粉すけさん
1994年生まれ。福井県出身。中学卒業後、ゲームセンターの店員に。19歳でガス溶接の資格を取得。その後、とび職、トラック溶接、自動車整備、トラック運転手、バス塗装などさまざまな職を経験した末、24歳で独立。勝倉ボデーを創業する。最近では『アウトデラッックス』『ノブナカなんなん?』などのバラエティ番組でも活躍中
「自分らしく働く」をかなえたくても、気付けば周囲に右へならえで仕事や働き方を選択してしまう。そんな人は、エンジニアの中にも多いかもしれない。
そんなわれわれの目を覚まさせてくれるのが、「溶接ギャル」こと粉すけさんだ。
彼女は現在27歳ながら、板金塗装会社「勝倉ボデー」の社長として地域の信頼を獲得している。粉すけさんの、技術者としての仕事への向き合い方を聞いてみると、私たちが「自分らしく働く」ために大事な視点が見えてきた。
粉すけさん
1994年生まれ。福井県出身。中学卒業後、ゲームセンターの店員に。19歳でガス溶接の資格を取得。その後、とび職、トラック溶接、自動車整備、トラック運転手、バス塗装などさまざまな職を経験した末、24歳で独立。勝倉ボデーを創業する。最近では『アウトデラッックス』『ノブナカなんなん?』などのバラエティ番組でも活躍中
私がギャルになったのは、派手なのが好きだから。それまでロリータとか、昔でいうところのシノラーみたいな感じとか、いろんなカッコをしてたんですよ。全部に共通するのは「とにかく派手」ってこと。
それで、4年前くらいかな。ピンと来たのがギャルで。最初はパギャル(中途半端なギャル)だったんですけどね。楽しいな〜と思ってどんどん極めていったら、こんなことになってました(笑)
そんな私がなんで溶接の仕事をしているかというと、はっきり言ってただの偶然です。
もともと勉強が苦手で学校もほとんど行ってなかったので、国家資格でも取って手に職を付けたいと思って。当時、一番直近の日程で試験をやってたのが「ガス溶接技能者」だったんですよ。溶接を選んだ理由は、それだけ。
溶接工になりたいとか、そういう気持ちは全然なかったんです。実際、資格を取ってからも自動車整備の仕事とかもしてましたし。
じゃあなんで結局、溶接の仕事で起業までしたかというと、単純に向いていたからなんです。
見ての通り、私はメイクをするのが大好きで。自分のメイクのことを「顔面工作」だと思っているんですけど(笑)、キャラクターケーキを作ったり、アクセサリーを作ったり、そういうのも小さい頃からずっと好きだった。
溶接も、その延長という感じ。メイクも、お菓子作りも、溶接も、私の中では全部工作なんですよ。それをやっているときは集中できるし、デザインを考えている時間は楽しいですから。
自動車の整備をやっていた頃は、今思えば全然向いてなかったな……。整備って、ちゃんと手順がある仕事なので、マニュアル通りにやらないとダメなんですね。
でも私はその手順が覚えられないし、作業が終わった後に周りを見ると、使わなきゃいけないはずのネジが1〜2本余ってて「やば!」みたいな(笑)
でも、溶接とか板金の仕事って、最終的に見た目がきれいであれば、わりと工程は自由なんですよ。そういうところが私の性格に合っていたから、なんとか今日まで続けてこられた気がします。
結局、仕事って「向いていること」で勝負すると上達が早いんですよね。人間、向いていないことっていっぱいあるじゃないですか。
私なんて順序を守るのも道を覚えるのも苦手だし、社会人としては不適合なことだらけ。でも、そういう苦手なこととか向いていないことを無理矢理克服したって、人並みレベルになるだけ。
だったら、「向いていること」を伸ばしていった方が強いし、人より上のレベルまでいきやすい。
自分がやりやすいことを仕事にするのは、自分らしく働く上ではめちゃくちゃ大事だと思います。
技術者としての仕事のこだわり? なんだろう。あ〜、でも、この見た目だからやっぱり最初に会ったときはギョッとする人も多いと思うんですよね。「この人に任せて大丈夫だろうか?」みたいな。
そう思われるのは仕方ないなと思っていて。だって私がお客さんの立場でも、いきなりこんな人が出てきたら自分の車を任せたくないですもん(笑)
でも私は、ギャルをやめたくない。人にどう言われようと、これが私なので。
だから決めているのは、仕事をくれたお客さんに対して絶対に残念な思いをさせないこと。そのためにも、受けた仕事は一生懸命やる。
ギャルはプライドが大事。なめられるのだけは嫌なんですよね。すっごい負けず嫌いなんで、頼まれたことは意地でもやり遂げる。
むしろ、お客さんから無理めなお願いをされたときの方が燃えちゃいます。いきなりうちにやってきて、「これを3時間で直してほしいんだけど!」みたいな。
普通の会社だったら絶対断る、すっごいヤバめの案件とか、逆にやる気が出るんですよね~。で、絶対3時間以内に終わらせる。髪の毛ちょっとくらい燃えても知るか! 終わらせるぞ! っていう感じ(笑)
今時、そういう無茶するような働き方って流行らないのかもしれないし、人にもそうしろっていう気は全然ないけど。でもそうやってお客さんの期待に応えると、相手も思ってくれるんですよ、「見た目はヤバいけど、仕事はちゃんとやってくれる」って。
見た目のマイナスから入ってる分、プラスになると信頼もデカいというか。そうなると、こっちとしてもラッキーじゃないですか(笑)。「こいつに頼んだらなんとかなったぞ」って感じてくれたお客さんは、その後も定期的にお仕事をくれるようになりますね。
でも、いくら無茶振りに応えたくても、うちは私一人の小さい会社だから、どうあがいたってできないことも多いんですよ。大手みたいに立派な機械や設備もないし。
どうしてもと頼まれたって「すみません。それはできないです」って言わなきゃいけないこともいっぱいある。悔しいけど。だから、今の段階で技術力とか設備力で他と勝負したって勝ち目なんてないわけで……。
そこで、私が何で戦うことにしたかというと、「安さと速さ」なんですよね。
よそが15万円でやるっていうなら、こっちは10万円でやる。夜中の23時にやって来て、「バイクが壊れました。でも明日ツーリングの予定があって、朝6時には出発しなきゃいけないんです」って言われたら、徹夜上等で夜な夜な直す。
そういう働き方を嫌がる人も多いかもしれないけど、私は全然いい。むしろみんながそういうのを嫌がれば嫌がるほど、「そういうのが嫌じゃない私」の価値が上がるわけじゃないですか。「安くすぐに直して」っていうニーズはずっとあるわけだから。
で、私はお客さんから「こんな時間に来てもやってくれるのは、おたくだけだよ」って喜んでもらえるから、しめしめっていう感じです(笑)
他の人がやりたがらないことをやるのって、結構おいしいと思うんですよね。それだけで価値が出るし、感謝されるし。「あなたがやってくれるから、他の皆がやらなくてすむ」って言われたときとか、めっちゃうれしかったですよ。変ですかね?
そもそも自分の値段って、会社員でも自営業でも、自分で決めるものじゃないと思うんです。値付けをするのはいつもお客さん。
いくら自分が15万円の仕事だと言い張っても、お客さんが10万円の価値しか感じなかったら、やっぱりそれは高いと思われるわけで。私は最初から自分で自分を高値で売るのは、ハードルを上げにいってるだけだと思っちゃう。
それよりも、最初は安くていいから、コツコツ仕事をもらって、信頼を積み重ねて。そうやっているうちに「あそことは長い付き合いがあるし」とか、「あそこに何回も出したけど失敗されたことはなかったし」って認めてもらえるようになる。
そうしたら、そのお客さんから他のお客さんを紹介してもらえることも増えるし、もらえる対価も次第に増えて、仕事も安定する。
そうやってコツコツ信頼を積み上げていくことが、キャリアと呼ばれるものなんじゃないかな、と思うんですよね。
そういう実績ができるまでは、変にカッコつけずに、フットワークで勝負するのもありなんじゃないでしょうか。
とりあえず今の目標は、溶接界のダイソーになること。今、100均ってめちゃめちゃ有能な商品がいっぱいあるじゃないですか。
500円で売ってるものを見て、「これわざわざ500円で買わなくても、ダイソーに行ったら100円で買えるんじゃね?」って思うこといっぱいあるし。そういうニーズをひろっていける会社になればいいなと。
そのためにもまずは何かしらの技能資格を取りたいです。自分にどれだけの腕があるかって、口で説明しても、初めて会った人にはなかなか伝わらない。でも、資格があると一発で証明できる。そういうものがほしいなと思って、まだどれを取るかは決めてないけど、資格取得に向けて動いていこうって考えています。
あとは、出稼ぎに行こうかなって。さっきも言った通り、うちには立派な設備も最新の機械もないんで。将来的にそういうものを導入したときに自分で使えるようになるには、大手の工場に行って勉強するしかない。昼は大手で働いて学んで、夜はうちの仕事をやるっていう働き方も考え中です。
仕事し過ぎって? でも、私はこれがいいって思ってるんで、それでいいかなって。他の人にこういう生き方を押し付ける気もないですし。
それに、自分には溶接の道しかないというのは、もう分かってるんで。だから、職人の仕事に関しては本気です。
普段はこういうカッコしてますけど、仕事中はつけまつ毛もしないし、化粧もしない。爪も本当は可愛くしたいけど、仕事の邪魔になるから伸ばさないです。
仕事中は多少ブスでもいいです。身なりを気にするより、思うように仕事ができない方が私にとってはストレスなんで。
その代わり、オフのときはガンガン顔面工作しますよ(笑)。それができないとマジで自我が崩壊するんで。自分の腕で稼いで、そのお金で好きなカッコをする。難しいことはよく分からないけど、それが私の自分らしい生き方なんですよ。
取材・文/横川良明 企画・編集/大室倫子
NEW!
NEW!
NEW!
タグ