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「俺さえよければOK」元“マウンティングエンジニア”が気付いた、自分を特別視しないことの大切さ【庄司嘉織】

#働き方

今回登場してくれたのは、ドワンゴ、クックパッドで活躍した後、現在はシリコンバレー発のスタートアップ・ローンチャブルの日本法人でプリンシパル・ソフトウェア・エンジニアを務める庄司嘉織さんだ。

クックパッド時代は人事部長や技術部長として、同社の全エンジニアが参加するハッカソンの開催や、社員の労働環境改善などに尽力していた。

「全ての人がより良く働ける環境」をつくるスペシャリストとして、エンジニア界隈で有名な庄司さん。しかし実はキャリアの中で、「俺のチームさえ良ければいい」と自己中心的に考えていた時期があったという。

自分のチームのすごさをひけらかし、マウントを取ることばかり考えていた日々を、庄司さんは「明らかにしくじってましたね」と振り返る。どうやってそこから抜け出したのだろうか。

ローンチャブル・ジャパン合同会社 プリンシパル・ソフトウェア・エンジニア 庄司嘉織さん
ローンチャブル・ジャパン合同会社 プリンシパル・ソフトウェア・エンジニア 庄司嘉織さん
高校卒業後、バーテンダーや日雇いの仕事を転々とした後、IT導入サポートの仕事へ。『2000年問題』をきっかけに、25歳でエンジニアに転身。組み込みエンジニアとして外資系企業に就職。その後、ドワンゴで着メロ事業の課金バックエンドや電子書籍事業に関わり、開発リーダーを務め、クックパッドに入社。人事部長や技術部長を歴任した。2020年5月より、Jenkinsの生みの親である川口耕介氏が米サンノゼで立ち上げた、ソフトウェアテスティングの効率化を目指すスタートアップの日本法人、ローンチャブル・ジャパンに参画

自分のチーム以外は、全てダサく見えていた

――今日は庄司さんの「失敗」エピソードを聞きにきました。

ありがとうございます(笑)。単純な技術的ミスではなく、「何であんなことしちゃったんだろう」って、後から激しく後悔する失敗がいいですよね。

――はい。そういった“苦い失敗”ってありますか?

前々職のドワンゴにいた時、自分のチームだけより良くしようと思って、突っ走ったことですかね。その頃僕は、ドワンゴ会長の川上(量生)さん直下で『ニコニコ静画(電子書籍)』という電子書籍のプロジェクトの開発リーダーをしていました。

会長直下のチームだし、当時としては最先端なことをやっていたので、「俺たちってイケてるし、すごくね?」と他のチームにマウントを取ることで、メンバーのモチベーションを上げようとしたんです。

あの頃はいろんなことに対して斜に構えていましたし、他のチームのことなんてどうでもいいと思っていて。周りのやっていることが全部ダサく見えていました。実際に「あのチーム、あんな古いやり方で開発してるんだって(笑)」とかって、ディスったりもしていましたね。

ローンチャブル・ジャパン合同会社 プリンシパル・ソフトウェア・エンジニア 庄司嘉織さん
「今考えると、本当に恥ずかしいんですけど……」(庄司さん)
――ずいぶん尖っていたんですね……!

「俺らは特別」なのがかっこいい、と勘違いしていたんでしょうね。「俺たちは好きなようにやるから、お前らも自分で責任とって好きなようにやれば」って、周りを突き放していたんですよ。

その頃ちょうど、法人版GitHubである『GitHub Enterprise』 がリリースされて。それを自分のチームにだけ導入して、最新の環境でゴリゴリ開発するようなことをしていました。

――それは社内での反発も強かったんじゃないですか?

直接言われたことはなかったですけど、影では言われていたでしょうね。「庄司って、やりにくいなぁ」と思われていたんじゃないかと。

一度、別チームの企画の人に「川上会長に言われたことだから、これで進めます」と言われたことがあって。「お前の意見としてじゃなくて、川上さんが言うからやるっていうならお前を説得しても意味がない。それなら俺、直接川上さんと話してくるけど?」と喧嘩を売って 、ドン引きされたこともありました。

そんなことをやっていたんで、影ではいろいろ言われてただろうなぁと思います。

元同僚にメディアで褒められ、己の小ささを知る

――今すごく恥ずかしそうにされていますが(笑)、当時を振り返ってみていかがですか?

組織全体を良くするためにどうすればいいかを考え、動くことが圧倒的に足りていなかったですよね……。

僕がドワンゴを辞めた後、同社で技術コミュニケーション室長をしていた清水俊博(通称:meso)が、全社にGitHub Enterpriseを導入して、組織改革をしたんですよ。他にも、現場のエンジニアが自由に言語選定できるようにしたり、スケジュール管理の方法を変えたりして、エンジニアが快適に働ける環境を整えた。

その後、あろうことかmesoがメディアの取材で僕のことを褒めたんです。「嘉織が先駆けて『GitHub Enterprise』を導入していてくれたおかげで、全社導入できました」って。それを見て僕は、とてつもなく恥ずかしくなりました。

同世代で、ドワンゴに入る前からの知り合いで、一緒に開発していたこともあるmesoが全社改革できたのに、自分は「会社全体が良くなるように」なんて考えもしなかった。mesoのインタビュー記事を読みながら、「小っせぇなあ、俺……」と落ち込んだことを今でも覚えています。

ローンチャブル・ジャパン合同会社 プリンシパル・ソフトウェア・エンジニア 庄司嘉織さん
――なぜ当時の自分では気付けなかったのでしょうか?

あの頃の僕は、自分が影響を与えられる範囲を狭く捉え過ぎていたと思います。川上さんと直接話ができるポジションだったし、会社全体を変えられる立場にいたのに、何も行動を起こさなかった。

視野を広げれば、会社のためにできることはいっぱいあったはずなのに、僕は自分のチームのことしか考えていなかったんです。あの頃の自分は「うちのチームは最新の技術を使うし、すごいことやってるぜ」って周りをマウントすることに忙しかったんだと思います。

「壁をつくる」ことは、自分の限界を示しているのと同じ

――この失敗を、どうやって次の経験に活かしましたか?

その後、転職してクックパッドへ行ったんですけど、それ以降は自分の周りに壁をつくらず、会社全体にとって良いことをしよう、と考えるようになりました。「自分で張り巡らせた壁を取り壊して、全体最適を考えよう」と意識を変えたんです。

ローンチャブル・ジャパン合同会社 プリンシパル・ソフトウェア・エンジニア 庄司嘉織さん

ある時、クックパッドのカスタマーサポートチームが「ユーザーの声をサイトに反映させたいんですが、エンジニアに伝えにくくて」と話していたので、当時の技術部長に掛け合って、カスタマーサポート全員分のGitHubアカウントを発行してもらったことがありました。

その直後、GitHubの使い方講座をして、「ここに書き込めばエンジニアがすぐ飛んできますから」と、エンジニアとの連携体制をつくったんです。当時の僕は、サポートとは全然関係ない部署だったんですけど(笑)

他にも、意味のないパスワードの定期変更をやめる提案をしたりとか、会社全体にとって不便なことがあれば、自分の役割を越境して改善したりしていくようになりました。

――「会社全体にとって良いことを」という視点で動くと、たしかに多くの人が仕事をしやすくなりますよね。一方で、「うちの部署の仕事に口を出すなよ」と反発を招いて理不尽な思いをすることはありませんでしたか?

それが、意外となかったんです。現状を良くしたいと純粋な気持ちで動けば、意外と受け入れてもらえるものだと、その時初めて分かりました。だったら、「部署が違うのにお節介かな」とか「嫌がられたらどうしよう」って躊躇せず、みんなのためになることをしようと思うようになりましたね。

もうドワンゴにいた時のような後悔したくはなかったですし、自然と「自分のチームだけじゃなくて、会社全体をより良くしたい」と思えるようになりました。

それに、マンガの影響も大きかったんですよ。

――マンガですか?

三国志がテーマの『蒼天航路』(講談社)というマンガがあるんですが、そのセリフにハッとしたんです。魏の長、曹操が万里の長城を見てあざ笑うこんなシーンがあります。

これは確かに始皇帝の力の巨大さを示すものではあるが、同時に自分の支配が及ぶ空間はここが限界なのだと認めた証だ。大地に境界を引くこの長城、なんと壮大なる愚かしさよ

壁をつくるということは、自分の力の及ぶ範囲はここまでだ、と周りに知らしめていることと同じ。「ここまでしかやらない」と決めつけてしまうのは、自分の実力の限界を周りに宣言しているようなものだ、そんな意味合いです。

このセリフに強く共感して、僕自身は壁をつくらずに、どんどん部署や職域を越境していきたいと思いましたね。

ローンチャブル・ジャパン合同会社 プリンシパル・ソフトウェア・エンジニア 庄司嘉織さん
マンガのセリフに改めてシビれている庄司さん

自分を特別視せずに「越境」していこう

――技術部門に限らず「会社全体」のことを考える。でも各部署やチームの間には、少なからず壁があると思います。そういった壁を取り払うために、エンジニアはどう行動したらいいと思いますか?

相手をみくびらないようにする、ですかね。エンジニアってどうしても、自分たちのことを特権階級だと思っているところがある気がして。

ドワンゴ時代の僕なんてまさに勘違いしていましたけれど、「これは自分たちじゃなきゃ無理」とか「エンジニアの扱う言語やツールは、エンジニアでないと使いこなせない」と決めつけている人もいるんじゃないでしょうか。

ローンチャブル・ジャパン合同会社 プリンシパル・ソフトウェア・エンジニア 庄司嘉織さん

話が前後してしまうのですが、ドワンゴにいた頃、Webデザイナーの方にHamlを覚えてもらえたら助かるなと思ったことがあって。その日、「午後からHamlについて教える時間を取りたいんだけど、30分くらいいい?」って声を掛けたんです。すると、そのデザイナーが午前中のうちにHamlでできたデザインをぱぱっと作って持ってきてくれたんですよ。「試しにやってみたら、便利だし簡単でした~」とか言って。

こうやって、全ての人がどんどん学んで、新しいことを身に付ければ会社全体が良くなるし、自分の仕事もラクになります。でも僕は勝手に「デザイナーは教えてあげないとHamlを使いこなせない」って思い込んじゃっていて。無意識のうちに、周りのできることにも制限をかけていたんだなと反省しました。

よく考えたら、「エンジニアの扱う言語やツールは、エンジニアでないと分からないよね」っていうスタンス、すごい失礼ですよね。「どうせプログラムのことなんて、分からないんでしょ」って相手を馬鹿にした態度ですから。

――全てのポジションの人が「越境」してくれたら、どんな仕事もスムーズになりそうですよね。

そう思います。だからまずは、自分から壁を壊して越境していくスタンスがいいんじゃないかなと。

――とはいえ、自分の仕事だけでキャパオーバーしそうな時に越境って難しいですよね……。

確かに僕も、あまりに忙しいときは越境できないです(笑)。ちょっとメモしておいて、余裕ができたときに周りに声を掛けてみる、それくらい軽い気持ちでもいいんじゃないかなと思います。

イメージとしては、越境して別の部署の仕事をするというより、自分の仕事をラクにしたいという気持ちを持ちながら、その思いを会社全体に波及させて、「みんなでラクになれないかな」と考える感じですね。

どうせラクになるなら、自分や自分のチームだけじゃなく、みんなでラクになろうよって思います。……でも、まだ僕もうまくできていないことだらけ。みんなで一緒により良いエンジニアリング環境をつくるためにあがいていきたいなと思っています。

取材・文/石川香苗子 撮影/赤松洋太 編集/大室倫子

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