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「成功するか」よりも「ワクワクするか」で選ぶ。“顔の見える電力”を生んだ『みんな電力』大石英司の原点

働き方

電力自由化、再生エネルギーの普及などに伴い、電力・エネルギー業界を取り巻く環境はここ10年で急速に変化している。

一部の大手企業が電力事業を独占し、消費者に購入先を選ぶ自由がなかった時代に、「誰もが電気をつくり、選べる時代になるべき」といち早く立ち上がったのが、『みんな電力』を運営するUPDATER創業者の大石英司さんだ。

大石英司さん

創業は2011年。顔の見える電気生産者と消費者が再生エネルギーを売り買いするという『みんな電力』の事業が広く理解されるまでには時間がかかったが、2020年にはジャパンSDGsアワード推進本部長(内閣総理大臣)賞を受賞するなど、電力・エネルギー業界の変革を担うプレーヤーとして、ここ数年で大きな注目を集めている。

そんな同社で代表取締役を務める大石さんだが、意外にも、かつては広告・印刷業界で働く会社員。起業前は電力・エネルギー業界に関する知見は何一つなかった。

それにもかかわらず、新電力の世界でチャレンジすると決めたのはなぜなのか。異色のキャリアチェンジを遂げた大石さんの「自分軸」を聞いた。

日本の電力・エネルギー業界を変えた二つの出来事

この10年で私がやってきたことは、一言で表すなら「顔の見える電力」の創出です。

電力は昔、「誰がつくっているのか」が意識されることはほとんどありませんでした。しかし近年はSDGsが浸透し、ESG投資も拡大。「自分たちの使っている電気を再生エネルギーに切り替えたい」と考える個人や企業が増えてきました。

そんな中、当社がブロックチェーン技術を用いて開発した、電力トレーサビリティーを確保するシステム(どの電源からどれだけ電気を買ったのかを証明する仕組み)は、現在SDGsに関心を持つ多くの法人のお客さまに受け入れられています。

大石英司さん

振り返ってみると、この10年余りで日本の電力・エネルギー業界は劇的に変化しました。大きなトリガーとなったのは「二つの出来事」です。

一つは東日本大震災。福島の発電所が停止し、東京は電力不足に陥りました。大規模な計画停電によって、今まで電気に関心のなかった人たちに自分たちが使う電気はどこでつくられているのだろう?」と意識するきっかけを与えたのです。

そして国は、特定の電力への依存を防ぐために再生エネルギー関連法の整備を進めました。震災以降、太陽光発電などの再生エネルギーが注目されるようになったのはそのためです。

もう一つの出来事は、世界的なSDGsの広がりです。気候変動の悪化を背景に、欧米でESG投資やカーボンニュートラルを進める動きが広がった結果、日本でもSDGsへの関心が高まり、再生エネルギーへのシフトが加速しました。

同時に電力自由化が進んだ結果、日本に700社を超える新電力会社が発足しました。大手の電力会社が市場を独占していた時代は終わりを迎え、誰もが電気をつくり、選べる時代が訪れたのです。

大石英司さん

こうした一連の流れの根底には、テクノロジーの進化があることを忘れてはなりません。

この10年の間に、テレビや新聞などのマスメディアはSNSやYouTubeに取って代わられました。それは「分散化」を後押しするテクノロジーであるインターネットが普及、進化してきたからです。

その「分散化」の波が、電力・エネルギー業界にも押し寄せてきた。その結果、巨大企業が独占していた状態が崩壊し、現在の状況が生まれたのだと理解しています。

「電力不足」を解決に導くプレーヤーは誰なのか

このように、日本の電力・エネルギー業界が着実に進化してきましたが、近年は「電力不足」が大きな課題となっています。

日本の電力供給は、今までは原子力発電や火力発電によって常に一定に保たれてきました。しかし、それらの発電所の停止や閉鎖が相次いだ結果、電力が足りなくなるケースが生じているのです。

電力の総量については、再生エネルギーの生産量が今後も増え続けていくことを踏まえると、長期的には十分な量が供給されるようになるでしょう。

大石英司さん

しかし、再生エネルギーを使い続ける限り「供給の不安定さ」とは常に向き合っていかなくてはなりません。太陽光発電などの自然由来のエネルギーは、どうしても天候などの外部要因に左右されてしまうからです。

大切なのは、いかに電気の総量をバランスさせるか。つまり、電気を余っている時間にためて、足りない時間に放出できる仕組みを生み出せるかどうかが、電力不足解決の鍵を握っています。

その仕組みを実現するのは、電力の発電量を事前に知る予測技術や、電力のネットワーク全体を管理する新しい技術です。UPDATERも東京大学との共同研究を通じて、高精度で発電量を予測する技術の開発に取り組んでいます。

日本の電力不足の課題を解決し、再生エネルギーをさらに普及させる上で重要な役割を担うのは、テクノロジーに強みを持つ当社のような新しいプレーヤーになると考えています。

成功可能性の高いことに挑戦しても、ワクワクしない

起業のきっかけは、本当にささいな出来事でした。

電車の中で携帯の電池が切れそうだった時に、近くに立っていた人のカバンにソーラー電池付きのキーホルダーがついているのを見て、「この人がつくった電気なら、200円で買うな」と思ったんです。

大石英司さん

それまで私は、電気を「使う」ことしか考えたことがありませんでした。

ところがこの出来事をきっかけに、電気の生産者の存在を強く意識するようになり、「コンセントの向こう側にいる人を消費者が意識するようになれば、電気を使う人とつくる人の間につながりを生み出すことができるのではないか」と考えるようになったのです。

それと同時に、電気とは誰もがお金を支払って購入する「富の源泉」であることにも気が付きました。誰もが電気をつくり、誰もが好きな電気を買えるようになれば、富を生み出す手段が分散化される。ゆくゆくは貧困の解消にもつながるかもしれません。

こうして現在のビジネスにつながるアイデアは次々と浮かんできたものの、当時の私に電力・エネルギー業界に関する知見は、何一つありませんでした。

それでもこの業界で挑戦してみようと思ったのは、すでに経験を積んできた「成功しそうな領域」で挑戦するよりも、全く経験もノウハウもない「成功しそうにない」領域で挑戦した方が、ずっと面白そうだと思ったからです。

起業前、私は凸版印刷でビットウェイ(現ブックライブ)という電子書籍出版事業のサービスを開発していました。その他にもコンテンツビジネスに関する新規事業をたくさんつくり、いずれもうまくいっていたのです。

大石英司さん

しかし40代に差し掛かると、「このままコンテンツビジネスの領域で新規事業をつくり続けて、果たして自分は楽しめるだろうか?」と考えるようになりました。得意分野の延長線上にある仕事をやり続ける未来を想像しても、全然ワクワクしなかったんです。

反対に、全く素人の分野で挑戦したにもかかわらず、大逆転を起こすようなことがあったら……。それってまさに伝説ですよね? そんなことを考え始めたら、今までに感じたことがないほどのチャレンジ精神が湧いてきました。

つまり、成功するかどうかという「成功可能性」ではなく、「どれだけモチベーション高く取り組めるか」が、当時の私の「自分軸」だったんです。その考えは今も変わっていません。

全財産561円……ピンチのときに助けてもらえる理由

とはいえ、そう簡単にことが運ぶはずはありませんでした。

特に苦労したのは資金調達です。そもそも「リスクの低さ」で融資可能性を判断する銀行にとって、成功可能性なんかそっちのけで「誰もやっていないことをやって伝説を残したい」なんていう私の「自分軸」は理解しづらく受け入れがたいものですから(笑)

そうこうしているうちに、会社と個人の両方を合わせた全財産がたったの561円になってしまいました。

大石英司さん

預金額561円になった大石さんの通帳。「妻も子どももいるのに、その日暮らし。会社と家を往復する交通費すらない日もありました」と笑う大石さん

金銭的に厳しかった時は、毎朝妻に「今日の生活費です」と言って数百円渡して会社へと出掛けていました。それがついに100円しか渡せない日が訪れて。さすがにもう厳しいか……。

そう思っていた時に、創業期に自分を助けてくれた方から電話がかかってきました。少し話して一度電話を切ったのですが、「何だか声が元気なかったですよね?」と再度電話をかけてきてくれて。

そこでようやく事情を話すと、「そんなことならすぐに言ってくださいよ」と、翌日に数百万円ものお金を持ってきてくれたんです。

会社を立ち上げてから、こうしたピンチには何度も陥ってきました。でも本当に不思議なことに、その度に誰かが手を差し伸べてくれました。

なぜ、自分のことを助けてくれるのだろう。そう思った私は、創業期にエンジェル投資をしてくれた方に理由を伺ったことがあります。その方は二つの理由を教えてくれました。

一つ目は、起業のビジョンや経営計画について、「わけの分からないことを言っていたから」だそうです。

どういうことかと聞くと、「話を聞いて人がすぐに理解できるようなことはもう世の中にあるし、俺が分かるようなことで起業しても大したことにはならないと思う」と。

つまり、誰かのまね事ではなく、聞いたことがないようなことをやろうとしているから「面白そうだ」と思ったと言うのです。

大石英司さん

二つ目は、「言葉にうそがないと感じた」そうです。「誰もが電気の生産者になれる世界をつくり、貧困を解消して、より良い社会にしたいという思いが本物だと感じたし、ものすごく楽しそうにしゃべっているので、思わず巻き込まれた」とおっしゃっていました。

当時の私は、パワポを使って理路整然と説明するわけでもなく、とにかく自分の伝えたいことを一生懸命に伝えていました。内容はめちゃくちゃだったかもしれないけれど、ブレない軸とパッションだけはあった。

だから、人を巻き込むのに完璧さなんていらないんです。多くの人は誰かの「夢」や「思い」に共感してくれる。世の中「捨てる神あれば拾う神あり」なんですよね。

“やらされ仕事”がくれたもの。全ての仕事は血肉になる

思い起こせば、「パッションが人を動かす」ことを知ったのは、起業前の会社員時代です。

当時の私は、「自分のやりたいこと」ばかりを新規事業として立ち上げていました。ゲームをつくったり文章を書いたりするのが好きだったので、作品を売る場所をつくりたいという思いから、コンテンツの配信プラットフォームを開発したんです。

大石英司さん

あの頃は、「これが実現したら面白いはずです!」と熱く話せば話すほど、巻き込みの輪がどんどん広がっていきましたね。

一方で、「中期経営計画のこの課題を解決する事業をつくってほしい」というように、会社からお題を与えられた仕事もありました。しかし、その中に今も残っている仕事は一つもありません。自分も「やらされている」気持ちもあったし、モチベーションも上がらなかったんですよね。

とはいえ、“やらされ仕事”って悪いものでもないですよ。“やらされ仕事”もすごく良い経験になりました

もし会社員時代にやりたいことだけやっていたら、「後に残るのは、自分がやりたくて始めた仕事だけ」という大切な事実には、気付けなかったでしょう。

それに、もし“やらされ仕事”を通じて「稟議書を通す方法」を学ぶ機会がなかったら、現在さまざまな大手企業と進めているコラボレーションも、今ほどはうまくいっていなかったと思います。

もちろん、最後は自分のやりたい仕事でキャリアを考えるべきだと思います。でも、その途中で出会う仕事は、たとえ“やらされ仕事”であっても必ず自分の血肉になる。だから、どんな仕事もないがしろにするべきではないというのが私の考えです。

最初からすべてが自分にとって最高な「面白い仕事」が転がっているなんてことはありません。ですから、今目の前にある仕事を「どうすれば面白くなるだろう?」という視点も持つ方が大事。そうやって考えられるようになると、日々の仕事がますます楽しくなりますから。

「顔の見える化」であらゆる社会課題を解決できる

今後については、「顔の見えるライフスタイル」を、電気以外の領域にも広げていきたいと考えています。

大石英司さん

UPDATERでは、電気だけでなくさまざまなものの「見える化」を推進。『みんなエアー』では、空気の見える化に挑戦している

普段着ている服、PCの中の電池……私たちにとって身近な製品が、貧しい国の子どもたちの労働によって賄われているという事実が、この世界には存在します。

そうした社会課題は、相手の「顔が見えない」ことが原因で生じているものであり、あらゆる社会課題はその一点に凝縮されていると私は考えています。

そうした問題を解決するために、これからは電力・再生エネルギー事業で培ったノウハウを衣食住の全ての領域で生かしていきたい。今私たちが取り組んでいる「空気の見える化」「土の見える化」もその一つです。

「顔の見える革命」で社会をアップデートする。それが、次のステージで実現したい目標です。

大石英司さん

取材・文/一本麻衣 撮影/竹井俊晴 企画・編集/栗原千明(編集部)

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