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彼女たちはなぜ研究者を目指したのか~そのきっかけと女性ならではの強み【連載:五十嵐悠紀】

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    五十嵐 悠紀

    計算機科学者、サイエンスライター。2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。日本学術振興会特別研究員(筑波大学)を経て、明治大学総合数理学部の講師として、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは三児の母でもある

    2014年9月3日~5日、情報処理学会と電子情報通信学会主催の情報科学技術フォーラム『FIT2014』が、筑波大学にて開催されました。

    私は今年度から情報処理学会の会誌『情報処理』編集委員を務めています。そして、編集委員の女性陣が集まった「女子部」が発足し、女性研究者によるコラムの連載が始まりました。

    今回は初の試みとして、FIT2014の中で女性編集委員によるパネルディスカッションを企画し、女性研究者の研究生活や日常、仕事場での出来事などを中心に、会場の皆さまも含めて自由に語り合うという趣旨のイベントを行いました。

    「リケジョ」という言葉でまとめられがちな理系女性ですが、女性研究者の実態はあまり知られていないのではないでしょうか?研究者という専門職に就いた多種多様な人材のキャリア形成をご紹介したいと思います。

    なぜ「女性研究者」を目指したのか

    私自身は独立行政法人の研究者で、大学に所属しながら自分の好きなテーマで研究をしている研究員なのですが、他のパネリストは大学教員をはじめ、企業で働く研究者、国の研究所で働く研究者、自身の会社を起業した代表取締役社長さんなどなど、一口に「女性研究者」といっても多種多様なキャリアをお持ちの方々です。

    なぜ、皆さんは専門職を目指したのでしょうか?

    なぜ「女性研究者」を目指したのか
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    ■高岡詠子先生―算数好きな興味津々な女子。教えることが好きだった

    上智大学の高岡詠子先生は、もともと算数好きな女子だったそう。しかも、興味の対象は算数だけにとどまらず、どこに行ってもあらゆるものに興味津々で、周りの大人たちを驚かせていたようです。大学院への進学の影響は「大学院で修士論文を書きながら私を産んだ母の存在」とおっしゃっており、理系に進むのも、大学院へ進学するのも自然な流れだったそう。

    「昔から教えることが好きだった」ということもあり、E-learning教材を100本くらい作られたり、ブルーバックスシリーズの本を書かれていたり(『シャノンの情報理論入門』『チューリングの計算理論入門』)、放送大学でも「情報科学の基礎(2007-2012)」、「計算事始め(2013-現在放映中)」の科目を担当なさっています。

    情報処理学会会誌の中でも、情報教育に対する関心の高まりを反映して、教育に関係するコラム・記事・解説を掲載する教育コーナー『ぺた語義』を立ち上げられ、会員以外の人でも無料で読める人気コーナーの1つです。

    「未来の社会を担っていく若者を育てることで大きな可能性に向かって貢献したい」という夢を話してくださいました。

    ■辻田眸さん―もう一度海外で研究をしたい

    オンライン秘書サービスを提供する株式会社シンクフェーズの辻田眸さんは「研究が楽しかった。より困難そうな道を選んで自分を試してみたかった」と博士課程への進学を決意したそう。米ジョージア工科大学へ客員研究員として留学をした1年間はとても楽しかった上に、海外の女性研究者の活躍を目の当たりにしたことで、ますます研究への意欲が湧きたったそうです。

    そして、「もう一度海外で研究をしたい!」との強い思いから、研究者としての道に進むことを決めたとのことで、この日の聴講者にも「自分を違う環境に置くことで自分の考え方が変わることも多いため、海外留学をお勧めしたい」とおっしゃっていました。

    米国ジョージア工科大学への留学経験から研究への思いを強くしたという辻田さん

    米国ジョージア工科大学への留学経験から研究への思いを強くしたという辻田さん

    博士号取得後、大学に残って研究、企業へ就職、起業……などさまざまな可能性の中で、まずは大学で研究員として働くという選択をした辻田さん。一方で、その間に妊娠・出産を経験したことで、子育てと仕事とのバランスを考えるようになり、「自分でスケジュールをコントロールしたい」と、一念発起して起業をすることに。

    もちろん起業に迷いは付きもの。辻田さんも起業する際は悩んでいたそうですが、アメリカ人の旦那さんから、「まだ始めてもいないことをなぜ悩んでいるのか分からない。失敗はチャンスととらえるべきだ」と応援され、踏ん切りがついたそう。

    それからは「何事も心配しすぎないことが大事。思い通りに行かないことが多いので心配しすぎても意味がない」と考えるようになったと言います。

    「研究者の方々を支援したり、社会とのつながりが欲しい子育て中のママと積極的に連携したりして、さまざまな人を支援するような仕事をしたい」

    そんな目標を掲げながら、現在自身で立ち上げた株式会社の代表取締役社長を務められています。

    ■土井千章さん―いろんなアルバイトの経験から見つけた今の職業

    NTTドコモの先進技術研究所で研究員として働く土井千章さんは、修士卒で入社し現在6年目。自分に向いている職業を探すため、学生時代にはアルバイトとして、コンビニ店員をはじめ、塾講師やアプリケーションテストなどいろいろな経験を経たそうです。

    「楽しかったお仕事ベスト1は司会・イベントMCでした!」とおっしゃる姿はまさに“イベント司会のお姉さん”がとっても似合いそうな元気いっぱいの研究者。たくさんのアルバイトを実際に体験し、身近に肌で触れた上で「研究者」という職業を選んだそうです。

    「子供のころに父に連れて行ってもらった学会で、沢山の研究者の方が発表やデモンストレーションをしている姿を見て、研究者という職業って格好いいなと感じていたのが大きかったと思います」と語ってくださいました。

    土井さんは自身が感じる研究者という仕事の魅力として

    1、自分の好きなことを追求できる
    2、新しい発見が多く、日々新鮮
    3、時間の配分をコントロールしやすい
    4、人との出会いが多い

    の4つを挙げていました。

    土井さんのように就職してから博士号取得を目指す方法もある

    土井さんのように就職してから博士号取得を目指す方法もある

    「私自身は修士卒で今の会社に入社したのですが、働きながら大学院に通い、博士号を取得するという選択肢もあります。実際に私の周りでも現在働きながら大学院に通われている方や入社してから博士号を取得された方もいらっしゃいます。博士課程へ進学するか迷っている方は、このような博士号の取得の仕方も選択肢の一つとして考えるのも良いかもしれません。

    また、出産や子育てについては、弊社の場合ですと出産休暇や育児休暇、育児のための短時間勤務等の制度があるので、これらの制度を活用して子育てをしながらイキイキと仕事を続けている女性社員がたくさんいます」

    ■五十嵐悠紀―数年先の女性研究者の姿に憧れて

    そして、私自身はというと、学部時代のたくさんの先輩方のバリバリ頑張る姿に憧れて研究者を目指しました。

    女子大だったため、社会人博士の先輩や子育てしながら博士論文を書く先輩、企業で研究をする先輩や、大学の教員になった先輩など、自分より数年先の女性研究者の多種多様な姿が身近にありました。

    そういった身近なロールモデルの女性との縦のつながりを作るために、先生や幹事の先輩が毎年同窓会を開いてくださいました。環境にも恵まれたのだと思います。

    研究を進める上で大事なスキルは「コミュニケーション能力」

    研究者は「研究」をするのが主な仕事なわけですが、そのために必要なスキルについて、会場から質問が出ました。

    土井さんは、「興味を持ったことにどこまでのめり込めるかが大事」と挙げてくださいました。

    「細かいことを言えば、語学力やプログラミング力等必要なスキルは多々ありますが、研修やセミナーに参加したり、周りの先輩が教えて下さったり、会社に入ってからでも勉強できる機会がたくさんあります。ですので、あまり研究者という職業を敷居の高い職業と思わずにチャレンジしてみても良いのではないかと思います」(土井さん)

    一方、コミュニケーション能力が大事と挙げてくださったのは辻田さん。

    「同じ優秀な学生さんでも、学会で発表したり対外的な成果をたくさん出したりしている学生さんもいますが、研究室の中では認められているけど、なかなか対外的な成果につながらない学生さんもいます。違いは何かというと、完璧主義すぎて、自分で思っているところまでできるまで、ディスカッションをあまりしない学生さんというのはなかなか成果が出にくいように思います。

    たまにミーティングで発表してみると、先生と方向性が違ったり、それはすでにあるよ、ということがあったり。なので、コミュニケーションを取るのは大事ですね。

    分野によるかもしれないですが、一人でやりたがる人が多い。わからないことはまわりの先生や友達に聞いて、マネージメントできる人と一緒に作業ができる、という学生さんのほうが割と成果を出しやすかったりするのかな、と思います」(辻田さん)

    また、情報収集面や仕事においても、人脈形成は重要だという意見が出ました。

    「大事なのは臆病にならないこと」と話す高岡先生

    「大事なのは臆病にならないこと」と話す高岡先生

    「特に、海外研究者とのつながりは情報収集の面からも重要です。海外研究者とのつながりを作るために、学会は最大のチャンス。レセプションや会議中のイベントなどに参加し、内輪で固まらないようにして、ぶつかっていきましょう。趣味の話、その国や日本の政治の話、文化、食べ物、教養など様々な話題を話し合うことで距離感も縮まります」(高岡先生)

    「人脈形成力が大事だと思います。人のつながりから仕事やチャンスがやってくる。何かを成し遂げている人ほど、人をうまく取り込んで仕事をしているんですよね」(辻田さん)

    それを受け、高岡先生は「ディスカッションはうまい人もいますが、できない人ももちろんいます。自分にできないことを無理してやるよりは自分の特性を活かせることを考えてやっていくと良いと思いますね」と話してくださいました。

    また、私自身が大事にしているのは、「あるものを受け入れるではなく、どうしたらより便利になるか」を常に問いながら研究テーマを探すということです。

    新しいデバイスが発表されたとき、使ったことのないソフトウエアを使う時、普段の生活……。与えられたものを使いこなすためにユーザー側が合わせるのではなく、よりよく使うためには、ユーザーの創造性を発揮させるためには、どういった工夫があり得るか。

    研究テーマを探す時には、そんなことを考えるように意識しています。

    女性研究者の方がマルチタスクに強い?

    このように、さまざまなキャリア形成の可能性があり、大学だけでなく企業の中でも求められる研究者という職業。「女性研究者は近年確実に多くなっています」と話してくださったのは高岡先生。

    「女性ならではの視点というのは意外と自分たちでも気づいていないのです。自分の中で何かひっかかるものがあればそれを大事にしたほうが良い」(高岡先生)

    また、会場からは、「男性より女性の方が優っていると思うことは?」という質問も出ました。

    「私は期限を決めて、この学会に絶対出すぞ、と思ったら、絶対に出していました。投稿を1回スキップすると、結局出せなかったりもする。学会ありきというのもよくないですが、スケジューリングについては女子学生の方がうまいように思います。『出す』と決めたら、他の人の力を借りてでも成果を出す(笑)。それはそれで良いことだと思いますね」(辻田さん)

    「女性の方がマルチタスクが得意かな、という印象があります。何かをやりながら違う何かをする、というのが苦ではないのが女の人に多いのではないでしょうか。論文を書きながら、違う研究のプログラミングをしたり、子どもの相手をしたり。もちろん、まとまった時間は欲しいのはやまやまですが、細切れの時間でも比較的集中してできています。

    何か困った時に、『この分野のあの人に聞いちゃおうかな』という“人に頼ってみようと思うしきい値”が女性の方が低い気もしますね。結果として人を頼ったときの方が良いサイクルにつながりやすいです」(五十嵐)

    最後に、今後取り組んでいきたいことを伺うと、高岡先生は「社会問題やニュースに目を光らせています。直接助けることはできないけれど、手助けとなるような教育・研究をしていきたいですね」、辻田さんは「女性向けの情報処理雑誌、付録など作ってみたいですね」と語っていただきました。

    そんな会誌『情報処理』では、会員以外の方でも無料で読める記事がインターネットで公開されています。IT分野に興味のある方はぜひのぞいてみてはいかがでしょうか?

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