はじめましての方ははじめまして。フリーランスでエンジニアをしています小山哲志(@koyhoge)と申します。毎日どこかで勉強会などのイベントが開催されているくらいIT業界のコミュニティ活動は活発です。今月より月イチペースで私が参加した勉強会のレポートをこちらに書かせて頂くことになりました。
さて第1回目は、2017年3月24日(金) に開催された『html5j Webプラットフォーム部 第16回勉強会「WEBマネーの虎」』をレポートします。
合同会社ほげ技研代表社員 日本UNIXユーザ会幹事
小山哲志氏(@koyhoge)
1965年生まれ。3社を経た後ビート・クラフト設立に参加。働き出した当時から日本UNIXユーザ会をはじめとするコミュニティに参加。ビート・クラフト、テックスタイルを経て、アジャイルメディア・ネットワークに入社。2013年12月に同社を退職後は、自身で設立した合同会社ほげ技研を中心に活動中。どのITイベントに行っても必ずいるとよく言われるが決してそんなことはなく、もし見かけたらそれはそっくりさんの可能性が高いです。
注目の集まるWeb Payments分野。ワーキンググループ登場で試せる環境に
タイトルから想像するに、吉田栄作さんが出てきて「ノーマネーでフィニッシュです」とか言いそうですが、全くそういうことはなく、最近盛り上がっている決済系のサービスやAPI仕様に関する勉強会でした。
インターネットの発展に伴って、Web上で買い物をし、なんらかの決済処理をすることは今や至極当たり前になりました。ただその際の決済手法は各サービスが独自に実装していて、サービス間の互換性はありません。Web上での決済処理を標準化することでこの状況を打破しようとしたのが、W3Cに2015年10月に作られたWeb Paymentsワーキンググループでした。
このワーキンググループでは標準仕様の候補を、順調にドラフトにまとめています。各ブラウザでの実装も先行して進められており、それがどのようなものかは、一般の人でもすでに試せる状況にあります。
目指すは仕様の標準化。マジョリティをとるのはどこか
さて今回の勉強会に関連するドラフトは以下の2つです。
・Payment Request API
・Payment Handler API
最初にGoogleの北村英志さんからWeb Paymentsの総論的な発表がありました。
はじめてのWeb Payments(※Google スライドが開きます)
ここで説明されたのは主にWeb Request APIについてです。Web Request API は、各種支払い用のユーザーインターフェースを表示し、ユーザーが入力した内容のJSONデータを受け取るための仕様です。最終的にはブラウザに組み込まれることを目指していて、これが実現すると支払情報の入力UIがどのサイトでも統一されることになります。
続いてPayPalの岡村純一さんから、PayPalが提供する新しい決済APIであるBraintree SDKについての説明がありました。
・Easy & Secure Payment by Braintree SDK
Braintreeは、PayPalが2013年に買収したペイメントゲートウェイサービスです。PayPalがデジタルウォレット(電子財布)と呼ばれるネット上の口座を提供し、支払いと受取りの両方を行う資金移動業なのに対し、Braintreeはユーザーと各種決済サービスをつないで受取りの代行を行う収納代行業という違いがあります。要するにBraintreeは支払い専門ということですね。
Braintree SDKは、すでに述べたPayment Request APIと連携できるので、標準UIにBraintreeの支払いメソッドを組み込むことができます。
続いてはstripeのDaniel Heffernanさんによるstripeのお話です (スライドは公開されていません) 。
stripeは、元AWSのマーケティング責任者だった小島英揮さんが、「複業」のひとつとして選んだことで注目を浴びるようになったペイメントゲートウェイ会社です。Payment Request APIの策定が始まるずっと以前より決済APIを提供しており、Web Paymentsワーキンググループに参加して仕様の標準化にも貢献しています。
Web Paymentsはそう遠くない将来、経済の基盤に
最後にstripeにジョインした小島英揮さんから、Web Paymentsを取り巻く環境とその意義という、ちょっとエモーショナルな話がありました。その内容を少しだけ紹介します。
・今、Online Payment / Cashlessに注目する理由 ~クラウド時代の決済トレンドとは~
各種統計からも明らかですが、これから日本の人口はどんどん減少していきます。そのため何もしないでいると、ビジネスはどんどん縮小していく未来しかありません。それを回避するには、日本にやってくる外国人をターゲットにビジネスをするか、逆に日本にいながらにして海外をターゲットにビジネスをするのが必然です。
訪日客をターゲットにするインバウンドビジネスでは、クレジットカードを始めとするキャッシュレス対応は必須です。日本は世界的に見ても現金が幅を利かせている国ですが、訪日客の視点では現金しか使えないサービスは、購買対象から外されます。AirbnbやUberなどのシェアリングエコノミービジネスが普及し始めていますが、これも事前決済かつキャッシュレスなことでサービスのUXが向上します。
また日本から海外に対してサービスを提供する場合も、各国の事情に合わせてさまざまな形態の決済方法を実装しなければいけません。
この両者に対応するために、決済プラットフォームを利用して支払いを効率化することは、今後のビジネスに必須でもあると言えます。
私はこの勉強会に参加する前は、Web Paymentsの標準化動向はほとんど知りませんでしたし、あまり興味を持ってもいなかったのですが、参加して考えがガラリと変わりました。大変面白い分野だと思いましたし、今後の経済の基盤になる技術だと考えるようになりました。
ここまでドラスティックに新しい知見を与えてくれるイベントはさほど多くありませんが、大変刺激的な体験ができて面白かったです。皆さんも日夜開催されている勉強会にどんどん出かけていって、どうぞ刺激的な体験をして下さい。