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エンジニアの「正しい評価」とは何なのか? ゆめみ・Gaudiyの事例に見る、納得感のある評価・給与【モデレート:村上臣】

働き方

世界規模で優秀なエンジニアの獲得競争が繰り広げられている現在。採用力を高め、エンジニアのエンゲージメントを高めるべく、ユニークな給与・評価制度を打ち出す企業が増えている。

そこで、『エンジニアtype』では2023年6月21~25日に開催したテックカンファレンス『ENGINEERキャリアデザインウィーク2023(ECDW2023)』で、トークセッション「先端事例2社に学ぶ、これからのエンジニア評価・給与」を実施。

モデレーターは、大ヒットを記録した『転職2.0』に続き、クリエイターエコノミー時代の稼ぎ方を提唱する『稼ぎ方2.0』を上梓した村上臣さん。

Webサービスの内製化支援事業を展開するゆめみの最高技術責任者・大城信孝さん、ブロックチェーン技術を活用したWeb3時代のファンプラットフォーム『Gaudiy Fanlink』を提供するGaudiyの代表取締役・石川裕也さんとともに、これからの給与・評価制度のあり方について議論を展開した。本記事ではトークセッションの一部を抜粋してお届けする。

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『転職2.0』『稼ぎ方2.0』著者
村上 臣さん(@phreaky

青山学院大学理工学部物理学科卒業。大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立。2000年8月、株式会社ピー・アイ・エムとヤフー株式会社の合併に伴いヤフー株式会社に入社。11年に一度退職した後、再び12年4月からヤフーの執行役員兼CMOとして、モバイル事業の企画戦略を担当。17年11月に8億人超が利用するビジネス特化型ネットワークのLinkedIn(リンクトイン)日本代表に就任。日本語版のプロダクト改善、利用者の増加や認知度向上に貢献し、22年4月退任。株式会社ポピンズ 及び株式会社ランサーズの社外取締役ほか複数のスタートアップの戦略・技術顧問も務める。主な著書に『転職2.0』『稼ぎ方2.0』(共にSBクリエイティブ)・『Notionで実現する新クリエイティブ仕事術』(インプレス)がある

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株式会社ゆめみ 最高技術責任者(CTO)
大城信孝さん(@notakaos

沖縄県出身。2012年からサーバーサイドエンジニアとして経験を積み、16年にゆめみに入社。リードアーキテクトとして、主にシステムのアーキテクチャ設計やバックエンドの実装を担当。21年5月よりCTOに就任

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株式会社Gaudiy 代表取締役
石川裕也さん(@yuya_gaudiy

1994年、東京生まれ。19歳でAI関連企業を創業。2017年にブロックチェーンに出会い、その翌年、Gaudiyを創業。個人ではガンダムメタバースやLINE Pay、毎日新聞などでブロックチェーン関連の技術顧問なども兼任

ゆめみとGaudiyに見る、評価・給与の現状と失敗例

村上:ゆめみとGaudiyではエンジニアに向けて珍しい給与・評価制度を導入されているとか。現在の制度について、それぞれご紹介いただけますか。

大城:ゆめみでは「給与自己決定制度」を採用しています。文字通りエンジニア自身が自分の年収を申告するという制度です。

ただし、どれだけ申告してもよいというわけではありません。基本的には業界における本人の市場価値や社内の給与基準を考慮して、自分自身で総合的に判断して申告してもらっています。

給与の申告をしたいときには、社内のSlackで申請し、他の社員からレビューをもらう。その結果をもとに、最終的に自分がそこにコミットするか否かを判断する、という流れです。

ゆめみ大城さん

村上:自己決定ということは、評価と給与は連動していないということでしょうか?

大城:はい。ゆめみでは評価と給与を完全に切り離しています。評価はありますが、給与に連動しているわけではなく、あくまでも参考指標です。

石川:弊社も給与は基本的に「言い値」で支給される仕組みです。

Gaudiyでは「人は人を評価できない」ことを前提にしています。結局一番納得できるのは、自分で決めた額を申請すること。なので、給与の自己申告を採用しています。

ただし、誰でも申請さえすれば全員の給与が見られる仕組みにしているので、極端に高い申告をするような人はいません。

社内水準や市場相場を参考に、自分が納得できる金額で申告する。給与は低いままでもかまわないという方は、SO(ストックオプション)やサバティカル休暇などで還元するスキームです。

また、家族ができた、子どもが進学する、といった理由で給与の増額を申告することも認めています。

村上:「人は人を評価できない」という考え方がベースにあるとおっしゃいましたが、評価制度そのものが存在しないのでしょうか?

石川:評価というよりは、給与が健全な額であるかどうか確認するために、大学教授の監修をもとにアンケートを実施したりしています。

その結果を見て、能力に対して給与が著しく低い人、高い人がいれば、その人に対してヒアリングを実施しています。

「評価」というよりも、「検知」といった方が正しいかもしれません。なので、私たちはこれを給与バグ検知プロトコルと呼んでいます。

村上:なるほど、評価の上下の外れ値、エラーを検出して必要なアクションをとるということですね。その際には、その人の市場価値も考慮に入れるのでしょうか?

石川:アンケートの中に、対象者がどれくらい採用難易度が高いかを確認する項目は入れています。

大城:市場価値に関連して言えば、待遇のために転職するくらいだったら納得する給与を支払うことで在籍し続けてもらいたいというのがゆめみの考えです。

給与を上げたいと思ったら、転職エージェントに応募して自分の市場価値を確認してみるといい。それはなかなかハードルが高いという人に向けて、アプリケーションエンジニア職務ガイドラインを設定して、自分の市場価値をチェック方式で診断する方法も用意しています。

村上:自分のキャリアを考えるために、ちょっと他を受けてみます、という行動がカジュアルに行われているということですね。

大城:そうですね。弊社では「自律」をとても大事にしていて、自分で情報収集することを推奨しています。

それに、ゆめみだけでしか働けないスキルというのは健全ではありません。どこにでも転職できる能力はあるけれど、ゆめみが好きだからここで働く、というのが一番いい状態だと思っているので、そういう状態になれるよう支援しています。

村上:なかなかおもしろい話になってきましたね。ここからは失敗談も伺いたいのですが、今の制度に至るまでにうまくいかなかった給与制度・評価制度はありますか?

大城:今の給与自己決定制度ができたのは2018年頃なのですが、私が入社した16年当時は半期ごとに目標を立てて、達成状況に応じてピープルマネジメントの担当者が評価を決めていくスタイルでした。

しかし、目標は立てるのも、評価するのも負担が重いものです。人数が増えていくと、評価制度自体が組織運営を乱すボトルネックになってしまっていました。

村上:たしかに、特にマネジャーの負担は人数が増えるとどんどん大きくなってしまいますよね。

石川:当社の場合は、失敗というよりもアップデートを繰り返しています。例えば、自己申告制で給与アップを申請するのは勇気が要るので、なかなか昇給できない社員もいます。

そこで、半年に1回は会社側から昇給を申し入れるタイミングを設けることにしました。また、「検知」の健全性も定期的に調査するように変更しています。

先ほど転職の話が出ましたが、Gaudiyではそこはあまり課題だと思っていないんです。「うちは無謀な探求を続ける会社だから、長くいる場所じゃない」って社内ではよく言っていて。

むしろ、どんどん転職していってもらった方が、自分の力になるでしょう。エンジニアが自分の価値を高めていくことを非常に重視しています。

エンジニアを「正しく評価する」ことは不可能?

村上:近年、特に大企業では今までの年功序列が維持できなくなり、人材の流動化が進んでいます。

社員にはエンゲージメント高く働いてもらいたいところですが、ゆめみとGaudiyでは「エンジニアのエンゲージメント」についてどう考えていますか?

村上臣

石川:エンゲージメントは最も重視しているポイントです。そのために大事なのは、社員一人一人の納得感

この納得感は、給与だけでなく会社のビジョンや手掛けるプロダクト、事業戦略やマネジメントというさまざまな要素がベースになっています。

そのため弊社では「代表選挙」を設け、CEO、CTOなどのCxOレイヤーを全て選挙で決めているんです。自分たちのリーダーを自分たちで決める、という考え方ですね。

「Gaudiyはフェアな会社で、自分たちで自分たちの会社を作れるんだ」という思いが、エンゲージメントを高めるのではないでしょうか。

弊社の場合はビジョンや目標に共感して入ってきてくれるエンジニアが多いので、ワクワクする壮大なビジョンを掲げることが、会社に対するエンゲージメントを高めると思っています。

大城:エンゲージメントの高め方でいうと、弊社ではエンジニアの成長のサポートを重視しています。給与自己決定制度や勉強し放題制度、月に100回以上の社内勉強会などがその例です。

あとは、働きやすさを重視したフルリモート・フルフレックスで、働き方や働く場所を自分で決められる、ということもエンゲージメントを高めていると思います。

村上:なるほど、2社とも共通しているのは、一人一人が自分で納得して成長し、それを投影した具体的な数字で給与が支給されること。それがエンゲージメントにつながるという考え方なのですね。

では、エンジニアを正しく評価する方法とは何なのでしょうか。それぞれ、これが正しい評価だと思う基準はありますか?

石川:私はやはり、人は人を正しく評価できないという価値観がベースにあるので、何をやっても正しい評価にはならないと思うんです。検知の仕方を調整し、最後は1on1で話をして総合的に見ていくしかないと思っています。

また、評価には「抜擢の評価」と「報酬の評価」がありますよね。抜擢の評価とは、要は肩書です。リーダーを選ぶときも、それぞれ認知バイアスがかかってしまうことを忘れてはなりません。

見る人によって見え方が違うということを全員が理解したうえでビジョンに向き合うことで、チームワークも高まるでしょう。

村上:先ほど、リーダーは選挙で選ぶと仰っていましたが、誰が誰を選んだかも公開しているのですか?

石川:いいえ、そこは非公開です。公開することで社内政治が生まれてしまうかもしれませんから。それだけは絶対に避けたいと思っています。

大城:私も個人的には人間が人間を正しく評価するのは難しいと思っています。なので弊社では成長や能力のガイドラインを用意して、社員が自分で自分を高めていくための目安として使えるようにしています。

また、自分の取った行動が正しく他人に評価されたかどうかを社内でフィードバックしあう仕組みをつくり、自分が評価されたことを実感できるようにしていますね。

村上:会社と社員との関係であれば、互いの認識がしっかり合っていて、期待値と納得感が合致することが一つの正しさなのかもしれませんね。

納得感を作るのは「透明性」「自分で選べること」

村上:今回のトークセッションのテーマはマネジャーにとって関心の強い内容ですよね。

ぜひお二人から、メンバーの納得感を高める評価をする、給与制度を作るためのアドバイスがあればお願いします。

大城:給与や評価の納得感を高めるには、「透明性」が重要です。ゆめみでは社員がどんな基準で評価されるのかを、インターネット上で公開しています。評価の基準が自分で分かるので、納得感も高まるでしょう。

石川:Gaudiyでは評価してくれる人を自ら選べるようにしています。評価する側の人材をこちらで選んだら、この人に評価されたくない、全然人を見ていないくせに、という気持ちも出てくるかもしれません。

この人の言葉だったら聞きたい、という相手に評価してもらうことで、自分の成長にもつながるはず。評価の本質は、その人に成長してもらうことにあると思うので。

村上:ちなみにお二人は「マネジャー」の役割についてどう思いますか? マネジャーに求められるものが年々増え、今やコンビニのレジ並みに多機能化している印象ですが。

大城:弊社でも以前はピープルマネジメント担当者を置いていましたが、多くのことが求められつぶれそうになったことがありました。なので今はマネジャー職を置いていないんです。

石川:私たちはDAO組織なので、ゆめみさん同様基本的にマネジャーはいません。ピープルマネジメントではなく、プロジェクトマネジメントに近いかな。

プロジェクトマネジャーとして、魅力的なプロジェクトをリードして、そこに人をアサインしたら、あとはお互いにパスを出しながら、得意な人が得意な部分を担っていく。サッカーと同じかもしれませんね。

どちらかというと、個々人がリーダーシップをとれる状態をいかに作れるか、ということにフォーカスしています。

Gaudiy石川裕也

村上:いわゆるスーパーフラットの組織ですね。とはいえ社長なり代表なりが、ある程度統制を聞かせないと組織を動かすのは難しいのでは?

石川:全くその通りで、私たちも40人を超えたあたりでコミュニケーションパスが増えすぎて統制が取れなくなったことがありました。

そこで先ほどの選挙制度をしっかり作って、自分たちでリーダーを選んで統制を作ることにしたんです。責務を負う人を民主制で決めて、あとはみんなが納得してついていこうというのが、今のGaudiyのやり方です。

Gaudiyは全員が実験者兼被験者のようなもので、常識に捉われない制度を入れて、何度も失敗を繰り返してきた。そして、やっと今の制度に落ち着きました。

村上:ベンチャーから大企業まで、いろんな会社がありますから、給与や評価には正解がなく、その会社のカルチャーが一番出るところですよね。

エンジニアはまだ売り手市場なので、自信を持っていろいろなところを見て、自分に合った会社を選び、キャリアのオーナーシップを握っていくことが大事だと改めて感じました。

>>『キャリアデザインウィークECDW』のイベントレポート一覧はこちら

>>本編アーカイブ動画はこちら

文/宮﨑まきこ

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