TechトレンドVol.42

“生涯プログラマー”を目指す20代に、ベテランエンジニアが贈る3つのメッセージ【対談:法林浩之×小山哲志】

市場や技術の流れが、めまぐるしく変わるIT業界において、専門領域の技術者として己を磨くには、どうすればいいのか。ITイベンターとして幅広い人脈を持つ法林浩之氏が、それぞれの技術領域において親交の深いベテランエンジニアとの対話を通し、生涯技術者を目指す20代の若者に贈る「3つのメッセージ」を掘り下げる。

jus(日本UNIXユーザ会) 幹事・フリーランスエンジニア 法林浩之(ほうりん・ひろゆき)大阪大学大学院修士課程修了後、1992年、ソニーに入社。社内ネットワークの管理などを担当。同時に、日本UNIX ユーザ会の中心メンバーとして勉強会・イベントの運営に携わった。ソニー退社後、インターネット総合研究所を経て、2008年に独立。現在は、フリーランスエンジニアとしての活動と並行して、多彩なITイベントの企画・運営も行っている。

合同会社ほげ技研代表社員・アジャイルメディア・ネットワーク株式会社エンジニア・日本UNIXユーザ会 幹事 小山哲志氏1965年生まれ。3社を経た後ビート・クラフト設立に参加。働き出した当時から日本UNIXユーザ会をはじめとするコミュニティに参加。ビート・クラフト退社後、テックスタイルを経て、2010年8月、ソーシャルメディアマーケティング会社のアジャイルメディア・ネットワークに入社。同9月には、合同会社ほげ技研を設立

法林 この連載のお題目は「トップエンジニア交遊録」ということで、今回から新展開で各技術分野のベテランエンジニアをお呼びして、対談形式で「長生きする技術屋」の特徴を探っていくことになりました。

栄えある初回のゲストは小山哲志さんです。小山さんとの付き合いは、相当古いですよね。最初に会ったのは、確かjus(日本UNIXユーザ会)の活動だったかな?

小山 そうそう。僕は1989年に大学を卒業して就職。その年の秋に、初めてjusのイベントを手伝ったんですよ。冬の『UNIX Fair』にも、ボランティアで参加しました。

法林 僕も1989年の『UNIX Fair』からjusの活動に入ったんですよね。だから、僕らが知り合ったのは、1989年か1990年ごろ。それから20年以上の付き合いってことになりますね。ところで、小山さんのエンジニアとしてのスタートは、どんな感じだったんですか?

小山 新卒で入った企業は、印刷業界向けの版下CADを手掛けていたところでした。当時は、コンピュータを使った商業印刷が始まったころで、僕は80386用プロテクトモード用のアセンブラを書いたり、PostScriptタイプセッター向けのドライバを書いたりしてましたね。

その後ソフトハウスに転職して、MS-DOSのデバイスドライバを書いたり、Sunのワークステーションで雑誌のレイアウトデザインを作るアプリを開発していました。当時はコードも書き、インフラやシステムの面倒も見るって感じでした。当然、jusをはじめとしたコミュニティ活動も並行してやっていました。

法林 プログラマーが本業だったけど、ほかにもいろいろなことに手を出していたわけですね。

小山 「気付いたらいつの間にか……」って感じでね。小さい会社で働いていると、いろんな仕事を担当するんですよね。

例えば、仲間7人でビート・クラフトという会社を設立したときは、システムの面倒を見られたのは僕だけ。自然、ネットワークを引いたりシステムを管理したりするのは、僕の役割になっていました。

法林 その後、「小山さんと言えばWebプログラマー」というイメージになっていきましたよね。

小山 最初にWebの仕事をしたのは、1998年くらいです。あるショールームの予約管理システムを、OracleのWAS(Web Application Server)という、ストアド・プロシージャでHTMLを出力する仕組みを使って作ってましたね。

法林 その時はPHPじゃなかったんですね。

小山 PHPとの付き合いは1999年くらいから。2001年に日本語汎用ドメイン関連のシステムを開発したころには、PHP4をゴリゴリ使っていました。それ以降は、一貫してPHPをメインに使ってます。

法林 では、そんな小山さんが20代の若手エンジニアに伝えたい「3つのメッセージ」って何でしょう?

小山 僕のメッセージは、これです。

【1】 エンジニアとしての「個人ブランド」を打ち立てよう
【2】 自分の得意分野を一つ見つけてそれを伸ばそう
【3】 プログラミングが好きなのか、本気で考えよう

名前で仕事が取れる「ブランド力」を身に付ける

小山 まず一つ目に関して言うと、僕自身、生涯ずっとエンジニアを続けていこうと思っているんです。この仕事が好きだし、面白いしね。それに、自分のプログラミング脳力の衰えは、今のところ感じていません。プログラミングを通じて自分を役立てる方法は知っているし、それで稼げているという事実もありますから。ただ、年齢という部分で、多少の危機感は持っています。

法林 確かに、35歳とか40歳を過ぎると、求人市場でエンジニアのニーズってガクンと少なくなりますよね。

小山 そうなんですよ。一方で、年齢を重ねると、自分の手でコードを書かなくなるエンジニアが増えるという現実もあります。僕らの上の世代、50歳くらいでコードを書いている人って、相当少ないじゃないですか。

法林 優秀なエンジニアも、経営者や管理職になって、自分で手を動かさなくなっちゃいますよね。それもあって、「年齢の高いエンジニアには、優秀な人の割合が低い」という認識が広がってるのかなぁ。

小山 そんな中で、歳を取ってもエンジニアを続けるためには、「この人ならちゃんとしたコードを書いてくれる」と認められなきゃダメ。実績も知名度もなければ、歳を取ってからエンジニアとして食っていくのは難しい。逆に、年齢や年俸が高くても、実力があれば仕事はいくらでもあると思うんです。

法林 エンジニアの生産性って、人によってまったく違いますからね。年俸が高くても、それをはるかに上回るだけの実力がある人なら、企業は雇う。

小山 先日、法林さんが司会をされた『TechLION vol.6』でまつもとゆきひろさんの話を聞きましたが、まつもとさんはまさに「個人として評価されるエンジニア」の典型ですね。仮に、どこかの企業があの人を採用するとしますよね。その時、「プログラムは書かないでください」なんてバカなお願いをする企業はあり得ない(笑)。まつもとさんは、コードを書いてこそ価値を発揮する人で、それは皆が知っていることですから。

法林 そう考えると、若いうちから自分自身を発信することは大事ですよね。僕らのように40代になってからあわてても遅い(笑)。逆に、できるだけ早い時期に「個人ブランド」を打ち立てられれば、まつもとさんや小山さんのように年齢が高くなっても現役で働ける、と。

小山 まつもとさんと同列に並べないでください(笑)。でも、その通りですね。実績を積み重ねることも大事だし、それをきちんと周囲に伝えることも大事。ブログなどで情報発信するなどして社外とつながりを持ち、「個人ブランド」を強化してほしいですね。そうやって、「あの人は信頼できる」と認められれば、「生涯エンジニア」は十分可能だと思います。

ゼラリストが育ちにくい今だから、愚直に専門性を高めるべし

法林 続いてのメッセージは、「自分の得意分野を一つ見つけてそれを伸ばそう」です。

小山 僕や法林さんは、技術の進化と歩調を合わせ、エンジニアとして成長してきたじゃないですか。当初、技術は原始的なものが多くて、一人でいろいろなものが作れました。その後新しい技術が登場してきても、ちょっとずつ覚えていけば良かった。今思えば、これってものすごくラッキーだったんじゃないかって思うんですよね。

法林 今の若い人たちは、技術が進化した段階からスタートしなきゃいけませんね。

小山 全体を見渡して把握するのは大変ですよ。バックエンドもフロントエンドも、相当整備されている。だから、若手がゼラリストを目指すのは、正直大変だと思う。

法林 確かに。僕らは、開発からインフラ整備からシステム管理まで、いろんなことを経験できたけど、今の若い世代は縦割りの仕事しかしてないって人も多いですね。「アプリケーション開発しかやってません」とか。

小山 何年か前から、「レイヤー間の断裂」という言葉がよく聞かれるようになりましたね。サーバインフラ、ネットワークインフラ、そしてアプリケーションを手掛けているエンジニアがきっちり分かれ、それぞれの交流がほとんどない状態です。僕はいろんなところに首を突っ込んできたので、「どこに行っても小山さんがいますね」って言われるんだけど(笑)。

だから、頭角を現そうと思ったら、広く浅くよりは、自分の得意分野を深掘りする方が近道だと思うんです。それが、「自分の得意分野を見つけよう」というメッセージの真意ですね。

法林 すごく分かります。ただ、小山さんのメッセージとは矛盾するようだけど、若い人には幅広い知識も学んでほしいなぁ。

小山 それについては僕もそう思います。かじる程度でも良いので、別のレイヤーについても見てほしい。ちょっとでも興味を持ったら、関連の勉強会に顔を出してみるとかね。単純に楽しいし、エンジニアとしての幅も広がります。難しいかもしれませんが、スペシャリストとして技術に磨きをかけつつ、幅広さも追求するのが理想ですね。

法林 コミュニティに顔を出すくらいなら、簡単にできますからね。ぜひ実行してほしい。

小山 調べれば、たいがいの分野でコミュニティが活動してます。1年に1回くらいはイベントが開かれてるから、そこに出るだけで全然違ってくる。そうやっていろいろな場所でつながりを持つと、ひょんなところで、人に助けられたりしますしね。実は、僕もちょっと前に助けてもらいました。

法林 へぇ、どんな風に?

小山 僕が所属しているアジャイル・ネットワークでは、『ソーシャルメディアサミット』というイベントを開いています。で、本番の1カ月弱くらい前に、会場のネットワークについて相談を受けたんです。時間的に、専用線を引くのはムリ。そこで、JANOG(JApan Network Operators’ Group)の関連MLに相談したんです。いろいろあった末、イー・モバイルの方に協力してもらい、サービス開始前の『EMOBILE LTE』を使わせてもらえることになった。人の縁はすげえなぁと思いましたね。

つらい時の「心の折れ具合」でプログラミングが好きか見極める

法林 最後のメッセージは、「プログラミングが好きなのか、本気で考えよう」ですか。

小山 まつもとさんも言っていましたが、プログラマーはコードを書くのが好きじゃなきゃダメ。イヤイヤ仕事をしているから、プログラミングじゃなくマネジメントに移ろうかなんて、迷ってしまうんじゃないかな。ホントに好きなら、迷わないでしょ。

法林 確かにね。小山さんが「プログラミングって楽しい」って思ったのは、いつごろからですか? 僕はプログラミング一本というタイプではなく「何でも屋」という感じだったから、興味がありますね。

小山 プログラミングが心底楽しいと思うようになったのは、社会人になって5年目くらいですかね。

法林 じゃあ、これまで「現場かマネジメントか」などと迷うことはなかったんですね。

小山 そうですね。その意味では、自分の「コードを書くのが好き」という気持ちが本物かどうか見極めるのは、若手にとっては大事でしょう。もしかすると、実際はそうでもないのに好きだと思い込んでいるだけかもしれない。また、コードを書くより楽しいことが、まだ見つかってないだけかもしれない。

法林 小山さんは、自分はこの仕事に向いていると思いますか?

小山 思います。

法林 まあ、そう思ってなければ続けてないよね(笑)。

小山 向いてるし、好きですね。まあ、コードを書くこと以外にも、好きなことはあるんですよ。例えば、大学時代はアニメが好きで、アニメーターを目指したこともありました。ただ、絵の上手い奴には本当に勝てないって思いましたし、何より、「つらい時の心の折れ具合」が違ったんですよね。

法林 「心の折れ具合」(笑)。具体的にはどういうことですか?

小山 ほかのことをやってる時、何か厳しい状況にぶち当たるでしょ。すると、心がポキンと折れて、逃げたくなったりするじゃないですか。でもコードを書いている時は、つらいことがあってもなかなかあきらめなかったんですよね。その時、この仕事が好きなんだと実感しました。

法林 なるほどねぇ。

小山 もしエンジニアの仕事がそんなに好きじゃなかったら、ほかの道を検討する方が幸せになれるかもしれない。逆に、この仕事が本当に好きなら、迷いなく、そのまま突き進めばいいと思います。冷静に自分を振り返るのは、やっぱり大切ですね。

法林 ただ、小山さんって「プログラミングが好き!」って部分だけじゃなく、冷静さも持ち合わせていますよね。昔『LLイベント』で、各言語のダメなところをユーザーが発表する「だめ自慢」をやったでしょ。

あの時、PHPを小山さんが担当してくれたんだけど、ほかの出場者がほとんど「自分の言語のダメな部分」を語らなかったのに、小山さんはPHPの弱点を公平に語っていましたよね。あの時、すごく冷静に分析できているなぁ、と印象深かったんですよ。

小山 まあ、長くこの業界にいるので、ある程度平静に見られるんでしょうね。それに、BeOSみたいに「これは面白い!」と思って飛びついた技術がいくつもポシャったのを経験して知っていますから(笑)。すごい技術に出会ったとしても、それが必ず広まって世界が変わるといった幻想を持つことはなくなりましたね。

法林 ある技術に熱中するのは良いけど、過度な期待はしちゃいけないんですよね。

小山 そう。「この技術が世の中に広がるに違いない」とか、「この技術しかない」なんて考えちゃいけないと思います。視界は、常に広くしなきゃ。

法林 視界を広げるには、どうしたら効果的ですかね?

小山 やっぱり、たくさんの人と会って、いろんな話を聞くのが一番じゃないですか。僕も法林さんもイベント好きだけど(笑)、イベントや勉強会などに積極的に顔を出すのは良いことだと思う。今はいろんなところでコミュニティ活動が行われていて、良い時代だと思いますね。

法林 「個人ブランドの確立」、「自分の得意分野を一つ見つけ、伸ばすこと」、「プログラミングが好きか確認すること」。以上の3つ、若いエンジニアの皆さんには、ぜひ意識してほしいなぁ。

取材・文/白谷輝英 撮影/小禄卓也(編集部)

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