【えふしん×川口対談】BASE、CTO世代交代の舞台裏に見る、“任される若手”の基本姿勢
2019年7月1日、ネットショッププラットフォームを提供するBASEに新CTOが誕生した。『モバツイ』開発者としても知られる“えふしんさん”こと藤川真一さんから、同社のリードエンジニアを務めていた28歳の川口将貴さんに代替わりしたのだ。
えふしんさんは、「次世代CTO候補について2年間かけて考えたが、彼しかいなかった」と自信をのぞかせる。えふしんさんにそう言わしめる20代は、一体どんなエンジニアなのだろうか。
「CTOに技術以外の業務は不要」BASEが定めた新たな定義
「CTO交代というと、藤川がBASEを退社するのかと思われるかもしれませんが、私は辞めません(笑)。この人事はサービスとエンジニア組織の成長を見計らって実施したもの。CTOの世代交代と受け止めていただいて結構です」(藤川)
2014年から、BASEの初代CTOを務めてきた藤川さんは、CTO交代の理由をそう打ち明けた。実は2年ほど前から、社内外を問わず、次期CTOを託せる人材を探していたのだと言う。
「ただ、すぐにバトンを渡せそうな人材は見つからなかったので、しばらくは外部からの招聘(へい)と内部育成の両軸で検討を進めていました」(藤川)
だが、候補者探し以上に難しい課題もあった。
藤川さんはCTO就任当初から「コードを書かない」と宣言し、エンジニアチームのサポート役に徹してきた。しかし気付けば、CTOや取締役としての役割の傍ら、面接、人材育成、チームマネジメント、社内情報システムの改善、イベント登壇や取材対応など、業務の幅は年々広がり続けていたのだ。
「まさに何でも屋でした。創業期ならまだしも、エンジニアチームの規模もサービスも大きくなってきたこのフェーズで、次のCTOにこれらの業務をそのまま引き継ぐのはナンセンスです。CTO以外でもできる業務、不要な業務は削ぎ落とさねばなりませんでした」(藤川)
検討の結果、新しいCTOの定義を「開発現場のリーダーが就き、技術的な意思決定を担う」ポジションと定め、それ以外の業務は、経営陣やマネジャーたちで分け合うことにした。
「もともとBASEには、CTO室という組織があり、技術基盤担当、エンジニア採用担当のメンバーがいて、それ以外の業務を私が担っていたという経緯があります。今回の人事では、私が持っていた、技術戦略や個別技術の選定、メンバーのアサインメントに関する最終的な権限のみを、次期CTOに引き継ぐことに決めました」(藤川)
「自分の意思で技術を選び、コードが書けるエンジニアを育てたい」
藤川さんの後を引き継ぐ、新CTOの候補として白羽の矢が立ったのが、先日まで同社の主力サービス『BASE』のテックリードを務めていた川口将貴さんだ。
川口さんは、現在28歳。BASEには2017年5月に入社し、テックリードとなった18年1月以来、日常の開発業務の傍ら、サービス基盤強化のための既存機能のリプレースなど、技術的負債を解消するプロジェクトにも積極的に関わってきた実績を持つ。
今回の抜擢人事は、こうした経験が評価されてのことだったが、川口さんは「次期CTOに」という打診を受けた瞬間、「もし藤川の業務をそのまま引き継ぐようなら、辞退するつもりだった」と打ち明ける。
サービスの向上と事業の拡大に伴って、より一層のスピード感が求められるのに、業務過多に陥ってしまっては本末転倒だと感じたからだ。
しかしCTOの役割が再定義され、コードを書き続けることでサービスとチームに貢献できると知り、不安感はずいぶん和らいだと言う。
「最終的な決定権を委譲されるという点においては責任が増しますが、これまでもテックリードとして技術選定やエンジニア採用などに関わっていましたし、障害や不具合対策についても、話を煮詰めてから藤川に最終決断を仰ぐなどはしていました。他のマネジャー陣とも役割分担ができるということもあり、引き受けることを決意しました」(川口)
藤川さんは改めて「今回のCTO交代には非常に満足している」と話す。なぜなら、自社のエンジニアチームの中から次のCTOを輩出できたからだ。
「創業直後は人が少なく、徹夜続きで機能を開発したり、それぞれが複数の仕事をこなしたりすることも当たり前でした。しかし現在はメンバーも増え、マネジメント業務を担えるエンジニアもずいぶん育ってきました。『BASEもここまできたか』というのが正直な気持ちです」(藤川)
川口さんは、藤川さんの後を受け「『BASE』に出店していただいているショップさんの成長を技術面から支えたい」と意気込む。
「まだ就任から間もないため、僕自身には明確な方針こそありませんが、『BASE』には集客力や知名度があるショップさんが増えていて、それと同時にスケールにまつわる課題が増加傾向にあります。これからも個別の対策はもちろん、設計段階から成長に耐え得るサービスを構築して、ショップさんの期待に応え続けていくつもりです。こうした取り組みを通じて、自分の意思で技術を選び、コードが書けるエンジニアを育てていければうれしいですね」(川口)
評価されるエンジニアには「自責の念」が根付いている
つい最近まで、自分がCTOになるとは思いも寄らなかったと本音をこぼす川口さんだが、今回の抜擢について「何ごとも他責にしないマインドが、自分の強みとして評価してもらえたのではないか」と話す。
「サービスの質を高める技術が自分にあるなら、『若手だから』と臆せず上司やプロダクトマネジャーに意見すべきだと考えています。例えばですが、プロダクトマネジャーの開発依頼に問題点があると感じれば、自ら検証した上で改善策を提案し、建設的な議論を交わして落とし所を探っていきます。
もし自分が、“上司が決めたことだから”とか“仕様書に書かれていたから”といって問題点を流してしまうタイプだったら、きっと今とは違った働き方をしていたでしょうし、CTOに選んでいただくこともなかったと思います」(川口)
「他責にしないというのは、技術力を高める上でも、ユーザーに優れたサービスを届けるためにも重要な素養です」と、藤川さんも口を揃える。
「川口をCTOに抜擢した理由は、まさにこのスタンスにあります。優秀なテックリードは総じて、ユーザーやメンバーなど、誰かが困っている状態を看過できない人。川口にはこういった当事者意識が社内の誰よりも備わっていました。
肩書きなどにとらわれず、自ら進んで課題解決に立ち向かえる人は、技術者としてのスキルも上がりやすいですし、すぐに周囲から“この人に任せれば安心”と思ってもらえるようになるはずです」(藤川)
「『BASE』はWebサービスで24時間運営しているので、いつでもユーザーさんが困らない環境を提供し続ける必要があります。これは僕の考えですが、“トラブルが起きたら24時間いつでも自分が対応するんだ”という意識は必要だと思うんです。同じようにWebサービスに携わる人なら全員、“自分がサービスを担っている”という意識を持っていてほしいなとも思います。僕の場合はもともとネットに繋がることが好きですし、Webサービスを利用するのも好き。だからこそ頑張れるんだと思っています」(川口)
藤川さんはCTOの業務を川口さんに託した後は、従来通り、技術担当取締役を果たす。一方で、データ活用や機械学習分野における新規事業開発の可能性を探る他、エンジニアのメンタリングを今後の業務の中心に置くそうだ。
「川口のようなインターネットネーティブ世代から、CTOを任せられる人が出てきてくれたのは喜ばしいことです。立場や役割こそは変わりますが、私自身、これからもBASEの成長にコミットしていくつもりです」(藤川)
20代の川口さんがCTOに抜擢された最大の理由は、「他責にせず、自分事として考え、行動する」という当事者意識だった。「若手だから」「会社の決まりだから」という思考を捨てることから、“任されるエンジニア”への道は開けるはずだ。
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/野村雄治
プロフィール
BASE株式会社 執行役員 CTO 川口将貴さん(@dmnlk)
1991年生まれ。2013年、大学卒業後、ソーシャルゲーム運営会社に入社し、サーバーサイド開発やフロントエンド開発に従事。17年5月にBASEに入社。主にサーバサイドの開発を担当。18年1月にリードエンジニアとなり、19年7月より現職
技術担当取締役 藤川 真一 (えふしん)さん(@fshin2000)
FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にGMOペパボへ。ショッピングモールサービスにプロデューサーとして携わる傍ら、07年からモバイル端末向けのTwitterウェブサービス型クライアント『モバツイ』の開発・運営を個人で開始。10年、想創社を設立し、12年4月まで代表取締役社長を務める。その後、想創社(version2)を設立しiPhoneアプリ『ShopCard.me』を開発。14年8月からBASEのCTOに就任。17年9月に慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科博士課程を単位取得満期退学、18年1月博士(メディアデザイン学)取得、同学科研究員
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