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AI先進国中国の「AI人材育成」の秘密とは?「キーとなるのは、国策と“個人の貪欲さ”」

働き方

    本連載では、海外AIトレンドマーケターとして活動している“AI姉さん”ことチェルシーさんが、AI先進国・中国をはじめとする諸外国のAIビジネスや、技術者情報、エンジニアの仕事に役立つAI活用のヒントをお届けします!

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    海外AIトレンドマーケター | AI姉さん
    國本知里・チェルシー (@chelsea_ainee)

    大手外資ソフトウェアSAPに新卒入社後、買収したクラウド事業の新規営業。外資マーケティングプラットフォームでアジア事業開発を経て、現在急成長AIスタートアップにて事業開発マネジャー。「AI姉さん」としてTwitterでの海外AI事情やトレンド発信、講演、執筆等を行っている

    皆さん、こんにちは。AI姉さんことチェルシーです。

    昨今「日本はAI後進国であり、中国はAI先進国」と言われています。実際に中国では、2017年7月に次世代AI発展計画を発布し、2030年には世界トップのイノベーションセンターとして、AI大国になることを目指しています。

    では、その国策を支える「AI人材育成」はどのように進んでいるのでしょうか。

    今回は中国のトップAI人材の育成がどのように行われているのか、国や企業が行っている最先端の人材育成施策についてご紹介します。

    中国AI成長の考え方は“量質転化”

    元々AI研究・開発においては、米国・カナダや欧米等の方が進んでいました。今でも多くの研究者が欧米にいるのですが、中国におけるAI発展は「量質転化」という考え方に基づいています。

    中国AI開発においては「AIは開発・研究ではなく、社会実装の時代」と言われています。機械学習を用いたプロダクト・サービスを誰よりも早く市場にリリースし、データをより多く集められるか、というのが中国国内での動きです。

    なぜならば、現在はAI技術のTensorFlowを始めプラットフォームのオープンソース化が進んでおり、参入障壁が低くなっているからです。

    なので、研究者の質を高める前に、量を増やしていっています。実際にAI関連に関する中国の特許数・論文数は世界トップ。まだ質については課題があるものの、数としての勢いが伸び、結果質の向上に繋がっています。

    特許数

    ※参考:https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/patent-wars/ を元に筆者作成

    論文数

    ※参考:https://hai.stanford.edu/sites/default/files/ai_index_2019_report.pdf

    人口も14億人いる市場であり、「Big Market=Big Data=Best AI」というのが中国のAI開発の特徴です。AI研究者を見ても、圧倒的な数を誇るのが中国なのです。

    中国AIの開発の考え方

    中国のAI教育は中高生から

    中国では、2017年7月の次世代AI発展計画を受け、全国民を対象にAI教育プロジェクトを段階的に推し進めることになりました。

    そこで、高校生向けの「人工知能基礎」の教科書が2018年4月に出版され、全国40校のトップレベルの高校で使用が開始されました。

    顔認識をはじめとする画像認識AIスタートアップとして有名なSenseTimeが、上海の華東師範大学と協力して作成しており、当時、高校生向けのAIの教科書としては世界初です。

    人工知能基礎教科書

    ※参考:https://edtechzine.jp/article/detail/1807

    驚くべきは教科書の内容。全9章の中で、AI研究の歴史から始まり、画像認識、音声認識、動画認識などへの深層機械学習の適用、構文解析、Generate Adversarial Network(GAN)などの最新の研究成果まで紹介しているのです。

    次世代AI発展計画が発布されたのが2017年7月でしたが、中国教育部はこの計画を受けて、2018年1月に、「普通高等学校課程方案と国語学科課程基準(2017年版)」というカリキュラム設定の方針を発表。

    小中高でAI教育に関する授業を設け、プログラミング教育を展開することで、中国AI人材のレベルアップを図っているのです。わずか1年足らずでの教科書の展開スピードにも驚きですよね。

    また、新型コロナウイルスの影響で、中国では学校が休校となり、オンライン教育が主流になりました。その中でTencentは2019年2月、小中学生・教員向けに無料のAIプログラミングオンライン講座を展開したのです。

    内容も、小学生に向けにはSF映画のストーリーを組み合わせてAI学習が進むように、中学生向けには数学的基礎からアルゴリズムまで学ぶことができる、といったように工夫されています。さらに、全ての講座を修了した人には証明書が発行され、Tencentの長期トレーニングプログラムに進むことも。

    こうしたAIオンライン教育の無償化の動きはTencentだけでなく、ByteDanceのような他の企業も積極的に推進しており、新型コロナ期間中にAI人材を育成しているのです。

    オンラインAI学習

    ※参考:https://edu.qq.com/a/20200209/008557.htm

    Stay Hungry, Stay Young.

    TikTokを生み出した世界No1のユニコーン企業であるByteDance。

    ByteDanceはTikTokだけでなくニュースアプリToutiaoのように、機械学習を活用して急成長しているスタートアップです。そのCEO・Zhang Yiming氏が社員に向けて残した名言が、中国の人材の在り方を語っています。

    ーーかつてAppleのSteve Jobsが言った “Stay Hungry, Stay Foolish.” という言葉を、私は “Stay Hungry, Stay Young.” に変えたい。

    「若さを保つ」ということは、決して天井に到達せず、成長し続けるということ。逆に、多くの人はスキルアップしても、天井に達して成長が止まってしまう。

    Zhang Yiming氏

    Zhang Yiming氏も、かつて自身がエンジニアだった頃、自分の仕事と他社の仕事を区別せず同僚を手伝い、深夜に帰宅しては自分の趣味のためにプログラミングをしていました。エンジニアではありながら、営業部長と顧客のところに赴き、何が売れるのかを学んでいたとも言います。

    そして、Zhang氏が語る「伸びる若者の資質」は以下5つです。
    ・好奇心を持って、新しい技術やスキルを学ぶこと
    ・不確実性に楽観であること
    ・平凡にならないこと
    ・自分に満足しないこと
    ・重要なことを判断すること
    ※参考:https://mp.weixin.qq.com/s/NArx8I4InkffGiFn7554VQ

    日本のキャリアは「40代が活躍期」と言われていますが、中国で急成長するByteDance・Alibabaなどの社員の平均年齢は20代。中国では20代が最も活躍する世代なのです。

    「35歳までにキャリアを形成するのが中国の働き方。中国Alibabaのシニアは、若者観点を学ぶために資料をスマートフォンで作ることもある」とAlibaba本社の人に聞いたことがあります。中国では、40代の人でも若者から物事を学ぼうとするわけです。

    日本では働き方改革が進んでいますが、中国では「996」(=朝9時から夜9時まで、週6日間勤務)が昨年の流行語になるなど、キャリアに対しても貪欲で、よく働くのが特徴。AI人材においてもこのような競争社会から、世界のトップ人材が生まれているのです。

    貪欲なキャリア思考と環境

    ※筆者作成

    今回は中国AI人材が育つ環境や考え方についてお伝えしました。国策でもありますが、そもそも個人のキャリアへの貪欲さについても刺激を受けることが多いはずです。

    では、他の国のAI人材はどのように育っているのでしょうか。次回は中国以外の世界のAI人材育成についてご紹介します。

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