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自分たちに“都合の良いストーリー”をつくっていないか? STORES CEOが失敗から学んだプロダクトづくりの本質

スキル

    先日、10月27日に「プロダクトマネージャーカンファレンス2020 ~見えない未来をリードするプロダクトマネジメント~ #pmconf2020」がオンラインで開催された。

    本記事では、ネットショップ作成サービス『STORES』を運営するストアーズ・ドット・ジェーピー株式会社の代表取締役CEO・塚原文奈さんが登壇した「急成長の裏側でSTORESが失敗していたプロダクトづくり」のセッションをレポート。

    リリースから9年間、急成長を遂げた STORESのプロダクト責任者・塚原さんが振り返る、「プロダクトづくり」の本質とは――。

    プロフィール画像

    ヘイ株式会社 / ストアーズ・ドット・ジェーピー株式会社 取締役 / 代表取締役CEO
    塚原 文奈さん

    2003年インテリジェンス、04年サイバーエージェントに入社。その後フリーランスにて事業開発系プロジェクトを担当。12年からストアーズ・ドット・ジェーピーの立ち上げに携わり、COO としてプロダクトマネジメント、組織マネジメントを担当後、16年より同社CEOに着任。18年ヘイ株式会社に経営統合後、同社取締役として、プロダクト部門全体の管掌をしている
    Twitter:@ayanadesu

    設立9年目。口コミやPRで急成長したSTORES

    STORES

    SNSなどの流行により、小さくても自分の「こだわり」や「好き」を突き詰める“スモールチーム”にもチャンスが与えられる時代になりました。

    2012年8月からサービスを開始したSTORESは、そんな小さなチームが楽しくビジネスを続けられるよう、テクノロジーとデザインでサポートするサービスを展開しています。具体的には、初心者でも簡単に「ネットショップ開設」ができるサービスで、そのほかにもheyでは「お店のキャッシュレス化」「予約システムの導入」を可能にするサービスを提供しています。

    設立当初は、スマホだけで本格的なネットショップを作れるようなサービスはなかったため、かなり好調なスタートでした。参入タイミングの好条件が重なり、最初の6年半はほとんど広告を使わず、口コミや広報活動だけでユーザーを増やすことができたほど。

    2018年には、上場も視野に入れた規模感に成長しました。現在は、私はプロジェクトマネージャーやプロダクトオーナーが属するチームの責任者として、プロダクト作りに携わっています。

    今回は、三つのサービスのうち「ネットショップ開設」にまつわる失敗事例2件と、この経験を通じて学んだことをお伝えします。

    失敗事例1.「人がたくさんいるところ」なら売れると勘違い

    STORESは、ネットショップを開設するオーナーさんが支払う月額使用料1,980円と決済手数料3.6〜5%によって利益が発生するビジネスモデル。当然、オーナーさんの売上が増えれば、弊社の売上も増えるわけです。

    STORES

    ただ、弊社はネットショップの開設自体は非常に簡単なのですが、集客に課題がありました。STORESでネットショップを開設するオーナーさんは、楽天やAmazonのような大型モールでは販売せず、在庫数が少なく希少性が高い傾向があります。そのためSNS等を駆使して集客をするのですが、それもなかなか難しく……。

    そんな事情から、オーナーさんの集客を支援して、オーナーさんと自社どちらの利益増にもつなげたいとの目的で、とある施策を打ちました。それは、「STORESでネットショップを作ると、有名企業の提携モールに自動で出品される」というもの。

    STORES

    アパレル関連のオーナーさんが多いこともあり、第一弾はZOZOさんとの提携が決定。

    ZOZOTOWN内に『ZOZOMARKET』というモールを作り、ここでSTORESのオーナーさんの商品を取り扱ってもらいました。さらに、手芸専門店のユザワヤさん、DeNAモバおこさん、タワーレコードさんなど名だたる企業と提携。提携先には集客を、弊社は出品商品を集めるというふうに役割を分担し、どんどんサービスを強化していったんです。

    これだけ聞くと、すごくうまくいきそうだと思いませんか? 私たちも期待していたのですが、このように出店のハードルを極限まで下げてもまったく売れなかったんです。

    失敗の一番の原因は、購入者のニーズに合致していなかったことでした。ある程度、名が知れたブランドがお手頃価格で商品を販売しているZOZOの中で、一点一点のこだわりを直接お客さまに伝えながら割高で販売しているSTORESの商品は、比較検討されると手に取ってもらえなかったんです。

    「たくさん人がいるから、たくさん売れる」というのは安直だったし、企業間連携で身動きが取りづらく、改善施策もうまく打てなかった。後にこのプロジェクトはすべて終了しました。

    <失敗と学び>
    ・「人がたくさんいるから売れる」は間違い。大きな池ではなくニーズの合う池を見つけるべき。
    ・他社提携は主導権を持ちにくい。進捗が悪い場合の打ち手まで、あらかじめ決めておく必要がある。

    <発見>
    ・有名企業との提携はオーナーさんのメリットが薄くても、新規オーナーさんに興味を持ってもらうためのフックにはなり得る。
    ・STORESはモールでは充足できないニーズを捉えることができる。実は、モールとはまったく違う市場にいる(これが一番の発見だった)。

    失敗事例2.他業界の成功事例を自分たちに適用しようとした

    サービスを運営する以上、お金を掛けずに新規ユーザーを増やしたいと思うのは当然のこと。例えば、メルカリ、minnne、noteのように、購入者が販売者にもなり得る、閲覧者が利用者にもなり得るサービスは世の中に多く存在します。

    そこで、STORESでも購入者さんが新規オーナーさんになってもらえるよう促す仕組みを取り入れました。具体的に行ったのは、購入者さんに向けてオーナーさんと共通のIDを付与すること。一つのIDがあれば、出品者にも購入者にもなれる、メルカリみたいなイメージです。

    STORES

    そこで、なるべく多くのIDを取得するために「購入しないけど来訪してくれた人」へのアプローチとして、お気に入りのストアをフォローできる機能を作りました。登録者はフォローしたストアの最新情報を見逃さずにキャッチでき、あらかじめ情報を入力しておくことでスムーズに購入もできます。

    そして、IDをつくった人が目にするページに、いつでもネットショップが開設できる青色のボタンを配置し、開設を促す導線としました。

    しかし、結果的に新規IDの数は増えましたが、新規オーナーさんはまったく増えませんでした。

    この原因は、商売を始めるというハードルの高さにあったと思います。売りたいものがなければ売り手になるのは難しいですが、この課題への施策をセットで考えることができていなかったんです。その後、共通のIDは廃止して、オーナーさん・購入者さんごとに付与する仕組みに変更しました。

    <失敗と学び>
    ・書い手から売り手へ、コンテンツ受益者から提供者へという流れは必ずしも作れるとは限らない。他業界の成功事例が、自分たちにも適用できるか見極めるべき

    想定外の結果が出たのは、悪いことではない

    STORESでは、この他にも消えていった機能や付随サービスがいくつもあります。その中でも、今回ご紹介した二つの施策は、社内の人には「めちゃくちゃおもしろいね!」とすごく絶賛されたもの。でも、蓋を開けてみたら、外から見てうまくいきそうなことと本質的にうまくいくことは違うことが分かりました。

    今回の失敗から学んだのは、施策を打つ際に「自分たちの都合の良いストーリーになっていないか」を確認すべき、ということ。もっと自社のサービスに真摯に向き合うべきだと実感しました。

    ただ、想定外の結果が出たのは悪いことではないし、なぜダメだったかを振り返ることで、それが大きな知見になります。失敗から学び、学びを土台に次の施策を打つ。これの繰り返しが、プロダクト作りですよね。これからもめげずにどんどん施策を打って、良いプロダクトを作っていきたいと思います。

    文/小林香織

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