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ジョブズも求めた“交差点に立つ人”になるには~プログラマーを「事業を作る人」に変えるジーズアカデミーの取り組みに学ぶ

働き方

    「かつて、スティーブ・ジョブズは『文系と理系の交差点に立てる人こそ大きな価値がある』と言っていました。事業化とエンジニアリングの双方に携われる人間こそが、ビッグビジネスを作るのです」

    そう話すのは、東京理科大学大学院の教授で、デジタルハリウッド大学で客員教授も務める幸富成(みゆき・とみなり)氏。ベンチャーマネジメントやコーポレートファイナンスの専門家である同氏は、6月1日、デジタルハリウッドが東京・表参道に作ったコワーキングスペース『G’s ACADEMY TOKYO BASE』のオープニングイベントでこう持論を展開した。

    日本におけるMOT(技術経営)の専門家としても知られる幸富成氏

    日本におけるMOT(技術経営)の専門家としても知られる幸富成氏(写真中央)

    「日本でメガベンチャーが育たないのは、投資サイドに『目利き』がいないからと言う人がいます。ただし、ベンチャーを運営する側の人たちに『事業化スキル』がないという現実も見逃してはいけません。

    例えばシリコンバレーには、技術と資金があり過ぎるほど豊富にあります。それでもGoogleのように大成するメガベンチャーがそれほど多くないのは、この事業化スキルを持つ人間がまだまだ足りないから。なので、そこをサポートしていくために『D ROCKETS』のメンターを引き受けました」

    幸氏の言う『D ROCKETS』とは、プログラミングスクールの『G’s ACADEMY(以下、ジーズアカデミー)』が、TOKYO BASEの設立と合わせて発表したインキュベーションプログラムだ。

    主にシード~アーリーステージのベンチャーを対象に、選考を通ったベンチャーには運営元のデジタルハリウッドが直接投資し、幸氏ほか複数名のメンターと「急拡大だけでなくベンチャーのVisionに応じた支援」(同社発表)を行っていく。

    デジタルハリウッドがジーズアカデミーを設立したのが2015年の4月。それからまだ約1年というタイミングで次の展開に乗り出した理由を、前述したTOKYO BASEのオープニングイベントから紐解いていこう。

    育成したいのは「プログラミングスキルがないとできないビジネスを創る人」

    ワークスペースや和室のミーティングスペースなどを備える『G’s ACADEMY TOKYO BASE』

    数種のワークスペースや和室のミーティングスペースなどを備える『G’s ACADEMY TOKYO BASE』

    はじめに、ジーズアカデミーがコワーキングスペースとインキュベーション機関を同時に立ち上げた理由を、運営元のデジタルハリウッド大学 学長の杉山知之氏はこう語る。

    「ジーズアカデミーを始めた真の狙いは、単なる『プログラマー養成機関』を作ることではなく、『プログラミングスキルがないとできないビジネスを創る人』を育てること。技術・デザイン・ビジネスの3つが融合した素晴らしいベンチャーがここから生まれていくようにしていきたいと思っています。そのためには、スキルを学ぶだけでなくインキュベーションも提供すべきだろうという考えで、今回『TOKYO BASE』と『D ROCKETS』をやることにしました」(杉山氏)

    経産省発表の大学発「ベンチャー創出数」として、私大では2位の実績を誇るというデジタルハリウッド(1位は早稲田大学)。ジーズアカデミーも開始からすでに4期が過ぎており、中からベンチャー起業を果たした卒業生も出てきている。

    そこで、こうした流れをさらに活性化すべく、「施設」と「インキュベート」の両面で支援を広げようと考えたのが今回の取り組みにつながった。

    その思いを反映して、コワーキングスペースのTOKYO BASEはジーズアカデミーの卒業生なら6カ月間、24時間いつでも無料で使用できるようになっており(一般利用は有料3万円/月)、幸氏らが務めるメンターとのミーティングも自由に行えるという。

    さて、ここで幸氏が指摘した「文系と理系の交差点に立てる人」の育成・輩出の話に戻ろう。

    D ROCKETSのみならず、近年の日本ではスタートアップ熱の高まりに呼応して、さまざまな切り口のインキュベート機関が立ち上がっている。

    だが、日本のエンジニア人口のうち約7割が受託産業に従事しているという状況(※デジタルハリウッド調べ。資料は以下)もあって、とりわけエンジニアサイドから「事業化スキル」を持つ人がなかなか輩出されていないのも事実である。

    世界の「自社サービスエンジニア(ユーザー企業のエンジニア)」vs「受託エンジニア」の割合(デジタルハリウッド発表資料より)

    世界の「自社サービスエンジニア(ユーザー企業のエンジニア)」vs「受託エンジニア」の割合(デジタルハリウッド発表資料より)

    この現状を打開し、杉山氏が言う「プログラミングスキルがないとできないビジネスを創る人」を育成するには何がカギを握るのか。そのヒントを、オープニングイベント最後に登壇した4人のコメントから考えていこう。

    スーパーマンになるのが非現実的なら「パートナーを探せ」

    《登壇者》

    ■株式会社スペースマーケット 代表取締役社長 重松大輔氏
    (D ROCKETSメンター)
    ■幸 富成氏
    ■株式会社ランドスキップ 代表取締役 下村一樹氏
    (ジーズアカデミー1期生)
    CONCORE’S株式会社 代表取締役CEO 中島貴春氏
    (ジーズアカデミー1期生)

    まず、冒頭で説明した事業化スキルの重要性を説く幸氏は、テクノロジーを駆使してビジネスを興す上で必要不可欠な「視座」についてこう語る。

    「アイデアと事業機会は違います。アイデアとは、いわば居酒屋で話すような思い付きの産物。一方、事業機会を見つけるとは、ユーザーにどう受け入れてもらえるかを考えたり、マネタイズポイントはどうするかまで考えた上でプランを詰めていく作業です。大事なのは、それをやるための視座があるかどうかなのです」(幸氏)

    例えばGoogle創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが“プロ経営者”としてエリック・シュミットを雇ったように、事業目線でのメンターは不可欠だと幸氏は続ける。

    「そして、その際に気を配るべきは、エンジニアと事業家を比べてどちらが上で、どちらが下と考えないこと。シュミットも、最終的にはペイジとブリンに経営権を譲っています。対等な立場で、それぞれの知見をぶつけ合うことが肝心なのです」(幸氏)

    エンジニアが1人で開発とビズデブ両方を極めるのは非常に難しいからこそ、その知見を持つパートナーを見つけるというのが幸氏の助言。「ビジネスディベロップメントについてディープに知る必要はなくても、『知る』機会を持つことが大事だ」と強調する。

    (写真左から)スペースマーケットの重松大輔氏、幸富成氏、ランドスキップの下村一樹氏、CONCORE’Sの中島貴春氏

    (写真左から)スペースマーケットの重松大輔氏、幸富成氏、ランドスキップの下村一樹氏、CONCORE’Sの中島貴春氏

    建設現場の工事写真を撮影・管理するサービス『Photurction』を開発しているCONCORE’Sの中島氏も、「自分で作りたいことが作れるというのはとても大きなスキルなので、その強みを活かしてパートナーを探すのがいいのでは?」と述べていた。

    これらの意見に同調しつつ、異なる視点でアドバイスを展開したのはスペースマーケットの重松氏だ。

    「エンジニアコミュニティとビジネスディベロップメントの人たちは分断しているところがあるので、そこが融合されるプラットフォームがあったらいいなと思います。水と油をうまく融合させる場作りが大切なのかもしれません」(重松氏)

    要は「物理的な場」も重要だということだ。エンジニアからすれば、日ごろ足を運んでいるような技術コミュニティのみならず、ベンチャー起業家の集いやピッチコンテストなどに足を運んでみるのも、「事業を知る」機会となるかもしれない。

    最後に、ランドスキップの下村氏は、自身もジーズアカデミーでプログラミングを習得した経験からこう話す。

    「プログラミングをやってみてすごく感じたのは、とにかく内に篭る仕事だなと。それはとても重要な時間ですが、事業を作っていく時には開発だけでは乗り越えられない課題もたくさんあります。なので、プログラマー自身が『なぜやるのか?』、『何をしたいか?』などを積極的に発信していく努力があると、ビズデブサイドの人間から思わぬ助け舟が得られることもあるんじゃないかと思います」(下村氏)

    取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部) ※一部写真はジーズアカデミー提供

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