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「ドラえもんをつくる夢」を追う若手研究者・大澤正彦が“あえて遠回り”な道を選ぶ理由

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エンジニアのキャリアって何だ?

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物心ついた時からずっと、ドラえもんをつくりたかったんです」。そう語るのは、日本大学助教の大澤正彦さん、28歳。

経歴を見る限り、ただ者ではない。東京工業大学附属高校、慶應義塾大学理工学部を共に首席で卒業。学部時代には、のちに日本最大級の人工知能コミュニティーとなる『全脳アーキテクチャ若手の会』を立ち上げた。

研究成果は高く評価され、2017年には、高い志と異能を持った若手人材として孫正義育英財1期生に選抜されている。

博士課程を修了し、学生に教える立場となった大澤さんは今も、「ドラえもんづくり」を追求し続けていた。

生きている間にたどり着けるか分からない。そんなあまりにも大きな目標を前に、大澤さんはどんな道を歩む覚悟を決めたのか。「ドラえもんって本当すごいんですよ」と、こちらの心が溶けるような笑顔で語る大澤さんに、“欲しい未来”を手にするための方法を聞いた。

日本大学文理学部 次世代社会研究センター センター長 大澤正彦さん

日本大学文理学部
次世代社会研究センター センター長
大澤正彦さん(@iwawomaru

2011年に東京工業大学附属科学技術高校 情報システム分野を首席で卒業。14年8月『全脳アーキテクチャ若手の会』、17年9月『認知科学若手の会』設立。20年3月 慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻 後期博士課程 修了。20年4月から日本大学文理学部情報科学科 助教、20年12月より日本大学文理学部 次世代社会研究センター センター長に就任。著書に『ドラえもんを本気でつくる』(PHP新書)

人間は「愛されてから賢くなる」のに、ロボットは「賢くなってから愛される」

――そもそも大澤さんは、なぜドラえもんをつくりたいと思ったのですか?

生まれつき、と言ってもいいかもしれません。好きになったきっかけは自分でも思い出せなくて。

でも、ドラえもんの何が好きかと聞かれたら、のび太と一緒にいるところですね。ケンカして、反対を向いてご飯食べることもあるんですけど、あとでちゃんと仲直りする。ああいうのを見て、いいなって思うんですよね。

――のび太との関係性の中にも魅力を感じていたのですね。近年のAIの進化に伴い、ドラえもん開発は実現に近づいているのでしょうか?

確かにここ数年でAIができることは増えましたが、人間レベルの人工知能をつくるには、まだ解決するべき課題は山のようにあります。ドラえもんづくりに必要なパーツが出そろってきた程度の段階だと認識しています。

──これからドラえもんをどのようにつくっていこうと考えていますか?

ロボットの開発で主流なのは、「実現するべき機能を列挙し、その全てを満たすロボットをつくる」という考え方です。でも、ドラえもんの機能を定義するのは簡単ではありません。何が「ドラえもんらしさ」なのかは、人によって意見が分かれるからです。

ドラえもんをつくることによって、誰かのドラえもんのイメージを壊したくはありません。そこで行き着いたのが、社会的承認による定義です。みんなが「これはドラえもんだ」と認める存在こそがドラえもんである、という定義を採用することにしました。

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ドラえもんに登場する「ミニドラ」をイメージしたロボット

──社会的承認を得られるドラえもんは、どうすればつくれるのでしょうか?

そもそもみんなに認めてもらうためのロボット開発には、「ロボットを賢くすること」と「人がロボットを好きになること」の2軸があります。

おそらく多くの人は、「ロボットは人間みたいに賢くなって初めて、人間に愛され、社会に受け入れられる」と無意識のうちに思っているのではないでしょうか。でも私たち人間って、生まれてきた時は全然賢くないですよね。

人間は「愛されてから賢くなる」のに、ロボットだけは「賢くなってから愛される」って、なんか不思議な感じがしませんか?

そのロボットを好きだと感じるからこそ、賢くなるたびに「またドラえもんに近づいたね」って認めてもらえるはず。だから僕は、ロボットを賢くすることと愛されることの両方に取り組みたいと考えています。

――その考えは、もしかしてドラえもんの世界観から影響を受けた面もあるのでしょうか?

ありますね。僕が一番好きな『ションボリ、ドラえもん』という話があって。

ドラえもんはのび太とケンカしてばかりで、のび太を全然助けられていない。そんな様子を見かねた未来のセワシ君(のび太の孫の孫)が、ドラえもんの代わりにドラミちゃんをのび太のもとに送り込むんです。すると、ドラミちゃんは優秀だから、のび太はなんでもうまくいくようになる。

ところがセワシ君が、「ドラえもんとドラミちゃんは交代だね」とのび太に告げた瞬間、のび太は「いやだ!!ぜったいに帰さない!!」と言って、泣きながらドラえもんに抱きつくんです。賢さならドラミちゃんの方が優れているのに、ですよ。そのシーンが僕には衝撃的で。

だって今、「iPhone12をあげるよ」と言われて、「いやだ! iPhone10の方がいい!」なんて言う人っていないじゃないですか(笑)。もし、この話のように本当に愛されるロボットをつくれたら、ものづくりを志す者として、すごく誇らしいなと思うんですよね。

「とがり」と「つながり」の掛け算が、強いキャリアをつくっていく

――ドラえもんをつくるために、就職や起業ではなく研究の道を選んだのはなぜですか?

どんなキャリアならドラえもんをつくれるかを真剣に考えた時に、「どこに行ってもドラえもんは絶対につくれない」と思ってしまったんです。

大企業の中では自分のやりたいことを勝手にできないだろうし、大学の先生になっても、授業や学生指導に追われて研究に集中するのはおそらく難しい。それなら起業して、Googleみたいな企業をつくれればできるかもしれない。でも、そんな会社をつくれるかどうか、何年かかるかも分からない。

そこで、「どこに入ればドラえもんをつくれるか?」ではなく、「どこに入って何を変えたらドラえもんをつくれるか?」と視点を変えました。その結果、「大学に入って大学を変えたら、ドラえもんがつくれるかもしれない」という結論になりました。

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大澤さんHPより転載

――それは、どういうことでしょう?

ドラえもんづくりには、技術的な側面だけではなく、人の心理や社会の構造など、とにかくさまざまな要素の知見が必要不可欠です。そのためにはまず、多様な価値観を持った人が集まる大学に身を置いて、そこから変えていくのが良いのではないかと思いました。

――そして選んだのが、今所属されている日本大学文理学部だったのですね。

そうです。僕は教員としての職はここ一本しか応募しないほどこだわりを持って選んだのですが、その理由の一つは、偏差値が50程度であること。これは、受験する学生の多様性や間口の広さを意味すると思ったのと、彼らを入試以外の軸で見ると「ある分野では偏差値70」のような学生もたくさんいると感じたからです。

しかも文理学部には、18の専門性が全く異なる学科が一つのキャンパスに集まっている。そこに新しいムーブメントがあると聞いたら、感度の高い高校生はきっと一気に集まってきます。そんな学生たちの持つ新しい価値軸を見つけて伸ばすような教育ができたら、ドラえもんづくりのヒントが見つかるかもしれません。

そして昨年、僕がセンター長として『次世代社会研究センター(RINGS)』を学内に立ち上げました。有名民間企業から官庁に関連の深い組織・地方自治体まで、産官学の幅広いプレーヤーが協賛してくださっている上に、プロボノ制度を利用した他大生や社会人も参加している、非常に多様性に富んだ組織です。ここでは研究内容の制約は一切なく、各々がやりたいことを自由に追求できます。

――大学の枠組みを超えてさまざまな人を巻き込んでいるのですね。ドラえもんづくりやロボット開発に関係のない研究も認めているのはなぜでしょうか?

ドラえもんをつくるにはものすごく幅広い領域の知識が必要なので、どんなことでもドラえもんの糧にできる自信があるんです。

このセンターでは、価値ある研究成果をたくさん生み出せるように、「100人で100個の夢を叶える組織」を目指しています。どこに向かってもいいけれど、それぞれの目的にみんなが協力する。誰もがリーダー・フォロワーになれる組織が理想です。

――メンバーが自分の興味の赴くままに活動できるのは大変魅力的ですが、組織がバラバラになってしまうのではと心配になることはないですか?

それはあります。でも、その不安を乗り越えようと思えるぐらい、価値ある活動だと思うんです。

僕が組織づくりにおいてイメージしているのは、「村」です。村には、農家の人もいれば大工の人もいる。みんなが同じ仕事をしてるわけじゃないけれど、住民には「これについてはあの人がいるから安心」っていう感覚がありますよね。それは、「とがり(=専門性)」と、人との「つながり」が掛け合わさって大きな価値が生まれているからです。

このセンター内でも、たくさんの「とがり」と「つながり」の掛け算によって、大きな価値を生み出したい。その成果が結果的に、ドラえもんづくりに集約されていくと考えています。

ちなみに、自分の「とがり」が見つかると、それがアンテナになってあらゆる情報を吸収できます。学びのスケールが一気に上がり、人とのつながりも広がるので、自分の研究室の学生には「とがり」をつくることをアドバイスしていますね。

僕なら「ドラえもんをつくりたい」が「とがり」となるわけです。

――大澤さんのアンテナは、組織をつくる上で最強のアンテナでもあるように感じました。

確かにそうですね。「ドラえもんをつくりたい」と思って世の中を見ていると、何でも吸収できるし、誰とでもつながれます。そんな最強のアンテナを藤子・F・不二雄先生が与えてくれたんだなと思うと、SF作家って本当にすごいなと思いますね。

「世界をつくっているのは科学者ではなく、科学者にビジョンを与えるSF作家だ」とはよく言われることなのですが、自分はそれを誰よりも実感しているんじゃないかなと思います。

見えている道をただ歩くだけでは、大きな目標にたどり着けない

――研究センターを立ち上げたお話を聞いて、非常にスケールの大きな取り組みだと感じました。ドラえもんをつくるには一見遠回りのようにも見えますが、大澤さんはこの方法がベストだという結論に至ったのですね。

僕は見えている道って、最短経路じゃないと思っているんです。「ドラえもんをつくる」というあまりに大きな目標を掲げているからこそ、目の前にある道をただ歩くだけでは、絶対に生きてる間にたどり着けません。

自分のスケールで生み出せる価値の大きさには、限界があります。だったら、何かをひっくり返さないといけない。そこでブレイクスルーになると思ったのが、人とつながることだったんです。

――ドラえもんづくりを通じて、どんな未来を実現したいとお考えですか?

昔は「ドラえもんをつくる」が唯一無二の目標で、それ以外にやりたいことは特になかったんですけど(笑)、最近はこの研究を通して「人を幸せにする方法を変えられるかもしれない」と思っています。

これまで「どうやって世界を良くするのか」といろいろな人に問われ続けてきました。ただ、うまく答えられなくって。正直、僕は「世界を変える」みたいなことには興味がないんです。それよりも、目の前にいる仲間を幸せにしたいと強く思う。

ところがそういうと「目の前の一人にとらわれていたら、世界中の人を幸せにはできない。世界を良くして、世界の人々の幸せの平均をあげていくしかないだろう」と言われます。確かにその通りです。

でも、悔しいんですよ。なぜならそれは、一人一人にしっかりと向き合うことが前提になっていない世界観だから。目の前の苦しんでる仲間を見捨ててまで良くしたい世界なんて、僕にはありません。

じゃあどうすればいいか。僕は、人に寄り添うテクノロジーを実現したい。世界を幸せにしてから人が幸せになるトップダウンではなく、一人一人を幸せにして世界中が幸せになるボトムアップの方法で世界を良くしていきたいんです。

ドラえもんは、のび太という一人の人間にとことん向き合って幸せにしたロボットですよね。そんなドラえもんが70億人の側にいれば、みんなの心に余裕が生まれて、自ら人に寄り添うエネルギーも湧いてくるはず。そうなれば、きっと苦しんでいる人が見捨てられる世界ではなくなります。

――ドラえもんをつくるだけではなく、ドラえもんのように人を幸せにしたいという思いが大澤さんの中にあるのを感じました。今後のご自身のキャリアについては、どのように考えていますか?

自分の原点って、ものづくりが好きなことなんです。今はドラえもんをつくるためのチームや環境づくりに力を入れているので、今の自分は良くも悪くもエンジニアではありません。

でも、そのままゴールしたくはなくて。根底には、自分でドラえもんをつくりたい思いがずっとある。だから、いつかドラえもんを思いっきりつくれる環境になったら、改めてそのときにエンジニアになりたいですね。

「今つくっているものが、自分の目の前でドラえもんになるんだ!」というワクワクと共に、ものづくりがしたい。それは自分だけでなく、みんなにもそう思ってほしいんです。

――どういうことでしょう?

僕は子どもの頃、トイレットペーパーの芯を組み合わせて謎の造形物をつくるなどして遊んでいました。それは、ただただ楽しかったから。多くの人にとって、ものづくりの原点ってそういうところにあると思うんです。

でも今は、何かをつくると「それって何の役に立つんですか?」と聞かれてしまう。自分の純粋なワクワクからつくったものを、既存の価値に当てはめないといけない息苦しさがある気がしています。

だから僕は、ものづくりを本当にワクワクするものに立ち返らせたい。ドラえもんづくりを通じて、ワクワクするものづくりを自信を持ってやり遂げることで、そうした価値観をみんなが認め合える世の中にできたらいいなと思います。

大澤正彦さんの書籍

大澤正彦さん書籍
『ドラえもんを本気でつくる』(PHP新書)

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取材・文/一本麻衣

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