周囲との“スキル格差”がつらい駆け出しエンジニアへ。元記者・Zaim閑歳孝子に聞く「人と比べないキャリア」
今、未経験からエンジニアにジョブチェンジする人が増えている。
しかし、せっかくエンジニアとして転職できても、プログラミングスクールなどで身に付けた知識を応用できず、理系出身やベテランのエンジニアとのスキル格差にコンプレックスを抱えてしまう人も少なくない。
では、そうした駆け出しエンジニアは、どうすれば劣等感に支配されることなく、前向きに仕事を続けていくことができるのだろう?
今回お話を聞いたのは、850万超ダウンロードの家計簿アプリ『Zaim』を提供する株式会社Zaim代表取締役の閑歳孝子さん。
閑歳さんが新卒入社したのは出版社だ。記者として3年半働いた後、友人に誘われWebディレクターとしてIT企業に転職。在職中に自主開発したサービスが評価され、スタートアップに移り、そこで新たにエンジニアとしてのキャリアをスタートさせた。
当時、閑歳さんは29歳。30代を目前に未経験の技術職にチャレンジするとなれば、焦りを感じることもあったのではないかーー。そう尋ねてみると、意外にも「他のエンジニアと比べて自分にコンプレックスを感じることはなかった」とのこと。
周囲の目を気にすることなく、エンジニアの道を歩み続けることができたのはなぜなのだろうか?
「もう後がない」独学でWebサービスを開発
実は大学生の頃から、漠然とエンジニアに憧れがあったんです。というのも、大学時代に友人と一緒にWebサービスを作ったことがあって。
当時、休講や教室変更などの授業情報が学内の掲示板に紙で張り出されるだけだったので、それをもっと簡単にチェックできるようにしたいなと思ったんです。それに、せっかく授業を一緒に取っていても、話す機会がない人も多いのも気になっていました。
そこで、授業情報や自分の気持ちをシェアできる、今でいうTwitterみたいなコミュニケーションサービスを作ったんです。
いえ、C言語が大学で必修でしたが、きちんと学んだのはそれだけです。
このサービスを作った時は、私はHTMLを書いただけで、中身はプログラミングスキルのある友人が作ってくれました。その友人を見て、「自分の力だけでサービスが作れるっていいな」と思ったんですよね。
それにこのサービス、最終的には所属していたキャンパスの学生のうち、約95%もの人たちが使ってくれたんですよ。自分の友人だけでなく、知らないに人にも利用されていたのはうれしかったし、純粋にその経験がすごく楽しかったんです。
同時に文章を書くのが得意だったことや、記者の仕事に興味があったため、卒業後は出版社に入社しましたが、「いつかチャンスがあれば、開発スキルをしっかり身に付けたい」とずっと思っていました。
はい。当時はまだプログラミングの知識がなかったので、私はWebディレクターとして、エンジニアと営業をつなぐ役割を担っていました。
ただ、やっぱり自分でサービスを作ってみたい気持ちがあったので、独学して『Smillie!』という、写真をメールで送ると結婚式で使うようなスライドショーが作れるサービスを、プライベートで作ってみたんです。
それがメディアにも取り上げられて、多くの方に使ってもらえました。
「作らなきゃ」って思っていたんですよね。
エンジニアって実際に作ったものがなければ、「エンジニアです」と名乗ったところで、「本当なの?」となってしまうじゃないですか。だから、「自分はこういうものを作れるんだ」ということを証明しなければと思いました。
そうですね。サービス開発って作り始めはどんどん形になって進んでいる感触があるので楽しいんですけど、人に使ってもらえるレベルにすること、つまり完成形に持っていくためにクオリティを上げる最後の段階は、かなりしんどいんですよ。
でも、だからといって自分たちだけが使うサービスとして終わらせてしまうのは、自己満足だなと。自分で作れることを「証明」するための開発だったので、他の人にも使ってもらえるレベルじゃないと意味がないと思いました。
その時に考えていたのは、「エンジニアになるには、もう後がない」ということ。何か作らないと、絶対に次には進めない。それが分かっていたから、何とか作りきることができたんだと思います。
周りのエンジニアは「自分とはタイプが違う」
アクセス解析ツールを提供する会社でした。当初、エンジニアは社長と私だけだったので、サービスは全部二人で作っていましたね。
なかったですね。ただ、それは社内に比較対象がいないからというよりも「周囲のエンジニアは、自分とはタイプが違う」と思っていたからかもしれません。
はい。私の観測範囲が片寄っていたのかもしれませんが、当時は「何を作るか」ではなく「どう作るか」にフォーカスが当たった、技術を深めるタイプのエンジニアが多かったんです。
一方で、私がやりたかったのは「サービスを作るためのエンジニアリング」。技術を深める方向ではなく、どうすれば社会に役立つサービスを作れるかという視点で開発がしたかったので、彼らができることが自分にできなくても、それは当然だと思っていました。
大変でした(笑)。自分で解決しないといけなかったので、それこそトライアンドエラーの繰り返しで……。本当に苦しみましたね。
でも、出版社時代に「絶対に入稿締め切りに間に合わせなければならない」というプレッシャーの中でずっと仕事をしていて、精神的にかなり鍛えられたんです。だからそういった状況でも「やり切るぞ」という精神を保つことができたんだと思います。
たくさんありましたよ。まず、出版業界からIT業界に移った時にも思ったのですが、職種や業界それぞれで、文化や常識の違いがかなりあるんですよね。すると、出版業界側からすると当たり前に見えることが、個人開発のエンジニアは誰もやっていなかった手法になったりするわけです。
例えばエンジニアは当時、せっかく自分でサービスを作っても、それを「どう広めるか」をあまり意識していなかった人も多かった印象です。でも私は記者時代にプレスリリースを毎日山ほど受け取っていた経験があったから、『Smillie!』を作った時も当然のようにプレスリリースを作って配信しました。
その結果、いろんなメディアでサービスを紹介していただけて、人とのつながりもたくさんでき、転職にもつながったんです。
他にも、記者やWebディレクターの仕事を通して培った知識やスキルが生きたことはたくさんあります。異業種・異職種からの経験は、かなりの“強い武器”だと言えるんじゃないでしょうか。
人とは比べずに、自分の“強み”に向き合うこと
はい、採用しています。
「成長力」ですね。当社では選考過程によって、ZaimのAPIを使って、サービスやアプリをまるっと一個作っていただく課題をお願いする場合があります。
未経験で技術力がない候補者の方でも、「工夫した点」や「気を使った点」はコードを見れば全部分かるので、そこから今後の伸びしろを判断するようにしています。
そうですね。それに技術に特化した人だけが集まっても、サービスは作れません。
プログラミング以外にも、企画力があったり、マネジメントが得意だったり、いろんな強みを持った人が必要です。そういう面からも、未経験の方に対する間口は広くしたいなと思っています。
劣等感にからめとられてしまうのは、すごくもったいないですね。
人と比べる云々は抜きにして、業務とは別に、本当に作りたいもの作ってみるのはいかがでしょうか?
他の人の意見に左右されずに自分のやりたいことをやって、アウトプットを続けていれば、「君、こういうの興味あるんだよね?だったらこの仕事やってみない?」っていう感じで、新たなチャンスをもたらしてくれる人が現れるかもしれません。
そうですね。エンジニアの場合、何に興味があって、何ができるのかは、ものを作って見せないと周囲には伝わりません。
自分の手で作りたいもの、作れるものがあるなら、それを実際に作って「証明」する。
周りの人はきっとその変化に気付いてくれますし、その過程で、エンジニアとしての自信も付いてくるのではないかと思います。
取材・文/一本麻衣 編集/河西ことみ(編集部)
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