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良い実務経験って何だ?「エンジニアが実務経験を買うサービス」構想で話題の勝又健太さんに聞いてみた

#スキル

先日、「エンジニアが、企業の開発現場で実務経験を買えるサービス」についてTwitter上で賛否両論が巻き起こった。

この議論の火付け役となったのは、フリーランスエンジニアでYouTuberの勝又健太さん。エンジニアが企業に一定の金額を支払うことで、その対価としてサービス開発などの実務に参加できる枠組みを検討していたという。

勝又さんはなぜ、このようなサービス開発を検討していたのだろうか?

「労働搾取なのでは……?」と反対意見も多く聞こえるこの構想について話を聞いていくと、“お金を払ってでもほしい実務経験”とは何なのか、経験の浅いエンジニアが積むべき実務経験のポイントが見えてきた。

YouTuber/雑食系エンジニアサロン主催 勝又健太さん(@poly_soft)

YouTuber/雑食系エンジニアサロン主催 勝又健太さん(@poly_soft

会員数千人越えのオンラインサロン『雑食系エンジニアサロン』の主催者であり、登録者5万人超えのYouTubeチャンネル『雑食系エンジニアTV』運営者。クラウドアーキテクチャ設計、クラウドインフラ構築管理、基盤コード開発、DevOps/MLOpsを専門分野にしながら、幅広いモダンなスキルを習得している「雑食系エンジニア」。書籍に『21世紀最強の職業 Web系エンジニアになろう』(実業之日本社)
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今、「実務経験を積みたいエンジニア」と企業間にはギャップがある

――勝又さんはなぜ、「実務経験を買えるサービス」が必要だと思ったのですか?

どんな仕事でもそうですが、勉強だけするよりも苦しみながら実務を経験する方がずっと早く成長できるからです。

未経験エンジニアがWeb系自社開発企業に転職する方法としては、数カ月から半年程度勉強してポートフォリオを作ってから転職活動に臨むやり方が一般的。でも本当は、基礎知識を1カ月ぐらい集中的に勉強したら、あとは現場を経験する方が圧倒的に成長効率が高いわけです。

とはいえ現時点では、1カ月勉強した程度でエンジニアになろうとしても、入社できるIT企業は一部のSES系企業に限定されます。うっかりブラックなSES系企業に引っかかってしまうと、家電量販店での携帯電話の販売など、開発とは全く関係のない仕事をやらされることもあるそうです。

――確かに転職市場では、実際にそういう経験をした方がいると聞いたことがあります。

そうならないためには、開発実務の経験を積める可能性が高い自社開発企業や受託開発企業に入社する必要があるのですが、そういった企業は人気が高いので1カ月勉強した程度ではまず入社できません。

エンジニアは早く成長したいけれども、なかなか良い実務経験を得られる会社に入れない。一方で、自社開発企業や受託開発企業も人はほしいけれども、給料を払う以上は十分にレベルの高いポートフォリオを作りきれた人しか採用したくない。このニーズのギャップをうまく埋める方法はないかなと考えたんです。

――その方法が、「実務経験を買えるサービス」だったのですね?

そうです。結論から言うと、このギャップはお金で解決できるのではないかと思いました。

例えば、金銭的に余裕がある未経験エンジニアがいて、企業に1カ月20万ぐらい支払えるのであれば、その人に実務経験を積ませてくれる企業はあるかもしれません。自社開発系のスタートアップだと、あまりキャッシュに余裕がないケースも多いので。

YouTuber/雑食系エンジニアサロン主催 勝又健太さん(@poly_soft)
――なるほど。ただ、勝又さんは自身のYouTubeなどでも、品質の高いポートフォリオを携えた転職活動を推奨されてきましたよね。それなら「ポートフォリオを作ってあげるサービス」のようにしてもよかったのでは?

そのためのサービスも『雑食サロン(※勝又さんのオンラインサロン)』の一部で提供していますよ。しかしポートフォリオはWeb業界の転職において非常に有効ではあるものの、あくまで転職するための手段でしかありません。だから、それ無しに入社できるのであれば本来作る必要のないものです。

そもそも、他の職業ではいきなり実務の場に飛び込む方が普通ですよね? 入社してちょっと研修したら、すぐOJTに移る場合がほとんどではないでしょうか。それなのに、まともな実務経験の得られる企業に転職しようと思うと、エンジニア界隈は転職前に必要な勉強量が多い。その時間は、よく考えると無駄ではないかなと。

――確かに、エンジニア人気の高まりに伴い、実務経験を積むハードルは他職種よりも高くなってしまっているようです。

現時点では、転職するなら自分で勉強してハイレベルなポートフォリオを作って競争するしかありません。でも、「お金よりも時間が大事」と考える、経済的に余裕のある未経験エンジニアがいるのならば、そういう人が勉強する時間をスキップできる仕組みがあってもいいと思うんですよね。

人材価値が高まる「良い実務経験」の構想

――そもそも、勝又さんの考える「良い実務経験」とは何でしょうか?

一言で言うと、人材価値が高まる実務経験です。

実務未経験者の場合は、Webサービスをゼロから設計して自分で実装して運用フェーズまでを経験できていると一番いいですね。他には、上流工程に携わったり、トレンドの技術を学べたりするのもいいと思います。今よりもレベルの高い企業への正社員としての入社や、より高単価な業務委託案件の獲得が実現するはずです。

――今構想されているサービスを使えば、まさにそのような経験を積めるようになるのですか?

それが、いろいろと調べたり相談したりした結果、企業が「実務経験を買えるサービス」を提供するのは法律上難しいようなんです。

また、この構想に対してTwitter上では「搾取になってしまうのでは?」という声がありました。日本で外国人技能実習生の扱いが社会問題になっているのと同じように、悪質な企業がサービスを利用すれば労働の搾取が生じる可能性はあるので、その批判はごもっともだと思います。

じゃあどうすればいいのかというと、企業によるサービスの提供が難しい以上、国の制度を使って対処できるようになるといいのかなと思っています。

YouTuber/雑食系エンジニアサロン主催 勝又健太さん(@poly_soft)
――というと?

求職者が国の指定した職業訓練校でITスキルを学べる制度は今もありますが、そういった座学の学習プログラムではなく、IT企業で実務経験を積める国家的な仕組みを導入したらいいのではないかなと。

例えば、国がIT企業に助成金を支払って、求職者はそこで3カ月間サービス開発を経験できるようにする。つまり、「未経験エンジニアが自分で実務経験を買う」のではなく、「国が実務経験を求職者に買ってあげる」というスキームは十分に可能なのではないかと思っています。

ただ、それは私が進められる話ではないのでデジタル庁さんとかにお任せして、それとは別にWeb系エンジニアが実務経験に近い学習をできるサービスを作ってみようかなと考えています。

――それはどのようなものでしょうか?

機械学習エンジニアにとってのKaggleのように、その学習サービスで実務に近いタスクを片付けて好成績を出すと、企業から高評価を得られるような仕組みをイメージしています。

もちろん機械学習エンジニアとWeb系エンジニアは業務内容が異なりますので、すぐに似たようなものを作れるわけではありませんが、「実力を証明したい未経験エンジニアや実務経験の浅いエンジニア」と「ポテンシャルの高い人を採用したい企業」の双方にニーズはあると思っています。

――転職前にそこまで極めようとすると、結局転職まで時間がかかってしまいそうですね……?

そうなんです。ただ、実務経験をお金で買って転職までの時間を短縮するのが現時点では難しい以上、求職者のさまざまなニーズに合ったサービスがあった方がいいのではないかと考えています。数カ月の勉強で入れる企業に入社できれば十分なのか、もっとハイレベルな企業でキャリアをスタートしたいのか、その辺りは人によって考え方が違いますので。

転職しなくても実務経験は積める。コロナ禍で増えた「リモート副業」

YouTuber/雑食系エンジニアサロン主催 勝又健太さん(@poly_soft)
――エンジニアが「良い実務経験」を積める場は限られています。勝又さんの周りの若手エンジニアは、どのように良い実務経験を積んでいますか?

『雑食サロン』の場合だと、実務で経験したことのない技術を使える業務委託の案件に無償で参画してスキルアップした後、そこで習得した技術を使える別の高単価案件に参画する、という戦略を取る若手エンジニアの方が増えていますね。

――まさに人材価値が高まる経験を積まれているのですね。どうすればそのような案件を見つけられるのでしょうか?

結構簡単ですよ。Wantedlyなどで自分の興味のある技術を扱っている会社を検索すると、中の人のTwitterアカウントが掲載されていることが多いので、キーマンを見つけて直接DMを送るんです。「平日夜と土日に参画できます。この技術を扱ったことがないので無償でやらせていただきたいのですが、いかがでしょう?」と。

これを100社ぐらいにやれば、数社は確実に話を聞いてくれると思います。一つでも新しい技術を使った業務経験を獲得できると、今度は「Aという技術で貢献するので、まだ経験していないBという技術を使う案件に参画させてもらえませんか」というように、次から次へと新しい経験を積める“わらしべ長者”サイクルに入っていけるはずです。

――参画できそうな案件を探すのではなく、自分から企業にアプローチする姿勢が大切なのですね。

そうですね。コロナ禍によって対面のイベントや勉強会がなくなったのはエンジニアにとっては打撃でしたが、リモートの副業を募集している企業が増えたのは明らかにプラスな影響でした。

以前は副業でも職場に来ることを求める企業が多かったですが、今はそうではありません。わざわざ転職しなくても、副業で実務経験を積みながらスキルを伸ばしていける時代になったので、この環境を活かさない手はないと思います。

取材・文/一本麻衣 編集/大室倫子

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