Vol.142

ドリコム「新規事業ラッシュ」を支えるチームづくりの妙~成否を分ける32%をうまくコントロールする方法

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あの企業の開発環境を徹底調査!Hack the Team

エンジニアが働く上で気になる【開発環境】に焦点を当てた、チーム紹介コーナー。言語やツール類を紹介するだけではなく、チーム運営や開発を進める上での不文律など、ハード・ソフト面双方の「環境づくり」について深掘りしていく。

2004年に米Googleが買収した写真管理サービス『Picasa』をはじめ、これまで100社以上のスタートアップを輩出してきたインキュベーション企業のIdealab(アイデアラボ)。創業者でCEOのビル・グロス氏は2015年に『TED 2015』へ出演した際、「新規事業を成功させる一番の原因」というテーマでプレゼンを行った。

その話の中で、彼は自身も驚いたという調査結果を紹介している。200社以上の企業を対象に行った調査で分かった、新規事業を成功させる5大要素は以下の通り。最重要と思われがちな「アイデア」や「ビジネスモデル」よりも、実は事業を手掛ける「タイミング」と「チームづくり」の方が肝心というのだ。

【1位】 タイミング(42%)
【2位】 チーム編成と運営(32%)
【3位】 アイデア(28%)
【4位】 ビジネスモデル(24%)
【5位】 資金調達 / 財源(14%)

(※パーセンテージは、調査企業すべてを5つの指標ごとに採点した上で、アイデアラボが支援して10億ドル規模の成功を収めた企業とAirbnb、Instagram、Uberといったメガベンチャーに共通して強く影響したとされる指標を割り出した値とのこと)

この結果に照らし合わせながら最近のドリコムの動きを見ると、興味深い事実が浮かび上がる。同社は今年3月23日にCtoCのダイニングコンシェルジュサービス『PlanB』を正式リリースしたのを皮切りに、4月19日に物々交換アプリ『Clip』を、4月25日には地図連動のライブコミュニケーションアプリ『Pass!』のβ版をリリースした。

リリースラッシュの理由を、代表取締役社長の内藤裕紀氏は「CtoCマーケットに可能性を感じ、新たな切り口でこの領域に先乗りして圧倒的なサービスを生み出すため」と語っている(TechCrunchのインタビューで。記事はこちら)。判断が正しいかどうかは後になってみないと分からないが、グロス氏の言う「タイミング」が来たと考えたわけだ。

また、この動きに合わせて、今年4月には少数精鋭の新規事業専任チーム『DRECOM INVENTION PROJECT』、通称DRIPを設立している。くしくも新規事業の成否を分ける上位2つの要素を押さえた格好だ。

では、DRIPは自らの知恵と工夫でコントロールできる32%の要素、つまりチーム編成と運営をどう行っているのか。中の人たちを直撃した。

エンジニアがカスタマーサポートも兼務している理由

(写真左から時計回りで)川上知成氏、松江好洋氏、勅使瓦悠太氏、小川光典氏

(写真左から時計回りで)川上知成氏、松江好洋氏、勅使瓦悠太氏、小川光典氏

「ドリコムの主力事業となっているモバイルゲーム以外に、次の柱となるような新規事業の種として企画・研究開発を始めたのは2015年の春ごろ。それから『PlanB』、『Clip』、『Pass!』をリリースしてDRIPを立ち上げるまでにプロトタイプを作り、チーム内、社内でテストを繰り返しながら企画・研究開発を進めていました」

そう明かすのは、DRIPの部長である松江好洋氏。当時はそれぞれ別の事業部に所属するメンバーが開発を手掛けており、社内におけるタスクフォースのような取り組みとして進んでいた。

現在『Pass!』を担当するエンジニアの小川光典氏は同社の「研究開発チーム」に所属しながら、『Clip』を担当する勅使瓦悠太氏は「メディアチーム」に所属しながら開発を行っていたという。

しかし、松江氏の言う「次の柱」を本気で生み出すには、まず熱量の高いチームを作る必要があると考え、正式にDRIPを発足。新しいサービスを生み続けることをミッションに、小川氏と勅使瓦氏は専任のエンジニアとして異動した。

代表の内藤氏自らが統括プロデューサーを務めるこのチームで、エンジニアは企画・機能開発から改善作業、カスタマーサポートまでと幅広い業務を担っている。注目すべきは、CS(顧客満足度)にまつわる業務も行っている点だろう。

DRIPのチーム内で幅広い業務を担当している勅使瓦悠太氏(左)と小川光典氏

DRIPのチーム内で幅広い業務を担当している勅使瓦悠太氏(左)と小川光典氏

その理由を、勅使瓦氏はこう話す。

「まだマーケットができ上がっていない領域で新規事業を展開するには、仮説ベースで機能開発を行いながら、同時にユーザーの声をつぶさに聞いて『サービスコンセプトは刺さっているか?』、『より良いユーザー体験を提供するには何が必要か?』などを考え続けなければなりません。ですからエンジニアもCS業務を担いながら、新しいUXづくりのヒントを得ようとしているのです」(勅使瓦氏)

各サービスの開発チームは、この仮説検証サイクルを高速化する目的で最小の人数構成にしており、現時点では3サービスで10名程度の規模となっている。

「ですから、例えばデザインに詳しくない僕らもUIにどんどん口出しするなど、全員が担当分野や職域を越えて議論することがサービスを育てていくための必須条件になります」(小川氏)

「僕と小川も、かなり頻繁に相談し合っています。お互いに担当するサービスのUXについてや技術的な相談など、コミュニケーション量は相当多い。小川に『うるさいヤツだな』と思われてるんじゃないかと心配するくらいは話していますね(笑)」(勅使瓦氏)

「プログラムマネジメント室」が後方支援

このように、業務の幅広さと密なコミュニケーションが特徴のDRIPでは、エンジニアにどんな素養が求められるのか。

部長の松江氏は、「フロントからサーバサイドまで一通りの技術が分かるフルスタックなエンジニアで、かつ企画やデザインにも興味を持てる人」と語る。とはいえ、これはエンジニアからすれば「そんなスーパーな人はそうそういないのでは?」と勘ぐりたくなる話でもある。

便利なフレームワークや自動化ツールの普及もあり、フルスタックエンジニアが非現実的な存在ではなくなりつつあるものの、サービス開発のあらゆる局面にエンジニア1人がマルチタスクで関わるのは時間的に難しいという側面もあるからだ。

そこで重要な存在となっているのが、DRIPのみならず同社の展開する事業を横断的にサポートしている複数の技能部門であり、その一つが「プログラムマネジメント室(PMO)」だ。

同室のエンジニアである川上知成氏は、自身の役割をこう説明する。

「プログラムマネジメント室とは、各事業のプロダクトオーナーをエンジニア目線でサポートする相談窓口のような存在です。それぞれの事業部にいるエンジニアだけでは解決するのが難しい開発案件を引き受けるのが僕らの仕事になります」(川上氏)

ドリコムにおける「プログラムマネジメント室」の役割を語る川上知成氏

ドリコムにおける「プログラムマネジメント室」の役割を語る川上知成氏(左)

他の技能部門には、インフラ整備やチューニング、データ解析の環境構築などを行う基盤技術部やインフラ部があり、彼らがPMOと連携してDRIPを支えている。サービス開発にまつわるすべてを少人数で行わなければならないチームを複数の技能部門でサポートすることで、松江氏の言う「フルスタックな業務」をスピーディかつ現実的な労力で行えるようにしているのだ。

「仮説検証の仕事を例に取っても、リリース後にきちんと検証するにはログデータを詳しく分析できるようにしなければなりません。DRIPのメンバーだけで、そのためのソフトウエア開発や環境構築まで行うのは無理があります。ですから、各技能部門がその辺りの開発に対応してくれることで、本来やるべき仕事に集中できるんです」(小川氏)

新規事業で必要なのは「8:2でサービス寄りな人」

その役割上、社内のあらゆるチームのエンジニアを見てきた川上氏に、改めて「DRIPのような新規事業チームに必要なエンジニア像」を聞くと、「8:2でサービス寄りな人」という答えが返ってきた。

「私見ですが、エンジニアは3種類のタイプに分けられると思っていて。『タイプ1』はとにかく新しい技術をキャッチアップするのが好きな人。『タイプ2』は難易度の高い開発を行うことに燃える人。最後の『タイプ3』が、サービスづくりを突き詰める人です。DRIPに選ばれたエンジニアは、タイプ3の要素が8、その他の要素が2くらいのバランスで仕事をしている印象ですね」(川上氏)

確かに取材中、小川氏や勅使瓦氏からは「新しいUX」、「想定ユーザーに刺さるUI」などのキーワードがたくさん出てきた一方で、技術的な話は少なめだった。

「目指したいゴールに対してどうやって実験をし、理想のUIを考えていくかが目下の課題。プロデューサーである内藤が話す世界観を踏まえた上で、細かな部分をチューニングしていかなければならない」とは勅使瓦氏のコメントだ。

こういった発言こそが、彼らが「8:2でサービス寄りな人」である証拠と考えることもできるだろう。

松江氏によると、今後、DRIPの面々にはリリース済みのサービス運営とブラッシュアップに加えて「第4、第5の新規事業を考えること」も求められる。“What’s New”を生み続けるのは並大抵のことではないが、適した人選と彼らをサポートする体制を築くことで、キャズムの谷を越えるサービスが一つでも生まれたなら――。

新規事業チームを支える最後の砦は、このワクワク感かもしれない。

取材・文/伊藤健吾(編集部) 撮影/竹井俊晴

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