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「社員が動いてくれない」は間違いだった~どん底から『Refcome』で復活したCombinatorに見る、チームづくりの理想形

転職

    あの企業の開発環境を徹底調査!Hack the Team

    エンジニアが働く上で気になる【開発環境】に焦点を当てた、チーム紹介コーナー。言語やツール類を紹介するだけではなく、チーム運営や開発を進める上での不文律など、ハード・ソフト面双方の「環境づくり」について深掘りしていく。

    ユーザー数はそれなりに増えている。だが売上につながらない。減り続ける創業資金を目の当たりにし、募るのは焦りと不安。その後に続くのは「スタートアップあるある」だ。

    チームは発足当初の高揚感を失い、ピボットするか受託で食いつなぐかなどと議論しているうちに離れていく仲間も……。2014年に起業し、スタートアップ向けの仲間集めプラットフォームを展開していたCombinator代表の清水巧氏は、創業から1年も経たないうちにこの地獄を経験した。

    株式会社Combinatorの代表取締役・清水巧氏

    株式会社Combinatorの代表取締役・清水巧氏

    社名と同名のサービスである『Combinator』はスタート以降、清水氏の他、正社員のエンジニア1名と数名のフリーランサーで運営していた。だが、2014年も暮れかけていたある日、定例の朝会をエンジニアが欠席。そのまま音信不通となり、何とか連絡が取れた時にはもう実家のある地方都市へ帰っているとのことだった。

    資金がなければ、仲間もいない。そのような状況でサービスを継続することもできない。清水氏は『Combinator』の一時休止を決め、自身も生まれ故郷の石川県に里帰りする。

    そこから約半年間、石川と東京を夜行バスで行き来しながら細々と採用支援イベントを開催して食いつないでいた同氏は、会社復活のきっかけとなるリファラル採用(縁故採用)支援サービスの『Refcome(リフカム)』を生み出すまでの過程で多くのことを学ぶ。

    中でも、彼自身が「猛省した」と語り、考えを改めたのは、チーム構築のやり方だった。

    すべてに口出しするやり方から、「完成したモノ」ありきで議論をするように

    採用における「社員紹介」の機会を広げ、管理も便利にするサービス『Refcome』

    採用における「社員紹介」の機会を広げ、管理も便利にするサービス『Refcome

    「起業から最初の1年間は心のどこかで『なぜエンジニアから(サービスの成長に向けた)アイデアを出してくれないんだ!?』と感じていました」

    これは辞めたエンジニアへの恨み節ではない。むしろその逆で、この考えこそがチーム崩壊につながる諸悪の根源だったと清水氏は振り返る。

    「プロダクトオーナーは自分だという気持ちが強過ぎて、何から何まで注文を付けてしまったというか。『今優先すべきはそれじゃない』とか、『サービスが目指すビジョンとちょっと違う』などと言いながら、独りよがりなサービス運営をやっていました」

    起業家の武器は、プロダクトに賭ける強い思い。あのスティーブ・ジョブズだって、ディテールにこだわる相当な頑固者だったというじゃないか。清水氏はそう考えていたという。

    その結果、招いてしまったのが先に記したような惨状だった。だからこそ、現在の『Refcome』開発では違ったアプローチを採るようにしている。

    取締役として開発にフルコミットするエンジニアの中森恭平氏を中心に、技術顧問の加瀬正喜氏とデザイナーの小塩祐二郎氏(ともに非常勤)で構成される『Refcome』の開発チームは、清水氏も交えて毎週月曜に行っている「開発会議」でサービスにまつわる数字データを共有し合い、その都度機能開発や改善作業の優先順位を議論。その場で目下の注力タスクを数個に絞り込んだ後は、次週のミーティングまで各人にほぼ任せ切る形で開発を進めている。

    Combinatorの社員たち。写真右が、取締役の中森恭平氏

    Combinatorの社員たち。写真右が、取締役の中森恭平氏

    「前との違いは、『完成したモノ』ありきで議論をするようになったことです。開発途中であれこれ指示を出したり、リクエストするのを控えるよう意識するようになりました」(清水氏)

    仲間を信じて、仕事を託す。そう表現するのは誇張し過ぎかもしれない。それでも清水氏は、「皆の提案がプロダクトのビジョンと『ちょっと違う』と思うことがあっても、『まったく違う』のでなければまず任せて作ってもらう」のを心掛けるようになったと話す。

    中森氏いわく、その効果は絶大だった。

    「最終的な事業判断は今でも代表の清水が下していますが、全員と責任を共有し合うことで、マイクロマネジメントをする必要がなくなったのだと思います。今はエンジニアもデザイナーも事業にまつわる数字をすべて見ながら施策決めを行っているので、やるべきタスクを判断する精度も上がってきました」(中森氏)

    ピボットするまでの過程で学んだ、チームビルディングのカギ

    ただ、清水氏はこのようなやり方を『Refcome』の開発ですぐに実践できるようになったわけではない。モックアップの開発から清水氏と二人三脚で歩んできた中森氏は、「最初は『仕事を委ねるのが怖い』と言っていた」と明かす。

    そこから現在の開発スタイルにたどり着いたのは、周囲の助言を聞きつつ、小さな成功体験を重ねてきたからだ。

    Combinatorがリファラル採用支援サービス『Refcome』を開発することにしたのは、清水氏がシェアオフィスで出会った起業家仲間である加瀬氏とのブレストがきっかけ。構想をユーザーになってくれそうな企業に話したところ、まだサービスができ上がっていない状態で受注が決まり、急ピッチで開発に取り組まなければならなくなった。

    その顧客との約束は、3カ月後にはサービスを利用できるようにすること。開発のできる加瀬氏に協力してもらいつつ、『Combinator』のUIづくりに参加していた小塩氏や、清水氏の前職Sansanで先輩エンジニアだった中森氏らに「泣きつくような形でお願いして」(清水氏)、何とか約束の期限までにβ版を完成させた。

    そして2016年1月から試験運用を始めたところ、「使ってみたい」という企業の声が数多く寄せられたという。手応えを感じながら、7月の正式リリースに向け機能開発を進める中で、清水氏が得たのはこんな教訓だった。

    「Refcomeは現状、ユーザー企業の社員協力率をKPIにしているのですが、自分自身が協力率アップに向けて考え抜いて実装した肝入りの機能と、メンバーの提案を即採用して作った機能とを比べてみたら、さほど数字に差がないことが分かったんです」(清水氏)

    本当にユーザーにとって役立つ機能かどうかは、作ってみて、世に問わなければ分からないと学んだのだ。

    であれば、開発に逐一口出しするよりも、チームに『Refcome』の目指すビジョンや現状の事業動向をつぶさに伝えながら全員でやるべきことを考え、出てきた施策を「やる」か「やらない」かだけ判断した方が素早くサービスを育てられる。

    この気付きが、清水氏を変えた。

    「今僕らがやっていることは、リーン・スタートアップの教科書に載っているような基本ばかり」と中森氏は言う。違いは、うわべだけなぞって採り入れた手法ではなく、清水氏本人が「あるべきチームづくり」について悩み抜いた末にたどり着いたやり方だという点だ。体験は、理屈に勝るということだろう。

    人は変われる。好調に浮かれず組織づくりにまい進

    ちなみに中森氏は2014年当時、フリーランスエンジニアとして活動する中で『Combinator』の開発も一緒にやってくれないかと清水氏に請われていた。しかし、その時は誘いを断っていたそうだ。

    中森恭平氏

    中森氏が『Refcome』の開発からフルコミットで清水氏と共にしている理由とは?

    理由は、「何となく清水のスタンスに共感できないと感じたから」(中森氏)。なのになぜ、今はフルコミットの取締役としてCombinatorに参画しているのか?

    「この1年で、清水がすごく変わったからです。実は僕も、フリーランスの時に作ったスマホアプリのマネタイズに失敗していまして。それもあってか、昨年改めて清水に会って話した時、彼なりに失敗から何かを学んだのだろうなと感じる部分が多々ありました」(中森氏)

    その何かとは?と聞くと、「表現しづらいんですけど『人間らしさ』ですかね」と中森氏。あえて換言するなら、それこそが、独りよがりではなく仲間と一緒に事を成そうとする姿勢なのかもしれない。

    現在の『Refcome』は、大手Web企業を中心に利用者数が24社8000人以上(2016年8月末時点)まで伸びており、中には3桁単位で応募者を獲得している企業もあるという。さらに、今年7月15日・16日に開催されたスタートアップ審査会『Incubate Camp 9th』で優勝して以降は、企業からの問い合わせが週100件以上に上ることもある。

    この好調を追い風に、エンジニアをはじめさまさまな職種で中途採用を始めているが、清水氏・中森氏の2人は「人数を増やすことそのものを目標にはせず、チームと一緒にビジネスを考えながら開発していける人を探していきたい」と希望を語る。

    この「チーム」という言葉が、文字通り「苦楽を共にする同志」となった現在のCombinatorなら、創業当時のような失敗を繰り返すことはないだろう。

    取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)

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