各社の直近の成長
助太刀:建築業界の人手不足を解決する工事会社と職人マッチングプラットフォームのトップランナーとして知られ、直近1年の売上高を3倍以上に伸ばしている。2022年7月に18.5億円の資金調達を実施
10X:小売向けECプラットフォーム『Stailer(ステイラー)』が大手スーパーに採用されるなど、こちらも順調に事業を展開し、昨年シリーズBで15億円を調達
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スタートアップの成長を持続させるためには、そのフェーズに応じた開発チームの進化が欠かせない。サービス拡大に伴う人員の増加やアーキテクチャの変更、はたまた事業のピボットなど、成長期の変化は大きく、不確実だ。
では、そうした急激な変化にもしなやかに対応できる開発組織をつくっていくためには、どのようなチームビルディングをする必要があるのだろうか。
今まさに急成長を遂げる株式会社助太刀でVPoEを務める月澤拓哉さんと、株式会社10Xの共同創業者でCTOの石川洋資さんは、過去の成功・失敗事例から「エンジニア一人一人が『自走できる組織』をつくることが何より大事だ」と口をそろえる。
では、「エンジニアが自走する組織」をどのようにつくっているのか。二社がこれまでの試行錯誤から得た学びについて教えてもらった。
各社の直近の成長
助太刀:建築業界の人手不足を解決する工事会社と職人マッチングプラットフォームのトップランナーとして知られ、直近1年の売上高を3倍以上に伸ばしている。2022年7月に18.5億円の資金調達を実施
10X:小売向けECプラットフォーム『Stailer(ステイラー)』が大手スーパーに採用されるなど、こちらも順調に事業を展開し、昨年シリーズBで15億円を調達
――まず、両社の事業の成長と、それに伴って開発チームがどのように変わってきたのかを教えていただけますか。
月澤:『助太刀』は、建設業界における工事会社と職人とのマッチングプラットフォームです。
建設業界は慢性的な人手不足に悩まされていますが、その要因の一つがアナログな仕事の依頼方法にありました。私たちはその課題を解決すべく、職人さんがスマホで気軽に使えるようなアプリと法人向けのウェブサービスを提供しています。
マッチングの他に採用サービスも展開しており、昨年度の売上高は対前年で3.4倍、職人の登録者数も18万人を達成しました。社員も100人を超えたところです。
私は2020年からVPoEとして参画していますが、主な役割として開発チームの組織づくりを任されています。
石川:今、開発チームは何人ですか?
月澤:開発グループはデザイナーやQAエンジニアも含めると現在18名です。設立当初はオフショアの開発会社を利用していたのですが、事業の拡大に伴って内製化を進めてきました。
この1年で組織も整ってきて、ようやくオフショアに頼らない開発をできるようになってきたところです。
石川:スタートアップが初めからオフショアメインでプロダクト開発を行うのは珍しいですね。内製化を進められて、現在開発チームの分担はどのようになっているのでしょうか。
月澤:バックエンド、Appフロント(iOS、Android)、Webフロント(Vue.js)で分かれていて、今はすべてのメンバーがプロダクト全体を見ています。
助太刀のサービスとしては、メインのスマホアプリと法人向けのウェブサービス、そして採用サービスの三つがあり、本当はサービスごとにチームを分けたいと考えていますが、現状では人が足りていないのが正直なところですね。
石川:それはすごく分かります。組織体制を整えたいけれど、まだまだ規模が足りない……当社も似たようなフェーズですね。
月澤:10Xさんのチームは、今どのような感じでしょうか。
石川:当社がスーパーマーケットやドラッグストアなどの小売企業向けのECプラットフォームである『Stailer(ステイラー)』を立ち上げたのが2020年。
当初は個人客向けの買い物アプリのみを提供していましたが、今は基幹システムとつないだ在庫・注文/決済・売上管理のシステム、さらには商品のピッキングや配送などのスタッフのオペレーションを支援するところまで広がっています。
月澤:ピボットして、事業としても急成長されていますよね。
石川:はい。イトーヨーカドーやライフといった大手のスーパーだけでなく、地方の有力スーパーなどパートナー企業は増えています。
それに伴い、システムの品質を向上させていく必要があり、多様なニーズに応えられるような開発体制を整えていかなければいけないというのが、今の状況です。
月澤:開発チームの規模はどれくらいですか?
石川:20人くらいです。
月澤:ECの構築には、在庫やカート、決済など個々のサービスで非常に高いレベルの技術が要求されますよね。それぞれ専門のチームに分かれているのでしょうか。
石川:現状はサービスごとではなく、一定のフェーズのパートナーごとに担当チームがいるという感じです。
というのも、小売業というのは業務フローが企業ごとにかなり違うので、これまでのフェーズでは、お客さまのニーズを理解して解像度を上げつつシステムを作ることにフォーカスしてきました。
月澤:個別開発に近いんですね。
石川:まさにそこが課題です。『Stailer』は、それをSIではなくプラットフォームとして提供することで、小売企業側のサービスインのコストを抑えて、素早くEC事業を立ち上げられるようになることを目的としてきました。
それぞれのパートナーのニーズに応えることは大切ですが、それだけを続けていくと、どうしても開発組織がバラバラになっていってしまう恐れがあります。
それを回避するために、徐々に専門的なチームをつくっていかなければいけないと思っています。
月澤:事業が成長すればするほど、指数関数的に人が必要になります。やりたいことはたくさんあるけれど、まだまだ仲間が足りないのはどこのスタートアップも同じような悩みを抱えていますね。
――会社の成長と共に伸びていける開発チームと、そうでない組織との違いはどこにあると思いますか?
月澤:サービスが拡大してくると、求められる品質が格段に上がります。極端な話、スタート時はコーディングルールやテスト方法がバラバラでも、アプリが使えればいいわけです。
けれども、ある段階からそれではプロダクトや開発チームの成長の限界が訪れます。もちろん、マネジメント側で把握できる部分は対応しますが、どんどん手が回らなくなってきますよね。
石川:そうですね。
月澤:そういうときに、例えば「こういう機能やUIが使いやすいはずだ。こういう開発方針にすべきだ」といった意見が個々のエンジニアから出てくるかどうかが大事だと思ってます。つまり、指示を待つのではなく、自ら問題を発見して動き出せるような、自走できる人を組織として増やしていくこと。
そのために必要なのは、技術的なレベルそのものも大事ですが、事業やプロダクトに対する興味や共感だと思うんですよね。
今後、事業としてもチームとしてもさらに成長したいなら、開発組織内からの提案と健全な議論が必要になります。
そうでないと、経営陣が思いつくことを受諾開発するだけの開発チームになってしまう。経営陣の能力が会社の限界になってしまいますから、それではいずれ成長が止まってしまうと思います。
石川:エンジニア一人一人が、自分たちのプロダクトが誰のどのようなことに役立っているのかに対して関心を持っていることも重要ですよね。
『Stailer』であれば、買い物アプリは誰もが使えますが、店舗スタッフが使う業務部分はなかなか経験できないことも多い。
だから、実際に現場に行かせていただいて、自分たちのアプリがどのように使われているかを確認することは大事だと思っています。
月澤:現場に直接出向いてキャッチアップするのは素晴らしいことですね。僕らもユーザーインタビューなどを通して日々キャッチアップする取り組みを実施しています。
ただ『助太刀』は建設業の職人向けなので、エンジニアが使う側の視点を持つことが難しいなと感じることもあります。
それでも僕らが使っているオフィスや道路も、職人が作ってくれているものであって、業界の人不足で工期遅延や品質低下が起きれば、それは僕たちの生活に関わってくる。
それを解決することは最終的に僕らの生活、ひいては日本全体を幸せにするんだ、ということをエンジニア達にも伝えるようにしています。
石川:メンバーがそう思えるかどうかって、結局は企業のカルチャーだと思うんですね。
10Xでは、「Think 10X」「Take Ownership」「As One Team」という三つのバリューがあるのですが、やはりバリューの浸透はカルチャーづくりには不可欠だと感じています。
開発の視点やデザイナーの視点、生産性の視点などさまざまな観点から見た上で、最終的に組織やチームが同じ認識を持ってゴールに進んでいく、ということがスタートアップには求められます。そのために、折に触れてこのバリューを全員が確認していますね。
月澤:バリューの浸透に伴うカルチャーの醸成は本当に大事ですよね。助太刀も「ゲンバ主義」「職人たれ」「全員親方」「仲間とつくる」というバリューを設けていて、一つ一つの仕事においてそれに立ち返るようにしています。
――その他、技術的な側面で、お二人が工夫していることはありますか。
月澤:助太刀では、正社員や業務委託といった立場に関わらず、一つの機能について技術選定から設計までのアイデアをエンジニアに出してもらうことがあります。
実際に採用するかどうかはしっかりとレビューをして決めるのですが、そうやって案を出してもらうと、その人の得意なことや興味が浮き彫りになりますよね。それらは組織全体の技術資産になりますし、仮にその案が不採用となったとしてもチーム内に知識が共有されます。
石川:立場に関わらず現場から上げてもらうのは良い取り組みですね。
僕は、エンジニアの技術力という面では、問題発見から解決までの実行力を付けることが大切だと思っています。
高度な問題になるほど抽象度が高くなるので、アプローチの方法や順序を整理して実行することが求められる。会社としては、そういう成長機会をエンジニアに提供することを大事にしていますね。
月澤:それは当社も同意見です。
個々のエンジニアの意見をできるだけ集め、抽象度が高くても解決すべき課題であれば実行に移すこと、また実行に移せる環境を作ってあげることが大切だと思います。「意見を出して」とは言うものの、それがバックログに積まれるだけで、結局経営陣がトップダウンで決めているなら意味がないですから。
スタートアップで事業が拡大しているフェーズだからこそ、メンバーには積極的にそういう成長機会を提供していきたいです。
石川:エンジニアが技術を向上させるためには、成長の機会が必要で、そのためには事業が拡大していることが不可欠なんですよね。トラフィックの負荷に耐えるための技術力は、そもそもトラフィックが増大していなければつけようがない。
月澤:ええ。ただ、スタートアップゆえに、いろんなリソースが足りなくて時にはメンバーにしんどい思いもさせることもあるかもしれないですが……。
後から振り返ったときに、メンバー個人のスキルアップやキャリアにおける財産にもなると良いなと思います。
そのバランスをうまく取ってあげられるかどうかは、僕たちのレイヤーの仕事になるので、頑張っていきたいですね。
――ますます成長が期待される両社ですが、今後はどのような開発体制を目指していきたいとお考えでしょうか。
月澤:今後は、職人さんと工事会社とのマッチングだけでなく、それを起点にして建設業界全体の課題解決、ひいては業界を魅力的にすることに取り組んでいきたいと考えています。
例えば、職人さんが現場に行った時の駐車場やお弁当の手配など実際の現場で困ることを解決したり、給与支払い、教育事業やキャリア形成につながるようなサービスなど、この『助太刀』アプリさえ入れておけば建設業界ですべてOKという存在になりたい。
そのために開発チームとしては、技術的な幅を広げていくことを考えています。今は特にバックエンドはPHPメインで開発していますが、多角的なサービスを展開していった時に、それらを達成するために最適なアーキテクチャは変わってくると思っています。
そういった経緯で特にバックエンド基盤のマイクロサービス化を含め、全体のアーキテクチャの整理や技術負債の洗い出しなどを今まさに考えていこうとしているところです。
石川:『Stailer』が目指すのは、日本全国で多くの人が当たり前のようにネットスーパーやドラッグストアECで買い物ができるという環境です。
そのためのプラットフォームとしてどういうサービスや機能が必要なのか。これは一朝一夕に達成できることではありませんが、日々の開発の中であるべき形を探っているところです。
技術選択で言えば、10Xでは過去にDart/Flutterに統一した経緯がありますが、当時はエンジニアがそれほど多くない状態で、生産性を上げるために必要なことでした。
ただ、それがエンジニア100人になった時にも当てはまるかといえば、必ずしもそうではないかもしれない。やはり必要な技術というのは、事業の成長によってどんどん変わってくるものです。その時々で最適な手段を選びたいと考えています。
月澤:そうですね。正直、将来において何がベストな技術選択かは分かりません。ただ、良いものが出てきた時に、いざ移行しようとしてもそれが困難な設計にはしておきたくないので、今は「選択肢に幅を持たせる」ということを意識しています。
そのために当社では、週1回定例会議を開いて、日々の目の前の開発とは別の視点で「今後の開発について考える」時間を設けています。
石川:うちもまさに近々、開発者全員のオフサイトを実施予定。今後のことを長期的に考える場は定期的に設けようと考えています。
事業の面でも技術の面でも「変化のタイミング」を見逃さないために、柔軟な組織づくりをしていきたいですね。
月澤:本当にそう思います。メンバー全員がプロダクトの未来を見据えられる、そんな開発チームが事業の成長を後押しすると思いますから。
――お二人とも、本日はありがとうございました! 2社の成長が今後ますます楽しみです。
取材・文/高田秀樹 撮影/赤松洋太
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