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はてな田中慎司氏が勧める、「次のサービス戦略」を考える時の良書3選【連載:エンジニアとして錆びないために読む本】

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    はてな田中慎司氏が勧める、「次のサービス戦略」を考える時の良書3選

    はてな田中慎司氏が勧める、「次のサービス戦略」を考える時の良書3選

    業界でその名を知られるCTO(最高技術責任者)に、仕事に役立つ名著を紹介してもらうこの連載。第4回は、『はてなブログ』や『はてなブックマーク』でおなじみの株式会社はてなでCTOを務める、田中慎司氏の登場だ。

    今回、編集部が田中氏に依頼したテーマは「これからのサービス開発を考える上で役立った3冊」。果たして田中氏は、どんな書籍を選んだのだろうか?

    読書によって、経験値を越えた判断力が養える

    「若いうちは誰しも、今そこにある技術の経験値を高めることにばかり関心が向きがちです。しかし、技術というものは時代とともに廃れていくもの。それまでに蓄積した経験だけでは対処できない場面にも出くわすこともあります。

    そうした時に役に立つのが、歴史に学ぶこと。広い視野で物事を判断する力を養うためにも、日ごろから書籍を通じて歴史に触れておくことが大事ではないかと思います」

    田中氏にとっての読書とは、単に未知の知識を得るだけにとどまらず、視野を広げ、判断力を養うためでもあるようだ。

    「インターネットは、具体的な情報を得るのには適したフォーマットだと思いますが、断片的な情報に終始しがちなのは否めません。物事を体系的に理解しようと思ったら、ネットより書籍に軍配が上がるというのが率直な感想です。特に優れた書き手によって著され、長年読み継がれているような書籍は、情報が網羅されているため、知識を過不足なく身に付けるのにとても都合がいい。ネット上に分散している文章をいくつも読むより、はるかに深い理解が得られると思います」

    読書の持つ効能についてそう語る田中氏に、選んでもらったのが次に挙げる3冊だ。サービスの方向性を定める上で欠かせない「大局観」をつかむのに適した書籍を念頭に、選んでくれたと言う。

    これからのサービス開発を考える上で役立った3冊

    【1】『文庫 銃・病原菌・鉄(上・下)』(草思社) ジャレド・ダイアモンド著

    筆者は、狩猟生活から農耕社会の成立を経て、文明を発展させた人類の足跡を丹念に追いながら、ユーラシア大陸で誕生した文明が、南北アメリカ大陸の文明を圧倒した背景を科学的に解き明かしていきます。

    筆者の論考によれば、西洋が他の文明をいち早く凌駕することができたのは、民族の能力差によるものではなく、単に地理と環境が有利だったからに過ぎないという結論でした。個々の努力では抗うことが難しい「現実」や「初期条件」があるというのは、われわれが暮らす現代も同じです。

    この本には近代や現代の話は出てきません。が、インターネットやスマホの隆盛も、「一企業や一個人にはあらがい難い潮流の一つ」としてとらえると、市場の初期条件が我々にとって優位なのか、それとも劣位なのかを知ることこそ、サービス戦略を考える第一歩なのだと感じます。

    【2】『良い戦略、悪い戦略』( 日本経済新聞出版社) リチャード・P・ルメルト著

    19世紀のトラファルガー海戦からAppleのビジネス戦略まで、古今東西の歴史的な事件やビジネスにおける事例を挙げながら、良い戦略と悪い戦略の違いを明快に解き明かしてくれます。

    筆者の説く「良い戦略」とは、直面する困難に立ち向かうためのアプローチを指し示すものであり、最も効果的なポイントで持てるリソースを投下するようにうながすものだと言います。

    戦略なきサービス開発はどうしても総花的で、中途半端なものになりがちです。しかしそれでは、移り変わりの激しいインターネットの世界で生き残ることはできません。

    自分がこれまで体感的に理解していた、「100のやりたいこと」から「1つのやるべきこと」を研ぎ出すことの正しさを、本書の事例によって裏付けられた気がしました。

    【3】『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』(翔泳社) クレイトン・クリステンセン著

    いわずもがなの名著ですが、今でも参考になります。

    過去を振り返ると、大手企業が新興企業の前に屈するという場面が幾度となく繰り返されてきました。本書のテーマは、なぜ世界を一変させてしまうような優れたイノベーションの多くが、多額の資金と豊富な人材を持つ企業からではなく、名もなき小さないベンチャーから生まれるのか、その「ジレンマ」が起こる理由を、ハードディスク業界やプロセッサ業界など、具体的な事例を採り上げながら論証を重ねていきます。

    とりわけ、我々のいるインターネット業界は、時代の変化をもたらす大きなうねりを感じることが少なくない世界です。既得権益の上にあぐらをかくことなく、新しいイノベーションのタネを見つけ、育てることの重要性を再認識させてくれた1冊です。

    経験則を体系化することで、自信が付くこともある

    田中氏が選んだ本はいわゆる「名著」が多いが、「王道」を読むことで得る気付きも

    田中氏が選んだ本はいわゆる「名著」が多いが、「王道」を読むことで得る気付きも

    「新規のサービスを構想したり、既存のサービスを改良するにしても、開発の方向性をどう定めるかが、サービスの良し悪しに大きな影響を与えます。CTOの役割は『やりたいこと』から『やるべきこと』を抽出し、正しいジャッジを下すこと。そのためには正しい判断力を磨く必要があります」

    田中氏が言うように、サービスのあるべき方向を指し示し、優先順位を決め、開発チームを正しい道に導くのがCTOの役割だ。だがもしその責任に伴う决断を先送りにし、すべての要望を無分別に取り入れるようなことがあれば、サービスは失敗への道を突き進むことは免れない――。

    この種の警句は、あえて書籍から知識を得ずとも、長年サービス開発に携わっている人間であれば、経験則として体得している事実だろう。

    無論、田中氏も同じだ。しかし先に挙げたような書籍から、あえて「当たり前」と思われる知見に触れることにも、それなりの意味があると田中氏は考えている。

    「課題に見合った本を読むことによって、それまでは漠然としか感じられなかった考えが、知識として整理される瞬間があるからです。それがまったく知らなかった事実ではなかったとしても、知識として体系化されることによって、ある種の自信が生まれ、物事を前に進める原動力にもなる。読書の効能は、知らなかった知識を得ることばかりではないんです」

    もちろん、教養を身に付けるという観点から見ても、読書が有益なのは間違いない。

    「今の仕事に直接役立たなくても、将来必要となった時に効いてくるのが教養書の良いところです。直接的な答えだけを追い求めるだけでは、大局観を養うことはできません。若いうちから数多くの良書に触れておくことは、将来に備える意味でも大事なことだと思います」

    BtoB領域に踏み出したのも「大局観」の賜物

    はてなは今、従来の『はてなブログ』や『はてなブックマーク』の2大コンシューマーサービスに加え、この1年企業向けのサービスを次々とリリースしている。

    オウンドメディアを構築する『はてなブログMedia』や広告配信先を自動判定する『BrandSafe はてな』、クラウドサービスのパフォーマンスを管理する『Mackerel(マカレル)』などだ。

    BtoCから、BtoB領域に乗り出した理由を田中氏は次のように説明する。

    「BtoBへの取り組みは、インターネットがもたらす大きな歴史的なうねりを考えて下した决断の一つです。はてなが持つ技術やデータ、プラットフォームを、オウンドメディアやアドテク、コンテンツマーケティングに活用することが、我々の持つ資産を有効に発揮する手立てと考えたため、実行しました。

    今後も最終的なサービスの形はどんどん変化していくと思いますが、このコアとなるようなテクノロジーとデータが生み出す可能性は追求していきたいと考えています」

    未来を変えるには、大局観を養い、構想力と決断力を磨くことが欠かせない。田中氏が読書から得ているものは少なくないようだ。

    取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/桑原美樹

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