ABEJA岡田氏が語る、答えのない“AI活用”への向き合い方「今こそ倫理感をアップデートせよ」
今、「AIと倫理」は企業の経営戦略に直結する重要な問題だという考え方が広まりつつある。そこで2019年8月に発足したのが、AIに関する課題について倫理・法務的観点から討議する委員会「Ethical Approach to AI」(EAA)。発起人は、AIベンチャーABEJA代表の岡田陽介氏だ。
EAAは、自社案件に関して、外部の有識者が倫理的観点から検証する組織。近年、国内外の政府機関や各種団体でAI倫理に関する指針づくりが進んでいるが、現場の最前線に立つ企業として具体的な課題を検証し、見解を示す必要があると同社では判断したという。法曹、学術、文化、報道の各分野の有識者を委員会のメンバーとして迎え、多面的に議論を深め、そこで得た知見を経営に生かすとともに、広く社会に発信していく方針だ。
では、岡田氏はAI時代に働く人々が直面する“倫理的課題”とは一体どんなものだと考えるのか。具体的に聞いてみた。
AIと倫理は経営戦略の一つだ
プライバシーの保護や公平性など、AIの活用にあたってさまざまな倫理問題が生まれてきています。AIと倫理はもはや経営戦略の一環であり、その見識を持たない企業は、今後グローバルで信用されなくなるでしょう。AIがビジネスのインフラとして普及していく中、ビジネスに携わる一人一人が、倫理観を高めていく必要があります。
倫理観といっても、単純に「プライバシーを守りましょう」などといった道徳的な話ではありません。プライバシーを保護するという原則は厳守した上で、実際にどのように運用するのが適切なのか、バランス感覚を持って考えていくことが大切です。
われわれのビジネスでいえば、小売業界に店舗解析サービス「ABEJA Insight for Retail」を提供する際、カメラ画像の利用範囲がよく問題になります。顔認識技術などを使って、年齢や性別を推定したり、同じ人が何回来店したのかリピート率を解析したりする機能がありますが、これをどのようにして倫理的に“正しく”活用するかを考えるのは難しいことです。
顔画像と個人情報をひもづけてしまうと、「岡田陽介さんが何回来店した」と個人のアクティビティーが筒抜けになってしまうので、プライバシー保護の観点から問題になるかもしれません。逆に、個人情報とひもづけておくと、来店した瞬間から「岡田陽介さま、いらっしゃいませ」と個別に対応することが可能になるので、顧客の数が限られる高級店などでは、むしろこのようなきめ細かな対応が求められる可能性もあります。
また、個人情報保護法に準拠するには、顔画像をどの時点で破棄するかなど、細かな取り決めも必要になります。これまで、そんなことは論点にさえなりませんでした。顔画像から個人が高精度で認識できるようになるとは誰も想定していなかったので、法律も、社会の仕組みも、技術の進歩に追いついていないのが現状です。過去の事例がないので、何がOKで何がNGなのか、自分たちで考えていかなくてはなりません。例えば、自動運転のブレーキや医療現場におけるAI診断が良い例です。
OKとNGの基準は、個人の価値観によってさまざまですよね。また、例えば町中に監視カメラがついていることを「プライバシーの侵害だ」と思う人もいるでしょう。でも、それによって町の安全が保たれていることを歓迎する人もいる。一つの事象に対しても、さまざまな意見があり、リスクとベネフィットがあるのです。今後ビジネスに携わる人は、多様な人の意見に耳を傾け、リスクとベネフィットを十分検討した上で、自分の意見を明確に表明することが求められます。
若手エンジニアは「妄想力」を鍛えよ
正解は一つではありません。だからこそ、どういう社会を目指して、どのようにテクノロジーを使うか、考えていくプロセスが極めて重要になってきます。難しい問題ですが、とにかく考え続けること。思考停止が一番よくないと思います。でも、答のない問題に向き合うということは、新しい未来をつくっていくことでもあります。自分たちの手で素晴らしい世界をつくっていけるのだと思うと、ワクワクしてきませんか?
若い人たちに鍛えてもらいたいのは、妄想力。これからの未来は、人間の想像を超えるくらい大きく変わっていくはず。自動運転車にしても、医療現場でのAI診断にしても、妄想レベルのことが現実になりつつあります。その世界では、どのようなことが起きるでしょうか。AI診断が普及すれば、病気の早期発見や適切な治療法の選択ができるようになり、病気による死亡率が大きく下がるかもしれません。AIに命を預けたくない、人間の医師に診てもらいたいという人たちは、そういう社会を抜け出して自分たちの国をつくるかもしれません。AIと倫理の問題は、国家の枠組みさえ変えてしまう可能性すらあるのです。
妄想力を磨いていくのに有効なのは、今のうちから自分の目で社会を見るクセを付けておくこと。新聞に書いてあることを鵜呑みにするのではなく、自分自身で体験することが大切です。例えば、コンビニに入ったときに「○○さま、いらっしゃいませ」と個人を特定した接客をされたら、あなたはどう感じますか? 便利だと思うか、気持ち悪いと思うか。その肌感覚に基づいて、自分はどうしたいのか、どうあるべきだと考えるのか。そこで出てきた自分の意見を、周囲に向けてしっかり発信してみてほしいと思います。
取材・文/瀬戸友子 イラスト/石山好宏
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