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「シュリンクの壁は必ずくる」クックパッド×LuupのCTOが考えるプロダクトグロース継続の秘訣【CTO’s BizHack】

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“ビジネスを加速させる技術屋”のヒントを探れ!

CTO's BizHack

技術領域でビジネスを支えるCTOが、他社のCTOを指名して「聞きたいこと」を聞いていく本連載。彼らの対談から、「プロダクトとビジネスをハックする」ための視点や思考を学んでみよう

>前回の記事:Web系スタートアップ「次の10年」に求められるものは何か? クックパッド×ウォンテッドリーCTOが導く答え

料理レシピサービスでお馴染みのクックパッド 執行役CTO・成田一生さんが「今話したい人」として対談相手に指名したのは、電動マイクロモビリティのシェアリングサービスを展開するLuup CTO・岡田直道さん。

岡田さんがエンジニアとして就職活動中にクックパッドに応募したことから、両者は顔馴染み。学生時代から知っている岡田さんが起業したLuupが成長していく様子を見て、「自分まで誇らしい気持ちになる」と成田さん。

生鮮食品ECの『クックパッドマート』を立ち上げたクックパッドと、マイクロモビリティのシェアリングサービスという新たな領域の開拓に挑戦するLuup。

新事業をグロースさせるため、エンジニアにできることは何か。お互いに気になることを質問し合ってもらった。

プロフィール画像

株式会社Luup CTO(共同創業者) 岡田直道さん

東京大学工学部卒業後、同大学院在学中より株式会社AppBrew、株式会社リクルートライフスタイル、Sansan株式会社など複数社で主にサーバーサイド・iOSアプリ開発業務を経験。2018年に株式会社Luup創業後はCTOとして、エンジニア組織の構築やアプリケーション開発・社内システム整備を管掌

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クックパッド株式会社 執行役CTO 成田一生さん

名古屋大学大学院を修了後、2008年にヤフー入社。Yahoo! メールのバックエンド開発に従事する。 10年にクックパッドに入社。サーバサイドのパフォーマンス改善や画像配信を担当後、インフラストラクチャー部部長や技術本部長などを務める。現在は、執行役 CTOとしてエンジニア全体を率いている

Luupは「物理世界のエラー」に技術でどう立ち向かうのか

――本日は、成田さんのご指名でLuup CTOの岡田さんにお越しいただきました。お二人はもともとお知り合いと伺っています。

岡田:実は私がソフトウエアエンジニアとして就職活動をしていた時、クックパッドさんとご縁がありまして。その際、何回か成田さんに飲みに連れて行っていただき、すごくお世話になりました。

成田:話をするのは、久しぶりですね。当時のことは今でも印象に残っています。大学卒業を控えていた岡田さんが、就職ではなく起業をする選択をしたことに、僕としては応援したい気持ちでいっぱいでした。

しかも、聞いていた話だとかなり険しい道のりを行くんだなと思って。それが最近では街でよく『LUUP』を見かけるようになって、勝手に何だか誇らしい気持ちになっていました(笑)

株式会社Luup CTO(共同創業者) 岡田直道さん

電動マイクロモビリティのシェアサービス『LUUP』

岡田:うれしいです! 就活の時に、成田さんにいろいろとお話を聞いていただいて、キャリアを考える上でとても参考にしていました。

また、起業してからはクックパッドさんを一つのロールモデルとして見ていました。

「食」という大きな社会課題に向けて、技術重視で解決に取り組まれている。当社も「移動」という大きな生活場面の課題に取り組む会社でもあるので参考にしています。

――今回なぜ成田さんは岡田さんをご指名したのでしょうか?

成田:当社では新規事業として『クックパッドマート』という生鮮食品の流通展開を始めました。その中でソフトウエアの問題はプログラムを修正すれば治るけど、物理世界で起こるエラーは簡単に直せないし取り返しがつかなくなるなど難しいことが多いと感じています。

特にLuupさんのように移動体を扱うと人命にも関わってくると思うのですが、物理世界で起こる課題にどのように技術で立ち向かってきたのかお話を聞いてみたいなと思ったんです。

クックパッドマート

生鮮食品ECプラットフォーム『クックパッドマート』。商品はコンビニ、ドラッグストア、駅構内、商業施設、マンションなどに設置された生鮮宅配ボックス「マートステーション」に届けられ、好きな時間に受け取ることができる

岡田:ありがとうございます。まさに、ユーザーに安全に利用してもらうためにたくさん工夫しなければならない点があります。

例えば、IoTの接続で苦労したのは、車体による通信プロトコルの違いです。Luupでは現在複数種類の車体があり、通信方式がMQTT、Socketなどバラバラなんですよ。

いろいろな通信条件がある中で、サーバー側が抽象化して振り分けるのはどうしても難しいので、当社では専任のIoTチームを置いています。そのチームでIoT周りの設計開発を任せているんですよ。

成田:IoT周りでの技術的な課題やトラブルはありますか? 例えばデプロイをする際、バージョンやプロトコルが違う、古いプログラムが生き続けているなど、簡単に置き換えできないこともあるのかなと。

岡田:まさにバージョンアップやファームウェア更新の時にありますね。以前はサーバーのIP一つ変わるタイミングで車体全部のファームウエアのOTAアップデートをかけないといけなくてすごく困っていました。

ですが、現在使用しているSIMがAPIゲートウェイのように通信を1カ所で受けて、その後SIMのIMEIや設定グループに応じて接続先を振り分けられるんですよ。それによってサーバーや車体の仕様変更にも柔軟に対応できるようになりました。

成田:デバイスのファームウェアは、OTAアップデートがかけられるようにしているんですね。

岡田:はい。全台アップデートできるようにしています。その際に接続が途切れて車体によっては誤動作を起こす可能性があるので、深夜などユーザーの利用が少ない時間帯に実行したり、場合によってはサービスメンテで実行したりと切り替え作業を行っています。

成田:ファームウェアやIoTのデプロイ、めちゃめちゃ怖くないですか? 同時に何百、何千台と文鎮になる可能性もありますよね。

岡田:めっちゃ怖いですよ! 事前に2〜3回テストをしても文鎮になったことがあったので、毎回ヒヤヒヤしながらやっています。

成田:ですよね。あと、キックボードの制御や安全のためにはどのような工夫をしているのでしょう。バグでキックボードが暴走したら事故を起こしかねないですよね……。

岡田:車体のハードウエアは当社が直接設計開発をしているわけではなく、パートナー工場と協力・調整しながら作り込んでいるというのを前提にお話ししますね。

車体の電源が落ちてしまった時に急停車せずブレーキ機構を自然に減速するように調整したり、最高時速15キロを固定にして走っているのですが、坂は加速条件が異なるので加速度の調節を行うことで安定した速度が出せるように制御したりしています。

あと、キックボードの暴走が起こらないように、もちろん工場側で品質試験もしていますし、Luupの倉庫に搬入後は何百、何千回と乗車・停車のテストをして問題ないかは社内で確認しています。

成田:全部人間が乗車してテストしているんですか?

岡田:そうです。新車体や展開エリアの都合などでテストのために公道を走れないこともあるので、倉庫内をずっとグルグルしたりもしています(笑)

成田:すごい(笑)。僕は以前イギリスに出張した時、電動キックボードのサービスがあって何度か使ったんですよ。その間、鍵のロックが解除できない、上手く動作しないなど、かなりのエラーに遭遇しまして。

おそらく海外だからそれくらいのクオリティーでも「仕方ない」で許される部分があるでしょうけど、日本は海外より「当たり前品質」を高いところに置いている。だから、すごく難しいんだろうなと思います。

岡田:おっしゃる通り「当たり前品質」がすごく高いラインで要求されるのはどうしてもあると思います。

また、国によりますが海外は乗り捨てが基本なんですよね。上手く作動しなければ乗り捨てられるんですけど、日本はどこかのポートまで持って行かないといけません。

海外ではギグワーカーが車体を回収して充電してもらうんですけれど、日本だとそうもいきませんしね。

成田:それでいうと、Luupはどのように充電しているんですか?

岡田:バッテリーが取り外し式になっていて、IoT経由でバッテリー残量が分かるので、残量の低いものを優先して満充電のバッテリーを交換しに回っています。また残量に関わらず定期的にバッテリー交換のメンテナンスも実施しています。

ただ充電が切れたりSIMの通信が切れたりして一時的に車体にエラーが出ることがあるので、その場合は車体のライド履歴や移動動線、どのポートにどのナンバーの車体があるかといった情報から、総合的に判断して捜索・回収をしています。

Slackに車体捜索用のbotがあって、車体番号を入力すると「今ここでこうなっています」と出るようにするなど、上手く管理できるように工夫しています。

クックパッドマート

成田:そこは人力に頼らざるを得ないですよね。

ユーザーが意図通りに使ってくれないことはありますか? 悪意はないけど、想定したのとは違う使い方をされて困ったエピソードがあったら知りたいです。

岡田:やはり歩道を走る、二人乗りをするなど、道路交通法に違反している悪質なユーザーは残念ながら一部います。

重大な違反が確認できた場合は基本的にアカウントを永久凍結したりしているのですが、GPSの精度では歩道なのか車道なのか都市部でのアクティブな検知は難しいのが現状です。

なので、ユーザーの走行状況の判定を技術で解決するために別のGPSモジュールを使用したり、直近は準天頂衛星システムの位置情報測位が使えないか実証実験で運用して見たり。技術的な挑戦をしているところです。

成田:弊社の『クックパッドマート』の冷蔵庫も物理的な管理が必要という意味で、これから出てくる課題や難しさはLuupさんと似てくるのかなと思っています。

新規事業立案の最上段には必ず「ミッション」がある

Luup

岡田:私からもCTOの先輩として成田さんに伺いたいです。

クックパッドさんはここ数年、さまざまな事業を始めていますよね。新規事業を立ち上げる中で、経営上意識していることはありますか?

成田:クックパッドは「毎日の料理を楽しみにする」というミッションを掲げており、このミッションに沿った、料理に関わることを軸にサービスを展開しています。

ミッションが僕らの価値観の最上段にあるため、新規事業を立てる際にも「短期的に儲かるのか」「どれくらいの売上になるのか」「イグジットができるのか」という考え方では見ていません。あくまでも「この事業が料理を楽しみにするのか」で価値を図っている前提があります。

例えば、先程から話題に挙がっている新規事業の生鮮食品EC『クックパッドマート』。

これは美味しい食材が送料無料で買えるアプリで、ユーザーさんは注文した商品を指定した生鮮宅配ボックス「マートステーション」で受け取れます。この受け取り方法により送料が抑えられるので、パン一斤やキャベツ一玉の買い物でも送料無料で実現できるというビジネスモデルです。

質の高い商品が揃っていて送料無料という点が、他のネットスーパーとは違うユニークな点。美味しい食材が手に入れば、どう調理しようかとワクワクするじゃないですか。

そういう意味で買い物は料理を楽しみにする一つの要素と捉え、『クックパッドマート』を展開しています。

クックパッドマート

岡田:なるほど。当社も『街じゅうを 「駅前化」するインフラをつくる』というミッションを掲げているので、近い考え方にあるのかなと思いました。

――事業を展開させる上でミッションが大切だというお話ですが、とはいえビジネスである以上「目に見える成果を出さなきゃ」という視点もありますよね。エンジニアはそれをどのように考えるべきですか?

成田:おっしゃる通り、ミッションってある意味ではきれいごとなので……(笑)。当然稼がなければ生きていくのに困るわけですから、それは重々理解しています。

ただ事業の軸として「なぜ僕たちがこの事業をやるのか」はすごく重要なんですよ。料理に関係ないけど儲かるビジネスが見つかったとしても、それは僕らがやる必要はなくて。

クックパッドの存在意義は「毎日の料理を楽しみにする」ことに集中している会社だと社内外にも発信しています。

もちろんもっと収益を気にしなくちゃいけないシーンは要所要所にあるのですが(笑)、僕らはそのキャラクターを貫き通すことに、存在している価値があるんじゃないかと考えます。

ですから、エンジニア採用においても、僕らのミッションに共感してくれる人を仲間にしたい。そこは常にブレない部分ですね。

岡田:当社もミッションに共感する人しか採用していないので、すごくよく分かります。

特にスタートアップだと共感がないと採用は難しくて。どうしても事業のグロース段階では一時的に前職と比較したらハードワークになること、資金的な都合で良い待遇を提供できないこともあります。

だからこそミッションを実現したいと共感してもらって一緒に頑張っていく。当社も運良くそんな仲間を採用できたからこそ、長期的な目線で価値ある事業やプロダクトを作っていくことができていると思います。

PM以上は「先を見据えた一手」を意識せよ

クックパッドマート

――お二人ともCTOというお立場ですが、新規プロダクトを成長させる上でどんなことを心掛けていますか?

岡田:半年後、1年後、プロダクトがグロースした先に組織体制や業務分掌がどうなっているのかをあらかじめ考え、組織を整えていくことですね。

例えば、当社ではライド数やユーザー数といった一般的な事業KPIもさまざま持っていますが、短期的な数字を伸ばすことだけに頭を使いすぎず、PM以上は先のことを見通しつつ将来想定される課題に対して早めに手を打つ。

そうしないと組織の中にいるメンバーのリソースも目線も徐々に合わなくなり、どんどんきつくなっていくはずなので、そういう視点が必要だなと僕自身気を付けています。

成田:僕も似たようなことですが、足元の改善に追われ過ぎないことがすごく大事かなと思っています。

右肩上がりのフェーズというのは必ずどこかで終わりが来るものです。成長の伸びしろを使い切ったら、平行線またはシュリンクの壁が必ず来ます。

そうなる前にどんな壁が来るのかを事前に予測し、次の手を打って動き続けることがCTOやPMの大切な立ち回りなのかなと。

相当難しいですし、上手くいかないことの方が多いですけど、プロダクトが育った後にどうなるかを常に考える必要があると思います。

そのためにも、「次の手の結果を信じて任せられる裁量」も重要です。

何か手を打ってすぐに結果が出るわけではなく、結果が出るのは2〜3年後になるかもしれない。

そうなった時に一見「あの人は仕事をしているのか……?」と感じ取ってしまうこともあるけれど、そこを任せられるような経営としての裁量は持っておくべきだなと感じています。

岡田:とはいえ、2〜3年後を見据えた考えを持つって、すごく難しいことだとも思います。僕が0からLuupをやってきた中ですごく感じているのは、「慣れ」が非常に重要ということ。

本人の特性的に長期的・経営的な高い視座で物事を考えられる人もいますが、多くの場合はそうではありません。なので僕自身は、プロダクトのグロースを経験してきたCTOやPMの先輩方に思い切って話をしてみたり相談したりしています。

自分にはない考え方を学び、自分でその考え方を自社のことへ当てはめて考えているうちに、そういう思考が身に付いてくる。そういうプロセスも必要かなという気がしています。

成田:素晴らしいですね。

今日久しぶりに岡田さんとお話しして、めちゃくちゃ視座が上がっているし言葉の重みもすごくついているなと感じました。その分たくさん苦労されてきたんだろうなと。

その背景にはこういった努力があったんですね。今日は対談を受けてくれて、ありがとうございました!

岡田:僕も成田さんと久しぶりにお話できて、すごくありがたい機会でした。まだ道半ばのLuup、これからも経営やCTOとしての壁にぶつかって悩むこともあると思いますので、今後もいろいろとお話聞きたいです。ぜひ飲みに行きましょう(笑)。ありがとうございました!

取材・文/阿部裕華 編集/大室倫子(編集部)

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