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Rubyの父・まつもとゆきひろのインプットテクを公開! 情報過多に苦しむエンジニアが持つべき視点とは?

スキル

「エンジニアは一生勉強」とはいうものの、生成AIの進化で加速度的に情報が増える現状に「インプットが追いつかない!」と焦るエンジニアも多いことだろう。

Ruby開発者である、まつもとゆきひろさんは「心配しすぎることはない。必要な知識を取捨選択し、効率的に習得していけばいい」とアドバイスする。

では、膨大な情報から自分に必要な情報や技術をどう見極めればいいのだろうか。

複数の企業で技術顧問を務め、最新の技術トレンドにも詳しいまつもとさんのインプット方法と合わせて話を聞いた。

※本記事は、LIGの社内向け勉強会「Rubyの父・まつもとゆきひろ氏がいま注目する技術トレンド」の内容を一部抜粋してお届けします。

プロフィール画像

Rubyアソシエーション理事長
株式会社LIG技術顧問
まつもと ゆきひろさん (@yukihiro_matz)

プログラミング言語Rubyの生みの親であり、一般財団法人Rubyアソシエーション理事長。株式会社ZOZOやLinkers株式会社など複数社で技術顧問などを務めている。オープンソース、エンジニアのコミュニティ形成などを通じて、国内外のエンジニアの能力向上やモチベーションアップなどに貢献している。2022年11月よりLIGの技術顧問に就任

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もはや、人間の持ち時間じゃ到底追いつけない

まつもとゆきひろ

撮影/桑原美樹 ※2019年撮影

私がプログラミングを始めた40年前は、一人のエンジニアあるいはホビーユーザーが手に入れられる情報は非常に限られていました。全ての情報に手を伸ばしても何とか全部読めてしまうほどの情報量しかなかったのです。

ただ、今はがらりと変わりましたよね。次から次へと新しい情報があふれ出てくる。その膨大な情報を四六時中インプットしようとしても到底無理。人間ですからご飯を食べ、睡眠も取らなきゃいけないわけですからね。

では、どうすれば効率的にインプットしていけるのか。私なりのアドバイスを伝えたいと思います。

【1】専門分野を起点に知識を広げる

経験を重ねると、自分の得意あるいは専門分野が明確になってくると思います。まずはそうした領域を起点に知識を増やすのが手っ取り早くておすすめです。

ベースとなる知識もすでに備わっているはずなので効率的に学びやすいでしょう。

社内で「○○のことなら△△に聞こう」といった状況をつくれるまでになると、周囲からの期待に応えたい欲も手伝って、自然と情報収集にも熱が入ります。

期待に応えられたときには大きな手応えを感じられたりモチベーションアップにつながったりするはずです。

【2】身近な人の「困り事」に目を向ける

たくさんある情報の中からインプットするべき情報や技術を取捨選択するためには、目の前に転がっている「課題」から考えてみるのもいいと思います。

例えば、開発途中に「ここが困る」「気に入らない」「時間がかかりすぎる」みたいなことは頻繁に発生すると思います。そこにはすでに課題意識があるので、何をどういう風に学べばいいのか判断しやすいですよね。

さらに言えば、アイデアやイノベーションはそういうタイミングで生まれたりするものです。

なので、あまり困っていない問題に対するテクノロジーより、自分や周囲に人が抱える課題を解決できそうなテクノロジーが出てきたら、「率先して学ぶべきもの」だと判断していいのではないでしょうか。

【3】課題に敏感でいる

先ほどの話と少し似ているのですが、前提として、エンジニアには課題に敏感であってほしいと思っています。

例えば、私が昨日眼科に行ったときの話です。視力を測るときに使われる「C」のマークを使った検査がありますよね。

まつもとゆきひろ

あれはランドルト環と呼ばれるのですが、個人的にはインタラクションが発生するので、あまりよくないなと思いましたね(笑)

なぜなら、嘘がつけてしまうからです。検査という性質上、検査を受ける側が示すリアクション次第で判定が左右されてしまうのはあまりよいUIじゃない。じゃあどうすれば解消できるだろうか、なんて思いを巡らせる時間も打ち手を考える練習になります。

ソフトウエア開発でも「ここはもうちょっと直せるのでは」と日頃から課題への感度を高くもっていると、何を学ぶべきかが明確になってくると思います。

【4】忙しすぎてはいけない

可能であれば、忙しすぎる働き方とも距離を置くようにするといいですね。実働8時間勤務のうち、ずっと会議をしていたり、仕様を決めるために悶々としていたり、コードを書いたりしているばかりだと、新しい情報を取りにいく暇がないからです。

そんな生活は、エンジニアとして面白いはずがありません。インプットがないと新しい発想もなかなか出てこないので疲れてしまいますよね。

生成AIはじめ、ここ最近の技術革新は目覚ましいですから、あっという間に取り残される可能性もあるのではないでしょうか。

「それでも構わない」と思う人もいるかもしれませんが、私としてはたくさんインプットとアウトプットするエンジニアでいてほしいと願っています。

そのために十分時間がとれるような働き方をすることは重要です。

【5】ツールを活用する

私自身は夕食中にも調味料の裏にある原材料を読んでしまうほど活字中毒です(笑)

人並み以上に情報収集している方だとは思いますが、それでも技術顧問をやっているとより多くの情報を手に入れる必要性を感じます。

そこで、私が日頃、効率的にインプットするために役立っているツールもご紹介します。

■RSSリーダー

もう流行りではないと思いますが、昔使っていたGoogleリーダー、livedoorリーダーを経て、最近はFeedeenというRSSリーダーを使っています。

まつもとゆきひろ

「ちなみに、Feedeenはpythonで書かれているそうです」(まつもとゆきひろ)

使い方としては、いくつかのニュース系媒体を登録し、見出しをみて興味の湧く記事を選んで読んでいます。特によく見ている媒体はこの三つです。

Hacker News
ベンチャーキャピタルであるYコンビネータが運営しているニュースサイト。プログラミング関連のおもしろいデータや記事があります。

Reddit
日本の『5ちゃんねる』のような媒体です。その中でもプログラミング関係のスレッドを読んでいます。

Tech Feed
エンジニアがエンジニアのためにつくった日本のニュースアグリゲーションサイト。いろんなテック系のジャンルの記事が集まっています。

ただみなさんは、私のように長時間RSSを見ていられるわけではないと思いますので、自分の可処分時間と相談しながら何をチェックするのか、どんな手段を使うのかなどを考えて使うといいと思います。

■Twitter

技術系の情報を発信してくれるアカウントを中心にフォローしていて、特に私にとって有益だと感じる情報発信が多いのは下記アカウントです。

●雑u Botさん(@matsuu_zatsu
@matsuuさんがRSSリーダーから「あとで読む」に入れた記事が流れるBot

●高梨陣平さん(@jingbay
広範な技術情報をツイートされる

●新山祐介 (Yusuke Shinyama)さん(@mootastic
英語のテック系の情報やユニークな記事がツイートされる

●はてブ::プログラミング言語非公式botさん(@RSS_hateb_l_Roy
はてぶでプログラミング言語関連の記事などを流れるBot

理論上、コンピューターは知性を持っている

第二次世界大戦で使われたドイツの暗号「エニグマ」を解読した数学者、アラン・チューリングをご存じでしょうか。

彼は「将来コンピューターが知性を持ったとして、本当に知性を持ったかどうか判定するにはコンピューターと十分な対話を行った後、その相手が人間か機械か確信を持って判断できなかったとき、コンピューターには知性があると判断できる」とするチューリングテストを考えた人物です。

その理論で考えると、ChatGPTの回答か、人間の回答か見分けがつかないケースが出てきている現在、「PCは知性を持っている」と言えます。

しかし、実際はどうでしょうか。彼らは息をするように平気で嘘をついたりしますよね(笑)。加えて、2019年までの情報からしか回答できない。

なおかつ、生成した文章の中に含まれている情報が正しいことを保証する仕組みもない。この状態で、本当に知性を持っていると言えるのかは判断しがたいところです。

まつもとゆきひろ

「ChatGPTで、まつもとゆきひろはどこに住んでいる? と問うと『長野県松本市』に住んでいると出てきますが、実際は『島根県松江市』に住んでいます(笑)」

また、生成AIの進化に対して「プログラマーの仕事が脅かされるのでは」なんて言われることもありますが、不安になりすぎることはありません。

もちろん、進化が非常に早いので、早い段階で人間と本当に区別がつかなくなってしまうかもしれませんが心配してもしょうがない。その時が来たらエンジニアとしての振る舞いを改めて考えたらいいのです。

ただ、「責任をとる行為」は向こう10年は人間が取って代わられることはないと思います。

具体的には、生成AIがはじき出した答えや提案に対し、最終的な意思決定を下したり、誤っていた場合に訂正し、謝罪するなど。

なので、当面はAIをうまく活用しながら、AIの力が及ばない部分を人間が行っていけばいい。

長年Rubyに携わる中で、過去にも技術革新と呼べるシーンは何度もありました。そうした変遷を経て思うのは、いくら世の中が変わっても「変わらないもの」があるということです。

例えば、コンピューターサイエンスの中でいうとデータベース。30年以上前からあるリレーショナルデータベースですが、20年前には「オブジェクト指向データベースに移行するだろう」と言われた時期もありましたが、結局は変わらなかった。

あと、OSもUNIXが席巻してもう40~50年経っています。そんな風に変わらない部分を押さえておくことも重要だと思います。

もちろん、技術トレンドは一生勉強ですから、今回お伝えしたポイントで役立ちそうな部分は生かしていただきながら、普遍的に変わらない部分もしっかり押さえておく。

そんな風にバランスをとりながら、技術と向き合ってはいかがでしょうか。

文/玉城智子(編集部)

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