雇用の半分はコンピュータに取って代わられる可能性が高いとされている。

このレポートで、約700の職業の中で最も代替されにくいとされたのはセラピストだ。逆に、トレーディングの計算や資料の分析は下位にランキングされた。

コンピュータが苦手としている、

【1】クリエイティビティ
【2】パーソナル・インテリジェンス(相手の気持ちを考える)
【3】手先の器用さ

の3要素が強い職業ほど、代替されにくいと考えられているようだ。

「小学校の教諭は20位と高く、私のような高等教育者の200位よりもかなり上。知識を教えるだけの職業はコンピュータに取って代わられるけれども、分からないと子供が言った時にどうするか、といった生活体験に基づくノウハウを持っている職業は生き残る。これからの時代を生きる上では、こうした能力を磨いていくことが必要不可欠になっていくのではないでしょうか」

取材・文/鈴木陸夫(編集部)

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