『AbemaTV』のUIづくりも担ったCAのテクニカルクリエイターが重視する「3つのQ」向上策とは~UI Crunch #8レポ
「テクニカルクリエイターって言葉、聞いたことある人は会場内にどれくらいいますか?」
開口一番こう切り出したのは、サイバーエージェントで『Ameba』ブランドのクリエイティブやスマートフォン向けサービスのUIデザインをリードしているチーフ クリエイティブディレクターの佐藤洋介氏。
同氏は4月14日、DeNAとグッドパッチが共同運営するデザイナー向けイベント『UI Crunch #8』に登壇し、サイバーエージェントが2016年1月に新設した「テクニカルクリエイター」職についての解説を行った。
このポジションを作った理由を代表の藤田晋氏自らブログで説明するなど、テクニカルクリエイターは同社のサービス開発で重要な立場を担うことが期待されている。これまでは業務内容でも文化的な面でもやや断絶している感のあった【デザイナー】と【エンジニア】の仕事を融合させ、「一人多才なクリエイター」(佐藤氏)の育成・採用に注力していく意思決定が行われた背景には
■ネイティブアプリで非常に高度な表現ができるようになったこと
■「心地よいユーザー体験」が競合優位性になる時代が来たこと
■『Prott』や『Pixate』など、デザインとエンジニアリングの中間を担うようなプロトタイピングツールが複数登場したこと
があるという。そこで、デザイン技法だけでなくプログラム言語や各種ツールも使いこなしてアウトプットの質を高め、幅広い表現を実装・具現化できる人材を育てなければいけないという考えが「新職種誕生」の裏側にあったそうだ。
簡潔に言うなら、「デザイン」と「技術」をつなぐ存在がいなければ、良いサービス開発、愛されるアプリづくりができなくなっているということだろう。
「個人的な意見ですが、日本企業がリリースしているWeb・アプリサービスの多くはまだまだUIのクオリティが低い。デザイン~開発の業務フローも整備し切れていないと思っています。だから当社でテクニカルクリエイターを育てながら、日本をリードするようなモノづくり組織を作っていきたいんです」
同社が4月11日に発表した、テレビ朝日と共同運営のインターネットテレビ局『AbemaTV』のUIづくりでも活躍したテクニカルクリエイターの仕事とはどのようなものなのか。
佐藤氏が明かした、この仕事で重視される「3つのQ」を紹介しながら紐解いていこう。
社長自ら「神アプリ」と絶賛したUIデザインの誕生秘話
この日のプレゼンでは、記者発表会で藤田氏が「神アプリ」と自画自賛した『AbemaTV』アプリの他に、音楽配信サービス『AWA』のInteraction専用アプリAWA-IxDや料理レシピの投稿・共有アプリ『ペコリ』のUIデザイン秘話も披露した佐藤氏。
その過程では、さまざまな「技術とデザインをつなぐための施策」を実践してきたそうだ。具体的には、以下の「Q」を意識して仕事をしている。
【2】 Interaction Quality(インタラクション・クオリティ)
【3】 Planning Quality(プランニング・クオリティ)
1つ目の「デザイン・クオリティ」を高める施策として佐藤氏が行っているのは、
・月に一度、約30あるサービスラインアップのUIデザインをまとめてチェック
・その結果や改善点などを、各サービスの担当デザイナーとプロデューサーへ「一緒に」フィードバック(デザイナーだけでなく必ずプロデューサーにも一緒にフィードバックするのがポイントだと佐藤氏は強調していた)
・チーム全体へのデザインフィードバックも行い、評価軸をチームに浸透させる(=フィードバックのオープン化)
など。職種間の情報断絶を解消するための打ち手は、2つ目のキーワードである「インタラクション・クオリティ」の向上施策でも重視しており、
・デザイナーとエンジニアがペアを組んでページ遷移やデザインの改善案を議論する
・テクニカルな側面から相互理解を深めるために、社内で「デザイナー向けSwift研修」と「エンジニア向けデザイン研修」を並行して行う
といった取り組みを行っている。
さらに、サービスの特徴を決定付ける「プランニング・クオリティ」を高めるため、時に代表の藤田氏と佐藤氏をはじめとするテクニカルクリエイターが一緒にモックレビューをしながら詳細を詰めていくという徹底ぶりだ。
前述した『AbemaTV』の開発プロセスでも、藤田氏が「そろそろテレビをスマホで見る時代が来てもいいんじゃないか?」と語ったのをきっかけに、佐藤氏らテクニカルクリエイターの素養を持ったデザイナーたちがすぐさまモックアップを作成。そのモックレビューの中でスマホでの心地よい視聴体験について議論した結果、「ザッピングのしやすさがカギを握るのではないか」という仮説を導き、縦型動画にする当初の構想を変更して現在のUIにしたという。
作りながら素早く軌道修正していくやり方を実践できたのは、UIデザインと開発両面に精通したテクニカルクリエイターがいたからこそ、といえる。
リベロのような万能型プレーヤーを目指すなら「自分のベーススキルを確立して」
ただし、ここで一つの疑問が生じる。
過去、サービス開発におけるフルスタックエンジニアの必要性が叫ばれた時に起きた、「すべての開発領域に精通したエンジニアを育てるのは現実的ではないのでは?」という議論と同じことが、テクニカルクリエイターについてもいえるのではないだろうか。
この点について、佐藤氏はこう持論を述べる。
「デザインと開発の垣根を越えてアウトプットしていくためには、逆説的に(デザイナーとしての)十分なベーススキルが必要になります。デザイン・プログラミング・アニメーションのすべてに精通していなくても、どこか一つの専門知識を磨いてから間口を広めていけばいい。テクニカルクリエイターの育成では、この考え方が大切だと考えています」
サッカーに例えるなら、ディフェンダーながら最後尾から試合を組み立て、自らも機を見て攻撃に加わるリベロのような役割をこなす人を育てていきたいと佐藤氏は続ける。
「テクニカルクリエイターの仕事では、サービス企画の最上流から入り込み、プロデューサー・エンジニア・デザイナーが三位一体で開発に取り組めるような場づくりをすることが肝心なんだと思っています」
ちなみに、この日のUI Crunchに登壇したDeNA、Gunosy、ウォンテッドリーのデザイナーたちも、異口同音にデザイン業務と開発業務をつなげることの重要性を語っていた。
職種名はさまざまであっても、テクニカルクリエイターのような役割を担う人がUIとUXの質を高めていくことは、徐々に「常識」になりつつあると感じる会だった。
最後に、UI Crunchの発起人の一人であるグッドパッチCEOの土屋尚史氏は、こう語ってイベントを締めくくった。
「僕が以前サンフランシスコで働いていた時、あることにとても驚きました。ベイエリアでは、大学でコンピュータサイエンスを専攻していたような人でも、その後エンジニアではなくデザイナーになるケースが少なからずあったんです。当時は『そんなキャリアパスもあるのか!』と感銘を受けたのですが、今日の話を聞いて、日本でもやっと『デザインと技術をつなぐ仕事』が広まってきたと感じました。ぜひ、多くのデザイナーやエンジニアがこの新しい役割に挑戦してほしい。そして、どんどん良いプロダクトを作っていきましょう」
(佐藤氏をはじめ『UI Crunch #8』で話された講演内容はすべて以下のYouTube動画で視聴可能だ)
取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)
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