Vol.117

生涯「エンジニア」として食っていくには何が必要?及川卓也氏×田中邦裕氏の答え

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【特集】「コードで食っていく」は何歳まで可能か?

各所でプログラマー不足が叫ばれる昨今。にもかかわらず、企業で働くエンジニアの中には、勤め先の要請によって「開発業務(コーディング業務)」から身を引かねばならない人も少なくない。なぜ、このような矛盾が生まれるのか。エンジニアが「好きな開発」と「キャリア形成」をうまく両立させる方法はないのか?データ分析と著名人対談を通じて考える。

「約4割のエンジニアが、ある時期を境に開発業務(コーディング業務)から完全に足抜けしなければならないと回答」

「マネジャー以上の年収分布では、技術専門職より一般管理職の方が年収が高い傾向に」

弊誌が今年3月に行った【IT・Webエンジニア300人調査】では、勤務先のキャリアパスについてこのような現実が浮き彫りになった。

>> 「コードで食っていく」は何歳まで可能か?エンジニア300人調査で見えた理想と現実

エンジニアという職業を選んだ以上、何かを作る仕事をし続けたいと願う人は多いはず。それは今回の調査結果にも表れていた。しかし、この結果を見る限りでは望まない形で開発業務から離れなければならない人もおり、少なくない企業がエンジニア不足を叫びながらも「作る人」のキャリア形成を支援し切れていないという矛盾を抱えていることになる。

この現状を変えるには何が必要なのか。そして、業界や企業のせいにせず、自ら選択して望むキャリアを手に入れるにはどんな努力が求められるのか。

この難しいテーマについて、世界的なIT企業でキャリアを築いてきた及川卓也氏と、エンジニア社長として知られるさくらインターネットの田中邦裕氏に対談を申し込んだところ、企業と個人双方に対してこんな提言が出てきた。

■ 「管理職にならないと給料が上がらない」というのは本来おかしい
■ どんなに優れた人事制度の下でも、「コーダー」は評価されない
■ 企業は「Y理論」で人が動く仕組みづくりに注力せよ
■ 仕事の定義を「プログラミング」から「開発」に広げよう
■ 経験に頼るな、ただただスキルを磨け

2人の対話から、その理由を紐解いていこう。

Increments株式会社 プロダクトマネージャ 及川卓也氏早稲田大学理工学部でコンピュータに出会ったのを機にプログラムを学び始め、卒業後は日本DECに就職。営業サポート、ソフトウエア開発、研究開発に従事し、1997年からはMicrosoftでWindows製品の開発に携わる。2006年にGoogleへ転職し、Web検索のプロダクトマネジメントやChromeのエンジニアリングマネジメントなどを行う。2015年11月、技術情報共有サービス『Qiita』を運営するIncrementsに転職し、現職へ

さくらインターネット株式会社 代表取締役社長 田中邦裕氏幼少期から電子工作やロボットに興味を持ち、国立舞鶴高等専門学校に進学。在学中の1996年にさくらインターネットを創業、レンタルサーバ事業を開始する。舞鶴高専卒業後の1998年には有限会社インフォレスト設立。翌1999年、さくらインターネット株式会社を設立、代表取締役社長に就任する。2005年に東証マザーズへ上場し、2015年には東証一部に上場。社長業の傍ら、今もプログラミングを続けるエンジニア社長として知られる

「管理職にならないと給料が上がらない」というのは本来おかしい

―― まずは、調査結果を見ての率直な感想をお聞かせください。

及川 アンケート調査なので仕方ない部分もありますが、最初に感じたのは「開発業務」や「コードで食っていく」という言葉の定義が少し曖昧だなと。

この対談のご依頼をいただいた時も、「今の私はIncrementsのプロダクトマネジャーとしてスクリプト言語を書いている程度なので、『コードで食っている』とは言えないですが、大丈夫なんですか?」と編集部に確認しました。返答は「広義の意味で開発業務に携わっていればOK」というものでしたが、この辺の捉え方が、アンケート回答者の中でもそれぞれで違うんじゃないかと思っています。

それともう一つ、少なくとも僕が今まで勤めてきた会社では、開発業務とマネジメントは二律背反ではなかったんですね。でも、今回の調査結果だと、「マネジメント職になると開発業務から離れなければならない」と答えている人が4割程度いますよね?

―― はい。39.3%の人がそう答えていました。

田中 そもそも日本の企業って管理職が多過ぎるんですよ。係長がいて課長がいて部長がいて……そんなに必要なんだろうか?と(笑)

及川 ええ(笑)。

田中 こうなっている原因の一つには、給料の問題があるのでしょうが。日本には、「より高い収入を得るには役職を上げ続けなければならない」という不文律みたいなものが根強くあります。

―― 今回の調査でも、850万円以上の収入を得ている人の割合は、技術専門職より一般管理職の方が多かったです。

出典:『エンジニアtype』SNSフォロワーおよび転職サイト『@type』会員へのWebアンケートより
出典:『エンジニアtype』2016年3月実施「IT・Webエンジニア300名調査

田中 こういう状況だと、評価する側にも、現場で能力を発揮したエンジニアを管理職に昇進させてあげなければならないという力学が働いてしまう。ここに問題があると思うんです。

「ピーターの法則」でも言われているように、能力主義の階層社会で能力の限界まで出世していくと、有能な現場社員だった人が無能な管理職になってしまうケースが出てきます。これでマネジャーになってしまった人は現場エンジニアから慕われないし、不幸な結果しか生みません。

及川 「開発業務」と「マネジメント」をまったく別のものにしてしまうから、こういう悲しい現実が生まれてしまうんでしょうね。

製品やサービスの開発は、UIまわりが得意なエンジニア、インフラまわりでパフォーマンスチューニングが得意なエンジニアなど、違った得意分野を持つ人たちが一つのチームになって取り組むじゃないですか。

つまり、スキルの「でこぼこ」があるのを前提に、それぞれの強みが他の人の弱みを補完し合う形で開発が進んでいく。だから、本来はマネジメントもその「でこぼこ」と並列のスキルとして扱われるべきで。

田中 そう考えて人事・評価制度を設計しないと、「専門職は管理職より給料が低い」という問題も解消しませんね。

及川 開発もできるけれどリーダーシップがあるとか、チームビルディングが得意だという人がマネジメントを行うのが自然な流れ。なのに、開発業務で優れた能力を発揮してきたエンジニアが、皆一様にマネジメント職に「ならざるを得なくなる」と、ミスマッチが生まれてしまいます。

どんなに優れた人事制度の下でも、「コーダー」は評価されない

話は次第に「技術職」の評価問題に

話は次第に「技術職」の評価基準に

―― さくらインターネットさんでは、高い専門性を持つエンジニアが一般管理職と同等の年収を得られるような人事制度を導入していらっしゃるそうですね?

田中 はい。ただ制度的にはまだまだ不十分ですし、実際に高給を得ているエンジニアの人数はそんなに多くありませんよ。ここには、もう一つ別の問題が絡んできます。

及川 その問題とは?

田中 職業上「エンジニア」を名乗っていても、技術レベルの低い人はたくさんいるという現実です。もう少し噛み砕いて説明すると、コーディングとプログラミングは違うんですよ。

―― どう違うのでしょう?

田中 例えば、Excelの方眼紙に書いてある仕様書通りにコードを書いている人は「コーダー」です。

及川 確かに。コーディングするだけの仕事は、いずれ機械に置き換わってしまう。

田中 おっしゃる通りで、AIがもっと進化したらコーディング業務はきっとなくなる。でも、本当の意味でプログラミングができる人、つまり高度なエンジニアリングで事業の課題を自ら解決でき、コンピュータサイエンスにも精通しているような人は、マネジメント以外の仕事でも評価され続けます。

エンジニアの中には、「オレは月○○時間も残業してコーディングしているのに全然評価されない」と嘆く人がいますが、それは高望みでしかありません。私もプログラミングをたしなむ身として、非常に言いにくい事実ではありますが。

本当に高度なスキルレベルのプログラマーだけが専門職として1000万~2000万円をもらうことができて、同じく本当にマネジメントスキルのある人だけが高給をもらえるという評価制度が、フェアなんだと思います。

及川 僕も基本的には同意です。ただ、若いうちはひたすらコーディングをしながら、体で開発業務を覚えていくフェーズもあるじゃないですか?

田中 ええ。

及川 そこから、本当に課題解決につながるプログラミングとは何かを徐々に学んでいくわけで。だから、エキスパートとして認められるプログラマーはこういう人なんだというロールモデルを、それぞれの会社が人事・評価制度の中で明示しておく必要もあると思うんですね。

―― 企業がそういう制度やロールモデルを作っていくためには何が必要なのでしょう?

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