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ITでリアルを変えるには、業務系とWeb系の融合がカギを握る理由~トレタ×ツクルバ×ターミナルの「衣食住ベンチャー」座談会
ITが持つ本質的なパワーの一つは、それまで人や機械がやってきた諸々の無駄を省き、かかわる人間をより生産的な作業に向かわせる点にある。
その点で考えると、「衣食住」にかかわる既存産業にITが浸透していくことは、携わる人間の仕事を楽にし、生活を豊かにする可能性があるということ。今回紹介するトレタ・ツクルバ・ターミナルの3社も、こういった思いを掲げながら衣食住に関する産業をテクノロジーで変えるという挑戦をしている。
しかし、これまで長い間「ノンテク」で業務が回っていた既存産業に、突然ITを押し付けてもうまくいかないというのはよく聞く話だ。ITでリアルを変えるには、何が必要なのか。
7月15日、東京・渋谷にあるコワーキングスペース【co-ba shibuya】で行われたイベント『T3 Meetup!!』では、各社の事業紹介に加えてこの課題を解消するためのヒントが明かされた。
カギを握るのは、業務系システム開発の視点と、Web開発ならではのスピード感――。その詳細をイベントレポートとして紹介しよう。
衣食住をHackする3社の現況
まずは、『T3 Meetup!!』に参加した3社の事業と現況を簡単に説明しよう。
飲食店向けの予約・顧客管理サービスを提供しているトレタは、2016年7月時点で約6000店舗以上に導入実績を持つ成長ベンチャーだ。
同社の代表取締役を務める中村仁氏は、立ち飲みブームのきっかけとなった『西麻布 壌』を皮切りに、人気とんかつ店『豚組』を経営するなど、自らも飲食業で経験を積んできた。
その際に感じていた予約・顧客管理の手間と無駄を省くためにトレタを起業。CTOに増井雄一郎氏を迎えるなど、テクノロジーを軸に飲食店経営を根本から変えていくための取り組みを進めている。
この6月には、飲食店向けのメディアサービスなどを提供する企業と業務提携し、各社のサービスから直接お店を予約できる『メディアコネクト』の開始も発表。店舗側には予約実績管理を一元化できるというメリットを提供するサービスとなっており、さらに今後はPOSレジ情報とデータ連携する『トレタPOSコネクト』も拡大していく予定だ。こうして着々と飲食店のIT化を支援している。
続くツクルバは、これまでリノベーションや空間プロデュースを中心に伸びてきたベンチャーだが、近年はスマートハウス事業なども展開しながらテクノロジーシフトを強化している。
本イベントの会場となったワーキングスペース『co-ba』NETWORKの運営から、オフィスプロデュース、デザインファームへと事業拡大してきた同社は、2015年より中古リノベーション住宅を紹介する自社メディア兼オンラインマーケットである『cowcamo』も運営。現在は、テクノロジーチームを強化中とのことだ。
そして、最後に紹介するターミナルは、ファッションブランドとバイヤーをつなげるマーケットプレイス『TERMINAL ORDER』を運営するベンチャーである。
『TEAMINAL ORDER』は、ファッションブランドが集まる展示会での買い付けがメインで、非常にアナログなやり方で受発注業務などを行っていたバイヤーの仕事を、ネットで効率化するという日本で唯一のB2Bマーケットプレイスだ。
オーダーシートの作成から発注内容の手入力といった面を効率化し、オンライン上での受発注できるようにしたこのサービスは、履歴データを分析することで各バイヤーの購買傾向分析やブランド側からリテンションを促すようなことも可能になる。もともとは各社に導入する「業務用ツール」だったところからマーケットプレイスへとシフトチェンジし、今では180ブランド・5000バイヤーが利用している。
海外では、米ニューヨーク発のファッション卸売りサービス『JOOR』が伸びており、ニッチながら注目度の高い市場となっているという。
さらに、今年からオンライン上でのPR支援にも力を入れていく予定だ。同社代表取締役の瀬戸恵介氏は「合同展示会に出展しないとバイヤーに触れない情報や、雑誌などで宣伝しないと人目に触れないような世界をWebの力で刷新していきたい」と語っていた。
すべてを変えるのは不可能な中で、エンジニアがやるべきこと
さて、本題に戻ろう。なぜ、ITでリアルを変えるには、業務系とWeb系の融合がカギを握るのかだ。
前提として、
「今までのWeb業界は、ネットユーザー自体が伸びていく中で『数を増やし合う』のがミッションだったけど、今は各WebサービスのKPIが『量より質』に転化し出しているように感じている」
と話したのは、3社のエンジニアによる座談会で司会を務めたトレタのディレクター小島芳樹氏。この「質」を担保しながら、既存産業の中でサービスを普及させるには、“Webに閉じた開発”とは異なる視点が必要になるという。
ツクルバの谷拓樹氏はこう話す。
「既存産業には、長年の歴史の中で確立された固有の業務フローがたくさんあります。エンジニア目線で見たら『もっと効率化できる』、『今より便利にできる』と思えるような業務フローでも、中には実際問題として変えられない部分もあるんですね。ですから、この『変えられること』、『変えられないこと』をきちんと理解しないと、そもそもどんな機能が必要かすら議論できないんです」(谷氏)
つまり、実際に各産業で「常識」とされてきた業務フローについて深く知ることなしに、テクノロジーの良しあしを押し付けたところで、リアルを変えるには至らないということだ。
「とはいえ、そもそも既存業界の方々が『これはできない』、『これは変えられない』と思ってきたことを変えなければ、サービスとしての意味はないし普及もしません。だから、エンジニアから積極的に顧客の声を聞きに行って、何が課題解決の糸口になるのかを考えることが大切です。そうしなければ、開発も前に進まないのです」(谷氏)
この業務理解という点で、例えばトレタでは毎週金曜に営業なり取引先なり外部の方々の話を聞く『トレタ中学』という取り組みを行っているそうだ。各社とも、こういう細々した取り組みで現場や顧客の声に触れるようにしていたのが印象的だった。
そして、この業務フローの把握とそこから導き出すシステム要件の定義という面で、実はSIer出身者(≒業務系システム開発の経験者)が重宝される場所でもあるようだ。
3社共に開発時に用いている技術はWeb的なものが多く、トレタとツクルバはサーバサイドをRailsで、ターミナルはフロント開発をReact.jsで行うなど「今風のWeb開発」を行っていた。が、各社の開発陣のバックグラウンドを問うと、「元SE」と「Web系一筋」の人の割合がだいたい半々くらいというところが多いという結果に。
「Webだからできることを理解する人」と「業務から変える視点を持った人」とのマッシュアップチームが、【リアルを変えるIT】を作っていくためのヒントの一つになるように感じた。
トレタの芹沢和洋氏によれば、チーム内では「業務系一筋でやってきた人というよりは、経歴のどこかでWeb開発をやっていたエンジニアが多い」そうだが、そう話す同氏自身が新卒でSIer勤務とのこと。
同じくSIerでの開発経験があるターミナルのCTO山下博巨氏は、こう締めくくる。
「ウチはどんな技術を採用するかの判断に関してけっこう柔軟で、まだチームが小さいこともあって開発会議(顧客要望の採用・不採用も含めたミーティング)も全員でやっています。担当するエンジニアが『使いたい!』という技術があれば止めません。ただ、その技術を採用することで、お客さまの課題解決になるかどうかはキチンと考えてほしいと伝えています。その視点がなければ、技術は無用の長物だからです」(山下氏)
各メンバーにそこまで託している分、「知らないところで開発要件が決まっている、ということはない」と続ける山下氏。他人の決めた仕様書ありきで開発することにジレンマを感じている人は、こういった開発環境に身を置くメリットがあるだろう。
取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)
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