職種の壁を打ち破れ! 「技術力+協働力」で拓かれるAIエンジニアへの道
テクノロジーの急速な進歩によって、社会構造も大きく変わろうとしている。中でもAIは、あらゆる社会問題やビジネス上の課題を解決するための手段として、大きな期待が寄せられているテクノロジーの一つだ。
このニーズを受けて、金沢工業大学の虎ノ門大学院では、2018年4月よりAI人材育成のための社会人向け教育コース『AI ビジネスエンジニアリングプログラム』を開講した。日本アイ・ビー・エム社の協力のもとに実施される同プログラムは、AIソリューション『Watson』の開発や導入で培われた知見と、金沢工業大学が持つ50年にわたる教育ノウハウを統合して生まれたものだ。
このプログラムの企画に携わった同校の産学連携局次長・福田崇之氏に、社会人向けAI教育に乗り出した理由、そして、これからのエンジニアに求められる素養について伺った。
机上の空論ではない、実現性のあるAI活用法を考えられる人材輩出へ
「これまで、AIのビジネス活用というと、膨大なデータを保有する大手企業における業務効率化に用いられることが多かったように思います。一方で、中小企業にとっては費用対効果の判断が難しく、まだまだAIに対する敷居が高い。そもそも『AIで何ができるのか』という疑問が先行し、足踏みしてしまうケースが大半でした。こうした課題を打破するためには、単に技術を学ぶ場を提供するだけでは不十分です。現実の課題と向き合って試行錯誤することで、データを用いた解決へとつなげていける実践の場が重要だと感じていました」
福田氏の言葉通り、同プログラムは座学よりもハンズオンによる体験型プログラムやディスカッションなど、参加者同士の共同作業を重視している。知識があっても、仮説構築力やコミュニケーション力が伴わなければ、AIを使っても課題解決には至らないからだ。
同校には、これまで数多くの産学協同プロジェクトをファシリテートしてきた実績に加え、AIによる学部生のための修学支援システムの導入経験がある。そのため、より実践的なプログラムを構築することが可能なのだという。今年2月に実施したトライアルプログラムには、SIer、製薬、金融、ITベンチャーなどの業界から参加者が集まり、業種や職種を超えた活発なディスカッションやグループワークが行われたそうだ。
「今後は、本プログラムで学んだ方々も参加できる実験の場として『AIラボ』を新設する予定です。参加した企業同士が組織の枠を超えて共創し、試行錯誤することによって、最終的にはデータの相互利用など、課題解決につながる具体的な動きに結びつくことを期待しています」
「非分野の時代」で求められる、職種の壁を打ち破る力
『AIビジネスエンジニアリングプログラム』には、ビジネスパーソン向け、IT部門所属者向け、エンジニア向けなど、計4つの科目が設けられている。しかし、これはあくまでも便宜的な区分だと福田氏はいう。AIを活用してビジネスをドライブする人材には、既存の領域を飛び越える力が必要だからだ。
「エンジニアは『仕様書通りに開発していればいい』という時代は、既に過去となりつつあります。これからは、ある時はエンジニア、またある時は企画者でありデータサイエンテイスト、そしてある時はデザイナーの視点を持って課題と向き合うことが求められるようになるでしょう。
昨今では、業界を超えて新たなビジネスに参入する企業も増え、企業同士の提携や協業も活発となりました。これからは非分野の時代です。職種の壁を越え、大きな変化を生み出す人材が求められています。仮説を立て課題解決の先頭に立つのは企画部門の人々だと思われるかもしれませんが、エンジニアが先頭に立っていけない理由はないはずです」
問題を発見し、仮説を立て、解決までの筋道をつける力を養うためには、機械学習や深層学習など特定の技術を深掘りするのとは違ったアプローチが必要になる。価値創造というゴールに向うためには、考えや役割の異なる人たちと協働することが重要なのだ。
最後に、AIの今後の行く末について福田氏の考えを伺った。
「データの解析技術や応用技術の進歩により、不定形なテキストや画像、音声といった非構造化データを上手に扱い、課題解決につなげられるAIが登場しはじめました。きっとそうした最先端のAI技術が、これから社会に大きなインパクトを与えることになるでしょう。こうした次世代のAIビジネスを牽引するような人材が多く生まれることを期待しています」
現在、政府はIT人材の育成を図るべく「人づくり革命・生産革命」の一環として、公的職業訓練や教育訓練給付政策の拡充計画を進めているという。自らの技術力をベースに、現実に即したAIビジネスの可能性を追求してみたいエンジニアにとって、好機到来といえるかもしれない。『AIビジネスエンジニアリングプログラム』の次期は、8月開講を予定しており、詳細はホームページにて公開されている。
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/吉永和久
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