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「優秀なエンジニアをまとめる時に、リーダーがやれることは一つだけ」Indeed出木場久征氏に聞く“この指止まれ”の変革術【特集:New Order】

働き方

    「優秀なエンジニアをまとめる時に、リーダーがやれることは一つだけ」Indeed出木場久征氏に聞く“この指止まれ”の変革術【特集:New Order】

    1960年に創業し、大学新聞専門の広告代理店からスタートしたリクルート。現在では、仕事や学び、結婚、食事、美容など人の生活に関わる各種情報サービスを発信する、日本を代表する企業となっている。

    そんなリクルートにも、大きな変革期があった。1990年代から始まった、紙媒体からインターネットへの媒体シフトだ。生活情報のインフラを紙媒体で築き上げたリクルートにとって、特に大きな変化だった。

    多くの企業が、紙媒体からWebへのシフトに苦汁を飲んだ時代。倒産する出版社が激増していたような変革の時代に、リクルートのWebシフトに多大な貢献を果たした人物がいた。

    2012年にリクルートが買収したIndeedのCEOを務め、同2012年にリクルート執行役員に就任した出木場久征氏だ。

    1999年に新卒でリクルートに入社した同氏は、2002年にヤフーと共同でのインターネット中古車オークション事業を立ち上げて以来、『じゃらん.net』、『ホットペッパービューティー』、『ケイコとマナブ.net』といった各媒体のインターネットシフトを推進し、2011年には全社WEB戦略室の室長に就任。リクルートのインターネットシフトにおける最重要パーソンと言っても過言ではないだろう。

    出木場氏は『じゃらん.net』を含め、リクルートのインターネットシフトを推進したキーマンだ

    出木場氏は『じゃらん.net』を含め、リクルートのインターネットシフトを推進したキーマンだ

    そんな出木場氏に、IndeedのCEOとして組織をけん引する考えを聞くと、「引っ張るだなんておこがましい。エンジニアにとっていかに心地よい状況を作り出すかという考えですね。彼らは、僕よりもよっぽどイノベーションを生み出せるんですよ。僕ができることは、彼らが最大限バリューを発揮できる環境を作ることだけ」と、これまでの実績からは想像できない言葉が返ってきた。

    この姿勢の裏側にある、人を惹き付け、組織を変革する力とは何か。出木場氏の胸中に迫る。

    いつでもリクルートを辞める覚悟があった

    ―― 出木場さんは自身をどのようなタイプだと分析しますか。

    僕は昔から面倒なことが大っ嫌いなタイプ。加えて、自分が納得できないことを指示されると、絶対にやりたくないと思ってしまう。

    でもそれで終わりではなくて、ムダなことをしたくないから、じゃあ別の方法でやりましょうよと。つまり、ムダをなくすことを考えるのは好きなんです。

    例えば、僕がキャリアをスタートさせた『カーセンサー』の営業時代。先輩には、「営業マンとして売れるクルマを判断できるようになるまでに、5年くらい経験を積まなきゃならない」と言われていました。

    でも、当時は徐々にインターネットが普及していたので、サイトのログを解析してみると人気の車種はPVが高いという事実が分かりました。つまり、ログ解析によるデータを見れば、売れるクルマの傾向もすぐに分かったわけです。

    こういう視点は、20代のころから持っていましたね。

    ―― 一方で、組織で働く以上、周囲と違った意見を発する人は反発されることが多いと思います。組織を動かす上で、どんなことを考えていましたか?

    本気で思いを伝えると、上司や同僚に理解してもらえることが多かったですね。昔は長時間飲みに行ってとことん話すようなことも多々ありました。

    20代のころから今もずっと変わらないのは、やるだけやっても僕の思いが組織に届かなければ、すぐリクルートを辞めても構わないと思っていることです。

    だって、「これはムダじゃないか!」、「こっちの方が効率的に売上が上がるはずだ!」と出した意見を検討すらしてくれない組織なんて、働いていて面白いわけがないじゃないですか。そんなところで働いているのは、大事な青春をムダにするだけ(笑)。

    幸い、リクルートは僕の話を受けとめてくれる組織だったので、今も働かせてもらっていますけどね。

    ―― チャレンジしてみたけれど自分が間違っていた、なんてことはありませんでしたか?

    メチャクチャあります(笑)。人前では言えないような失敗もたくさんありますよ。3~4回くらいは坊主にしたんじゃないかな。「だから、あれほどリスクがあると言ったじゃないか」と上司に怒られたら、すぐに謝っていました。

    ―― 大見栄を切って始めたことが失敗してしまったら、萎縮してしまうと思うのですが。

    人からどう思われるのかは、あまり意識しないタイプなので。だって、評判とか、どうでもよくないですか? 僕は目的主義者なので、「周囲にどう思われるか」より「仕事の結果、事業がどうなったか」の方が大事。

    だから、僕の目算が甘かったり、やり方がダメだった時は高速で土下座します。誠心誠意謝って、次のことをやる。

    エンジニアの価値を理解し、自分の役割を考える

    出木場氏とIndeedのスタッフ。写真からも場の雰囲気が伝わるようだ

    出木場氏とIndeedのスタッフ。写真からも場の雰囲気が伝わるようだ

    ―― リクルートのネットシフトをけん引してきた出木場さんですが、ご自身はエンジニアではありませんよね? よく、開発チームを率いる上で、“スーツ組”と称されるビジネス側がリードしようとしても付いてこないという声があります。出木場さんはどのようにIndeedを率いているのですか?

    うーん、個人的な意見ですが、「エンジニアが付いてこない」って発想自体が間違っているんだと思います。

    少なくともネットビジネスの世界では、コードを書けない人間は、世の中にイノベーションを起こすことができないんです。イノベーションを起こすモノを作るエンジニアこそが、価値のある人で。だから、僕のような経営者は、その手助けをするのが唯一の仕事だと思っています。

    例えば、野球で自分よりも上手い人に「こうスイングした方が良い」なんて言いませんよね? 僕はそこで言うならば、用具係のような役割です。プレイヤーのマッサージや万全な環境を整備することで、パフォーマンスに貢献するんです。

    ―― なぜそう思うように?

    実はかなり若いころからネットビジネスをやっていたんですね、 従兄弟とかと一緒に。従兄弟はエンジニアだったから、僕がやるのは彼のお世話(笑)。そのころからです、「エンジニアって大事だ」と思うようになったのは。

    ―― 何かを大きく変えるのは、技術ドリブンでは無理という声もあります。イノベーションのきっかけは不便やムダを解消したいという欲求なりアイデアであって、技術はそれを実現する手段である、と。出木場さんは、アイデアと技術のバランスをどう考えますか?

    両方が大切という前提で、今は技術寄りになってきていると思いますね。それは、技術側のソリューションレベルが上がっている点にあります。

    以前は1年掛けて実行していたものが、今は1カ月できるなど、トライアンドエラーのサイクルが明らかに速くなりました。

    それこそ昔は、1発勝負のアイデアを練ることに時間を費やしていました。今は複数のアイデアを持ち、とにかく試すことができるため、技術に寄っていると考えます。

    ―― それは、ビジネス視点を持ったエンジニアがいればこそ成り立つ発想ですね。

    エンジニア1人1人がきちんとサービスのゴールを設定でき、動くことができる体制を整えることが大切です。そのためには、各チーム、各人に適切なKPIを設定することが重要。目標に対して、適切にコミットするためですね。

    ―― 定量的と定性的なバランスを取って、マネジメントする必要があると。

    全員が納得できる未来を考え、思考を共有する。そして、エンジニアが挑戦しがいのある目標を考えることが重要だと思いますね。

    「メンバーをワクワクさせる」これが、リーダーの仕事

    「前例のない取り組み」を数多く手掛けてきた出木場氏。その際に出てくる反対の声とはどう付き合ってきたのか?

    「前例のない取り組み」を数多く手掛けてきた出木場氏。その際に出てくる反対の声とはどう付き合ってきたのか?

    『じゃらん.net』のインターネット予約を軌道に乗せた後に、『ホットペッパービューティー』のポイント予約システムを発案しました。ですが、意気込む僕を待っていたのは、新しいチームメンバーからの反対でした。

    『ホットペッパービューティー』のポイント予約システムを考案した出木場氏を待っていたものとは?

    『ホットペッパービューティー』のポイント予約システムを考案した出木場氏を待っていたものとは?

    「『じゃらん.net』の予約システムは成功したかもしれないけど、美容室はそう上手くいきません。このデータをみて下さい」と。

    「美容室の数十%しかPCを設置していない」とか、「アメリカのスタートアップでも美容室の予約システムは成功した前例がない」とか、いろいろ言われましたね。

    そこで僕は、チームメンバーにこう伝えたんです。「30年後のあなたは、美容室を電話で予約してると思いますか?」と。

    こういったメッセージを投げ掛けてみると、みんな未来を想像してみるんですよね。全員一致で、30年後はきっとインターネットで予約しているという答えが出ました。

    全員の思いが同じ方向になったのであれば、後は事業を興すタイミングを間違えないことを考えればいいだけ。

    やっぱり、リーダーは方向性を示すことが大事だと思うんです。「世界で一番最初にビジネスを立ち上げて成功させたら、俺たち最高にカッコいいよね!?」とメンバー全員に行動の意味と価値を伝えて、意識を統一する。

    つまり、発想と伝え方が大切。

    「我々のマーケットシェアを2%拡大するために、新しい機能が必要です」とみんなに伝えても、本当の意味で一緒に動いてくれないと思うんです。僕なら、そんな仕事に自分の青春を1秒足りとも使いたくない。

    ―― それこそが、リーダーや経営者に最も求められることだと。

    ええ。もちろん、いろいろなタイプのリーダーシップがあると思いますが、僕のように特に何かに秀でた点がない人間だと、メンバーに自分の思いを押し付けるようではダメだと思います。

    僕がみんなに意思を伝える時には、「この指止まれ」みたいな発想です。このビジネス、すごく面白いからみんなでやってみようぜ!って。

    みんなだってやりたくないなら、やらなくていいと思っています。選択はみんなが持っている権利ですから。

    ―― 出木場さんは今後、Indeedでどんなことを行っていきたいですか?

    HR業界って、まだまだいろんなムダがあるなと感じています。だからIndeedがそれを解消して、ユーザー側にも事業者側にも価値のあるサービスを提供し続けていきたいですね。

    例えば、ある職場でなかなか応募者が来てくれない会社があるとします。その要因は、会社として知名度が低かったり、不人気職種だからなど、いろいろあるでしょう。でも、もし給与がよかったりしたら、「お金を貯めたい」と思っている求職者が来てくれるかもしれませんよね?

    そう考えて、例えば僕らは今、独自アルゴリズムを開発して世界中の職業の給料額を分析・予測表示しようとしていたりします。

    今はユーザーが仕事と給与の関係性を理解することができないから、仕事を選ぶ基準が作れないんです。また、仕事と給与を比較するデータがあれば、会社側は給与を標準まで引き上げたり、標準よりも少し高額にすることで、求職者に今までと違った印象を与えることができるかもしれません。

    Indeedが独自開発した解析ツール『Imhotep(イムホテップ)』

    Indeedが独自開発した解析ツール『Imhotep(イムホテップ)

    つまり、今まであった求職と採用のムダを解消していくには、より多くのデータが必要なんです。今はデータがサービスを洗練させる時代ですし。

    多様な情報があることで、マッチングの精度が高まります。そのためにはIndeedが保有している1億8000万人のデータをもっと活用できるようにならなければいけません。

    ユーザーの経歴からどのような仕事に応募し、合否がでているのかを把握し、活用する。これが進化すると、たった数日で転職先が決まるような世界だって実現できるかもしれない。

    それが普通になったら、国のGDP向上につながる可能性すらあると思っています。

    ―― そこで出木場さんはどのような役割を務められるんですか?

    僕の役割は、「そんな素晴らしい世の中ができたらいいよね!」って言って、「じゃあ、みんなどうすれば頑張れる?」と聞くことです(笑)。

    ―― ありがとうございました!

    取材/伊藤健吾 文/川野優希(ともに編集部) 写真/リクルート提供

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