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「人間の弱さ」こそAIにはない強みに。博報堂グループのCAIOが見据える、AIのあるべき姿とは

ITニュース

これほどまでにAIがもてはやされると、ついつい「AI起点」の発想に陥りがちだが、そこに疑問符を投げかける研究機関がある。

それが2024年4月に設立された、AI先端技術研究所「Human-Centered AI Institute」(以下、HCAI)だ。HCAIでは、「人間中心」のAI活用をすることで、人のクリエーティビティーを刺激し創造性を引き出す「これからのAIのあるべき姿」を探求しているという。

人間の創造性を引き出すAIとは何か。その答えを探るべく、HCAIのトップを務める博報堂DYホールディングスのCAIO・森正弥さんへ話を伺うと、先端技術の研究開発や社会実装に携わるエンジニアの心構えが明らかになってきた。

※本記事は2024年11月に発売予定の雑誌『type就活』から先行公開をしています。

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博報堂DYホールディングス
執行役員 CAIO
森 正弥さん(@emasha

1998年、慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社、インターネット企業を経て、グローバルプロフェッショナルファームにてAIおよび先端技術を活用した企業支援、産業支援に従事。東北大学特任教授、日本ディープラーニング協会顧問を務める

「飽き」や「疲れ」は、AIにはない「強み」

AIは疲れを知らず、与えられた仕事を24時間、365日休まず忠実にこなせる。その点で、人間はAIに太刀打ちできない。人間は総じて飽きっぽく、生きていくためには休憩や睡眠が必要だ。

しかし森さんは、そうした「飽き」や「疲れ」こそ人間の強みだという。

「AIなら、計算資源さえ維持できればタスクを中断させる必要はありません。これでは人間に勝ち目はないと思ってしまうかもしれませんが、もちろんAIにも限界はあります。AIはあらかじめ設定されたルールの中で最善は尽くせても、あえてルールを破ったり、新たなルールを作ったりはできないからです」

囲碁AIは将棋を指せないように、AIが既存のルールの限界を超えるには、新しくアルゴリズムを作り直すほかない。しかし人間であれば、その制約は易々と乗り越えることができる。

「人間は集中力を失えば飽きるし、飽きれば仕事を放りだしてゲームに興じてしまうこともある。けれど休憩や睡眠を挟んだり、気晴らしに他のことをしたりしているうちに、新しいアイデアが生まれたり、解決策がふと浮かんだりして、別の切り口からのアプローチが可能になる。そうしてそれまで解けなかった仕事の問題が解決するといったことは、誰しも経験することです。

一見、弱点に見えるこの脆弱性こそが、過去のデータや論理の積み重ねだけでは辿り着けない非線形な発想の源泉にもなり得るわけです。ここに私は、AIには持ち得ない人間の強みを感じます」

博報堂DYホールディングス 執行役員 CAIO 森正弥さん

「仕事が楽」で満足してはならない

AIが持っていない、人間ならではの強み。その強みを「最大限に活かすためにAIがある」と森さんは続ける。

「AIがクリエーティブの世界に急進的な変化をもたらしつつあることは、多くの方がすでに実感されていると思いますが、まだまだAIを単なる道具として考えている方が多いのが現状です。そうではなく、『AIは人の創造性を引き出し高めるもの』というスタンスが、これからのAIのあるべき姿だと考えています」

すでに多くの場でAIを活用したプロジェクトが進められているが、その際、「生産性向上」だけが目的になってしまってはもったいないと話す。

「AIのおかげで生産性が高まると、誰しも『仕事が楽になった』感覚を一番に感じるでしょう。しかし、それだけに満足していては、使い手が必要とするシステムからほど遠いシステムが生まれてしまうリスクも高まります。

AIを活用してクリエーティビティあふれたアイデアやプロダクトの創出につなげるには、多様なステークホルダーとオープンにコミュニケーションしたり、ディスカッションを重ねたりしながら、機能やUI/UXを改善する営みが欠かせません。この、当たり前のように思えるアクションを着実にこなしていくことこそ、AIを創造的に活用する要諦です」

ビジネスとテクノロジーは表裏一体といわれるようになって久しい。そこにAIの劇的な進歩が加わり、テクノロジーの使い手であるエンジニアの影響力は日増しに高まっている。その高まり続ける期待に応えるため、AI時代のエンジニアたちにはどのようなマインドセットが求められているのだろうか。

「得意分野を掘り下げるだけでなく、自分の専門分野外にも視野を広げる勇気を持ちましょう。状況はいつ変わるかわかりません。居心地のいい環境に安住せず、適切なキャリアを棚卸しし、ここぞというタイミングで自身のコンフォートゾーンを飛び出す勇気を持てれば、きっとほかの誰とも似ていないキャリアが築けるはずです。

自分らしくあり続けるためにも、変化の激しいこの時代を生き抜くためにも、ぜひこのことを頭の片隅においていてキャリアメイクしていただけたらと思います」

博報堂DYホールディングス 執行役員 CAIO 森正弥さん

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/桑原美樹 編集/今中康達(編集部)

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