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[コラム] Webアプリ開発者の”寿命”は30代前半!? 大量採用に潜むリスクと、将来の身の振り方を考える

ITニュース

    平日の夜7時、都内某所のビルに続々と集まってくる若者たち。彼らの行き先は、あるソーシャルアプリ開発会社が行う中途採用説明会だ。会社帰りの時間帯にもかかわらず、黒や紺のスーツ姿で来る人はほとんどいない。服装や髪の色もさまざまで、見た目は皆、大学生といってもおかしくないほど若い。

    日本にスマートフォン旋風が吹き荒れ、それと歩を合わせるようにアプリ開発の動きも一気に加速している

    最近、Webアプリ(ゲームアプリ・ソーシャルアプリなど)開発会社の採用説明会では、このような光景がよく見受けられる。たいていの参加者が20代前半~半ばくらいで、実際に採用されるのも、一般的なICT企業に比べれば20代の比率が非常に高い。

    市場の魅力と転職マーケットの規模で考えれば、若いエンジニアがこのジャンルに殺到するのは当然と言える。

    6月8日の日刊工業新聞によると、国内SNS大手のディー・エヌ・エーとグリーは、スマートフォン向けサービスの拡大や海外展開を背景に、2011年度の採用数を前年度比ほぼ倍の200~500名以上に増やすという。総合転職サイト『@type』における掲載職種数でも、「システム開発(Web・オープン系)」の分類で掲載される求人数は、ほかのICT系職種の求人数に比べてケタが一つ異なるほど多い(2011年5月末時点)。

    2010年5月~2011年5月の1年間で『@type』求人掲載数の増減率を見ても、「Web・オープン系開発」の職種数は12カ月中8回、対前月超えを果たす活況ぶり。ひところはERP導入ブームを背景に100名規模の大量採用が行われていた「パッケージソフト開発職」は、同時期に対前月比で年間8回も減少しており、その違いは歴然だ。

    (『@type』掲載職種数に関するデータはすべて株式会社キャリアデザインセンターCDC総合研究室調べ)

    BtoC人気とこうした”上げ潮”を受けて、若いエンジニアたちがこぞってアプリ開発の世界に挑戦したくなる気持ちは十分理解できる。ただ、先に挙げたERPブーム後の顛末を思い出してみると、時流に乗るメリットの裏には小さくないリスクが潜んでいることも見逃せない。

    アプリ開発で「食えている」事業者はいまだ2割弱という事実

    そのリスクとは、ひとたびブームが収束すると、大量に「余剰人材」扱いされてしまうというもの。2000年代、ERP導入エンジニアとして大量採用された人たちは、導入ブームの終わりとなったリーマン・ショック後、少なくない人数がリストラ対象となった。

    ジャンルがまったく異なる上に、現在のアプリ開発ブームがいつ収束するかは誰にも予想できないが、何かのきっかけで「成功の前提条件」が崩れた途端、同じ轍を踏まないとは言い切れない。

    『WWDC 2011』で発表されたAppleの各サービスには、賞賛の一方、「アプリ提供者の事業を難しくした」との声も……

    実際、今年6月6日に開かれた米Appleの開発者向けイベント『WWDC 2011』で発表されたiOSのアップデートにより、既存アプリベンダーの中には死活問題となるところも出てくると予想されている。プラットフォーマーの戦略変更は、そのまま事業存続の可否に直結してしまう。

    また、業界内の競争の激しさがネックとなることも考えられる。株式会社インプレスR&Dの『世界のモバイルアプリ市場調査報告書2011』(2011年3月3日発表)によると、現時点で「事業として収益を上げている」と答えたアプリプロバイダーは14.1%とまだまだ少ない。

    その他大勢のアプリ開発事業者は、国内だけでも3000億円規模と言われる巨大マーケットで成功をつかむため、チャレンジのさなかというわけだ。その中には、陽の目を浴びることなく撤退を余儀なくされる企業もあるだろうことは、想像に難くない。

    さらに、この領域では若くて勢いのあるベンチャー企業が雨後のたけのこのように生まれているが、この”若さ”が従業員にとってのリスクになることも考えられる。国内のSIerから設立間もないSAP(ソーシャルアプリプロバイダー)に転職して2年が経つ30代前半のアプリ開発者は、こうホンネを漏らす。

    「まず、開発のスピード感が半端ない。ユーザー数が伸びなかったり、うまくマネタイズできないと、それこそ1カ月や4半期ごとに企画や機能を大きくテコ入れをしないと競合に勝てないような世界。いつまで自分がこのスピードについていけるか不安だ。それに、企画から開発までを少人数で行えるのが醍醐味ではあるが、ユーザー数が伸び悩んだ時は『いつまでこの切羽詰った毎日が続くのか……』と精神的に疲弊してしまうことも。目新しい企画がいつも出てくるわけじゃないし、望んだ転職とはいえ先々を考えるとちょっと怖い」

    意外と見逃せない「経営&事業部トップとの世代間ギャップ」

    異なる視点ではあるが、多くのアプリ開発ベンチャーに事業展開の核となるエンジニアを紹介してきたヘッドハンターも、黎明期ゆえに抱えるリスクをこう語る。

    「ほかのICT企業に比べても、このジャンルの創業者は総じて若い。ギラギラした野望を持ってマーケットシェアを取りにいく人たちばかりなので、当然”オレ様系”のナルシストも多い。そんな中で開発を続けていくには、技術力や発想力以前に、『トップとの相性』がとても大事になってくる。実際、アーリーステージのスタートアッパーに、参謀役となり得るベテランエンジニアを紹介しても、社長とのソリが合わずすぐに辞めてしまうケースが想像以上に多い」

    ソリが合わない云々……の話は転職ではよくあることだが、明らかに世代の違うトップの下で働く苦労は、傍目から見ている以上に大きなものがあるという。個人差こそあれ、ベースになる思考や発想、ビジネス観が根本的に異なるからだ。

    中には「大学の研究室的なノリのまま」(前出のヘッドハンター)というベンチャーもあり、特に20代社長の下に30代以上のエンジニアが入ると、「どちらかの器が大きくないとなかなかフィットしない」という。

    こうした証言と業界の潮流から考察するに、今のところ、アプリ開発の第一線で戦っていくには(この点でも個人差があるのを前提に)おおむね30代前半をメドにピークアウトしてしまうといえるのかもしれない。

    では、その後の身の振り方として、検討するに値する選択肢はどんなものがあるのか。ある大手人材紹介会社のアドバイザーは、以下の3つのパターンが考えられるとアドバイスする。

    【1】 大手SNS企業/プラットフォーマーへの転職

    大手は当然従業員数が多く、年齢層も比較的幅広いため、ベンチャーほど一人一人が身を削って働かなくても大丈夫なよう体制・制度が準備されている。とはいえ、競合とのサービス競争が激しく、開発サイクルが非常に早い点は変わらず。なおかつ中途採用は20代が中心となるので、売り込むための実績やディレクターとしての技量、高い技術力etc…は必須。

    【2】 成熟期にあるネット企業や電子書籍サービスに取り組む企業へ

    共通項は、核となる事業はすでに安定しており、アプリベンチャーに比べたらそれほど忙しくなく、かつ新規サービスを手掛ける余力のある企業。EC関連を手掛ける大手ネット企業や、電子書籍事業を開始するような企業に移れば、スキルを活かしながら働ける。

    【3】 SIerへの「出戻り」転職

    もともとSIer⇒アプリ開発会社へ移っていったエンジニアが、この選択肢を選ぶケースが多い。単なる出戻りだと抵抗を感じるだろうが、中には従来型の受託開発から抜け出すために新しくR&D(クラウドやソーシャルツールを活用したサービスづくりなど)に取り組む企業・部門もあるため、そういった求人を探せば新しい経験が積める。

    30代後半はこうした道を選ぶか、うまく行けば世界的成功を手にできるかもしれないアプリ開発の世界で引き続き戦い続けるか。どちらが良いかも、個人差があるとしかいえない話ではあるのだが。

    取材・文/伊藤健吾(編集部)

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