Sansan株式会社 執行役員/CTO 藤倉成太さん
株式会社オージス総研でシリコンバレーに赴任し、現地ベンチャー企業との共同開発事業に携わる。帰国後は開発ツールなどの技術開発に従事する傍ら、金沢工業大学大学院工学研究科知的創造システム専攻を修了。2009年にSansan株式会社へ入社。現在はCTOとして、全社の技術戦略を指揮する
転職活動を始める時、自分がどんな会社に行きたいのか、希望の条件が絞り切れずに悩む人は多いもの。そこで今回は、Sansan株式会社 執行役員/CTOの藤倉成太さんが登壇した、転職サイトtype主催「type エンジニア転職フェア ONLINE」のセミナー内容の一部を紹介したい。
CTOとしてエンジニア採用にも携わり、大勢の新卒や中途採用者を見てきた藤倉さんが語る、エンジニアが転職の希望条件を絞るためのコツとは? 三つのポイントにまとめてレポートする。
Sansan株式会社 執行役員/CTO 藤倉成太さん
株式会社オージス総研でシリコンバレーに赴任し、現地ベンチャー企業との共同開発事業に携わる。帰国後は開発ツールなどの技術開発に従事する傍ら、金沢工業大学大学院工学研究科知的創造システム専攻を修了。2009年にSansan株式会社へ入社。現在はCTOとして、全社の技術戦略を指揮する
ソフトウエアに関係する仕事といっても、会社の業態が違えば、仕事の醍醐味や楽しみ方が大きく違ってきます。業態の違いは、インフラ、バックエンド、フロントエンド、モバイルといったエンジニアの種類の違いよりも重要と言えるでしょう。
一例として、ソフトウエアシステムを受託開発する会社と、自社でサービスを提供する会社のエンジニアを比較してみます。
受託開発の会社は、お客さまからのオーダーに対して最適なソフトウエアソリューションを提供するのが仕事。通常、社内では複数のプロジェクトが同時並行で進められており、プロジェクトの成功率が経営の成否を決めます。
そのため、好ましくない状況に陥ったプロジェクトがあれば、すぐにリカバリーする必要がある。例えば退職等で欠員が出れば、すぐ補充するでしょう。
そうした状況下では「特定のエンジニアしか解決できない」というテーマがあるとすごく困るわけです。プロジェクトは、いつでも誰でも成功させられる状態でなければなりません。となると、プロジェクトで使う開発技術は可能な限り失敗のリスクが少ない、枯れたものを使うのが正義になってきます。
この業態の会社では、一番重要なポジションはプロジェクトをマネージして成功に導くプロジェクトマネジャーです。ですから、受託開発の会社でキャリアを積もうと考えているなら、現場でコードをバシバシ書くより、予算が数億、数十億円の大規模なプロジェクトを、主担当として数多く成功させていくことに喜びを見出したほうがいい。そこにやりがいや充実感を覚えられる人が、この業態に向いていると言えます。
一方、私が所属しているSansanのような自社サービスを提供する会社は、開発するソフトウエアが唯一無二の価値を提供できるかが重要です。それが事業、ひいては経営の成否を決めていくのですから。
先ほどお話しした受託開発の場合、お客さまから要求されたものを作るので、作るものの価値は開発前にある程度分かります。一方、自社サービス提供会社がリリースするサービスの価値は、事前には分かりません。リリース後のユーザーの反応などで明らかになります。開発規模を小さくして細かい単位でリリースを繰り返すことも多いため、プロジェクトマネジメントの重要性も、受託開発とは少し違うニュアンスになります。
また、受託開発ではリリース日はお客さまに約束した厳守する日付ですが、自社サービス提供会社のリリース日は技術的なリスクやクオリティーを考えて後ろにずらすこともあります。リリースそのものが重要なのではなく、提供するサービスの価値を高め続けていくことに意味があるからです。さらに後者は運用も自社で行なうため、メンテナンス性の高さも重視されます。
つまり、受託開発会社もサービス提供会社も「コードを書く」という同じ仕事をしていますが、求められるコードの種類や質がまったく違うわけです。どちらが良い悪いという話ではなく、自分がどちらを楽しみたいのかを考えてみてほしいですね。
僕が今なぜこの話をしたかというと、仕事のパフォーマンスというものは、自分が納得して「これは絶対にやるべきだ」と思える仕事に向き合っている時に最大限まで高まるからです。皆さんにはぜひ、それができる環境に身を置いてほしいと思います。
会社は、自社の事業に貢献している人に高い給料を払いたいと思っています。営利企業であれば当然ですね。事業への貢献が具体的に何を指すかは、会社の業態で変わってきます。まずは会社の事業構造を理解することが重要で、そうすれば期待される役割も見えてきますから。
納得できない仕事をするのはなかなか苦しいので、まずは事業の意味や価値を理解して自分のキャリアを考えてみると分かりやすいのではないでしょうか。
どんな事業をしている会社に所属するか以外にも、キャリアを考える上では「自分にとって大切なものは何か」を深く考え抜くことが重要です。エンジニアまたは社会人としての成長なのか、働き方のスタイルなのか、あるいは収入なのか。もちろん、すべてが同時に手に入る環境はそう多くないので、大切なものが複数あるなら優先順位を付けておく。
「収入が一番大事です」とは言いにくいかもしれませんが、僕は全然アリだと思うんですね。その人の人生でそれが今一番大切なものだとしたら、他人がその順位にとやかく言う筋合いはないですから。
ただし、「○○がほしい」「○○になりたい」だけでは「そうですか」で話が終わってしまいます。「なぜそれが必要なのか」「どうしてそうなりたいのか」という理由や思いまで深く掘り下げて、言語化しておくことが大切です。
この時に注意してほしいのは、キャリアを考えることは「キャリアプランを作る」わけではないということ。エンジニアのキャリアプランは会社の要求や期待の影響が大きく、完全に自分の思う通りに計画を進めるのは難しいものです。自分でコントロールできない不確実なものを考慮しながらキャリアプランを作ろうとすると、必ずどこかで矛盾が生じてしまいます。
しかし、自分の感情や思いをベースにしたものには不確実な要素はなくて、今の自分にとってはそれが正解。だからこそ、まずは自分が大切なものを考え抜き、それが手に入りそうな環境や仕事を探す、という順序で進めれば、より良い選択ができるようになります。
自分の感情を大切にすることは、面接でも役立ちます。自分の感情に深く向き合った人の言葉には重みが出るし、圧倒的な熱量がこもりますから。
転職では培ってきたスキルや経験も重要ですが、それだけで合否を判断されることは少ない。面接官は、応募者の思いを必ず見ています。自分たちの仲間として、難しい仕事にも一緒に向き合ってくれる人を採用したいですからね。熱量を持って語る応募者の方が評価が高くなるというか、「この人と仕事をしたい」と思ってもらえるはずです。
自分の気持ちに素直になれば、パフォーマンスを最大化できる環境に身を置けますし、周りからも評価される。そんな好循環が生まれます。
エンジニアとしてのキャリアを考えたとき、スペシャリストを目指すのか、マネジメントに向かうのかに悩んでいる人もいるかもしれませんが、マネジメントという役割もスペシャリストの一つの方向性に過ぎません。
マネジメントというと、よくピープルマネジメントとか管理職としての勤怠管理が挙げられますが、それらはマネジメントの仕事のごく一部。たまに「人に向き合うのが得意だからマネジメントに進む」という人がいますが、ごく一部の仕事が得意というだけでマネジメント全体の成果が出せるかは分かりません。
マネジメントの仕事とは、仕事の進め方や将来の組織の在り方などを考えて決定し、実行していくこと。例えば予算管理一つとっても、「どんな方法で目指す将来の姿に近づけていくか」という投資の意思決定をする仕事です。これは僕の個人的な意見ですが、マネジメントというのは、とてもクリエーティブな仕事ですよ。
もしかすると会社でマネジメントの役割を求められているけれど、「自分はもう少しコードを書いていたい」と転職しようか悩んでいる人もいるかもしれません。しかし、現在のソフトウエアはチーム開発が主流であり、エンジニアであってもレベルが上がってくるとプロジェクトやそこで使われる技術の意思決定が期待されます。
それが、プロジェクトマネジメントや技術マネジメントですね。つまりスペシャリストとしての役割をまっとうしようと思ったら、マネジメントスキルは必須なのです。それが分かっていると、解決する悩みもあるのではないでしょうか。組織マネジメントにせよ、技術マネジメントにせよ、高度な知識が必要かつクリエーティブな仕事であることは共通です。
以上のようなことを意識しながら転職活動をすることで、エンジニアとしてより良いキャリアを積んでいく人が増えていくことを期待しています。
文/古屋 江美子
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