人工的につくった知的な振る舞いをするもの(システム)である
――溝口 理一郎(北陸先端科学技術大学院大学 教授)
人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれをつくる技術
――松尾 豊(東京大学大学院工学系研究科 教授)
学習・推論・判断といった人間の知能をもつ機能を備えたコンピューターシステム
――大辞林 第三版
AI(人工知能)って結局何? 機械学習と深層学習の違いは? 今さら聞けないAIの基本を徹底解説!
昨今さまざまな製品に導入され、私たちの生活にもすっかり浸透した「AI」。AIが今最も注目を集める技術の一つであることは理解しつつも、「AIって結局何なの?」「機械学習や深層学習とAIは別物?」など、あやふやな部分も多いのではないでしょうか?
そこで今回は今さら聞けないAIの基本を徹底解説! AI業界に興味があるエンジニアはもちろん、AIを使ったビジネスを検討している人も必見です。
AIとは?
AIとは、Artificial Intelligence(アーティフィシャル・インテリジェンス)の略で、日本語では「人工知能」と訳されます。2014年には「20年後までに、AI・ロボットによって人間の仕事の約50%が消滅する」という説が広まり、「AIは怖いもの」というイメージを持っている人も多いかもしれません。一方で、超少子高齢化社会により今後労働者が不足するといわれている日本にとって、AIは救世主になる可能性も秘めています。
この見出しでは、AIとはどんなものなのかを徹底解説。「そもそもAIとは?」という内容から「機械学習・深層学習とは?」まで掘り下げて解説していきます。
AIってどういう意味?
AIの定義についてはこれまで数多く議論されてきましたが、実は明確な定義はありません。AIの定義として語られているものの一部は以下の通りです。
多義的なAIですが、AIの大きな特徴としては「自立性(Autonomy)=常に人間が操作する必要なくタスクを自動的に実行する能力」と「適応性(Adaptivity)=過去の経験から最善策を導き出す能力」が挙げられます。自立性はロボットにも備わっていた能力ですが、適応性はAIならではの能力です。
「AIの種類」って何?
AIは役割や能力などによって「特化型AI」「汎用型AI」の二つの種類に分けることができます。それぞれどんな特徴があるのか見ていきましょう。
特化型AIとは、一つもしくは少数のタスクのみに特化したAIのことを指します。例えば、お掃除に特化した「ルンバ」や囲碁に特化した「AlphaGo(アルファ碁)」なども特化型AIの一つです。特化型AIは、特定の分野にしか力を発揮できず、自我を持っていないことから「弱いAI」と称されることも。特化型AIは設計する際に、目的に応じて人間がAIに学習させる必要があります。現在実用化されているAIはすべて特化型AIです。
汎用型AIとは、私たち人間と同様に多数のタスクをこなし、自分で考えて行動できるAIのことを指します。ドラえもんや鉄腕アトムは、まさに汎用型AIが搭載されたロボットといえるでしょう。人間と同じような知性や自我を持つ汎用型AIは「強いAI」と称されることもあります。汎用型AIはまだ実用化されておらず、実用化にはまだまだ長い年月が必要といわれています。
なぜ今AIがブームなの?
「AIは最近の技術」だと思っている人は多いかもしれませんが、実はAIの起源は70年以上前の1956年。当時ダートマス大学のジョン・マッカーシー教授が「人間のように考える機械」を「人工知能」と名付けたことがAIの始まりです。それからAIは「ブーム(繁忙期)」と「冬の時代(閑散期)」を繰り返しながら発展を続けており、2010年ごろから現在まで続いているブームは第3次ブームとされています。
第3次AIブームを加速させた要因の1つは「深層学習(ディープラーニング)」の登場です。さらにAIの学習に必要なビッグデータ技術の発展や情報処理能力の向上などが第3次AIブームを後押しし、実用化に貢献。今後さまざまな業界や分野でAIが導入される見通しです。
AIの市場規模ってどれくらい?
富士キメラ総研の「2020人工知能ビジネス調査」によると、2020年の国内AIビジネス市場は1兆1084億円。前年と比較した成長率は15.4%でした。さらに、2021年度以降はDX(デジタルトランスフォーメーション)によりAI需要がさらに拡大し、2025年には1兆9357億円に達すると予測されています。これは2019年度と比較すると約2倍です。
これまでブーム期と冬の時代を繰り返してきたAIですが、第3次ブームの今、AIビジネスは急成長期を迎えており、新たな分野での活用が予測されています。
機械学習・深層学習って何?
AIのことを語る時に必ずといってもいいほどセットで現れる「機械学習」と「深層学習」という言葉。エンジニアの中には「何となく知っている」という人もいれば、「まったくイメージがつかない」という人もいるのではないでしょうか? 実は機械学習や深層学習はAIに含まれる要素の一つで、深層学習は機械学習の1種です。この二つの言葉の意味を詳しく見ていきましょう。
機械学習とはその名の通り「学習するコンピュータ」のことで、人間が経験から学習するのと同じように、データを解析を通じてコンピュータに学習させる技術のことを指します。機械学習の目的は二つあります。一つ目はコンピュータがデータを反復学習をすることで法則を導き出すこと。二つ目は導き出した法則から自動で正しい予測をおこなうことです。コンピュータが反復学習をするほど予測の性能は向上していくため、ビッグデータの存在は機械学習の技術を後押ししています。
機械学習のポイントはデータさえ入力すれば人間がアルゴリズムを構築せずとも「自動で」予測をおこなうことです。機械学習の登場より、これまでデータが膨大すぎたりプログラミングが複雑すぎたりして断念していたデータ解析も可能になりました。
深層学習とは機械学習の手法の一つ。深層学習には、人間の脳神経回路をモデルに開発された「ディープニュートラルネットワーク(DNN)」というアルゴリズムが取り入れられており、人間のように深い考察や予測、問題解決などが可能です。
機械学習は学習する内容や判断に必要な情報(特徴)を人間が指定しなければならないのに対し、深層学習は学習する内容や判断に必要な情報(特徴)を人間が指定しなくても良いのが特徴です。そのため、人間の作業量が少なくて済む点や、人間では判断が難しい領域で高精度な判断がおこなえる点が深層学習のメリットとされている一方で、深層学習を実用化するには大量のデータと高い処理能力を持ったコンピュータが必要なことがデメリットとされています。
AIの活用例(国内)
「MUJINコントローラ」を既存のロボットに接続すると、ロボットが知能化され、最適な動きを自動で生成するようになります。従来、ロボット導入の際にはロボットに動きを教え込む「ティーチング」という設定作業が必要でしたが、MUJINコントローラにより、ティーチングの作業を省くことができ、導入期間やコストの削減、品質の安定化が実現しました。この技術は、主に物流や製造現場で導入されています。
原宿で導入されている通行人カウント技術。天候に関係なく、密な空間でも正確な人数をカウントすることができます。このサービスは、新型コロナウイルスの感染拡大をうけ、街の通行量を調査する上で役立っています。
これまでのセルフレジは顧客が自分で商品をスキャンする必要があり、操作ミスやスキャンミスが起きたりエラー時に店員の対応が必要だったりと逆に手間が掛かることも多くありました。ユニクロやGUで導入されたこのセルフレジは商品が入ったカゴを所定の場所に置くだけで、AIカメラが商品をスキャンし、自動的に精算ができます。誰でも簡単に安心して使用できるだけでなく、混雑緩和にも役立っています。
2016年、ソニー・コンピュータサイエンス研究所はポップソングを作るAI「Flow Machines」を開発しました。Flow Machinesには1万3000曲分のリードシートが組み込まれており、スタイルを選択するだけで新しい曲が制作されます。Flow Machinesは、まだポップソングしか制作することができなかったり、編曲や作詞などで人間の手が必要だったりとか課題はあるものの、「クリエイターの創造性を拡張するAI」としてさらなる研究が進められています。
AIの活用例(海外)
世界No.1のAI大国を目指す中国は、かねてよりAI医療の確立をメインテーマに掲げていました。そんな中国で新型コロナウイルス対策の一つとして生まれたのが、Ping An Good Doctorによる「1分間の無人診断ボックス」。ボックスの中にいる患者の声や画像、チャットなどの情報をもとにAIが初期診断をおこない、併設された自動販売機で薬も購入できます。人を介さなくても診察ができるため、医療従事者への感染や通院による感染リスクを抑えるだけでなく、「医師不足」をによる課題解決にも期待が集まっています。
オバマ大統領政権時、「人工知能の未来のための準備」という戦略を発表するなど、AI先進国として国をあげて技術革新を推し進めてきたアメリカ。既に生活の中でもさまざまなAI技術が取り入れられていますが、その中の一つがAmazonによるコンビニエンスストア『Amazon Go』です。
顧客が手に取った商品は店内に設置されたセンサーやカメラが検知しているため、専用アプリさえあれば、レジを通過することなく店外に出ることが可能です。レジ業務や発注作業、マーケティングなどはコンピュータ、顧客とのコミュニケーションは店員……というように適材適所で労働力を配置できるようになったことでさらなるサービスの向上に貢献。この技術はさまざまな分野で活用されることが見込まれています。
イギリスはAI市場への投資が盛んな国で、AI企業数は意外にもアメリカに次ぐ数字を誇っています。国としてもAI技術の活用を進めており、その取り組みの一つが医療問題です。財政難にともなう医療機関や医師、看護師不足という課題を抱えるイギリスは、AIの機械学習技術に着目。
AIによって過去の診療情報を分析し、学習を繰り返すことで初期症状の緩和・アドバイス、ひいては医療機関の負担軽減を目指しています。AIはデータ量が多くなるほど精度が上がっていくため、国家レベルでAI導入を目指すことで今後イギリスの医療問題の解決に大きく貢献することが期待されています。
AIエンジニアに求められること
AI市場の成長率の高さから、AIが今もっとも需要が高く、将来性のある技術の一つであることがお分かりいただけたと思います。さらに、AIエンジニアの平均年収は約600万円、スキルや経験によっては年収1000万以上も珍しくなく、AIエンジニアの年収は他職種と比べて高い傾向にあります。これらの数字から「AIエンジニアになりたい」と考える人も多いかもしれませんね。
しかしAIエンジニアになるには、単に「技術があればOK」というわけではありません。それでは、AIエンジニアにはどのようなスキルが求められるのかを具体的に見ていきましょう。
AIエンジニアに求められるスキル(技術編)
一言でAIエンジニアと言っても、担う役割によって「機械学習エンジニア」「データサイエンティスト」「データアナリスト」などに分けられます。いずれにしても、機械学習や深層学習を含むAIの専門知識のほか、数学的な知識や統計学への理解は求められるでしょう。また、AI開発の主要言語とされるPythonに精通していれば、AIエンジニアとして活躍できる領域も広がります。
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AIエンジニアに求められるスキル(ビジネススキル編)
これまで日本ではエンジニアが技術を担い、事業者が事業企画を担う……というように、分業化しているケースが多くありました。しかしAIの分野においては、エンジニアであっても「AIの技術を使ってどのようなプロダクトを生み出すか」という「ビジネス視点」を持つことが必要です。まだ実用化できていない技術をどうビジネス展開できるかを考えられるエンジニアであれば、開発者として以上のキャリアを手にできるでしょう。
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顔認識技術による外見データや年齢、性別など、AIによって大量の個人情報を入手することが可能になりました。しかしそれらの個人情報をどう処理し、いつ処分するかなどの法律やマニュアルは現状存在していません。そのため、技術者自身が個人情報をどう扱うかを線引きをする必要があります。
しかしその線引きは人により異なりますし、立場によってはその線引きによって不利益をこうむる場合も。AIエンジニアとして活躍するには、多様な意見を取り入れながら「倫理的にOKか、否か」のバランス感覚を身に付けることが必要となります。
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未経験からAIエンジニアになる方法
結論からいうと、AI開発をしたことがない人でもAIエンジニアとして活躍することは可能です。特にPythonやC+、R言語などのAI言語の知見がある人であれば、AI開発未経験の人も充分採用チャンスはあります。ただし、エンジニアとしての経験がない人がいきなりAIエンジニアになるのは難しいでしょう。
未経験からAIエンジニアにチャレンジするなら、オンライン講座学習サービスなどでAI専門の講座などを受講するのがおすすめ。一口にAIといっても、画像認識や言語処理、機械学習など非常に幅が広いため、ざっくりと全体を学ぶよりも分野を絞って勉強するのがいいでしょう。
また、AIエンジニアになるにはサーバーサイドの知識が必要不可欠です。エンジニア経験がない人は、まずサーバーサイドエンジニアとしてキャリアを積んだ後にAIエンジニアを目指すのが確実ですよ。
AIを正しく理解し、活用する力を養おう
AIの定義や活用例、AIエンジニアに必要なスキルなど、AIに関する基礎知識をさまざまな角度から紹介しました。AIはビジネスからエンターテインメントまで幅広い分野で活用が進んでおり、今後さらにAI化の波が訪れることは間違いありません。
一方で万能に見えるAIにも苦手分野があり、人間の仕事と補完しあうことでAIをより有効活用できることもお分かりいただけたと思います。まだまだ研究段階のAIですがその利点や欠点を正しく理解し、共存する道を切り拓いていきたいですね。
文/赤池沙希
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