キャリアVol.38

「クラウドがWebサービスづくりのルールを変えた」AWS長崎忠雄が語る”New world of IT”の全景【特集:New Order_09】

アマゾン データ サービス ジャパン株式会社 代表取締役 長崎忠雄氏1969年2月1日生まれ。福岡県出身。1993年、米カリフォルニア州立大学ヘイワード校・理学部数学科を卒業。理学士号を取得。同年、西武ポリマ化成に入社、海洋資材の海外販売に従事する。その後、デルに入社。2000年、F5ネットワークスジャパンに入社。セールスマネージャ、セールスディレクター、セールスディベロップメントシニアディレクターなどを経て、2006年4月に代表取締役社長兼米国本社副社長に就任。2011年、8月アマゾン データ サービス ジャパンに入社、2012年2月より代表取締役に就任

―― もはや企業にとって、ITというビジネスインフラは不可欠のものになりました。その中で今後ITは、どのように変わってくると思われますか?

“New world of IT”――クラウドコンピューティングは、新たなパラダイムとしてITの世界にポジティブかつ重要な変化をもたらすでしょう。ユーザーによる大きな力がIT業界を動かし、これまでの数十年間続いてきた慣習や概念を崩し、新たな世界へ順応しようとているのは明らかです。

従来の”Old world of IT”では、何十万、何百万、あるいは何千万円をかけてサーバやストレージをその都度調達してきました。そして、使うか使わないか分からないものでも、持ち続けないといけなかった。ところが、New world of ITでは、ハードウエア、インフラへの初期コストが不要になり、浮いたコストを変動費へ投資できることは企業にとって大きなアドバンテージを意味します。

もう一つのクラウドの重要な特徴は、ビジネスを機敏に動かすことを可能にするスピードと柔軟性です。

これまでのOld world of ITでは企業はハードウエア、インフラ製品が届くのを何週間または何カ月も待ち、社内のITスタッフがセットアップに時間を割いて適正に動くかどうかなどを検証して、ようやく活用できました。

一方、クラウドを利用したNew world of ITでは、ワンクリック、数分で仮想サーバを立ち上げることもできます。それも1台、2台ではなく、ユーザーが求める必要なスペックに応じて10台でも、100台でも、何台でも瞬時に立ち上げることができます。

また、ビジネスのデマンドにはアップダウンがあります。Old world of ITでは、スケールアップをするには、サーバを購入しなければ対応できず、納品までの時間もかかりました。ところが、仮にサービスがうまくいかず早急に撤退しようと思っても、スケールダウンするのは、ほぼ不可能でした。

New world of ITでは、需要に応じた柔軟性を確保できます。その結果、新サービス・製品をより速くお客さまへお届けすることが可能になります。それだけ、会社としての競争力を上げることができるのです。

革新のタネとなる実験の繰り返し

New world of ITは、ユーザーの選択肢を大きく広げるものだと考えています。資金的な制約のあるスタートアップ企業にも、初の海外進出を目論む中小企業にも、エンジニアなどの人材リソースをよりコアコンピタンスにつながる仕事に注力させたい大企業に対しても。

クラウドコンピューティングは、さまざまなユーザーの多様なニーズに応えて、ITの側面からイノベーション創出に寄与するサービスだと考えています。

―― 企業がイノベーションを創出するためにITが果たすべき役割とはどういうものでしょうか?

イノベーションとは、さまざまなトライ&エラーの末に生まれてくるものだと考えています。たくさんの”実験”が繰り返されることで、初めて成功のタネが生まれてくるのです。

例えばエンジニアが何か斬新なアイデアを思い付いたとする。そのときにサーバやストレージの調達を待たなければならないとなったら、素晴らしいひらめきもそこで消えてしまう可能性が高いでしょう。

皆さんそれぞれに、いろいろなアイデアをお持ちのはずです。それを実現するために、まずは必要なコンピューティングリソースを即座に提供して、実験できる環境を整えることが重要だと思います。そういう意味で、クラウドを活用することは、テクノロジーリソースへいつでもアクセスでき、事前に使用量を拘束されることなく実際に使用した分のみを支払うことを可能にします。アイデアやプロジェクトが出て来次第、もっと速く動くことができるため、お客さまへのご提供も加速します。

現在の日本企業は、厳しい環境にさらされています。国内市場区分がシュリンクする中、グローバルに活路を求める企業は多く、国際競争力を付けなければなりません。一歩外に出れば、日本とは違うルールで戦っていかざるを得ません。

日本に関する話題で、印象に残っているものがあります。日本企業がサービスを作る場合、完成度が90%であれば、そこからさらに97%、98%、99%と、可能な限り完成度を高めてからローンチしようとする。ただ、最後数%を上げるためにかかるコストは飛躍的に高くなります。

一方、アメリカ式の発想では、その最後の数%で得られるメリットとコストをバランスにかけて、90%でよしとする。コスト管理やリスクに対する考え方一つとっても、日本と欧米とではかなり異なります。

世界に揉まれる中で、いかにスピード感をもってアイデアを実現していくかが、成功のカギになります。実験の環境を整えるクラウドコンピューティングは、スピーディーなイノベーションの実現を支えるITのあり方ではないでしょうか。

クラウドの登場によって、資本力や企業規模といった垣根を取り払い、変革のスピードをさらに速めることが可能です。まさにこれが、クラウドコンピューティングに望まれていることだと思います。

イノベーターになりたいなら、まずは徹底した「顧客フォーカス」を

―― New world of ITに、あるべきエンジニアの姿とは。イノベーションを支える存在として、何が重要になるでしょうか?

何より大切なのが、顧客フォーカスの姿勢。そして、スピード感とクリエイティビティだと思います。

例えば、われわれは徹底した顧客志向を持ち、すべてはお客さまから始まると考えています。AWSのクラウドは、世界中にあるすべてのビジネス規模、業界に存在する何百、何千もの企業にご利用いただいています。ユーザー企業の多くは早期にサービス導入をされ、短期間で飛躍的な成長を成し遂げられており、その開発スピードやお客さまへのサービス提供時期を早めています。われわれはお客さまのビジネスを成功させることに日々努力し、その思いも含めてしっかりと耳を傾けていくことが大切です。

それと同時に、革新と創造を常に意識していくこと。クリエイティビティを発揮しながら、常に新しいやり方をお客さまと一緒に探って前に進んでいかなくてはなりません。AWSではイノベーションのペースは速く、サービスに対するお客さまのご希望やニーズを大きく反映した新たな特徴やサービスをコンスタントに追加しています。

いまやITの世界では、指示を待っていては取り残されてしまう。そうした状況をつくったのがクラウドコンピューティングであり、そうした状況を切り抜けるために必要なのもまた、クラウドコンピューティングなのだと思います。

IT分野に携わることの醍醐味は、このように道なきところに道を切り拓いてくこと。そしてクラウドコンピューティングは、皆さんがNew world of ITを築き上げることを可能にするプラットフォームなのです。

取材・文/瀬戸友子 撮影/竹井俊晴

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