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【伊藤穰一】今後数年間は、「ジェネレーティブAIの使用を前提とした働き方の可能性」を探る時期に

ITニュース

2011年から19年まで米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの所長を務め、現在は株式会社デジタルガレージ取締役兼専務執行役員Chief Architectであり、千葉工業大学変革センターのセンター長としても活躍する伊藤穰一さん。

2023年5月に上梓した最新刊『AI DRIVEN AIで進化する人類の働き方』(SBクリエイティブ)の中で、「今後数年間は、人間にとって、『ジェネレーティブAIの使用を前提とした働き方の可能性』を探る時期になる」と示唆する。

ジェネレーティブAIは、仕事や働き方に一体どんな転機をもたらすのか。この記事では、伊藤さんが予測する「AIで変わる仕事」について、本書から一部抜粋して紹介する。

※下記記事は書籍『AI DRIVEN』70~72頁、84~88頁を転載して掲載しています。

AIで変わる仕事

ジェネレーティブAIは、今まで人が手を動かしてこなしてきた「作業」の多くを代わりにやってくれる。それだけ人の手間が省かれ、業務が何倍も何十倍も効率化されるため、人間は「本当に人間にしかできない部分」に集中し、それを拡張していけます。

一方、ジェネレーティブAIの利便性は、あらゆる意味で仕事の「たたき台」をつくるところにあるため、「たたき台をつくる」的な人間の仕事は、AIに取って代わられていくと考えられます。

たとえば下調べをする、下書きをつくる、草案を作成する、何かを手配するといった機械的、定型的、ルーティン的な作業をしている人、あるいは指示待ちの人、言われたことしかやらない人などは、活躍の場が減っていく可能性が高いのです。

ジェネレーティブAIが普及しても、ある職種がすぐに消滅するわけではありません。しかし、職業ごとに必要とされる人数は減っていくでしょう。

AIを使って仕事をすることで、作業的な労力は削減される。いわば仕事の構造が変わることで、今まで表層的な「勤務時間」「待遇」といった側面でしか語られてこなかった「働き方改革」が、もっと本質的な意味で起こるだろうともいえます。

Ito Joichi

では実際に、人間の仕事の構造、そして働き方はどう変わっていくのか。

次に具体例を挙げていきますが、全体に共通するのは、今も述べたように、プロフェッショナルの仕事が「拡張」されることです。

ジェネレーティブAIを「パートナー」として使いこなすことで、プロフェッショナルの仕事は大幅に労力削減、効率化されるとともに、さらなる高みに達していける可能性も開かれます。

ジェネレーティブAIによって人間の「仕事」「働き方」が大きく変わるといったのは、そういう意味なのです。

少なくとも今後数年間は、人間にとって、「ジェネレーティブAIの使用を前提とした働き方の可能性」を探る時期になるでしょう。

ジェネレーティブAIを「脅威」「怪しいもの」として見るのではなく、まずは使ってみて「仲良く」なっていけるかどうかが、今後、いっそう飛躍する人と、停滞してしまう人の分かれ道になると思います。

ジェネレーティブAIを使うことで、働き方が大きく変わりそうな「プログラマー」職と、新たに生まれる仕事「プロンプトエンジニア」について見ていきましょう。

【プログラマー】簡単なプログラムは書かなくてよくなる

シンプルにいえば、プログラミングとはコンピューターに対して「こういうときは、こういう処理をして」という指示書(コード)を作成すること。それにはプログラミング言語で組み立てる必要があるのですが、今後は、最初から最後まで自分で書かずに済むようになります。

「こういうプログラムを書いてほしい」とジェネレーティブAIに指示を伝えれば、そのとおりに書いてくれます。1回で完璧なプログラミングができるとは限らないのですが、こちらが欠点を見つけるたびにジェネレーティブAIに指摘すれば、すぐに修正してくれます。

複雑なプログラミングだと最終的に人が綿密にチェックし、修正を加える必要がありますが、簡単なプログラミングならば、ジェネレーティブAIと「相談」しながら、自分はいっさい手を動かすことなく完成させることができます。

プログラマーの仕事は、ジェネレーティブAIを使ってコードを書くこと、およびジェネレーティブAIが書いたコードを精査し、ちゃんと機能するように修正することになっていくでしょう。

【プロンプトエンジニア】「職人技」のプロンプトを作成

ジェネレーティブAIで、今ある様々な仕事のかたちが変わる一方、新たに生まれる職業もあります。

筆頭に挙がるのは、ジェネレーティブAIに作業をさせる際の指示文句、「プロンプト」に関するものです。こちらの望み通りの生成物を、ジェネレーティブAIがアウトプットしてくれるかどうかはプロンプト次第です。

人間でも、上司の指示の出し方によって、部下のパフォーマンスが変わることがありますが、それに似ています。

意思を持たず、きわめて指示主に忠実なAIだと、なおのこと、いいプロンプトならアウトプットもよくなり、悪いプロンプトではアウトプットも悪くなるというのが顕著に起こるのです。

Ito Joichi プロンプトマーケット

PromptBase では、AIに高精度のアウトプットを提示させることができる精緻なプロンプトが販売されている。購入したユーザーはそのプロンプトをたたき台として自分流にアレンジして使用するなどしている。 出典:https://promptbase.com/

そこで生まれた新たな職業が「プロンプトエンジニア」です。「望ましいアウトプットを引き出すのに適切なプロンプトを作成する」というのが新しいスキルになっているなか、プロンプトエンジニアは、自分が書いたプロンプトを販売しています。

顧客は、まだジェネレーティブAIを使い慣れていないユーザーや、自分でプロンプトを書かずに、手っ取り早く望み通りの生成物を得たいユーザーです。

プロンプトは、PromptBase(上写真参照)などのプロンプトマーケットで購入できます。

マーケットを開くと、「Midjourney」「DALL・E」「Stable Diffusion」などとカテゴリーが分かれており、「こんな感じのイラストが生成されるプロンプトです」という見本画像がズラリと並んでいます。

そのなかから好みのものを選んで購入すると、プロンプトが入手できる。たいていは米ドル決済で、価格帯は約2〜5ドルといった感じです。

僕自身も、プロンプトマーケットでプロンプトを入手することがあります。なお、プロンプトマーケットには、新しいものも次々と登場しており、無料のものも多くあります。

望み通りの生成物を得るためというよりは、「こういうプロンプトを入力すると、こういうアウトプットになるんだ」という勉強のためです。

プロンプトエンジニアという新しい職業は、人々がジェネレーティブAIという新しいツールを使いこなすための「教材」としても機能しているわけです。

プロフィール画像

伊藤穰一(いとう・じょういち)さん(@Joi
デジタルガレージ 取締役 共同創業者 チーフアーキテクト
千葉工業大学 変革センター長

デジタルアーキテクト、ベンチャーキャピタリスト、起業家、作家、学者として主に社会とテクノロジーの変革に取り組む。民主主義とガバナンス、気候変動、学問と科学のシステムの再設計など様々な課題解決に向けて活動中。2011年から2019年までは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの所長を務め、2015年のデジタル通貨イニシアチブ(DCI)の設立を主導。また、非営利団体クリエイティブ・コモンズの取締役会長兼最高経営責任者も務めた。ニューヨーク・タイムズ社、ソニー株式会社、Mozilla財団、OSI(The Open Source Initiative)、ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)、電子プライバシー情報センター(EPIC)などの取締役を歴任。2016年から2019年までは、金融庁参与を務める。これまでの活動が評価され、オックスフォード・インターネット・インスティテュートより生涯業績賞、EPICから生涯業績賞を始めとする、さまざまな賞を受賞。「Earthshot 世界を変えるテクノロジー」の番組共同MCを務め、ポッドキャスト「JOI ITO 変革への道」では定期的にNFTに関する話題を取り上げている他、web3コミュニティーの試験的な開発に取り組んでいる

書籍紹介

Ito Joichi BOOK AI DRIVEN

著:伊藤穰一
出版社:SBクリエイティブ

ジェネレーティブAIは、面倒な仕事やチームワーク、マネジメントや組織のあり方を一瞬で劇的に効率化できるツールです。個人の働き方、生き方はもとより、会社組織や教育、文化などあらゆる領域に大きな影響を及ぼしていくことは間違いありません。
ならば僕たちは、ジェネレーティブAIをどのように使っていくか。

ツールとしてのジェネレーティブAIを、うまく使えるようになった人から大きく飛躍していく時代は、もう始まっています。新時代を生き抜くリテラシー、「AI DRIVEN」な働き方・生き方を習得し、活躍のチャンスを手にすることに本書を役立てていただけたら、著者としてたいへん嬉しく思います。

>>>詳細はこちら

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