ゲーム開発を通じて学ぶ「21世紀を生き抜く力」って何だ?~CAゲームクリエイター奨学金プログラムレポート【1】
デジタル技術によってめまぐるしく変動する昨今の社会は、何を最低限のスキルセットとして持っていればいいのかが不明瞭だ。ましてや、それが10年後の世界を担うことになる「小学生」が対象となればなおさらだろう。
そんな中、ここ最近で初等教育におけるIT分野の導入が急激に注目を集めている。
イギリスではプログラミングを学ぶ科目「Computing」がすでに小学1年生から義務教育化しており、日本でも2020年に必修化が決定している。発達過程において早い段階でPCを取り入れるかについては賛否両論あるが、IT教育について新しい試みが日々生まれ続けているのは確かであり、未来の有望な人材としての「ITクリエイター」を生むために同じ方向を向いていることには変わりない。
そんなITクリエイティブな小学生を新たな形で支援するため、サイバーエージェントのゲーム事業に携わる子会社11社が所属しているSmartphone Games&Entertainment(以下、SGE)事業部がこの夏より実施しているのが「ゲームクリエイター奨学金プログラム」だ。
ゲームクリエイターを志す小学生を対象とした育成プログラムで、半年間かけてゲーム開発におけるスキル習得やアイデア創造、プレゼンなどを学ぶものになっている。
本稿では、ゲーム開発に挑む子どもたちの活動の様子を全3回の連載でお届けする。
「遊ぶ側から作る側へ」子どもたちの中で起きている意識変化
近年、子どもたちの中で「ゲームクリエイター」への注目度が急上昇している。
2015年に行われた株式会社クラレの調査によると、小学6年生の「将来就きたい職業」ランキングでは「ゲームクリエイター」が4位、男の子の親が「就かせたい職業」ランキングでは「エンジニア」がなんと2位に入っている。
デジタルコンテンツに対する消費が増えている中で、それを作る楽しみや作ることへの需要が親子共に広く浸透しているようだ。
そういった背景をふまえ、サイバーエージェントのSGE事業部は、子会社である小学生向けプログラミング事業を運営するCA Tech Kidsと協力して「ゲームクリエイター奨学金プログラム」を開催した。奨学生にはCA Tech Kidsが教材と講師を無償で提供し、開発~アイデア発想~プレゼンなどを半年間通して学ぶものになっている。
「自分で考えたアイデアを、試行錯誤を繰り返しながら形にして実現していくというプロセスを通じて、21世紀を生き抜く上で必ず必要となる『自ら考え、自ら実現する』力が身に付きます。初めての人も大歓迎。PCが大好き、自分で何かを作ってみたい、そんな皆さんとお会いできることを楽しみにしています」
そう語るのはCA Tech Kidsの代表取締役の上野朝大氏だ。この奨学金プログラムで単にコンテンツを消費するだけに止まらず、自分の想像力の分だけアイデアを形にできる創造性豊かな人材を生むことが期待されている。
今回は多数の応募の中から、書類審査、ゲーム開発による選考会などを経て4人が選出された。
高橋温さんは小学4年生の元気な女の子。今はゲームの実況動画にハマっていて、休憩中はもっぱら動画に夢中だ。同じく4年生の菅野晄さん。彼女は2年生のころからCA Tech Kidsが運営する『Tech Kids School』に通っていて、Webアプリの開発やiPhoneアプリ開発も経験しているベテランだ。小学6年生の七丈直史くんは、とても落ち着いていて鋭いアイデアを出してくる。同じく6年生の 麻生俊くんは常に冷静で緻密なコードを書く子だ。
このように個性豊かな子どもたちがそろって切磋琢磨しながら週4時間のプログラミングを行っている。
終わった後に「もう一回遊びたい」と思えるゲームが愛される
ある日、サイバーエージェントにある小学生たちの活動拠点に1人のゲストが遊びに来ることになっていた。いつもの和気あいあいとした雰囲気とは打って変わって、生徒たちは緊張している様子だ。
突然開いたドアから現れたのは、スマホゲーム『ポコロンダンジョンズ』などを制作している株式会社グレンジの代表取締役・木下慎也氏。最先端のゲーム開発の現場に立っているゲームクリエイターだ。
子どもたちの視線が一カ所に集まり、背筋がすっと伸びる。今日は自分たちのオリジナルゲームのアイデアを実際にゲーム開発している人に聞いてもらい、ブラッシュアップする「アイデア相談会」が行われる日だ。
相談会は、生徒たちが考えたオリジナルゲームのアイデアを順番にピッチしていくところから始まった。それに対して木下氏が一人一人丁寧にフィードバックしていく。プロの目線からのゲーム作りのアドバイスに、子どもたちの眼差しも真剣になる。
「普通の球だけじゃなくて、レアな球も混ぜるとゲームの中で緩急がつくね」
「これだと途中であきらめてやめちゃうプレイヤーがいるかもしれないなぁ」
「ゲームは、終わった後にもう一回遊びたいって思ってもらうことが大切。ループを意識して作ることでより長く愛されるゲームを作ることができるよ」
個人への細かいアイデアブラッシュアップだけでなく、全てのゲームに共通する学びあるフィードバックもしていく木下氏。
ピッチ後は、各々ブラッシュアップをしながら、悩んだら質問にいく。最初は、緊張していた奨学生たちも、途中からは慣れてきたのか質問待ちの列ができるほどに。2時間のアイデア相談会はとても盛り上がった。
生徒たちも、「とてもいいね。書いてある機能が全て実現すれば、ストアにあるゲームと遜色ないものができるよ!」、「テーマの着眼点がいいね」など、前向きな意見ももらうことができてホッとしているようだった。
アプリのリリースに向けて猛発進
これから彼らは固めたアイデアを元に、今まで習得した知識を総動員して開発に入る。目標はApp Storeでのリリースだ。今後は、サイバーエージェント副社長でゲーム事業を管轄する日高裕介氏へのプレゼンや、対外向けの発表会が控えている。
印象的だったのは4人から出たアイデアがそれぞれ全く違うものだったということだ。それぞれの好きなゲームや趣味などから着想を得て、開発環境にとらわれないアイデアがどんどん出てきた。自分の体験や直感を元に自由に発想することで、幅のある4つのゲームの種が完成した。
今後も面白いゲームに向けて黙々と開発する彼らから目が離せない。
次回は、開発を終えた生徒たちに密着し、サイバーエージェントのゲーム制作現場見学やサイバーエージェント副社長日高氏へのお披露目会の様子をお届けする。
取材・文・撮影/森重浩直(CA Tech Kids)
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