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UXは「独りで考え、みんなで磨く」。億単位のユーザーと向き合うLINEディレクターの仕事術
UX(ユーザーエクスペリエンス)をより良いものにしていく作業は、一筋縄ではいかないものだ。それが、ユーザー数やステークホルダーが多いサービスともなればなおさらである。
時を経るにつれて複雑になりがちな機能をシンプルにまとめつつ、どこまでユーザーオリエンテッドでサービスを設計し続けられるか。この命題と向き合うのは、今ではデザイナーやエンジニアなどサービス開発に携わる人全員の仕事になりつつある。
しかし、あえて1人、Web・アプリサービスのUX向上に「より大きな責任」を負うべきポジションを選ぶなら、それはディレクターになるだろう。会社によってその守備範囲は異なるものの、サービス全体の進む方向性を決めるのはディレクターになるからだ。
では、膨大なユーザー数を誇るサービスのディレクションとは、どのように行われているものなのか。今年12月6日に初開催されたイベント『LINE Directors’ Talk』では、世界で約2億2000万という月間アクティブユーザー数を誇るLINEのディレクターが直接仕事内容を紹介するトークセッションが行われた。
当日は、同社の執行役員で企画室室長を務める稲垣あゆみさんの他、LINEメッセンジャーのディレクターを務める鈴木俊輔氏やファミリーアプリである『LINEバイト』のディレクターである小川達樹氏が登壇。「企画したUXをプロダクトに反映するためのディレクション」を中心にその仕事術を明かした。
いわく、UXの設計時はディレクターが「独りで考え」、その後に「みんなで磨き上げる」のだそう。
2011年に生まれたLINEは、その誕生から今に至るまで、ずっとこのやり方を貫いてきた。その理由を、講演の模様から紹介しよう。
レビューのきっかけを作り、全員と合意形成をする軸を定めるために「独りで考える」
この日、「企画したUXをプロダクトに反映するディレクションとは」をテーマに講演を行った企画室の鈴木俊輔氏は、自身がディレクターを務めるメッセンジャーアプリの開発事例を基に、機能追加を繰り返してもUXを損なわないためコツを語った。
鈴木氏は大手Webサービス企業からLINEに転職後、プロフィールにお気に入りの楽曲をBGM設定できる機能や自動再生のビデオメッセージ機能、『LINE LIVE』をユーザーのチャットルームでも視聴できるようにする機能などの具現化を担当してきた。
LINEのディレクターが行う業務範囲を「ユーザーニーズの発掘+仕様設定+ディレクション」と話す同氏は、UX設計の初期段階ではディレクター独りで考える理由をこう説明する。
「LINEメッセンジャーの開発にはUXデザイナーがいない、というのが理由の一つ。それと、逆説的ではありますが、『みんなで議論することで最善の答えが出てくる』と考えているからです」(鈴木氏)
ディレクターの役割は、エンジニアやデザイナーと議論し、より精度の高いUX設計をしていく最初の“叩き台”を作ること。最初から合議制でUXの良しあしを決めようとすると、ふわっとした設計になってしまうため、まずはディレクター独りでユーザーと向き合うことで議論のきっかけを作るというわけだ。
そしてその後に行うキックオフで、ディレクターが開発に携わるエンジニア・デザイナー・QA担当者へ企画と仕様を伝え、全員で議論を重ねていくという。この際は、全員がUXをより良くするという視点で意見を述べ合うことが徹底される。
「ここでの議論は非常にシビア。ディレクターが企画の要件を煮詰めてから出さないと、フルボッコに遭います(苦笑)」
ディレクターからすると「とても厳しい場」となるが、「このスタイルでやるとレビューの過程でUXが洗練されていくし、仕様についてもこの場でしっかり共有される」と鈴木氏は言う。例えばエンジニアなら、機能の実現可能性だけでなく通信負荷やレスポンススピードなども含めて詳細に検討し、意見を述べるようになっていくという。
他にも、ユーザーリサーチやLINE上でのアンケートなどで直接利用者の声を聞いたり、街中に出てゲリラインタビューを行いながら、自身が描いた仮説がユーザーに刺さるかどうかを確かめていく。
「こういったリサーチ結果も踏まえて、開発にかかわるメンバー全員を説得していくのもディレクターの仕事の一つです。だからこそ、まずは独りで考え抜き、合意形成の軸となるプランを作るのが大事なのだと感じています」
この入念な議論を経た後に、開発チームが作るプロトタイプを基にディテールについての議論を重ね、さらに実機テストを何度も行いながら、世に出せるレベルに仕上げていくのだ。
ディレクター1人でUX設計をしてからチームに降ろすやり方だと、「手戻り」が多発するリスクも想定されるが、LINEではそのプロセスも「UX向上のために欠かせないものとして割り切っている」そうだ。この手間があってこそ、UXを「みんなで磨き上げる」ための軸が固まるということだろう。
「無理やりなリテンション施策」に頼らないためのデータ活用も進む
続いて登壇したのは、現在LINEのファミリーアプリの一つである『LINEバイト』のディレクターを担当している小川達樹氏。彼も鈴木氏同様に転職組であり(2015年11月入社)、LINE流の企画・ディレクションを学んでいる最中だ。
そんな小川氏が『LINEバイト』を担当する上で突き当たっているのが、アルバイト探しという「短期間しか使わず、バイト先が決まったら当面使わない」アプリを、どうユーザーオリエンテッドに運営していくか?という課題だ。
「だいたい1~2週間程度でバイト先を決めてしまうユーザーが多く、その後『次アプリを開くのはいつ?』となる種類のサービスです。しかも、学生は就職したら使わなくなるアプリでもある。なので、息の短いユーザーとどうお付き合いするか?が企画上のカギになっています」
この前提条件がある中でもリテンションを最大化し、かつ継続的にユーザーと付き合っていくやり方を企画・実施しているという。具体的には以下のステップを踏んでいる。
【1】今年新設されたデータ専門研究開発組織『LINE Data Labs』と連携して、ユーザーの行動分析をするエンジンを独自開発。
【2】その分析結果=ユーザーの行動履歴に基づいた「求職度合いのランク付け」を行う。
【3】行動パターンごとに属性分けをし、例えば「求職意欲の高いアクティブなユーザー」にはどのタイミングでアプローチすればいいのかを解析したり、DMを送ったりするタイミングなどを研究。
【4】一方、非アクティブなユーザーに向けては、「今、バイト先を探していなくても楽しめるコンテンツ(『LINEバイト Magazine』に掲載しているオリジナルコンテンツなど)」を中心に届けることで、「LINEバイトのアカウントと継続してつながってくれるユーザー」を増やしておく。
アクティブユーザーのパターンを徹底的に洗い出してアプローチ方法を変えつつ、中長期でアプリを利用してくれる人用の企画を打っていくというやり方だ。
「企画の裁量はディレクターにあるので、仕事上のやりにくさは感じていません。鈴木が話したように、ディレクター1人の責任で企画を詰めてから開発チームと議論をするので大変ではありますが(苦笑)、企画立案の際に余計なノイズが入らないので良いやり方だと感じています」
また、前職ではクライアントワーク中心のディレクションを担当していた小川氏にとって、「ユーザーだけを見て考えるという仕事は純粋に楽しい」という一面もあるそうだ。
同じく転職組である鈴木氏は、前職との違いとして「LINEのレビュー文化はとにかく徹底している」と語る。
「エンジニアやデザイナーから『そもそもその機能いります?』と突っ込まれる機会も多いのですが、その理由の一つは、LINEには『メッセンジャーのUXがダメになったらすべてのサービスがダメになる』という意識があるから。おかしな企画はチーム全体で通さないという意識が根付いていると感じています」
サービスの規模が大きくなっても、ユーザーありきで議論ができる環境があるという点が、ディレクターとしての仕事のやりがいといえそうだ。
取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)
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