Vol.22

採用は売り手市場も、5年後の安泰はなし~若手SEが知っておくべき「端境期のキャリアメイク術」

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採用は売り手市場も5年後の安泰はなし~若手SEが知るべき「端境期のキャリアメイク術」

労働集約型のSIビジネスは終わった――かれこれ10数年前から、SIerおよびそこで働くSEを取り巻く環境が構造的な問題を抱えていると、業界の内外から指摘されてきた。

だが、この1年くらいの間で、「終わった」と言われるSIビジネスは再び盛り上がりを見せている。

景況好転による企業のシステム投資意欲の復活、クラウド化やグローバル連携に向けた基盤刷新、みずほ銀行システム統合やマイナンバー制度の開始、日本郵政の上場によるシステム統合etc……。さまざまな背景から大型案件が増えており、2015年にはSE不足がピークを迎えるという「2015年問題」まで取りざたされている。

従来の多重請負構造自体は依然として変化していないことを考えると、今後人員を増やし続けることで懸念されるのは、2008年のリーマン・ショック直後の惨状だろう。

業界全体がERP導入ブームに乗って、エンジニア数を増やし続けていた“リーマン以前”。しかし、景気の急落でシステム投資がストップした時に起きたのは、いわゆる「人減らし」だった。下請け・孫請け企業のカットに始まり、企業によってはSEを解雇する動きも見られた。

あの時の急展開を考えると、人月商売で労働集約型の開発が続く限り、SEの将来は不確かなものだといえるだろう。

こうした【需要が高まっているのに将来は不確か】というSI業界で、今、20~30代前半のエンジニアが「今後」をしっかり見据えながら仕事をしていくにはどうすればいいのか?

今回は、以下3つの視点からSEを取り巻く状況を紐解きつつ、エンジニアとしてどう進化していけばいいのかを有識者たちに取材した。

【1】SE採用の最新動向
【2】エンタープライズ開発の最新事例
【3】海外の最新事例

【1】SE採用の最新動向~採用増も、中身は「量より質」に

「typeの人材紹介」のキャリアアドバイザー斉藤由梨さん
「typeの人材紹介」のキャリアアドバイザー斉藤由梨さん

まず、最近の採用ニーズに関して、「typeの人材紹介」で主にIT人材の転職サポートを担当するキャリアアドバイザー斉藤由梨さんはこう語る。

「確かに求人案件数は上り調子で、転職市場は売り手市場化。その勢いはリーマン・ショック以前にあった大量採用時をほうふつとさせるものがあります。しかし、企業側は、“リーマン後”の悲劇を繰り返すまいと、採用に対するスタンスを変化させています」

「typeの人材紹介」のデータによると、SEの求人数は2013年から急激に伸びており、リーマン・ショックのあった2008年と比較すると、1.29倍も増加している。

SEの求人数の推移

出典:キャリアデザインセンター『typeの人材紹介』

では、斉藤さんのいう「スタンスの変化」とは何なのか。

「中途採用を積極的に行っている大手SI企業では、求める人材のスペックが高くなったように感じます。例えばリーマン・ショックの直前に比べると、当時はスキルが未熟でも若手というだけで採用する企業が少なからずありました。それが今は、20代でも要件定義や基本設計を経験した、いわゆる上流工程から携われるエンジニアを求める傾向が強まっています」

つまり、積極的に採用を進めてはいるものの、求めるスキルレベルは以前に比べて高まっているのだ。

そのような人材を求める企業は、優秀なエンジニアに長期的に活躍してもらえるような仕組みづくりにも着手しているという。

「以前は案件に当て込むという形で採用がされており、SE個人のキャリアプランを考慮するようなアサインはなされていませんでした。しかし、最近はSEが長期的に働ける環境を整えるためか、個々人の希望を聞いて案件にアサインする、という打ち出しの求人が増えた印象があります。求人情報に『適性に応じて多様なキャリアを築けます』といった情報を入れたり、社内でのキャリア面談を定期的に実施する企業が増えたのもそのためだと思います」

【2】エンタープライズ開発の最新事例~少数精鋭の発注側主導に

次に、開発現場におけるSEを取り巻く環境変化を見てみよう。

クラウドの普及により、かつてはスクラッチ開発やパッケージ商品の個別カスタマイズによって作られてきた業務システムが、近年はSaaSに取って代わられつつある。

ウルシステムズの代表取締役社長、漆原茂氏
ウルシステムズの代表取締役社長、漆原茂氏

そんな現状を、ウルシステムズの代表取締役社長・漆原茂氏は「顕著な二極分化」という言葉で説明する。同社はSIやコンサルなど受注側ではなく、発注側企業のIT部門を支援することで伸びているユニークな会社だ。

「これからのIT業界は二極化していきます。従来型の受託開発やパッケージコンサルティングの市場はまさにデフレ。アジアへのオフショアなどと比較され、単金は上がらず言われた通りの開発を繰り返し、多重請負い構造の中、淘汰されていくでしょう。

その対極にいるのは、自ら提案しつつ、最先端の技術を用いて顧客のビジネスに最大限の価値を出す企業と技術者です。こういう『ビジネスとIT』双方を駆使できる人材は、これからも嘱望され、引く手あまたでしょう」

後者のスタイルが好まれるようになってきた背景は、「顧客企業が、これまでのような“おまかせ”や“丸投げ”でのシステム開発を安易にやらないようになってきたから」と漆原氏。投資対効果をシビアに見る傾向が強まり、単に大人数がいる企業に任せるよりも、少数であっても精鋭チームの方がうまくいくことに気付いてきたのだ。

が、まだまだ顧客自身が大手ベンダーを仕切って、自分たちの本当に欲しい最先端なITを主導するまでには至っていない。「だからこそ、顧客側に立ち、先端技術を使って業務の効率化やビジネスの進展を遂行する我々のような存在が求められるのです」。

同社は大型プロジェクトであっても、基本は4~5人の少数精鋭のメンバーがチームとなって支援するスタイルをとる。大量に人材を投入し、契約範囲に縛られた稼働で分業ばかりしていた従来の開発に比べると、エンジニア1人1人の力量が広範囲で問われる。

「たとえ数人であっても力のあるSEがそろった良いチームであれば、クラウド技術などを駆使することでびっくりするほど高い生産性を実現できる」と漆原氏。

「顧客の業務知識は当然のこととして、業界の現状や動向を踏まえた上で技術の力で顧客のビジネスをどう発展させていくかまでが問われます。これからは、本当の意味で『ビジネスを熟知しているSE』こそが活躍できるんじゃないでしょうか」

【3】海外の最新事例~クラウドを前提に「使い勝手」も重要視

ここまでの話をまとめると、若手であってもSE1人に求められる守備範囲は「上流~下流」、「ビジネス知識~技術知識」の2軸でより幅広くなっているといえるだろう。

さらに、この軸のほかに「顧客の使い勝手」という視点も加わってくると思わせるセミナーが、2014年5月27日に行われた。東京・六本木で開催された、EvernoteとSalesforceの共催セミナー「モバイル時代の企業経営 Evernote と Salesforce で築く働き方の変革」だ。

Evernote CEOのフィル・リービン氏
2014年5月に行われたEvernoteとSalesforceの共催セミナーで講演したEvernote CEOのフィル・リービン氏

同セミナーで講演したEvernote CEOのフィル・リービン氏は、昨今のBtoBシステムでは個人向けサービス並みの使いやすさが求められてきていると語っていた。

「よくある失敗例は、業務の内容に合わせることを優先して、使いやすさを失ってしまっている業務システム。これでは使うのが苦痛になってしまう。会社からの押し付けではなく、個々人が使いたいと思うツールを目指すことが重要です。使うのは結局、人、なのですから」

6年前に個人向けクラウドストレージサービスとして誕生したEvernoteであるが、実際はビジネスで活用しているユーザーが多いのだという。しかも企業のシステム部門が導入するのではなく、個人で導入を判断して使っているケースが多いそうだ。

これを受け、同社は後に『Evernote for business』という企業用パッケージをリリースすることになったほどだ。Evernoteの事例は、今後の業務系ツールが「手軽に導入でき」、「開発すら必要としない」クラウドツールに置き換わっていく可能性を示唆している。

端境期を迎えた業界内で、若手はどう生きていくのか

これら3つの動向を横断的に見ると、従来型のSIビジネスとは異なる潮流が出始めていることに気付くはずだ。

■人月ビジネスからの脱却

実際には労働集約型でピラミッド構造のプロジェクト運営がいまだ横行しているものの、採用スタンスや開発現場では「上流から下流までサポートできる少数のエンジニア」を重用する傾向が出始めている。個々人の知恵を引き出し、ノウハウをサービス化していくビジネススタイルが産まれつつある。

■「上流工程」「下流工程」の区別があいまいに

漆原氏の話を深読みすれば、今までのように「要件定義と設計は元請け(または発注側)が行う」、「二次請け・孫請けが開発」という区分けが機能しなくなっていることが分かる。大人数で分業しかできないSEよりも、少数のフルスタックエンジニアが高く評価されるだろう。

ビジネス環境の変化に俊敏に追従し、アジャイルで開発を仕上げていくニーズが増えていく。そこでは上流や下流といった区別はない。

■業務システムのあり方の変化

漆原氏の話やEvernote&Salesforceセミナーの話を勘案すると、同じ業務システムの開発でも、「作り込みが必要不可欠な案件」と「既存サービスの応用で済ませる案件」の幅が劇的に広まっていくことが予想される。SEには、その両方に対応するための技術力と知識量が求められるだろう。

こうした変化の渦中で、SEの求人ニーズがピークになる2015年以降も必要とされる人材でいるためには、今をどのように過ごせばいいのか、ITビジネスアナリストの大元隆志氏に話を聞く。

2020年を境に、変わるキャリアパスの終着点

ITビジネスアナリストの大元隆志氏
ITビジネスアナリストの大元隆志氏

大元隆志氏は、こうした変化の兆しを認めつつ、「少なくとも今後5年間、2020年ごろまでは安定してSIer需要が続く」と予想する。

その背景に、スマートデバイスの普及に伴うネットワークの拡充やクラウド化の進展など、インフラ面の整備が急務なこと。そして従来のシステムをクラウド化することによる、新しいソリューションやツールとの連携といった過渡期独特のニーズがあると指摘している。

「オンプレミスかクラウドか? といったものも含めて確かに価格面では競争がいっそうシビアになっていくとは思いますが、少なくとも案件やプロジェクト数はそれほど激減しないだろうと思います」

つまりSI業界では、少なくとも東京オリンピックが開催される2020年までは、それほど大きな変化にさらされることはないという予測だが、大元氏も“その後”については予測不能と言う。

「逆に言えば今後5年は、中で働く業務系SEにとっては今のようにPLやPMを経験しながらプロジェクトを手掛ける経験を積んでいけるわけです。ただ、それだけでは“次の5年”をサバイブしていけるかどうか難しいですね」

5年後の2020年といえば、今20代のSEはアラサーに、30代はアラフォーと呼ばれる世代になっている。その時、環境の変化に即応できるスキルを身に付けているかどうかが、若手SEの将来を左右するわけだ。

「と言うのも、すでにSEのキャリアパスは、PLやPMを経てラインマネジャーになるというのがゴールではなくなっています」

大元氏がこう断言する理由として、2020年以降、ほとんどの工程に続々と自動化ツールの導入が進み、それほど難易度の高くない設計開発業務は“誰でもできる”ようになるからだ。

「プログラミングでもコード生成ツールが毎日のように作られていて、サーバの構築や運用の現場でもすでに自動化が進んでいます。今はエンジニアのスキルやノウハウが必要な分野も、やがて確実に不要になるでしょうね」

ビジネススペシャリストになるためには「先駆者を研究する」

ではアラサー、アラフォーになっても第一線で活躍し続けるために、若手の業務系SEは何を目指すべきなのか? 大元氏はズバリ、「ビジネス視点を持ったスペシャリスト」と言う。

いわゆる「エバンジェリスト」、「フルスタックエンジニア」、「マーケター」、「ビジネスコンサルタント」といったスペシャリストは、今のところSI業界には数えるほどしかいない。今後はこうした役割を担うエンジニアこそが活躍の場を広げていくというわけだ。

この指摘は、先に挙げた3つの変化にも符号するものだ。

「特定の技術にめちゃくちゃ詳しかったり、上流から下流まで全工程のプロセスすべてに精通していたり、顧客を取り巻く環境や、目指すべきビジョンへ向けて経営戦略にまで踏み込んで提案できるといったスキルを持ったエンジニアこそが重宝される時代になります」

ならば、あと5年でそんなエンジニアになるためにはどうすればいいのか? 大元氏は次のように提案する。

<20代前半>とにかく案件をこなすこと
<20代後半以降>目標にする人を決め、その人のまねをすること

「20代前半のうちはとにかく案件をこなすことです。幅広い案件を手がける中で自分が何に向いているのか、向いていないのかが分かりますから」

目の前のプロジェクトを1つ1つ遂行しながら、まずは自身の適性を見きわめていくことだ。そして20代半ば以降の中堅に向けては……

先駆者がつけた足跡を観察することも重要
From matthewthecoolguy
先駆者がつけた足跡を観察することも重要

「今、エバンジェリストやフルスタックエンジニアと呼ばれるスペシャリストに1歩でも近づけるような努力を始めることです。目標になる人を見つけたら、その人が同じ年代にどんなことをしてきたかを調べて知ることも大事ですね」

これらスペシャリストを目指すにあたって、大元氏は次のようにクギを刺す。

「ただ、中途半端なスキルを持ったスペシャリストではなく、徹底して専門分野に精通したトップクラスを目指すべきです。そうでなければ、これらの職種のニーズが増えてきた途端に淘汰されてしまいますから」

労働集約型のSIビジネスモデルが大きな岐路を迎えていることは間違いない。その渦中で働く若手の業務系SEは、業界の内外で起きている変化に必要以上に敏感になってしまうかもしれない。

しかし日々の業務に取り組みながら、早いうちに明確なビジョンと理念とを決めて行動することこそがエンジニアとしてのキャリアを広げていくことに結びつくのかもしれない。

取材・文/浦野孝嗣、佐藤健太(編集部) 撮影/佐藤健太(編集部)

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