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人工知能はAndroidを上回る一大プラットフォームを生み出す?アンディ・ルービンが語るロボット×AIの未来

ITニュース

    「私は今、ものすごく興奮している」

    約1時間の講話をこう切り出したのは、かの有名なアンディ・ルービン氏だ。

    携帯端末OSのデファクト・スタンダードの一つになったAndroidを生んだ人物として知られる彼は、2016年4月7~8日に東京・千代田区で行われた新経済連盟主催の『新経済サミット2016』に登壇するため来日。8日の基調講演で、「ロボット工学と人工知能がついに結ばれる」をテーマに話を展開した。

    2014年、それまで約9年間勤めたGoogleを退職したルービン氏は、その後ハードウエアスタートアップを育成するインキュベーターPlayground Globalを創設。現在はロボティクス分野で新たなイノベーションを生み出すべくさまざまな活動を行っており、今年2月に公開された米『Wired』の記事では「すべてのデバイスに人工知能が組み込まれる未来」についての言及もしている(参照記事)。

    Androidを開発してGoogleに参画する前も、スマートフォンの先駆けとなるようなモバイル用ネット端末『Sidekick』を開発するなど、常に世界の一歩先を歩んできたルービン氏。彼が今、見据えているテクノロジーの未来とはどんなものなのか。

    その講演内容を一部紹介しよう。

    1社だけで革新を生むのは難しい。サーフィンのように「みんなで大きな波に乗ろう」

    アンディ・ルービン氏

    『新経済サミット2016』に登壇したアンディ・ルービン氏

    私は、これまでの仕事人生でずっと「プラットフォームとは何か?」を考えてきました。エコシステムとも呼ぶべきプラットフォームは、数年ごとに新たなものが生まれています。

    私が今、注目している人工知能も、このプラットフォームを生み出すテクノロジーの一つなのです。

    まず、私がGoogleを退職した理由について話しましょう。それはひとえに、「Androidを越えるもの」を作りたいと思ったから。当時はとても無理なものに感じました。Androidがあまりにも広がり過ぎたからです(笑)。

    ただ、「中年の危機」を乗り越えるにはとにかくいろんなことをやってみようと考えました。だから私の会社Playground Globalは、ベンチャーキャピタルチームのみならずエンジニアリングチームも持っています。

    50人くらいのこのチームには、さまざまなバックグラウンドを持ったエンジニアがいて、彼らが多くのスタートアップを支援しながら新しいモノづくりを行っています。その方が(投資している)スタートアップにとっても楽ですからね。1社だけでイノベーションを起こすのは難しい時代になっています。オープンソース的な考え方で、まるでサーフィンのようにうまく「みんなで大きな波に乗る」のです。

    この取り組みは、今後世界中で展開していきたいと思っています。

    人工知能は「クラウドの外」に出た時、真価を発揮する

    さて、ここでプラットフォームの話に戻しましょう。テクノロジー産業における新たなプラットフォームは、だいたい10~15年くらいのペースで台頭してきました。MS-DOSからWindows、モバイルOSと、だいたい10年くらいの周期でトレンドが変わっていき、「先人の威光」を膨らませながら発展してきました。

    ここには、「タイミングが重要」というレッスンもあります。ビル・ゲイツがMS-DOSを作り、広めたのは、その前にIBMなどの企業が取り組んできた実績があったらからです。

    では、モバイルOSの次に一大プラットフォームとなるものは何でしょう? AI? VR?いろんな意見がありますよね。それぞれが単独に存在しているのではなく、互いに関係し合って発展していくでしょう。

    その中でも、私が注目しているのはAIです。Facebook、Googleなど多くの会社が、いまや人工知能を駆使したサービスを展開しています。GoogleのAlphaGoも、先日囲碁のプロ棋士に勝ちました。

    すでに、クラウド上にあるAIプラットフォームは囲碁よりもっと大きな判断ができるようになっています。この判断力は、もっと広範囲に広がっていくはずです。人工知能は学び続けるものですから。

    ただ、現在のAIは、まだ「クラウドの中」でしか優れた能力を発揮できない頭脳です。これを、もっと実世界に取り込めるようにしたらどうなるでしょう? AIが臭いを嗅いだり、何かを感じたり……。パターンマッチングのAIとディープラーニングの組み合わせ、そしてロボット工学との連携で、それも実現可能になるかもしれません。

    人間社会における伝統的なロボットの定義というのは、今のところ炊飯器のようなものです。水温を検知しながら一定の時間で温度を上昇させ、ご飯を炊きます。それでも、かつてはうまくご飯を炊けませんでした。つまり、まだ人手を要するものだったのです。

    そこから技術が発展し、今は非常においしいご飯を炊けるようになりました。これからのロボットはどうなるでしょう? 無線で通信し、AIがその通信によって常に考え続け、学び続けるようになれば、より自律した存在になるでしょう。

    すでに、Googleの自動運転車など具現化に近付いているプロダクトはたくさん生まれています。 Boston Dynamicsが開発した二足歩行ロボットの動画も、多くの人が観たことがあるのではないでしょうか?

    ここで、私以外の人にも登壇してもらいましょう。皆さんも、そろそろ私の話に飽き始めたころですよね(笑)?

    今日はたくさんの人が来ている会場で、たくさんの無線通信が飛び交っているので、うまくいくか分かりませんが……チャレンジしてみようと思います。

    (※ここで、ロボティクスメーカーSCHAFTの中西雄飛氏と同社のロボットが登場し、デモが始まる)

    どうでしたか、皆さん。リハーサルを何度もやったのですが、やはり本番では通信部分がうまく機能しませんでしたね。でも、次回また日本に来た時にはきっとうまくいくでしょう。そして、少なくとも今のデモで、ロボットの持つ可能性を感じていただけたのではないでしょうか?

    20年後、エンジニアは「ロボットたちの先生」になっているかもしれない

    私はテクノロジーこそ社会をよくすると信じていますし、「テクノロジーオプティミスト(技術的楽天家)」と呼ばれるような人種は、周囲がクレイジーだと思うことでもきっと成し遂げます。

    私が学生だった時は、C++からプログラミングを学び、アセンブラについても苦労しながら学びました。では、今の学生はどうでしょう? マシンラーニングについて学習している若者がいますよね。これはものすごい進化です。

    AIがニューラルネットワークのような複雑な領域まで学ぶようになり、それら司る技術を学んだエンジニアが世の中に多く出ていくと、エンジニアは「先生」になるのだと思っています。ロボットにさまざまなことを教える先生です。そういった未来は、20年後かそれくらいには実現しているでしょう。

    将来を予測するのは、とても難しいことです。人々はいろんなシナリオを考えます。ただ、私が信じる未来、つまりAIが次世代のプラットフォームになるとしたら、(プラットフォーム運営側だけでなく)サードパーティも含めたさまざまなプレーヤーが集まって、データを持ち寄り、チャレンジしていかなければなりません。その中から「キラーアプリ」が誕生すれば、世界は一気に変わるでしょう。

    (会場からの質問で)映画『ターミネーター』のスカイネットのように人工知能を持つロボットが反乱を起こしたら? 確かにそれはとても良い質問で、人間が今後考えなければならない課題でしょう。でも、映画『インデペンデンス・デイ』のようにエイリアンが地球に襲来してきた時、ロボットが人間を守ってくれるとしたら……と考えることもできます。ある調査では、多くの人が「守ってほしい」と答えたそうですよ。

    現時点では、ロボットもAIもまだそこまでは発展していません。今後の発展のさせ方次第で(質問してくれた方が)憂慮するようなことも起こり得るかもしれませんが、私が先ほど話した『インデペンデンス・デイ』の例も、同じく「あり得る未来」なのです。

    取材・文/伊藤健吾 撮影/佐藤健太(ともに編集部)

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