データの裏にある“ユーザーの感情”はどう読み取る? Retty人気店を生んだ「デザイン×データ分析」思考
データサイエンティストやアナリストという新しい職種が登場して久しい。また、データ解析技術は進化を遂げ、あらゆる領域でデータの活用は必要不可欠となっている。
そんな中、プロダクト開発の領域で注目を集めているのが、「デザイン×データ分析」という視点だ。感性と論理という一見、相反する分野が融合し、プロダクト開発のPDCAを高速で回していく。一体この両者はどのように関わり、どうやってプロダクトを形にしているのだろうか。
今回は日本最大級の実名グルメサービス『Retty』を運営する、Retty株式会社のデータアナリストの平野雅也さんとデザイナーの近藤雄亮さんにお話を伺った。ユーザーが自分にとってベストなお店を見つけやすくすることを目的とした『Retty人気店』機能刷新プロジェクトを主導した2人の話から、プロダクト開発チームの新たな輪郭が見えてきた。
“感覚値の解像度”を上げる。
デザイナーとデータアナリストがタッグを組む理由
4カ月にわたって行われた『Retty人気店』刷新プロジェクト。モデルの選定からUIの設計、アルゴリズムのロジック作りなど複数のタスクを並行して実施していった。中心となったのが、データアナリストの平野さんとデザイナーの近藤さんだ。感性と論理という正反対な領域を担う両者は、それぞれ、どんな役割を担ったのだろうか。
平野「今回の僕のミッションは、データを活用して、デザイナーの世界観を形にすること。それなので、デザイナーの近藤と同じ思考になることを意識しました。また、プロジェクトの背景を理解しておくことで、作りたい世界観も早めに掴むことができ、スムーズにプロジェクトを推進できるのではと考えました。それで、要件作りのところから参画したんです。『感性の擦り合わせ』は、特に意識したことですね」
近藤「このプロジェクトを成功させるためには、『感性的なデザイン』と『定量的なデータ』が持つ強みを知った上で、お互いの領域に踏み込むことが大事だと思っていたんです。そのために、平野がデータの裏にある感性を、僕がデザインの裏にあるデータを理解するよう努め、意見し合うことを意識していましたね」
それぞれの得意領域を活かして、課題の掘り下げや仮説の検証を実施していったという2人。具体的なプロセスはこうだ。
近藤「プロダクトの実現可能性を判断したり、プロトタイプの精度を上げたりするために、平野には逐一データを出してもらいました。実際、データを出してみたら仮説が全く当っていないこともあるので、漠然としていた”感覚値の解像度”を、数字を用いて上げていく作業を平野と行っていきました」
元々プロジェクトベースでチームを組んで推進していくことが多いというRetty社。だが、プロジェクトごとにメンバーが入れ替わることで、コミュニケーションに齟齬が生まれることはないのだろうか。近藤さんはそうした懸念を一蹴する。
近藤「各メンバーが日常的にサービスの世界観を共有しているため、Rettyが目指すビジョンやプロダクトの方向性、データの性質など、“Retty哲学の初期インストール”が済んだ状態で、キックオフを迎えることができています。それはどのプロジェクトにも言えることですね。今回の場合も 『Retty人気店』が目指す方向性について大きく意見が割れることもなかったですし、Rettyならではの共通言語も理解できているので、スムーズなコミュニケーションが図れたんです」
プロダクトのコンテキストや歴史への深い理解が肝。
「行きたい」ボタンを押すユーザー心理とは?
ひとくちに人気店と言っても、その基準はさまざま。Rettyにおける「人気店」とはどういった仕組みで決まっているのだろうか。
平野「お店ごとに偏差値のような数値がついていて、ある一定の基準に達すると、人気店になるという仕組みです。僕はRettyの保有しているデータを活用して、偏差値算出のロジックを数式化しました。偏差値を決めるためには、技術よりも、どんなデータを使うのかという試行錯誤が肝。Rettyにはどんなデータがあって、それがどんな性質を持っているのか。数式を考える前に、データの種類や性質の理解が大事です。そこはすごく考えましたね」
計算式は二の次でいい。データの種類やその性質の理解が大事だという平野さん。一方、その世界観をつくる上で感性的な部分を担うのがデザイナー。コンセプトを設計した近藤さんが意識していた点を教えてくれた。
近藤「『トレンド』『フェア』『カラー』の3つを軸にプロダクトを構築していきました。グルメはカルチャーなので、トレンドは不可欠。移り変わりが激しいトレンドの流動性を反映するという点はかなり重視しています。また、あらゆる情報がつながる時代だからこそ、情報をフェアに見せる構造も大切。最後のカラーはサービスを運営する上で最も重要ですが、先述したように“Rettyらしさ”はすでにメンバーにインストールされているので、今回はほぼ時間を割いていません」
こうして近藤さんが作り上げたコンセプトを具現化するために、アナリストはどういったデータを見ればいいのか。平野さんは「サービスやデータへの理解がなければ当たりが付けられない」と、Rettyの「行きたい」ボタンを例に次のように話す。
平野「『行きたい』ボタンを押すと、あとから一覧でお店を確認することができます。普通に考えればブックマーク機能として使うことを連想すると思うんですけど、Rettyのユーザーさんは、SNS的に『いいね!』感覚で押す人もいるんですよね。つまりRettyの『行きたい』ボタンは、『行ってみたい!』という“感情を表すラベル”にもなっているんです。だから流行しそうなお店にはたくさんの人から『行きたい』が瞬間的に付いて、タイムラインが盛り上がる。つまりトレンドを表す一つの指標になるんです」
サービス特有のデータの性質を知るためには「プロダクトが持つコンテキストや歴史への深い理解が必要」と平野さん。Rettyというサービスを深く理解していたからこそ、データの性質を読み解くことができ、「行きたい」ボタンの数値がトレンドを反映するという仮説を打ち立てることができたのだ。
では、必要なデータの当たりが付いた後はどのように正当性を検証するのだろうか。ここは意外にも「アナログです」と笑う。
近藤「当たりを付けたデータが正しいのか、実際にお店に行って検証しています。例えばユーザーさんの口コミには、『コスパが良い』『居心地が良い』『店主が魅力的』などありますが、人によって評価軸はバラバラですよね。『本当にそうなのか?』という検証のために、自分たちで実際にお店に足を運んで、人気店の要素を言語化しているんです。『この価格帯と料理の味ならコスパが良いと言えるんだな』といった、“ユーザーさんのものさし”と自分の感覚値を擦り合わせていく作業は日々やっています」
また、実際に足を運ぶことに加え、グルメな人に話を聞くことも忘れなかったという。自分の好き嫌いなどのバイアスを極力排除した上で、その「ものさし」をできる限りユーザーの最大公約数に合わせる作業を行ない、Retty人気店を形作っていったのだ。
「デザイン×データ分析」の融合で
“声にならない声”を拾う
今回のプロジェクトを平野さんは「デザイナーとデータアナリストの両者が機能したからこそ上手くいった」と振り返る。
平野「課題の発見から解決までを一気通貫で行う上で、データ分析やデザインはダイレクトに必要なスキルなのかなと感じました。サービスへの理解を深めるには、日々利用しているユーザーさんを知ることが不可欠。そのためにはデータという定量的な側面と、その裏側に隠れている”ユーザーさんの感情”という定性的な側面の双方から見ることがポイントです。だからこそ、データアナリストにはデザインなどの感性的な領域の理解を深め、デザイナーも数字などの定量的な部分に目を向ける努力が必要です。そうして初めて両者が噛み合うんだと思います」
データを見るだけでなく、その行動から読み取れるユーザー心理までを深く洞察することで、“声にならない声”に気付き、課題の発見につながる。それが定性のデザインと定量のデータを組み合わせた「デザイン×データ分析」に注目が集まるゆえんだろう。
平野「専門性が高い者同士が、お互いの領域を理解する。そんなバランス感を持った人たちがタッグを組んだチームは強いですよね。イケてるスタートアップやプロダクトは『デザイン×データ分析』の視点をうまく取り入れているところばかりな気がします。今のRettyは、課題をより深く掘り下げて、よりたくさんの人に対して『食を通じて世界中の人々をHappyに。』というミッションを実現するフェーズ。僕たちも個々の専門性を高めると同時に、『デザイン×データ分析』のスキルを高めて、もっともっとイケてるプロダクトにしていきたいですね」
取材・文/青野祐治 編集・構成/天野夏海 撮影/椋林淳一(Retty)
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