あの企業の開発環境を徹底調査!Hack the Team
エンジニアが働く上で気になる【開発環境】に焦点を当てた、チーム紹介コーナー。言語やツール類を紹介するだけではなく、チーム運営や開発を進める上での不文律など、ハード・ソフト面双方の「環境づくり」について深掘りしていく。
あの企業の開発環境を徹底調査!Hack the Team
エンジニアが働く上で気になる【開発環境】に焦点を当てた、チーム紹介コーナー。言語やツール類を紹介するだけではなく、チーム運営や開発を進める上での不文律など、ハード・ソフト面双方の「環境づくり」について深掘りしていく。
Google会長のエリック・シュミットが2014年に出した書籍『How Google Works』によると、同社には
「組織のエンジニア比率が50%を下回らないようにする」
「悪党を退治し、ディーバを守れ(自分本位で仕事をする人より、ユーザー目線で仕事をする人が役職に関係なく尊重されるという意味)」
など、複数の独自ルールがある。
これらの狙いは、エンジニアたちの手で「創るカルチャー」を醸成・維持し、より多くのスマート・クリエイティブ(Googleの造語で、多面的な能力を持つ新種の従業員のこと)を引き付けること。それが優れたプロダクトを生み出す源泉になるのは、Googleの実績を見れば明らかだ。
昨今は日本でも同社の考え方を参考に組織運営を行うベンチャーが増えており、優秀なエンジニアを呼び寄せるために採用業務をエンジニアに託す企業も散見されるようになってきた。
日本やUSで急成長中のメルカリも、基本的にはこのトレンドに乗って組織運営をしており、「エンジニア採用」に特化したエンジニアが存在するという。だが、彼らはコアバリューの一つに掲げる【Go Bold -大胆にやろう】の言葉通り、さらに一歩先を行く発想で組織づくりを行っている。
採用業務をエンジニアとして第一線で戦える人が行うだけでなく、CS(カスタマーサポート)やコーポレート部門が使う各種社内ツールの選定・開発も、CTOの柄沢聡太郎氏が率いる専任チームが手掛けているのだ。
一般的に、社内ITを担当する情報システム部門は、プロダクト開発部門とは別に編成されることが多い。人事や会計・経理業務で用いるツールを選ぶのも、多くの場合コーポレートスタッフでありエンジニアではない。
にもかかわらず、メルカリがプロダクト開発のトップであるCTO直轄でこの辺りの業務を見ているのは、もう一つのコアバリューである【All for One -全ては成功のために】を体現するため。つまり、会社のあらゆる業務をプロダクトファーストにするべく、エンジニア主導で全体最適を図っているのだ。
では、エンジニアがHackして会社全体のカルチャーを作っていくには、具体的にどんな取り組みが必要なのか。柄沢氏およびエンジニア採用と社内ITの担当者に話を聞くことで、メルカリ流の組織運営術を紐解いていく。
まずは、この取り組みを始めた張本人である柄沢氏に、なぜプロダクトサイドで“コーポレートHack”をすることにしたのかを聞いた。理由は非常にシンプルで、「ただただ働きやすい職場にするため」だそう。
「プロダクトチームはGoogle AppsとSlackを使ってコミュニケーションを取っていても、コーポレートチームは別のツールを使っているので情報共有がしづらい……みたいなことってよくあるじゃないですか? 単純に、そういう非効率を解消したかったんです」(柄沢氏)
誤解のないように補足すると、これは「エンジニアが働きやすい職場」にすることが狙いではない。ポイントは「全社員が働きやすい職場」にすること。
非技術職のCS・コーポレートスタッフが手作業で行っていたような業務を、各種ITツールに詳しいエンジニアがサポートしてシステム化・自動化することも目的の一つだ。
一例を挙げると、メルカリでは社員各々のGitHub、Slackなどのアカウントを統合して独自の「社員データベース」を開発しており、組織情報などを管理、閲覧しやすくしている。そのため、誰かが異動したり新たなプロジェクトチームが編成された時も、楽に情報管理ができるのだ。
また、クラウド労務ソフトの『Smart HR』と連携し、社員の基本データをWebhook経由でインポートすることによって、社員データを最新の情報にしておくような仕組みも整っているという。
「こういう人事システムがあると、エンジニアの採用や入社後の社員管理も素早く、楽にできるようになります。そうすると、結局プロダクト開発のパワーが上がることにつながるわけです」(柄沢氏)
このような取り組みを成功させるために、最初のターニングポイントとなるのが採用だろう。技術レベルの高さはもちろん、メルカリが重視するカルチャーにフィットするエンジニアを採用し続けなければ、構想は絵に描いた餅で終わってしまう。
そこで柄沢氏の下、エンジニアの採用業務を一手に引き受けているのが、2015年12月に入社した梶原賢祐氏だ。同氏はサーバサイドエンジニアとしてキャリアを築いてきた「バリバリコードを書ける人」(柄沢氏)である。
梶原氏は前職のベンチャー企業で開発チームのマネジメントを任されたことで、ある思いを抱くようになったという。
「エンジニアの採用も難しいですが、採用した人がずっと活躍してくれる環境を作るのはもっと難しい。だから、『エンジニアの視点を持って組織課題を解決する人』として仕事をしてみたいと思うようになったんです」(梶原氏)
その言葉通り、メルカリ入社後は採用時に行う技術試験の策定や、先述した社員データベースを開発したりもしている。
梶原氏のような人物が人事業務を担うメリットは、エンジニアに対する評価や心情理解が的確にできるという点だけでなく、採用なり組織運営を円滑にするツールを自ら開発できる点にもあるようだ。
「今後も、例えば異なるチームのスタッフ同士でランチをしながら情報交換をする『シャッフルランチ』の自動マッチングシステムなどを作ろうかと考えています。コーポレート全体の現場にヒアリングしながら、いろんな組織課題を解消していきたいです」(梶原氏)
2016年7月から社内ITを担当しているエンジニアの川上史幸氏も、梶原氏の言う「コーポレートサイドの意向を聞きながら組織課題を解消する」という今の仕事に好奇心を持って取り組んでいる。
前の勤め先で情報システム部門の立ち上げやサービスインフラを担当していた川上氏にとって、メルカリの社内IT構築は「プロダクトサイドに身を置いている」という点でやりがいも大きく変わったという。
プロダクト開発の動きを目に入れつつ、それを踏まえてCSやコーポレート部門で用いるシステムを構築するのは、会社全体をプロダクトと見立てて作っているような感覚があるそうだ。
「一般的な企業の社内IT担当は、企画・ネットワークまわり・ヘルプデスクと役割が分散しがちですが、それらをまとめて設計・運用することで初めて本当に使える社内ITが完成すると思っています」(川上氏)
例えばメルカリは、USやUK拠点で働くスタッフともミーティングしやすいように、Chromebox for meetings(Googleハングアウトを利用したテレビ会議システム)を導入している。これにより、社員全員が必要に応じてリモートワークできるようになり、例えば「US時間に合わせた朝一番のミーティングにも、保育園の送迎をしたすぐ後にリモートで参加し、それから出社する」といった柔軟な働き方ができるようになるなど、副次効果も生まれている。
こうした“同期作業”の一つ一つが、【All for One】のバリューを形骸化させない土台を作っていくのだろう。
ちなみに、コーポレートHackをやり続けるには各部門の声を拾い上げるプロセスが必要不可欠だが、そのきっかけづくりはCTOの柄沢氏が随時行っているそう。
「柄沢は、プロダクトチーム以外のSlackチャンネルにもちょくちょく顔を出すんですよ。『何か困ったことがあったら言ってください』とか、『その会話、わざわざDMでやらなくてよくない?』みたいなコメントをしながら。それだけオープンなコミュニケーションを社内全体に広めたいんだと思います」(梶原氏)
「サービスユーザーの個人情報や一部の人事情報など以外は、できるだけオープンにした方がいいと思っていて。情報をオープンに、誰でもアクセスできるようにする企業文化は、意識しないとすぐに変わってしまうので」(柄沢氏)
仕組みだけでなく雰囲気を作る気配りも、会社全体が一つの方向に進んでいくためには大切ということだ。
取材・文/伊藤健吾 撮影/竹井俊晴
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