本連載では、海外AIトレンドマーケターとして活動している“AI姉さん”ことチェルシーさんが、AI先進国・中国をはじめとする諸外国のAIビジネスや、技術者情報、エンジニアの仕事に役立つAI活用のヒントをお届けします!
「顔認証だって美しく」AI活用先進国・中国の“顔パス事情”はここまで進んでいる!
海外AIトレンドマーケター | AI姉さん
國本知里・チェルシー (@chelsea_ainee)
大手外資ソフトウェアSAPに新卒入社後、買収したクラウド事業の新規営業。外資マーケティングプラットフォームでアジア事業開発を経て、現在急成長AIスタートアップにて事業開発マネジャー。「AI姉さん」としてTwitterでの海外AI事情やトレンド発信、講演、執筆等を行っている
皆さん、はじめまして。海外AIトレンドマーケター・AI姉さんことチェルシーです。私は普段、急成長AIスタートアップでBtoB向けAIプロダクトの事業開発を行いながら、Twitterやnoteを通じて海外AIニュース・トレンド・活用のヒントを発信しています。
現在、毎日のようにAIに関するニュースが流れていますが、MicrosoftとIDCの調査によると、「日本でAIの取り組みを開始した企業は33%である」という調査結果が出ています。
つまり、日本では、AIへの関心は高いものの実際に活用まで至っていないという課題があるのです。
そこで、この連載では「海外ではどのようにAI活用が進んでいるのか」や、「それによって人々の生活がどう変わっているのか」を、トレンドや具体的な事例を含めてご紹介していきます。
“AI活用”という点で最先端の国は中国です。中国では2017年に政府が「次世代AI発展計画」を発布し、2030年までにAI領域で世界トップを目指そうとしています。官民一体となり、国内14億人のデータを活用することで、AI開発が急拡大しています。私も深センなどの中国の最先端都市を訪れた時は衝撃を受けました。そこで本日は連載の導入編として、中国人の暮らしはAI活用によってどんな変化を遂げたのかをお伝えします。
中国は“顔パス”の時代に突入
2017年頃から、ディープラーニング技術の発達により顔認証の精度が急激に向上しました。SenseTime(センスタイム)やMegvii(イグビー)のような世界的AIユニコーンも出てきており、中国でも顔認証技術を使った生体認証サービスが急拡大しています。つまり、スマホを持たなくとも顔パスでサービスを受けることができる時代になっているのです。
特に中国の生活を変えているのが「顔認証決済」です。
中国ではキャッシュレス文化がかなり浸透しており、Tencent(テンセント)の『WeChat Pay』とAlibaba(アリババ)の『Alipay』が中国の2大決済プラットフォーマーとして有名です。すでに支払いの9割以上が二次元バーコード決済で行われていますが、これに加えて顔認証決済もAlipayを中心に広がっています。
特に2018年末に展開した『蜻蛉(トンボ)』という新型顔認証デバイスの登場により、従来に比べて小型化・導入コスト減につながったことから、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、小型商店などにも顔認証決済が広がりつつあります。
中でもKFC(ケンタッキー)の店舗がいち早く顔認証決済を導入したことが話題になりました。また、現地の自動販売機は顔をかざすだけで商品を購入することができるようになっています。
ここ数年で日本でもキャッシュレス決済に火が着き、多くのプラットフォーマーが参入していますが、中国ではすでに顔認証技術を生かした「デバイスレス決済」まで進んでいるというのがトレンドになっています。
顔認証決済を導入した後、課題になったのが女性の普及率の低さでした。Sina Technology(シナテクノロジー)のアンケート調査によると、「顔認証時に映る顔の見栄えが悪い」という回答が60%もあり、Alipayは2019年7月に美顔フィルターの導入を決めました。これはフィルターを利用した自撮りが習慣となっている、中国人女性ならではの課題を解決した事例にもなっています。
また、顔認証は決済だけでなくさまざまな認証ツールとしても使われ始めています。例えば、出張や旅行の際の地下鉄乗車・飛行機搭乗をはじめ、交通違反(信号無視)の摘発も顔認証。学校・授業の出欠、会社の出退勤や入館証、マッチングアプリの本人認証もカメラに自分の顔をかざして終わりです。普段の生活におけるさまざまな本人認証が、顔認証技術によって行われています。
さらに面白い活用例が、配達物の送り状の本人確認。中国では配達依頼の際にIDカードの提示が必要になりますが、事前にAlibabaのサービスに個人情報を入力していると、顔を1~2秒スキャンするだけで、個人情報を書かなくても配達手続きを行うことができるのです。このように、「顔パスの時代」がディープラーニングの技術によって実現されているのが、中国AI活用の実態です。
AIを活用したサービスと共にある中国人の暮らし
AIの社会実装が非常にスピーディーな中国ですが、決済以外にも、AIを活用したサービスはたくさん存在しています。ここからは、中国のサービスと暮らしの事例を3つ紹介します。
世界最大ユニコーンであるByteDance(バイトダンス)は、『Toutiao』や『TikTok』などの機械学習を活用したサービスを提供しています。Toutiaoは日本でいうGunosyで、一人一人のユーザーにパーソナライズされた、“読みたいニュース”を届けてくれます。
また、TikTokは日本だとダンス&口パクアプリのイメージが強いですが、中国版TikTokのDouyinにはEC機能が付いており、アパレル、化粧品、文具などのさまざまな商品の売り買いが可能に。面白ショートムービーを楽しめて、さらに買い物までできるという、人々にとって欠かせないサービスになっているのです。ByteDanceのサービスはGoogleやYouTubeと異なり、自ら検索をしなくてもパーソナライズされたレコメンデーションによって、常に飽きないユーザー体験を提供していることがポイントです。
中国版Uberとも呼ばれ、日本でも本格展開が始まっている『DiDi』。AI技術によって、タクシーに乗りたい人とドライバーをすぐにマッチングしてくれます。需要状況によって利用価格を調整する“ダイナミックプライシング”が採用されていることや、評価システムによって安心して乗車できることもポイントです。
また、DiDiは現在自律運転にも力を入れており、上海でロボタクシーのサービス開始も発表しています。Baiduも2019年9月に一般道のロボタクシー(レベル4)もテスト導入を開始。自律運転によるタクシー移動のトレンドが進み始めています。
上海で2019年7月より、ゴミの分別が条例化されました。分別を正しく行っていない人には罰金が科せられます。そこで出てきたのが「スマートゴミ箱」。AIで大量に学習させたデータから、あらゆるゴミを画像で認識し、自動で分別してくれる機能が付いています。利用者からすると、ゴミ箱にゴミを入れるだけで勝手に分別してくれるので、大変便利ですよね。
中国AI推進は顧客体験を磨くところから始まった
今回ご紹介した中国AIトレンドや事例においては、既存のtoC向けサービスにAIを組み込み、ユーザー体験のクオリティーを格段に上げているという点がポイントになっています。
AI開発を進める中で立ちはだかる壁は、「データ」です。中国では“便利で使ってもらえるようなサービス体験”を磨くことによって顧客データを集め、そのデータとAI技術を掛け合わせることで更に便利なサービスをつくり上げています。これこそがまさに、中国がAIで急成長できた理由だと言えるでしょう。データがなかなか集まらないと嘆く日本の企業は多いですが、「顧客体験やサービスを磨くことで自然とデータが集まってくる」というヒントを、中国の事例から得ることができます。
「中国AIがなぜ急成長するのか」については、事例やトレンドとともに今後の連載でもご紹介したいと思います。多くの日本人エンジニアの皆さんにも、海外事例からAI活用のヒントを得ていただけるとうれしいです。
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