ソニー川西泉が明かす『aibo』と電気自動車『VISION-S』開発の意外な共通点とは? 「エンジニアこそ“感性の世界”に踏み込め」
1999年に発売され、2006年に惜しまれつつ販売を終えた家庭用エンタテインメントロボットの草分け的存在『AIBO』。
そのAIBOが、2018年1月、装いも新たに新型の『aibo』として復活を遂げた。劇的な復活から約2年。aiboは今も女性や高齢者などを中心としたユーザーを獲得し続けている。
さらに、aiboを開発したソニーのAIロボティクスビジネスグループは、今年1月のCESで発表された『VISION-S』の試作車の開発も担当しているという。
エンタテインメントロボットと電気自動車。全く違うプロダクトにも思えるが、AIロボティクスビジネスグループを統括する川西泉さんによると、この2製品の開発には共通点が多いのだそう。一体どういうことなのだろう。
川西さんに、ソニー流「AIロボ作りの極意」を伺った。
旧型AIBOからデザインや機能を一新し、新たなユーザー層を開拓
「1999年に初代AIBOが発売されてから約20年が経ち、あらゆる技術が大幅に進化しました。しかし、初代AIBOと新型aiboでは全く変わらない点があります。それは『人に寄り添う』製品だということ。これはaiboに限らず、ソニーの全ての製品で大切にしていることでもあります」
一方で、大きく変わった部分もある。その一つがビジュアルだ。
「新型aiboのターゲットは、主に女性や子どもなど、かわいいものが好きな人たちを想定していました。そのため過去のどのAIBOよりも『犬らしさ』にこだわり、『感性に訴えかける』仕掛けを作ることに注力しました」
「そもそもロボットの価値とは、便利を実現する『機能価値』と、かわいい、癒されるなどの感覚に訴える『感性価値』の2軸に分かれます。aiboの場合は明らかに後者に振り切った製品ですから、本物の犬をよく研究したり、この十数年で発達したセンサーやAI、クラウドなどの技術を駆使することで、小犬のような愛らしさを実現したのです」
より犬らしく、豊かな表現力を身に付けたaiboは、当初の狙い以上に幅広い層からの支持を集めている。
「ご購入者の主な年齢層は30代から70代。ファンミーティングの参加者やオーナーのプロフィールを見る限り、先代までのモデルよりも女性や高齢者層から支持をいただいているようです」
住宅事情やライフスタイルによりペットが飼えない人はもちろん、離れて暮らす家族へのプレゼントとして購入されるケースも目立つという。
「特にご高齢の親御さんへのプレゼントという需要は、2019年2月から提供を開始した見守りサービス『aiboのおまわりさん』をリリース以降、より顕著になりました。
これはaiboが家の中をパトロールし、結果をレポートするサービスで、『監視カメラを置くのは抵抗感があるけれどaiboなら気にならない』という声も多く、好評です」
aiboは利便性重視の製品ではないが、その内部にはセンシング、AI、クラウド、ロボティクス技術の粋が詰め込まれている。
ソニーは、複雑な感情表現を実現する機能と他社サービスの連携を可能にするAPIの公開などによって、人間とロボットの新たな関係の模索を続けているのだ。
「aiboは家電などの売り切りの製品とは異なり、オーナーと生活を共にすることでパーソナライズされていきます。
今後は見守り機能だけに限らず、オーナーとaiboの関係をより深め、拡げるサービスを“aiboらしい感性に包んで”提供することで、ロボットの新しい可能性を引き出したいと考えています」
『VISION-S』の試作車と『aibo』に共通するもの
川西さんによると、エンタテインメントロボットである『aibo』と今年1月にラスベガスで開催された国際見本市「CES 2020」でも話題になった、ソニーによる『VISION-S』の試作車との間には、実は共通項が多いという。
「aiboは、時に気まぐれでオーナーの指示通りに振る舞うとは限りません。それは、“犬の愛らしい振る舞いを再現するロボット”として性格付けられているから。
一方、VISION-Sの試作車は安心・安全とエンタテインメント性を兼ね備えた電気自動車です。
aiboとは見た目も用途も大きく異なりますが、AIロボットの本質である『周辺環境を認識し、自律的に動く』という点に違いはありません」
aiboもVISION-Sの試作車も「人に寄り添う」という思想に基づいて開発されたAIロボットであり、センシング、AI、クラウド、ロボティクスなど、多くのキーテクノロジーを共有している。テクノロジーの使い方や設定、「機能価値」と「感性価値」のバランスを変えることで、愛らしい犬型ロボットにもなれば、高機能な電気自動車にもなるというわけだ。
「エンタテインメントロボット作りも車作りも、言ってしまえば同じ“AIロボット”の開発です。開発者たちは、あくまでコアとなる技術を使って、どうしたら『そのものらしさ』や『心地よさ』、『質感』、『温度感』といった、定量化しがたい『感覚』をいかに再現するかについて、常に心を砕いています」
特にaiboのような感性価値型の製品においては、その「らしさ」がユーザーの満足度を大きく左右する。
歩き方や段差の上り下りを何度もバーチャル空間でシミュレーションして設計された試作品であっても、リアルな物理空間に持ってきたとたん「しっくりこない」ということはよくあるそうだ。
そうした違和感の原因を突き詰め、どこまで妥協せず細部を追い込めるかが、開発者に求められる資質だと川西さんは言う。
「多少の違和感を技術の限界と捉え、『仕方のないこと』だと割り切ることは簡単です。しかしそれでは、ユーザーを驚かせたり、感動させたりすることはできません。
感性に訴えかける製品を作るためには、技術的な探究心と同じくらい、対象となるモノや、そのモノと人間との関係性など、数値やロジックだけでは割り切れない領域に分け入っていく必要があるのです」
エンジニアは、アウェーな環境に身を置いてみるべき
では、「数値やロジックだけでは割り切れないこと」を考える力を付けるには一体どんなことが必要なのだろう。川西さんは「人間に目を向ける」ことが大切だと話す。
また、ロボットに限らずスマホなどのフラットなスクリーンの中で展開されるWebサービスに携わるエンジニアでも、こうした思考やアプローチを学ぶことは重要で、特にUI/UXを考える際に役立つという。
「たとえバーチャル上で完結するアプリやサービスであっても、画面の向こうにいるユーザーは人間です。全てのモノづくりは、人との関わりに他なりません。
開発者は仕事の性質上、『どのように技術をサービスに実装するか』を考える立場ではありますが、さらにそのサービス対象となる“人”との関わり方や、『楽しさとは? 悲しみとは?』といった人の本質に目を向ければ、得られることがあるはずです」
エンジニアにとって客観性や再現性はもちろん大切だが、時には物事を主観的に捉えたり、感性が異なる人と主観をぶつけあったりする経験を積むのも大事なことだと川西さんは言う。
こうした経験が、無味乾燥になりがちなデジタルテクノロジーに「深み」や「幅」を感じさせる表現を生み出すきっかけになるかもしれない。
「役割や立場、考え方が異なる人の言葉から学ぶべきことは少なくありません。ですから、時にはあえてアウェーな環境に自分の身を置いて、感覚や感情を刺激するような試みもすべきでしょう」
こうした行動の原点になるのが、「技術以外」に対する好奇心だ。当然のことながら、世界は技術に直接関わる領域よりも、それ以外の領域の方がはるかに広く、感性を刺激する要素に溢れている。
「エンジニアといえども技術に固執せず、広く外の世界にも関心を持つことが重要です。技術を追求する立場だからこそ、あえて技術的な常識や制約から離れてみる。それが開発者としての視野を広げ、技術の可能性を広げることになるのだと思います」
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/赤松洋太 編集/河西ことみ(編集部)
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