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33歳でアーリーリタイヤしたエンジニアが「技術力以外」の大切さを説く理由~『SOFT SKILLS』著者に聞く
プログラミングに関してズバ抜けた能力を持つエンジニアが、とあるシステムを作ったとしよう。コードは可読性が高く、最新のフレームワークを使いこなしてもいる。
にもかかわらず、ユーザーには不評で、ほとんど使われずに放置されているというケースを見たことがあるエンジニアは案外少なくないのではないだろうか。
一方、この世界では、技術力の面で平均かそれ以下のエンジニアたちが作ったシステムがユーザーから好評を得たというケースもままある。この2つのケースで、違いを生んでいるのは何なのか?
実は開発担当者がユーザーの下に足しげく通ってサポートしていたり、ユーザーの声をつぶさに拾い上げながら機能開発をしていたなどと、「技術力以外」のところに理由があったりするものだ。
個人のキャリアでも、似たようなことがよく起こる。「技術的に優秀」であることと、「技術者として優秀」であることはイコールではない。つまり、テクニカルスキルはエンジニアが成功する必要条件にこそなれど、必要十分条件にはならないのだ。
今年5月に発刊された『SOFT SKILLS ソフトウェア開発者の人生マニュアル』は、まさにこの事実に焦点を当てた書籍である。
エンジニア向けの本なのに、コードサンプルも、技術解説も出てこない。書いてあるのは、賢いキャリアの築き方、給与交渉術、自己アピールのやり方、技術の学習法、生産性を高める方法、投資や不動産運用の話、心身の鍛え方、恋愛で成功する方法……すべてエンジニアがより良い人生を送るためのライフハック術だ。
本著を執筆したのは、米でITプロフェッショナル向けWebメディア『Simple Programmer』を運営する他、複数の事業を行っているジョン・ソンメズ氏。19歳から働き始め、一時期はヒューレット・パッカードなどでも仕事をしていたエンジニアである。
ただ、勤め先からのレイオフ(解雇)やベンチャーの倒産といった苦い経験もしており、契約社員で食いつなぐような時期もあったという。そういった人生経験から本著にあるようなソフトスキルの重要性に気付き、自ら実践することで、33歳という若さで引退(彼の言う「引退」とは、時間とお金に縛られない自由な生活を送ることだそう)している。
そのソンメズ氏に、なぜソフトスキルだけを取り上げた書籍を執筆したのか、メールインタビューを行った。彼のコメントを紹介しよう。
コードだけでなく、日々の計画について「書き続ける」習慣を持とう
私が人生を賭けてやるべきことの一つは、私自身が学習してきたことを活用しながら、他の人にも理解しやすいように伝えていくことだと気付いたからです。自分が心血を注いできたことを誰かに共有する。それも熱心に。素晴らしい仕事だと思いませんか?
例えばあなたがトイレ清掃員なら、他の清掃員に学びながら仕事を覚えていくはずです。医者や弁護士、サーカスのピエロでも同じでしょう。すべての職業人は、同じ職業に従事する人から、仕事のやり方や生き方などさまざまなことを学ぶものです。
だからこの本は、私の仲間である多くのソフトウエアエンジニアと、より良い人生を送る方法を共有したいと思いながら執筆しました。
私がこれまで経験してきたこと、学んできたことは、全て人生の教訓になっています。ですから『SOFT SKILLS』の内容も、すべて私自身が役に立つと思った助言や教訓から生まれています。それを皆にも共有したくてたまらなったから、出版しました。
でも、この本に記したソフトスキルの数々は、きっとプログラミングのスキルより役に立つはずです。他のどの技術書を読み漁っても、見つけられない情報ですし(笑)。
ソフトスキルを持つエンジニアは、雇用者にとって価値があり、転職市場で求められ、また、人生で事を成し遂げて幸福な人生を思いっきり楽しむことでしょう。そしてそれは、多くの人に影響力を持つことにもつながります。
熟読してくれてありがとう。その通りです。
書くという行為は、心を耕すために必要不可欠なんですよ。書くことで、他人に理解してもらえるようになりますし、ドキュメントを残す作業は自分の頭の中を整理することにもつながります。
つまり、書くという行為は考えを強固なものにし、本心をさらけ出すことなのです。そして、あなたをより良い伝達者(コミュニケーター)にしてくれます。だからレコーディングスキルは重要で、種々のソフトスキルを磨く上でも大事な習慣となるのです。
私自身、昔は書くことが嫌いでした(今も時々そうなのですが)。多くのソフトウエアエンジニアが、文章を書くのが苦手と言われています。でも、その理由を分析すると、職業上「書く」ことによる恩恵を受けた経験があまりないので、嫌いになっているだけなんじゃないかと思うのです。
自分だけの音楽を奏でたいとギターを手に取っても、演奏できない状態が続けばきっと嫌いになるでしょう。しかし、練習する時間を「美しい音楽を紡ぎ出すための時間」と考えれば、ギターが好きなままでいられるかもしれません。書くことも、これと同じなのです。
毎日、何かしら書いてみてください。1日に1000語書くこと。何について書くかは問題ではありません。書くことを習慣にするんです。
私は通常、1日に1時間は何かを書いています。1日1000~2000語くらいは書きます。この習慣を続けると、書くという作業は簡単で楽しいものになりますよ。
キャリアの「自己ブランド化」を若いうちから意識しよう
ありがとうございます。
なるほど。
就職したばかりのエンジニアが、自己ブランドを確立するのは確かに難しい。文字通り、「まだ何者でもない」状態ですからね。それでも、私はあえて若い時から自己ブランド化を目指すのを勧めます。
若い時期にすぐ周囲の信頼を得たり、社外で名声を得るようなことはそうそうありません。それでも、努力して身に付けた専門知識が無駄にならないよう、小さくフォーカスしながら自己ブランドを作っていくべきです。
大事なのはフォーカスすることです。ニッチであればなおいい。そして、(専門性を身に付けるための)努力の結晶を、その時々で形にして示すのが大切なのです。それがあなたのキャリアになります。
この前提に立った上で、エンジニアとして成長していく過程で、自己ブランドを発展的に進化させてください。進化させなければ生き残れません。その際、(今では世界中に広まった)アジャイル開発メソッドのように、最初からブランドが示す特徴をすべて持つことを意識してください。ブランドとは、反復によって築かれるものなのです。
そうやって垂直志向で築いた自己ブランドは、水平志向で築いたものより価値があります。「広く浅く」より、「狭く深い」特徴を持つエンジニアの方が価値があるということです。
質問に話を戻すと、年齢に関係なくできるだけ早く自己ブランドを築くための一歩を踏み出すのがベストです。難しいことであったとしても、進化を繰り返すために種を撒くことから始めましょう。
ソフトスキルを学び、実践できるようになるまでの過程で、どれを優先して、どれを後回しにするといったような順位付けをするのは難しいですね。ソフトスキルを磨く作業は、ルービックキューブを解くようなものなんです。つまり、それぞれの側面が関係し合っている。
逆に言うと、あるソフトスキルを習得すれば、他のソフトスキルを磨く手助けになります。どのスキルも、完璧に習熟できるということはあり得ません。行きつ戻りつしながら伸びていきます。
とはいえ、せっかく質問をもらったのであえて優先順位を付けるなら、「学び方を学ぶ」ことから始めるべきだと思います。本の第3部でまとめた内容です。これが、他のソフトスキルを磨いていく上でのベースとなるでしょう。
自分を教育できるエンジニアは、教えてくれる誰かに頼る必要がなくなるので、他のスキルを容易に獲得できるようになります。
もう一つ強調しておきたいのは、最後にモノを言うのは本書でも要所で述べている「忍耐するスキル」だということ。どんな仕事も、何かを極めるには長く険しい道が待っています。すぐあきらめたり、行き先が見えているにもかかわらず“小道”に入るのを躊躇するような人は、何一つ成し遂げることができません。金銭面でも、大きな利益を得られないのです。
教えよう、見方を変えよう。そこから人生が変わり出す
はい、何でも聞いてください。
確かに、多くのエンジニアはこの段階で躓きます。
理由はいろいろで、ある人は「教えるほどの知識がない」と言い、ある人は「教えようとしたところで誰も聞いてくれない」と言います。またある人は、「そもそも教えることが得意じゃない」と思っていたり。
こういった人たちは、教えるための許可や機会を待っていることが多いんです。
私が皆さんに伝えたいのは、そういった考えはすべて見当違いだということ。教えるとは、他人が理解できるように情報を再構築する行為に過ぎないのです。
ここで重要なのは、教えようと努力することであり、結果ではありません。
人は誰でも、学んだことを何かに書いたり、ビデオに撮ったり、仲間にプレゼンすることができます。情報を集約し、学んだ結果として何かを生み出す行為が良い結果をもたらすのです。究極的に言うなら、誰も聞いていなかったとしても、「教えようとする」のが大切なんです。
あなたが今日学んだことを、あなたの飼い猫に教えてみてください。情報を発信することができれば、教える相手は問題ではありません。
アメリカの思想家で、哲学者、詩人でもあったラルフ・ワルド・エマーソンはこう言いました。
「会う人誰も、私より優れた面があり、学ぶことができる」
これを裏返して言うと、経験、地位や権威がなくても、何かを教えることができるのだという意味になります。自信は必要でなく、ただ大胆さと勇気が必要なのです。
そうですね。
あなた自身の見方を変えることから始めてみてはどうでしょうか。言葉には力があります。見方と表現法が、自身の限界を決めるのです。
ですから、「ルーティンワークが苦手だ」とか、「金融知識がない」とか、「自分はダメな負け犬だ」などと言わずに、こう言ってみてください。
「僕はルーティンワークが苦手だと思っていたけれど、今、『自分で自分の限界を決め付けていただけなんだ』と知った。だから今日から変われるんだ」
と。『SOFT SKILLS』は、あなたのような人に自分の限界を克服してほしいと思って書いた本なんです。あなたは本を読んだから、このような質問をくれたのですよね?であれば、自分自身の見方を変えることから始めましょう。
最初は、1つ、2つと(本に書いてある)小さなchangeから取り組めばいいんです。そして、鏡をまっすぐ見て、自分を改めて評価してみてください。きっと、ダメじゃないあなたが写っているはずです。
例えば、すべてのソフトスキル向上に不可欠な「ハードワーク」は、人並み以上にやってきたよな、とか。
よかった(笑)。そうやって、現実を客観的に見直すことからすべてが変わるのです。合わせて、今までどこにいたのか、これからどのように変化したいかを考えてみてください。
その変化した姿に到達する現実的なプロセスを考え、何かに書き止め、習慣化し、考えなくても行動し続ける方法を見つけてください。きっと人生が変わり出します。
人生を賭けてやるべきミッションとは、目標を達成することではなく、目標達成に邁進する人間になること。これが真理です。多くの人はお金持ちになろうとしたり、人気の会社に就職しようとしたり、素敵な恋人を見つけたり、成功したいと願っています。しかし、これらの目標を達成したとしても、本当の意味で満足感を得ることはないでしょう。
「満ち足りている」という心理状態は、目標を達成しようとする過程で感じる人間的成長から生じるのだと思うのです。その意味でも、ソフトスキルはとても重要。ソフトスキルを磨くとは、すなわち人間的成長と言っても過言ではありません。
そしてこの人間的成長は、流行りのプログラミング言語や最新のJavaScriptフレームワークを習得することなんかより、崇高で価値のあることだと信じています。
取材・文/伊藤健吾(編集部) 写真/本人提供
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