Vol.169

「優先すべきはスピードと柔軟さ」LINE開発チームが今も配属を固定しない理由を、上級執行役の池邉智洋氏に聞く

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組織には規模に合った適正な運営方法というものがある。サービスが拡大し、それを支えるエンジニアの人数が増えれば、最適な開発の進め方や体制も変わるというのが一般的な考え方ではないだろうか。

しかし、そうした”常識”が当てはまらないケースもあるというのが、今回の記事のテーマだ。

月に世界2億人超が使っているメッセンジャーアプリ『LINE』の他にも、ゲームやeコマース、漫画など多種多様なアプリサービスを提供するLINEの開発チームが、明確な業務分担をせずに事業開発にあたっているというのは、2014年に本誌でもお伝えした通り(以下リンク)。

>> LINE開発の“新2トップ”に直撃~世界展開に向けた体制強化は「基本に忠実に」

現状、LINEでは東京と開発拠点を置く福岡、そして韓国や台湾といった海外拠点にもエンジニアチームを有しているが、新たな事業が立ち上がると拠点や所属組織の違いを超えて必要なスキルや経験を持ったエンジニアをアサイン。その取り組み内容や状況に応じて、急きょタスクフォースを組んで事業の立ち上げを行うこともある。

これはすなわち、組織運営でよく議論される「機能組織制」と「事業組織制」のどちらでもない、ハイブリッド型の組織運営である。この方法は、開発陣の規模が拡大し、提供するサービス数が70を超えた現在においてなお、原則変わっていないという。

そこで今回は、ファミリーアプリ(メッセンジャー、ゲームを除くアプリ)部門を統括する立場である同社上級執行役員の池邉智洋氏に、LINEではなぜ組織規模が拡大しても同じ運営方法が貫かれているのか、そしてなぜそれが可能なのかを聞いた。

オン・ザ・エッヂ、ライブドア、そしてLINEと、日本のWeb業界の”ど真ん中”を歩んできた池邉氏が考える、エンジニア組織の理想的なあり方とは?

LINE株式会社 上級執行役員 サービス開発担当 池邉智洋氏2001年、京都大学工学部在学中にWeb制作会社で働き始め、同年10月にオン・ザ・エッジ(後のライブドア)に入社。同社の主力事業の一つだったポータルサイト事業の立ち上げから携わる。2007年に新事業会社「ライブドア」として再出発した際には執行役員CTOに就任。その後の2012年、経営統合によりNHN Japanへ移籍。2013年のLINE株式会社(商号変更)を経て、2014年4月より現職

LINEの「業務分担しない」開発組織運営とは?

詳しくは上記にリンクしている過去インタビューを参照してほしいが、LINEの「業務分担しない開発組織運営」について、改めてここで説明しておきたい。

まず、LINEの開発組織は、プラットフォーム担当は朴氏、ファミリーアプリ担当は池邉氏といったように役員レベルに役割分担があり、各エンジニアも組織図上はその下に配置されている。しかし、実際の業務においては明確な区分がない。

事業が立ち上がると、前述のように拠点の違いを超えてエンジニアを召集。プロダクトオーナーや担当ディレクターの下、エンジニア、デザイナー、そしてQA担当者など「その事業に必要なスキルを持つ人材」がすぐに集められる。

>> 参考記事:UXは「独りで考え、みんなで磨く」。億単位のユーザーと向き合うLINEディレクターの仕事術

急きょ人員が必要になったプロジェクトには一時的に増員したり、プロジェクト間で人員を交換したりといったことも柔軟に行われる(※インフラ、データ解析などの専門性の高い分野や、決済などの共通性の高い機能の担当者など、中には固定の部門に所属して複数サービスを横断的に見るエンジニアもいる)。

2016年12月時点で、LINEが提供するファミリーアプリは約30、ゲームアプリも約40を数える。エンジニアの数も池邉氏が管轄する組織だけで3ケタを超えるほどに拡大したが、こうした運営方法に基本的には変わりがないという。

人員を「固定化しない采配」が揮える3つの理由

池邉氏1

2014年に行われた経営陣の改編に伴い、巨大なLINE開発陣で“2トップ”の一翼を担うようになった池邉氏

LINEではなぜ、こうした運営方法を貫くのか。池邉氏はその理由を大きく3つに分けて説明する。

【1】得意な人がやった方が良いモノができる

最も根本的な理由は、組織や部署の壁を超えてでも、必要な能力のある人が力を合わせた方が、良いモノができる可能性が高まると考えているから。

「これから伸ばしていこうというサービス分野であれば、それが得意な人に任せるのが一番速い。なのに組織図上の配属先を理由に人員を出せないというのは、単純にもったいないですよね」

このスタイルは、池邉氏がオン・ザ・エッヂ~ライブドアで大規模なチームビルディングを行ってきた結果、見いだしたやり方だという。

「ライブドアでは一時期、ビジネスユニット制を敷いていたのでサービスごとにエンジニアも分かれていたんですね。このやり方だとチームマネジメントはやりやすいでしょうが、一方で組織が固定化してしまうというデメリットが生じます。これは好みの問題として、僕個人としては柔軟にチーム編成ができた方が良いモノを作りやすいと感じているので、LINEではこのやり方を続けているんです」

【2】注力分野にリソースを集中させやすい

伸びていきそうな事業にはリソースを集中させたい。しかし、次にどの事業が跳ねるかは、直前になるまで誰にも分からない。

「そのため、跳ねそうなところにタイミングよくリソースを集中させるには、僕たち役員の采配一つで自由に人を動かせる柔軟さを保っておく必要があるんです」

現在のLINEで言うと、『LINE Messaging API』(旧LINE BOT API)や運用型広告『LINE Ads Platform』などが注力事業に当たる。手掛ける事業の注力度合いや成長度合いに応じてリソースを割くことこそが、「勝てる事業をすばやく伸ばす」(池邉氏)ベースとなるのだ。

【3】サービスが伸びていれば、マネジメントのしづらさは問題にならない

3つ目の理由は、LINEのサービスが全体として今も伸び続けているということだ。

これには2つの意味合いがある。1つは、うまくいっている間は不満が出にくいから。極論すれば、機能別組織が持つマネジメントの難しさはあまり問題にならないという意味。もう1つは、どの事業に注力すべきかを説明しやすい状況にあるという意味だ。

「例えば、LINEは今、運用型広告事業に力を入れていますが、LINEの持つユーザーベースがこれだけ大きくなれば、広告の伸びしろが大きいというのは誰でも分かること。実際に伸ばせるかには複合的な要因がありますが、スタートさせるところでは異論が出づらい状況にあるということです」

不変の運営術を可能にする、人員配置・評価面での5つの工夫

池邉氏2

淡々と語る池邉氏だが、その口調の裏側には「開発はこうありたい」という明確な理想が隠されている

こうした理由を並べられると、LINEの「業務分担をしない」運営は必然の選択のようにも思えるが、それをこの規模になっても実現できているのには、もちろん大小さまざまな工夫がある。そのいくつかを紹介しよう。

■ 各エンジニアの得意分野が分かる社員検索システム

組織が大きくなれば、采配を振るトップが全員のスキルや経験を把握するのは不可能になる。各自が過去にどのようなプロジェクトに参加し、どのようなスキルを有しているかを(本人が記入していればだが)検索できるシステムがある。

■ 組織図上は、どのプロジェクトにアサインされているか明記しない

組織図上に明示されている情報が、見た人に与える影響は大きい。アサインされているプロジェクトまで示されていると、フレキシブルに人員を動かす上での心理的障壁になる。そのため、プロジェクトメンバーは各プロジェクトのwikiページに記すようにしている。

■ プロジェクト間の異動は断っても問題ない

状況によっては今アサインされているプロジェクトを離れたくないタイミングもあるし、性格的に一つのことにじっくり取り組みたい人もいる。そうした希望を各自が申告できるフォームもあり、役員はそれを見て差配する。

当然、オファーを断っても評価に影響はないような配慮も同時に行っているという。

■ エンジニアの評価を担当する組織図上の上司は必ずエンジニアに

評価者がエンジニアリングを分からないと、現場から出てくる要望や不満を受け止められなかったり、分からないがゆえに逆に評価が甘くなったりする。

そのため、池邉氏はもちろんマネジャー陣は開発拠点が複数に点在している今も頻繁に1on1を行っているそうだが、その面談や評価を担当する組織図上の上司には必ずエンジニアを置くようにしている。

また、複数のプロジェクトを担当している被評価者にとっても納得感のある評価ができるよう、現場から評価者へのフィードバックを行う人は、被評価者自身が選べるようにしている。

■ 「撤退戦」の経験もしっかり評価

アサインされたプロジェクトがうまくいかずにクローズすることもある。LINEのファミリーアプリでも早々にクローズしたものがないわけではない。ただし、そうした「撤退戦」をうまく戦った経験もしっかり評価することが大事だという。

「Webの世界では、この撤退戦をキチンとやらないところもあります。でも、データの消し方・引継ぎ方一つをとっても、サービスを閉じるタイミングでやり方を学ぶことは、今後の糧になるんです」

幸い、LINEには多くのプロダクトがあるので、そのうちの1つがクローズしても会社としての致命傷にはならない。こうした経験ができるのも、成長し続けている会社で働く良さの一つと池邉氏は言う。

「労働集約型は価値を生まない」というWeb業界の不文律を信じて

池邉氏3

もともと名うてのプログラマーとして知られていた池邉氏。今でもコードを書くことがあるそうだが、「ウチの若いプログラマーにはかなわない」とこぼす一面を見せた

最後に、池邉氏がこうしたマネジメントスタイルで組織運営を行っている理由の一つには、自身の哲学がある。

それは「労働量で収益が変わるビジネスより、作るモノの価値を伸ばすことで収益が変わっていくことに快感を覚える」というもの。

「これは、僕がインターネットサービスづくりに携わり始めてからずっと思っていることでもあります。身も蓋もない言い方をすれば、『勝てば官軍』なんです。そのための議論やレビューは厳しくやらなければなりませんが、サービスが伸び続けてさえいれば多少のマイナスは消えてなくなるものです」

組織拡大中のLINEでは、「開発陣もドキュメントをきれいに書く、ライブラリをそろえる、互換性を高めるといったようなことを、今まで以上に意識して取り組む必要が出てきている」と池邉氏は言う。その一方で、「求めるのは新しいことに挑戦したいエンジニア」という根本的なところは、これまでと変わらないという。

であるならば、組織運営の仕方もまた、機を見て敏に動くことを重視した、これまで通りのやり方を貫くことになるのだろう。

「さすがにマネジメントの負荷も上がってきているので、もう少し細かくマネジャーを配置するなどの措置は考えられる」としながらも、基本的な方針については今後も変わらないと思う、と池邉氏は話している。

その「基本方針」とはつまり、「ユーザーに対して価値を提供し続けること」である。入り口を間違わなければ、過度な組織統制は必要ないとも言えるかもしれない。

「このマインドとのマッチングは、今後エンジニア採用を続けていく上でも重視していきたいと思っています」

取材・文/鈴木陸夫 撮影/伊藤健吾(編集部)

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