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10X CTO・石川洋資の、足りない経験を的確に埋めるキャリアメーク「プロダクトの価値を徹底的に考え抜く」

働き方

この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!

少子高齢化による「買い物難民」や、多忙を極める共働き・子育て世帯の増加、店舗で働く人材の不足……。DXが喫緊の課題となっている小売業界に向けたECプラットフォーム『Stailer(ステイラー)』を運営しているのが、株式会社10X。2023年3月に15億円の資金調達をかなえたばかりの、今注目を集めるスタートアップの一つだ。

同社でCTOとして開発をリードする石川洋資さんは、CEOの矢本真丈さんとともに10Xを立ち上げた創業メンバー。カヤック、LINE、メルカリなどの企業でエンジニアとしてのスキルを磨いてきた。

「プロダクトにフルコミットしたい」と語る石川さんのキャリアを振り返ってみると、開発を通じてユーザーや世の中に価値を提供できるエンジニアとして成長するために必要な経験やスキルが見えてきた。

プロフィール画像

株式会社10X
Co-Founder, 取締役CTO
石川洋資さん(@_ishkawa

大学在学中にスタートアップの創業メンバーとなり、iOSアプリの開発に取り組む。大学卒業後は面白法人カヤック、LINE、メルカリ/ソウゾウで新規アプリの開発に携わる。その後、メルカリで同僚だった矢本真丈さんと株式会社10Xを創業し、CTOとしてプロダクト開発全般を担当する

「魔法のような解決策」がない小売業界を、プロダクトの力で変えていく

『Stailer』が注目を集めている理由は、市場ニーズやプロダクトの発展性はもちろんのこと、10Xの開発チームの徹底した現場主義によるものが大きい。

「業務が複雑に入り組む小売業界を本気で変えるならば、机上の空論ではだめだ」ーーCTOである石川さんもまた、そんな覚悟をもって同プロダクトの開発に取り組んできたという。

「10Xが『Stailer』を通じて実現したいのは、ネットスーパーが当たり前のものになった社会です。

少子高齢化の進む日本では、小売店の撤退や公共交通機関の減便・廃止が今後も相次ぐことが予測されます。そうなれば、日用品を思うように手に入れられない『買い物弱者』と呼ばれる人々が増えていくはず。

この課題は、ネットスーパーが当たり前になれば解決するでしょう。しかし、消費者の利便性を高めるだけでは、ただでさえ少ない働き手にしわ寄せが行き、負担が増えてしまうことも考えられます。

消費者の利便性を高め、なおかつ働き手の幸福を追求するには、エンジニアリングの力が不可欠だと思ったんです」

小売業界のバリューチェーンは長い。『Stailer』はそれを一気通貫でカバーするプラットフォームだ。故に石川さんは、「これさえ解決すればDX完了、という単純な課題ではない」と実感を込めて話す。

「例えば、顧客に発送する品物を店頭から集めてくるピッキング業務一つとっても、当初想定していた運用方法ではカバーできないことがザラにあるんですよ。

実際、『ピッキングして梱包まで終えれば、もう注文内容は変更されないだろう』と思っていたら、現場では想定以上に頻繁な変更が発生していたこともあります。

小売業界の実態は、現場を見ないと分からない。しかも、全ての課題を一挙に解決できるスマートな解決策なんてないんです。

だからこそ、とにかく一つ一つの課題に向き合うほかありません。その上で、自信を持って『良いシステム』と言えるような状態にまで持っていくことが、ここ1~2年のミッションです」

10X

そう熱く語る石川さんが、代表取締役CEOである矢本さんと10Xを創業したのは17年のこと。「この人となら、面白いことができるんじゃないか」と感じられたことが独立のきっかけだったという。

創業後は、プロダクトを引っ張る矢本さんの相棒として「起きてる間はずっと開発」「必要なことは全てやる」姿勢で事業の成長にフルコミットした。

組織が成熟しつつある今も、「必要なことは全てやる」精神は変わらない。

「これまでのキャリアを振り返っても、実は『自分で会社を作りたい』と思ったことは一度もないんです。ただ、『面白い人と一緒に過ごして、価値のあるものを生み出したい』という思いはずっと持っていたような気がします。

自分の肩書にはあまり関心がないんですよ。その時々で組織に必要な役割を考え、精いっぱい期待に応えるだけです」

エンジニアとして「足りない経験」を与えてくれる環境を的確に選ぶ

会社のために、プロダクトのために、必要なことは全てやる。言うはやすし、行うは難しだ。石川さんの胆力はどのように養われたのだろうか。

石川さんにとって最初の転機となったのは、大学4年生の時の「ある体験」と、新卒で面白法人カヤックへ入社したことだった。

「在学中から友達と一緒に会社をつくって、アプリを開発していたんですよ。『学生起業』と言うとかっこよく聞こえるかもしれませんが、実際には技術不足に悩まされ、最初からつまずいているような状況でした。

例えば、アプリ上にあるデータをサーバーに送信するだけでも『どうすればいいんだ?』と四苦八苦。あまりにも実力が足りないことが悔しくて、『まずはエンジニアとして一人前になりたい』と思って就職することにしました」

この時、すでに4年生の12月。一般的な就職活動の時期は終わっていた。しかし、たまたま知り合いだったカヤックの人事に掛け合ったところ、エントリーのチャンスに恵まれた。

10X

「面接を受けたら、ありがたいことに採用してもらえたんです。当時はそれなりにハードな働き方をしましたが、おかげで『大学生』から『エンジニア』へと成長することができました。

カヤックのエンジニアは皆さん本当にレベルが高かった。あそこで鍛えてもらったからこそ、今の僕があるのは間違いありません」

しかし、成長したからこそ見えてきた課題もあったという。

「技術力が付いた自負はありましたが、事業やプロダクトのグロースに関しては思うようにパフォーマンスを発揮できず、新たな力不足を感じるようになったんです。

そこで、新たな経験が積める環境で働きたいと思い、転職したのがLINEでした。多数のアプリをリリースし、プロダクトも、組織としても拡大中のLINEであれば、事業をグロースさせるスキルが身に付くと思ったんです」

この時も「1社しか受けず、体当たりで」転職を決めた石川さん。想像通り、LINEで学ぶことは多かった。

「LINEには、マーケティング、デザイン、開発など、あらゆるスペシャリストがそろっていた。高品質なプロダクトを多く生み出せる組織の仕組みを学びました。

ですが次第に、成熟した組織だからこそ意思決定に食い込みづらいもどかしさを感じるようになっていって。次はもっと事業やプロダクトの方針を決めるかじ取りができるようになりたいと思うようになりました」

次に積むべき経験と身に付けるべきスキルを見つけた石川さんが選んだのがメルカリだった。

当時のメルカリは、子会社であるソウゾウを立ち上げるタイミング。組織や事業をゼロからつくっていくプロセスを体感した。

「メルカリは非常に勢いのある組織で、キラリと光るスキルを持つ人材が集っていました。矢本と出会ったのもその時です。

矢本とは『ユーザーに提供するべき価値とは?』という議論を何度も重ねました。次第に、自分たちの力を合わせればより良いプロダクトが作れるのではないかと感じるようになり、10Xの創業に至ったんです」

エンジニアに必要なのは、プロダクトの価値を考え抜く力

過去、3社で経験を積んで起業した石川さんだが、彼のキャリア選択には常に共通点がある。

エンジニアとして経験を積みながら、自分に足りないスキルを見つける。そして、そのスキルを身に付けるために必要な経験が積める次なるフィールドを探す。その繰り返しの中で、石川さんはエンジニアとして着実に成長してきた。

そんな石川さんが、自身の経験を振り返って思う「長く活躍するエンジニアに必要なスキル」とは、「ユーザーに『どんな価値を提供するプロダクトなのか』をきちんと考えられること」だという。

10X

「『これって本当に役に立つのかな』と迷いながら開発するのと、『こんな人に求められる良いプロダクトになるぞ』という確信があるのとでは、アウトプットの質に差が出ますし、自分が積める経験値も変わります

冒頭で小売業界について『現場を見なければ分からない』と話した通り、どんな領域のプロダクトだってユーザーを深く知らなければ的外れなものになってしまう。それに、疑問を抱きながら開発しているようでは、チームのパフォーマンスも上がりません。

個人の成長においても、プロダクトの成長においても、『これを作りたい!』と強い思いを抱けるものにコミットした方が成果が出やすいはずです」

では、情熱をささげられるものに出会うためには、どのようにアンテナを張ればよいのだろうか。石川さんにそう尋ねると、「近道はなくて、自分で見聞きして視野を広げるしかない」ときっぱり言いきる。

「手始めにやるべきは、いろいろな会社や業界の人と会って話したり、その環境に自分で飛び込んでみること。

世の中にはさまざまな会社がありますが、少し話を聞いてみるだけでも、その会社のカラーが見えてくるはずです。

例えば『生活に密着した事業に注力している』とか、『エンターテインメント性を重視している』とか。その中で、自分のアンテナに引っかかる企業・領域を見極めていけるといいですね。

今はどの会社も、間口を広く設けてエンジニアたちとコミュニケーションを取っています。機会をうまく生かして視野を広げれば、いつか『フルコミットしたい』を思えるものと出会えるのではないでしょうか」

10X

取材・文/夏野かおる 撮影/桑原美樹

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